<PCクエストノベル(2人)>
それもまた、宝 〜ウィンショーの双塔〜
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【2491/ウルスラ・フラウロス/剣士 】
【2483/ディナス・ベリル /闇妖精】
【助力探求者】
なし
【その他登場人物】
ガーゴイル
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ウィンショーの双塔。
双子のように仲良く寄り添って建つ2本の塔には、様々な仕掛けが成されており、一筋縄では行かないと噂の塔である。
それでも其処を訪れる者が絶えないのは、塔の管理者であるガーゴイルが、伝説の宝を護っているからだと言われている。
その宝は実際に目にしたものがいるともいないとも言われており、真実は未だ闇の中だった。
そして今日もまた。
ウルスラ:「思っていたよりも高いな…確か八層になっていると噂されているとか」
噂の主、ガーゴイルに会ってみたいと、この塔を見上げている少女、ウルスラ・フラウロスが何気なく呟いたのが数日前の事。
ディナス:「ええね。お宝もゲットや!」
その隣できらんと目を輝かせたのは、わふわふと食事にかぶりついていた黒い肌の少年、ディナス・ベリル。少し尖った耳を見ると、人間ではない事が分かるが、本人はその事をあまり気にする様子も無くにこにこ少女に笑いかけている。
ウルスラ:「…本当の宝は長い時を経て磨かれるものだ。様々な冒険者に出会い、年月を過ごしてきたガーゴイル殿の知恵と経験こそが宝だ」
こっそり溜息を付いたウルスラが、いいか?と前置きしてから話し始めた言葉に、ディナスがぷーと頬を膨らませる。
ディナス:「えぇー?でも路銀も稼がな、行き損や」
ウルスラ:「途中で何か拾いなさい、盗賊」
膨らんでいた頬を、海にいると言う袋魚のように更にぱんぱんに膨らませると、
ディナス:「義賊やて。もう、ウルスラ姉ちゃんは…しゃーないなー」
ちょっぴり自尊心を傷つけられたようにフォークで皿の上にのの字を書いた。
そして、今日。
よく晴れ渡った冬空を見上げ、伸びをすると、
ディナス:「まあ、伝説のお宝はともかく…何か金目のもんはあるやろしな」
ウルスラ:「またそうやってすぐ金の話に持って行く」
ええやんかー、とぶちぶち文句を言うディナスに構わず、ウルスラはすたすたと塔の近くへ歩いていき、ぴたりと足を止める。
ウルスラ:「道は2つ。…どちらを使うのだ?」
ディナス:「そやねえ」
んー、とちょっと小首を傾げ、ディナスがぱたぱたと両方の入り口へ向かった。最初は右手の、次は左手の。
ディナス:「どっちの入り口も罠はないみたいやで」
ウルスラ:「――無用心な事だ。ガーゴイル殿にとっては住居も同然だろうに。…どちらの塔から行くか、あなたが決めて欲しい」
ディナス:「義賊やって。…そやねー…そっちかな」
ウルスラ:「理由は?」
ディナスが右の塔を親指で指差し、太陽を背ににこりと笑う。
ディナス:「カンや」
ウルスラ:「……任せよう」
ほんの一瞬だけ、間を取って。
だが、どちらの塔を昇るも同じ事と思ったか、最後には頷き、ディナスを先頭に入り口の扉を潜ったのだった。
*****
――見ている。
いくつもの視線が、粘っこく付きまとってくる。
ウルスラ:「…ディナス」
ディナス:「分かってる。…今の所、気配は5つ。階段に2つ、天井に2つ、…もうひとつはどこやろ」
ウルスラ:「惜しいな」
す、と身を沈めたウルスラ――その直後にきらりと光ったのは、彼女の持つ剣。
どう、っと音を立てて落ちて来たのは、身の丈1メートル程はあろうかと言う真っ黒い蝙蝠だった。
ウルスラ:「6匹目だ」
ディナス:「上にもう1匹おったんか…惜しかった」
少し悔しげな表情を見せつつも、残る5匹の気配を逃すまいと目を走らせるディナス。
ウルスラ:「来る」
言葉少なにぽつりと呟いたウルスラが、たっと小さな足音を立てて数歩進んだ。同時にディナスも小ぶりの剣…短剣と小剣の中間サイズのものを抜き放ち、目の前の敵に切りつける。
剣技に長けたウルスラとは違い、ディナスは剣そのものの威力にはあまり力を入れていない。むしろ、小回りが効くのをいいことに、相手の急所と思われる部分に的確に攻撃を加える方法を得意とする。
