<PCクエストノベル(1人)>


探求者 〜 チルカカ遺跡〜

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□冒険者一覧□
■ 2491 / ウルスラ・フラウロス / 16 /  剣士 / 星守 ■

□助力探求者□
■ 特になし ■

□その他登場人物□
■ 特になし ■


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□ 遺跡の入り口 □

 その世界がいつから存在していたのか。それを知る者はいない。
聖獣によって守護された世界ソーン。
隅々まで広く渡った謎と畏怖とに満ちた数々の遺物や土地は、少なからずの冒険心を備えた者であるならば、誰しもが胸踊り高鳴る奇跡の宝庫でもある。
 そのソーンの中に、太古の遺物であるチルカカ遺跡がある。
人里離れた山中、同名の洞窟の奥に忽然と姿を見せるそれは、洞窟と同様に人工的に造られたものである。人工的に造られた場所であるとはいえ、築き上げた主達はもはやどこにも存在しない。今では風化してしまったその土地の上を、乾いた風が行きすぎていくのみなのだ。

ウルスラ:「……ここが入り口か」

 ウルスラ・フラウロスは低くそう呟くと、半ば朽ちて崩れた入り口から奥を覗きこみ、漆黒の夜空を映した瞳をゆるりと細めた。
 洞窟の入り口は、レンガ状の石をいくつも積み上げて作られてあり、例えるならば長いアーチ状の門を彷彿とさせる。
ウルスラ:「城の跡地であるという説は確からしいな」
 再びそう呟き、チルカカ遺跡に関しての膨大な著をまとめあげてきたノートを見やる。

 チルカカ遺跡は太古、城であったとされる。
もちろん様々な説はあるのだが、現在ではその説が最も有望であるとされているのだ。
 崩れ落ちた入り口の奥は、灯かり一つない暗黒で支配されている。
ウルスラは用意してきたランプを片手に持つと、パラパラと崩れてくる石壁を払いのけながらその暗黒へと足を踏み入れた。
 城であったなら、どんな深い洞窟であるとしても、ある程度は分かり易い造りになっているはずだ。
ランプの灯かりで足元を照らしつつ、一歩一歩慎重に足を進める。ゆらゆらと揺れる不安定な光で、ウルスラは忘れずに天井をも照らして眺める。
天井は古びていて、蜘蛛の巣などといったものは幾重にも張り巡らされていた。
ウルスラはしばし眉根をひそめ、足を止める。

ウルスラ:「……妙だな」
 声を潜めて呟く。
ウルスラ:「長年放置されてきた場であるなら、蜘蛛の巣はこの程度のものであるはずがない……しかも」
 独り言を続けて足を踏み出す。
 しかも、その巣は途中途切れ途切れになっていて、明らかに真新しいと思われるものもある。
――――誰かがここを通ったという事だ。

――――あるいは魔物か。
 ウルスラは片手で上着の襟元を正し、手にしていたランプで再び足元を照らし出した。

□ 侵入者 □

 入り口をくぐってから、どれだけの時間が過ぎただろうか。
一見同じように見える洞窟を――ウルスラの目には、それはただの洞窟ではなく、朽ちた回廊のようにも見えたが――一人歩き進め、途中には幾つか石像のようなものも確認出来た。
人を象ったようなものや、何か獣のようなものを象った石像。
ウルスラはそれらの前で足を止めては慎重に確認してきたが、どれもが先に侵入した者によって荒らされていた。
おそらくは煌びやかな施しがされていたのだろう石像の残骸を、ウルスラは悲哀をこめた眼差しで見やり、嘆息をつく。

ウルスラ:「貪欲な者達のしわざとはいえ……酷いな」
 
 低く嘆息を洩らしながら洞窟の奥深くへと足を進める。
――――と、何の前触れもなく、目前に大きな扉が現れた。
扉の横にはさらに洞窟が続いているが、ウルスラは扉の前に立ってそれを眺めると、黒く冷たい扉の面に、華奢な白い指先をひたりと這わせた。
ランプで灯し確かめてみれば、そこに施された模様は、どうやらこの洞窟が太古の城であると裏付けるだけのものであるようだ。
 複雑な文字で書かれたメッセージを指で這い、持ってきたノートをはらはらとめくる。

ウルスラ:「そうだ、これは……」
 扉の文字と、ノートに書き留めてきた幾つもの古代文字とを重ね合わせる。
その中からもっとも似通った文字を見つけだし、ウルスラは扉に刻まれた絵画と文字とを確かめた。
 そして、そこに記されていたものは。

