<PCクエストノベル(2人)>


いのち無きものたちの楽園 〜機獣遺跡〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【2491/ウルスラ・フラウロス/剣士 】
【2483/ディナス・ベリル  /闇妖精】

【助力探求者】
なし

【その他登場人物】
研修者
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 機獣遺跡――そう呼ばれる遺跡がある。
 中には、ソーンとは相容れない『機獣』と名付けられた、からくり仕掛けのモノだけで構成されているらしい世界。様々なトラップや、機獣からの攻撃により奥まで探索し尽くした者はいない、と言われている。
 だが、こうした遺跡の研究に力を注ぐ者は多い。そしてまた、自らの力では探索出来ないと分かれば、半ば秘密裏に探索の依頼をする事がある。
 報酬は、通常の遺跡に対する依頼よりは少々高め。と言うのも、あまりに未知なる世界からか、どの程度危険性の高いものか、という判断が非常に難しいためだ。当然と言うか、その依頼を望んで引き受ける者は多くない。
 だから、

ディナス:「調査依頼を請け負って小金持ちになるで!僕が先頭や。通路を進む時は指示に従ってもらうで、姉ちゃん」

 勢い良く、ダンジョン攻略&お宝発掘にめらめらと燃えている彼のような存在は、むしろ珍しかった。

*****

ウルスラ:「…もう少し静かにした方がいい。茶がこぼれた」
 勢い込んで飛び込んで来たディナスに動じる事無く、優雅な手つきでカップを手にした少女、ウルスラ・フラウロスが一口啜ってちらと黒い肌の少年、ディナスを見た。
ディナス:「そんなゆーがにお茶してる場合と違うやろ。遺跡探検や、機獣遺跡行かな」
ウルスラ:「私にも分かるように説明してくれないか?ディナスの言葉では断片的過ぎる」
 そこで、ディナスがそれもそやなー、と笑いながら説明した所によれば、その機獣遺跡への調査を依頼されたのだと言う。依頼者は、長年機獣遺跡の研究をしていると言う男だったらしい。
ディナス:「と言うわけでボクが誘われたっちゅうわけや」
ウルスラ:「――その研究者は同行するのかな」
ディナス:「無理やろなぁ。ひょろっひょろの、一年中研究室に篭りっぱなしみたいに見えたし」
 ふむ、とウルスラが小さく相槌を打ち、
ウルスラ:「依頼はディナス1人にではないのか?」
 ふと思いついたように言う。
ディナス:「問題はそこや。――とゆーても、ボク1人じゃ手に余るのは目に見えとるし、ウルスラ姉ちゃんにも手伝ってもらおか思うて声かけたんやけど…どないやろ」
 機獣遺跡。
 噂は聞いたことがある。金属製の敵が多く居ると言う所で、何の力も無しに行ける場所ではないと言う事くらいは。
ウルスラ:「――そうだな…とりあえず、その研究者の所に連れて行ってもらおうか。何か分かっている事があれば、聞いておきたい」
ディナス:「ほな、早速行こか」
 上機嫌のディナスに案内された先は、魔法学院の一角。そこで魔法とは違う世界の力を研究していると言うのも妙な話だが、そこにディナスが言ったとおり、旅の共にはなれそうもない男が1人待っていた。
 ディナスひとりでない事に不審がりながらも、彼ひとりで遺跡攻略が出来ると信じていたわけでもないらしく、説明を聞けばあっさり納得して、今までにわかった事と、遺跡の見取り図を広げていく。
 ただそれは、公に噂されている内容とほとんど変わらないもので、
研究者:「――何分、遺跡に潜る者がほとんどいないのでね」
 だから今回の探索に多少期待しているのだが…そう言いながら、ディナスがまだ言っていなかった探索の目的に付いて話し出す。
研究者:「私が知りたいのは、機獣たちの構造なのだ。出来れば、設計図や部品などがあれば良いな。もちろん破壊が目立たない機獣のサンプルでもいいが…機械であれば、必ず設計図がある筈だからな」
ディナス:「任してや。策は練ってあるんや」
 ほとんど何も話さないウルスラに代わり、ディナスがどん、と胸を叩いた。