したがって余分なダメージを与えるような動きはほとんど無い。自分の背中でウルスラが敵を切り裂く音と気配を感じながら、ディナスはフェイントを交えつつ、急所へと剣を突き込んで行った。
ディナス:「あれ?…数が合わんな」
ウルスラ:「そうだな。足らないようだ」
ひいふうみい、と床に落ちている敵の数を数え、未だ消えていない気配を探るディナス。
ディナス:「階段下のあたりが怪しいな…ちょお調べてみるわ」
新たな敵が現れるのを警戒してウルスラがディナスの背後に立つのを見てから、ディナスがその辺の壁を細かく調べ出す。
ディナス:「お。この石外れるみたいや」
ごとごとと音を立て…ディナスがひとつの石を取り出し、その奥にあった鍵を開けた途端、ごごっ、と音がして今まで壁のひとつでしかなかった部分がかぱりと開いた。
ディナス:「おおっ。なかなかやるやないか、綺麗にカモフラージュされとったわ」
その空間に何かあるかとディナスが顔を覗かせ――ようとする直前、ウルスラがぐいとディナスの襟首を引いた。
ディナス:「ぐえ」
喉が締まったディナスが抗議しようと後ろを向いた瞬間、目の前を光が駆け抜ける。
――それは、どんなに暗くても光を集めてしまうほど見事に手入れされた剣と――彼女の瞳。
それは一瞬の事だったが、それでもディナスが見とれてしまうほど…他の何も考えられなくなってしまうほど、綺麗な輝きだった。
キィィィィ!!
直後に耳をつんざいた声にはっと我に返ると、
ウルスラ:「最後の1匹だ。油断したな」
責めるでなく、淡々と呟いたウルスラがぶんと剣を振り、そして鞘に剣を収める。
ディナス:「…さんきゅ」
目の前で切り落とされたそれの鋭利な歯を見つつ、ディナスが呆然と呟いた。
その小部屋からは、特に何も見つからなかった。あったとすれば、部屋の隅に積み上げられたぼろぼろの布で作られた巣らしきものと、他に何か無いかとがさごそ巣の中を漁ったディナスが見つけた古臭い、鎖の切れたペンダントくらいのもので。
ディナス:「あかん。こんな変色したものやったら売れんわ」
それでも今の所唯一の戦利品とポケットに仕舞いなおし、更に上を目指す。
*****
ディナス:「ウルスラ姉ちゃん、容赦ないなぁ」
ウルスラ:「…火の粉を払っただけだ」
八層にも及ぶ塔の内部は、半分程が魔物の巣と化していた。そして残りの半分は、魔物さえも巻き込んでしまうような厳重な罠を張り巡らした部屋…尤も、そう言った場所を丁寧に探索したディナスによって、いくつかの『宝』は見つかっていたのだが。
そして、今2人がいる所は片割れの塔の最上階。…流石にこの辺りまで来ると、住み着いた魔物の強さもそれなりのものとなっている。
途中の階で見かけた、犠牲者らしき者の遺留品を思い出したか、ディナスが顔をしかめつつ、塔の上へ行く者を阻むようにうっそりと立っている黒いモノを睨み付けた。それ以外の魔物は、もう既にウルスラが切り払っている。
ウルスラ:「…あれは、強いな」
ディナス:「そやろな…隙が見えへんもん」
ウルスラ:「隙が見えた時点でそれは二流だ。してみると、『あれ』はその上か」
フォローを頼む、そう言い置いてウルスラがすっと前に出る。
その動きに合わせるように、黒いモノ…実体があるのか無いのか良く分からないそれはすぅと距離を置いた。
剣舞と言う踊りがある。
元々は異国の剣の型を披露したものから派生したのだろうが、その滑らかな動きは見る者の目を奪い、その軌跡を追う事に意識が動かされてしまう。
ウルスラと、それに対峙するものとの動きは、まさにそれ…剣舞に近かった。
まるで呼吸を合わせているかのように、切っ先をひらめかせて追うウルスラも、ほとんど紙一重でそれを避け、間髪入れず攻撃に転ずる敵の動きも、あらかじめ決められた型の中で動いているようにしか見えない。
ディナス:「フォロー入れろ言うたかて、どないすればいいねん」
くるくるとひっきりなしに身体の位置が入れ替わる2人に対し、割って入れば自分が巻き込まれてしまうだろうし、投擲などはもっての他。
…と言って口を開けて見ているのも悔しい。
ううむ、とディナスが唸った、その時、
――見ている?