ウルスラ:「ここは第一の宝物庫」
 弾き出した答えを口にして、黒曜石を思わせる二つの眼で扉を見やる。
『許しなく立ち入れば、たちどころに災いが降りかかろう』
 そこには、意訳すればそういった、一種お約束とも言える呪いの言葉が記されていたのだ。
ウルスラはノートをしまってランプを持ち直し、足元に転がる幾つかの骸に視線を向けた。
ウルスラ:「……不遇な事だ」
 呟くその言葉には、哀悼といった心は少しも浮かんでいない。
短慮の末に落とした命であるならば、この骸共の命はここまでだったという結果に過ぎないのだ。
ウルスラ:「しかし、許しとは、」
 扉に手をかけて瞳を細める。
眉根を寄せて思案するその顔に浮かんでいるのは、愚かな侵入者達とは異なり、あくまで未知なるものへの探求心といった純粋な情ばかり。
ウルスラ:「どのようなものだろう」
 しかしそれに関する言葉は、当然ながら記されてはいない。
……別な場所や、他の遺物などにそういった記録が記されているかもしれない。
思い立ち、背筋を正す。
そして改めて目の前の扉を見上げると、ウルスラは小さな微笑を浮かべて頷いた。
ウルスラ:「この奥にあるものを、近く必ず見定めてやる」
 決意を表した独り言を述べる。
もちろん、この奥がすでに荒らされているという可能性も否めない。
だが、ウルスラは盗掘者ではないのだ。何も宝物を目的に、先を急ぐ謂れもない。

 ウルスラは踵を返すと、さらに続く奥への道に足を踏み込んだ。
 手元の灯かりが、さらに不安定な弱さを揺らし始めた。
しかし、代えの燃料は用意してある。ウルスラの探求には、何の翳りもないはずだった。

 その時、不意に、鋭い風が頬をかすめた。
ウルスラは咄嗟に顔面を庇い、その拍子に、燃料をいれてあったカバンが肩から落ちて、激しい音を響かせる。
ウルスラ:「――――魔物か!?」
 割れてしまった燃料を確かめようともせずに、ウルスラは闇の向こうで息づく何かを睨みつけた。
ランプで照らしてみれば、それは確かに一匹の飛竜の姿。
暗闇を好み、人の通りを嫌うとされるその種を頭に思い描く。
ウルスラは咄嗟にランプを下に置いて、腰に下げていた一振りの剣を抜き取った。
その刃が飛竜に向けて構えられると同時に、黒曜石たる双眸が黄金の輝きへと変容する。
闇を照らし出すその光に、侵入者を捕えようと爪を剥き出す竜が、甲高い咆哮をあげた。

 決着は次の一瞬で決まっていた。
鋭利な爪先がウルスラの眼孔を――ひいては、その頭を――貫こうとしたのをひらりとかわすと、ウルスラは手馴れた動作で刃先を振り構えた。
 闇夜をも切り裂く一閃がひらめいた、まさにその刹那。
竜はけたたましい声を張り上げて、闇の奥へと引き戻って行ったのだった。

ウルスラ:「遺跡の守衛か。……無駄に殺しはしないよ」
 呟き、剣を鞘に戻す。
そして再び静寂を取り戻したその場所に立ち、ウルスラは大きなため息を洩らした。
ウルスラ:「これからまだ奥は深いのだろうに……さすがにランプが消えてしまうのでは、今回はこれ以上進めないな」
 そう言って、割れてしまった燃料を確認する。
今度はもう少し余計に数を持ってこなくてはいけないだろう。
そう、頭の中に記録して。

□ 後日のための記録 □

 残り少なくなったランプの心もとない光を頼り、ウルスラは渋々と来た道を戻っていた。
もちろん、その道すがら、真上や足元、両脇など、細部に至るまで確認することも怠らない。
そうしていくことで、どうやら洞窟の両脇には、燭台のような物が確認出来るということを知る。
ウルスラ:「やはりここは城跡の回廊なのだ」
 確信を得て深く頷き、再び黒く穏やかな色を見せた瞳をゆらりと細める。
ならば、ここに広がっているのは、きちんと積み上げられたレンガか石壁であるに間違いない。

 地底深くに、今だに人の住む国が広がっているのかもしれない。

 その可能性を思うと、ウルスラの冒険心は一層火を強くする。
ランプを持っていない方の手で固く握り拳を作り、心に強く誓う。
ウルスラ:「必ず近く、もう一度ここを訪れる……いや、一度とは言わず、幾度でも」
 そう告げて、開けることが出来ないままでいた扉を横目に見やった。
そしてそこに転がる、物言わぬ骸の眼孔を確かめて、
ウルスラ:「……目的は同じでないかもしれないが、あなた達の意思は私が受け継ごう」
 そう穏やかに呟いた。

 ランプの灯かりがふと消えた頃、ウルスラは洞窟の外へと辿りついていた。
すっかり陽が暮れてしまった外界は、しっとりとした闇で覆われている。
 ウルスラは洞窟を後にしてしばらく歩き進めてから、一本の巨木の根に腰掛けて満点の星空を振り仰いだ。そして柔らかく目を瞑り、遂げられなかった探求心に思いを馳せる。

 次こそは、必ず、もっと奥へと辿りつこう。
降り注がんばかりの星々に誓い、ウルスラは穏やかなしばしの休息へと旅立った。


――end――