*****

ディナス:「小金手に入ったら何しよか。楽しみやー♪」
ウルスラ:「志が低い…。ここはディナスにまかせるが…大丈夫か?」
 入り口に当たる中央部から、放射状に伸びた通路を眺めつつ、ウルスラが静かに訊ねる。
 のっぺりとした壁や天井は、エルザード特有のものとはまるで違い、距離感が掴み難い。ほのかに照明が焚かれているらしく、白々とあたりを照らしているため余計にそう見えるらしい。
ディナス:「ボクの腕の見せ所や」
 返すディナスは自信まんまんに、にこりと笑ってみせる。
ディナス:「トラップって見た目は違うけどな、発想は同じやんか。それとわからんように設置して、誰かひっかけたるーっていう根性でこさえてんねん。んで、重要な部屋ちゅうのはコテコテに安全対策しとんの」
 その理屈はウルスラにも分かる。他のダンジョンでも、やはり同じような考えの元、罠や隠し扉に守られた宝があった。
ディナス:「ボーナス出してもらえるぐらいの結果出して、ハルフ村で温泉につかろうや」
ウルスラ:「…温泉もいいが、私はこの遺跡にある知識の方が有り難いな」
ディナス:「かー。そないなもん学者センセに任せとけばええやん。姉ちゃんもたまにはちゃーんと身体休めんといかんで――まあええわ、行こ」
 壁には触らんといてやー、と言う警告の元、ゆっくりと進み始める2人。
 金属らしいが、どうやったらここまで綺麗に表面の凹凸を消し、無機質な雰囲気を作る事は今のエルザードではほぼ不可能だろう。過去に栄えたと言う機械文明と言うものは、これらを使いこなしていたのだろうが…。
ディナス:「――む」
 通路脇にうっすらと線が入っているのを見たディナスがその場で立ち止まり、その周辺を丁寧に調べ始める。やがて丁度扉サイズの線の横にあるボタン状のものを指でぽち、と押しながら、
ディナス:「ちょお後ろ下がっとって」
 言った途端、ぷしゅっと空気の抜けるような音と共に目の前の壁が開いた。少し間を置いてから顔を覗かせ、ちょっとがっかりした顔で振り返る。
ディナス:「…只の倉庫みたいやな。まあ、こんなトコにあるんやからあんまり期待はしてへんけど…」
 何かものの動く気配も無く、金属の箱が積み上がっているばかり。いかにも倉庫と言ったその部屋には入らず、もっと奥を目指す。
ディナス:「ボクらが探してるのは設計図やったな。それやったらもっと奥やろな」
 そう言いながら。
 通路は途中で何度も枝分かれしていた。その都度きゅっとチョークで印を付けて真っ直ぐ先へと進む。
ディナス:「何か…見られてるみたいやな」
ウルスラ:「そうだな。機械の目が追いかけている」
ディナス:「危険域に入ったら、途端に警告されそうや」
 そう言うディナスの目はどこか楽しそうで、通路の天井から2人の動くのに合わせて角度を変えて追っているのを見つけ、真っ直ぐその透明な『目』のようなものを見詰めるウルスラ。
ウルスラ:「――今はそれほど警戒されていないと言う事か」
ディナス:「多分な。けどアレから先やはわからんで…ほら、床の色が微妙に違ごとるやろ」
 それなりに周囲に視線と意識を配りながら、遠くで小さく何かが動く音を気にしないよう、または向こうにも警戒させないよう、武器と分かるものは鞘にしまったまま、2人が足音を立てつつ先へ向かい、乾いた足音が響く中、微妙に壁と床の色が違う先へと足を踏み入れた。

*****

 軽い息遣いが、呼吸を必要としない世界で唯一生きている証となっている。
ディナス:「うわ、なんやこれ、どないなってるんや」
ウルスラ:「何かで気付かれたんだろう、いいから黙って走るんだ」
ディナス:「ウルスラ姉ちゃん――そこの通路左に入って!」
 ディナスに言われるまま、左の通路へすいと身体を寄せる。瞬間、今まで自分がいた足元に熱を伴った光が落ち、床を数秒赤く染めた。
 研究室とおぼしき部屋を見つけたのは、つい先ほどの事。やはり同じく生き物の気配がまるでない室内に入るには、正規の鍵が必要だったようで…扉は開いたものの、その瞬間ディナスに向かって一斉に赤い熱線が撃ち込まれた。咄嗟に周囲を見張っていたウルスラが引きずらなければ、死にはしないまでもどこか怪我を負っていたに違いない。
 その後、連続で撃ち続けていた攻撃が一旦止んだ隙を見計らって室内へ転がり込むと、やはりこの部屋の中にもあった『目』に警告を受けないよう、あまり周辺の物には触らず、危害を加えないようにしながら目的の品を探す。
ディナス:「うーん…と、これやろか?」
 ようやく何かを見つけたらしいディナスが、机の上に丸められていた紙を広げていく。そこにあるのは、一体何が書いてあるのか良く分からないくらい精密な図で、過去の言葉か記号が要所要所に細々と書き込まれていた。
ウルスラ:「間違い無さそうだな…これだけなのか?」
ディナス:「どうやろ?この机の上に置いてあったのはこれだけやったけど…」
ウルスラ:「……足らないな…」
 素早くいくつか書かれている言葉と紙の隅にあるナンバーのような物を見て、
ウルスラ:「これの設計図は他にもあるみたいだが…だが、この部屋にはこれしかないようだな」
 くるくると丸めると、ポケットには入りきらないそれをディナスに持たせ、他のものを探っていく。
 が、後は割れたガラス片や、折れ曲がった金属などがあるきりで、書棚のようなものも存在しなかった。どうやら、この部屋の他にも研究室は数多く存在するらしい。
 他の部屋も探してみよう、と、部屋の外へ出ようとしたその時、
 いつの間にかそこに来ていたらしい、じぃ、っとこちらを見ている円筒形の何かと目が合った。
ディナス:「…なんや、これ」
ウルスラ:「さあ。――侵入者に対し呼び出されたか、それともこの辺りを巡回していたのか、その辺りではないのか」
 静かに、だが辺りへ注意を向けながらウルスラが言う。
 先程無理やり室内に入り込んだ事は、当然どこかへ知られてしまっているだろう。その事を調べに目の前にあるコレがやって来たのだとしたら――。
ウルスラ:「ディナス」
ディナス:「なんや」
ウルスラ:「これ以上、内部を探索し続けるのは危険だ。急いで戻るぞ」
ディナス:「えー、まだコレしか見つけてへんのに?」
 そう言い、一歩部屋の外へ足を踏み出そうとしたその足へ、
 ひゅうっ、と風を切る音と共に何かが通り過ぎて行った。…確かめるまでもない。円筒形の『それ』の足元に大量にある蟹のような足の数本が、ディナスの足目がけて突き刺しにかかったのだ。
ディナス:「――帰ろか」
ウルスラ:「ああ」
 その言葉と共に。
 ウルスラがそれの目のようなものを向こうにぐるんと手で向けて、その勢いで押し倒し。
 もがく様子を尻目に、2人で一斉に駆け出して行った。