ちりちりと肌を刺す視線を感じ取り、ばっとその方向へ目を向けた。
…何も無い。何も無いのだが、互いに視線をぶつけ合うような、そんな感覚は消える事無く。
ウルスラ:「――ディナス!」
その時、後ろから何かが迫る気配と、鋭い彼女の声がかかった。
反応していたのは、声よりも前だったかもしれない。
振り返るよりも先に左へ飛びすさり、同時に懐に忍ばせていた投擲用の短剣を3本同時に投げ付けた。
カカカッ、――敵をあっさりと通り抜けて石壁に当たる音がし、だが、それが敵の隙を誘ったのだろう。
ウルスラ:「――」
ディナスの投げた短剣の先にいつの間にか移動していたウルスラが、すいとその剣を避けざまに自らの剣を振り下ろした。
――――――――!!!!
きぃぃぃん、と耳に痛い悲鳴が上がり、そして、敵がざあああっと霧散する。
同時に。
『視線』が、ふっと消えたのが分かった。
*****
ディナス:「むー。結局これっぽっちしか見つからへんかった」
ウルスラ:「ゼロよりは遥かにましだろう?」
2人が今いる所は、塔の最上階。
向こうにも扉が見えるのは、もうひとつの塔の出口なのだろう。…その廊下の中央に、シンプルな扉が見える。
ディナスが途中で見つけた壊れかけのペンダントと、3つの…形はいびつだが、親指程の大きさの、虹色の宝石めいたものを手の中で弄びながら、中央の扉へ向かう。
ディナス:「罠も鍵も無いみたいやな」
ウルスラ:「そうか」
言いつつ、それでも警戒を怠らずに扉を開けるディナス。
――その向こうに、黒々とした人影がひとつ、あった。
塔の中で何度か気が付いたものと同じ気配と視線を2人へ向けた者が。
ウルスラ:「ガーゴイル殿か?」
扉を開けたままでいるよう目で指示し、ウルスラが一歩中に入る。
ガーゴイル:「いかにも」
黒い、鎧だろうか――他者を寄せ付けないような、闇色の鎧と、その黒い瞳以外に表情の見えない面を付けた、意外に穏やかな声が室内に響く。
ガーゴイル:「お主らは初めてだったな。私がこの塔の管理者だ。…危害を加えるつもりは無い。そのまま入って来るがいい」
ウルスラ:「………」
無言で、僅かに頷いたウルスラが一歩また一歩と足を進め、それに従うように扉から離れたディナスがとことことウルスラの隣に移動する。
ウルスラ:「ガーゴイル殿に会えたら、訊ねようと思っていた事がある。…この塔にまつわる話をな」
ガーゴイル:「そうらしいな」
警戒する様子も無く、部屋の中央にまっすぐ立つ男が、あっさりと答え、
ディナス:「やっぱりおっちゃんだったんか、ボクらの事見てたの」
ディナスの言葉にゆったりと頷く。
ガーゴイル:「私はこの塔の管理者であり、守護者だ。…侵入者の事を知らぬでは済まされまい」
ウルスラ:「…そうだ。あれは、あなたの影か」
ふと何かを思いついたか、質問を変えたウルスラに、ちらと涼やかな視線を向け、
ガーゴイル:「いかにも。お主らの力量がどれほどのものか、試させてもらった」
ディナス:「なんや、見張られて試されたんか。気分のええもんやないな」
そう言いつつ顔をしかめるディナスに、ふっと笑いを零したらしく、目を細めるガーゴイル。
ガーゴイル:「さて…この塔の話だったな」
ウルスラがこくりと頷き、手に下げていた剣を鞘へ仕舞う。
ガーゴイル:「確かに、噂の通り、この塔には『宝』が存在する。その宝を護るためにこの塔が建てられたようなものだ」
あっさりとそう告げたガーゴイルの言葉に、ディナスが目を輝かせつつ、僅かに身を乗り出した。だが、
ガーゴイル:「『それ』を求めこの塔にやって来た者は数知れない。だが、それを真の意味で手に入れた者は皆無だ」
ディナス:「なんや…金にならんのかいな」
ウルスラ:「それしか頭に無いのか、盗賊」
ディナス:「だーかーら、義賊やっちゅうねん」
ガーゴイル:「…金…か。金銭では購えないモノかもしれないな。少なくとも、一個人が持ちえて良いものかどうか」
だが、噂はこの国だけで無く、他所の国にも広まっている。
一時アセシナート公国の間者らしき者たちが数度、力ずくで奪おうと訪れた事もあった、と、他人事のようにガーゴイルが告げ、