*****

 ちきちきちき、と耳障りな音は、背後から追いかけてきている機獣たちの動く音だろう。
 部屋を出てから特に、機獣だけでなくこの遺跡そのものから命を狙われつつ、細々と分かれている通路に一時身を潜めたり、機獣を踏み潰したり、剣で動力らしき管を切り落としたりしてどうにか出口まで辿り付いた2人。
 その奥で、ある線からは越えて来ようとしない機獣たちが、壊れた仲間を奥へ連れ去ったり、その場で治療…と言うのか、修理を施しているのが見える。
ディナス:「なんや…ほんまにひとはおらへんみたいやな。あいつら、自分で全部やっとる」
ウルスラ:「もしかしたら、この設計図も彼らが自分たちで見て造っているのかもしれないな」
ディナス:「そらごっついな」
 もっと奥に行く事を許されず、一枚きりの設計図のみを手に入れたディナスが、ボーナスがー、とぼやきつつもう一度それを広げてまじまじと見詰め、
ディナス:「…なあ、姉ちゃん。この設計図て、なんや人間そっくりに見えるんやけど」
 気のせいかなぁ、そんな事を言いながらウルスラを見上げる。
ウルスラ:「それはあり得るのではないかな。この文明にも人間がいて、それが機獣たちを作ったのなら、自分に似せて作る事もやっただろうしな。まあ、何にせよこれでは外殻を作る事は出来ても動力も材料も不明なままだ。依頼人にとっては、研究の余地が出て良いかもしれないが」
 …街へと帰り着き、研究室へ立ち寄った2人の土産に喜色満面の笑みを浮かべた研究者は、一枚きりであったもののその内容をいたく気に入ったらしく、
研究者:「有り難い。これで学会の方へ興味深い発表をする事が出来そうだ」
 その設計図を抱きしめ、頬擦りしつつ何度も2人へ礼を言った。なにやらディナスがくすぐったい顔をして、
ディナス:「そないに何遍も言わんでええって。ボクとしてはボーナスさえはずんでくれれば何も文句言わへんし」
ウルスラ:「………」
 金銭の話には係わり合いたくないとすいと視線を避けるウルスラを尻目に、細かい金銭取引に入る2人。
 研究者にとっては、この品を手に入れた事に対する口止め料も含む必要があり、当初予定していた額よりもやや多めに支払われたのは、交渉に入って暫く後の事だった。

*****

ウルスラ:「遅い」
ディナス:「ええやないかー。金の交渉はボクの楽しみのひとつなんやから」
 実に楽しそうにそう言い切ると、
ディナス:「少しオマケしてもらえたし、今度は温泉行かな。これから寒うなるんやから、温泉はええでー」
 ほくほく、と楽しげに、今後の目的を話し出すディナス。
ウルスラ:「それはあまりに世俗的過ぎではないか?」
ディナス:「かー、姉ちゃんはそれやから。ええか、温泉っちゅうのはなぁ」
 しんしんと冷えが降りてくる夕刻に近い時刻を、温泉がいかに人生にとって大切なものなのかをオーバーアクションで語りながら、それでも楽しげな笑みを浮かべるディナス。
 そんな彼の様子を見ながら、無表情のままで言葉を挟まずに聞いているウルスラは、呆れているようでもあり、どこか穏やかな表情を浮かべているようにも見えた。――気のせいかも知れないが。


-END-