ガーゴイル:「伝説にもなろうかという『宝』を個人が手に入れた所で、そこに待つのは悲惨としか言いようのない末路だ。――この塔を作った者も、もしかしたらその事を憂えたのかもしれぬな」
ウルスラ:「あなたがこの塔を作ったのではないと?」
ガーゴイル:「私は管理者だ。作り手が何を考えて作ったのかは知らぬ」
長い年月。
本来なら風化してもおかしくない歴史を持つ塔は、どういう仕組みなのか今も尚どっしりと大地に腰を据えている。
ガーゴイル:「お主らはこの塔に眠ると言われている宝を求めて来たわけではないからな。その宝がどのような物か、知らずとも良いだろう」
ディナス:「ボクはお宝なら…むぐぐぐ」
ウルスラ:「私の求めた『宝』は、ガーゴイル殿の持つ知識。過去を知り、様々な冒険者との邂逅を経た経験こそ宝と思う」
間髪入れずディナスの口を塞いだウルスラが、そのまま真っ直ぐガーゴイルに向かう。
ガーゴイル:「…それが宝か。確かに、そう言えるかも知れぬな」
今まで、幾度と無く訪れたであろう冒険者たち。中には、ガーゴイルを倒してその宝を奪おうとする者も数多くいた、とガーゴイルが告げる。『宝』の一端に触れる者も幾人か居た、とも。
それから、どれほどの言葉を交わしただろうか。
ふと気が付いたようにガーゴイルが視線を外し、
ガーゴイル:「…そろそろ日が暮れる。戻るならば良い時間だ」
ウルスラ:「もうそんな時間か。――楽しかった。また機会があれば、お目にかかりたいものだな」
ガーゴイル:「こちらこそ。お主の知識もなかなかのものと思うぞ」
ディナス:「それはええねんけど…そうや。おっちゃん、これ途中で拾ったんやけど」
帰り支度を始めたウルスラを横目に見て、ディナスが手の平に乗せたもの。
その虹色の輝きを見て、ああ、とガーゴイルが小さく呟く。
ガーゴイル:「それは魔力の結晶だな。…塔の中はああ見えて魔力が掛かっている所が多い。どこかに凝った魔力が零れ落ちたものだろう」
ディナス:「なんや、やっぱりそうかー。あ、じゃあこっちは?」
もうひとつ、手に取ったのはぼろぼろのペンダント。
ガーゴイル:「犠牲者の遺留品だろう。持ち主の事までは流石に知らぬ」
ディナス:「それもそうやな。家族がおるんやったら渡してやりたいトコやけど…」
何か手がかりは無いかとペンダントをあちこち調べてみると、かちりと小さな音がして、ペンダントが開き…かけ、錆び付いていたのか半開きのまま止まってしまう。
ディナス:「ありゃりゃ。中に何か入ってるみたいやけど、これ以上開けたら壊れてまう。…これは戻ってからやないと調べられそうも無いな」
ウルスラ:「そうか…では、戻ろう。もしその中に持ち主の手がかりがあれば、探してみるのも良いかもな」
義賊なんだろう?そう、ほんの少しだけからかうような口調でウルスラが言い、
ウルスラ:「世話になった。では、これで失礼する」
ガーゴイル:「うむ。後ろの扉から帰ると良い」
ディナス:「後ろ?」
見れば、ガーゴイルの背後にひとつ、これまたシンプルな扉があり。
素直に頷いた2人が、扉を開ける前に軽い会釈をして扉を開ける――と。
そこには、地面があった。
慌てて振り返ってみれば、そこにはもう何も無い。ただ来た時と同じように、左右に大きな塔がそびえ立っているのみ。
ディナス:「――便利なもんやな…さあってと、帰るかー」
ウルスラ:「ああ」
結局伝説の宝とやらは分からず仕舞いだったが、結晶を魔術の研究所に売ればそれなりの金になると踏んだか、ディナスの足取りは軽く。
その様子を見ながら、ふと足を止めて振り返るウルスラの目に、その双子の塔はどこか孤高を保つように映っていた。
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街へ戻り、きちんと調べ直した結果、ペンダントの主――その家族の居所は意外にもあっさりと判明した。
その足で家族の元へ訊ねた2人に、行方知れずの家族の消息が分かった事で感謝され、2人の名声がほんの少し上がったのだが、それはまた別の話である。
-END-
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