<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


切欠は些細な受難曲

「チェスで負けたんです……」
 もう少しで、雪が降る、雪が降る――。エルザード中がそう騒ぎ始めていた、秋の終わりの出来事であった。
 私の人生はもう終りました……嗚呼、主よ。
 今にもそう言わんばかりの人影が、白山羊亭のカウンターで、のっぺりと腑抜けになっていたのは。
「……何よ、どうしたんですか?」
 いつもは、この迷惑神父め……! と、その存在を無視するルディアですらも、こうもほの暗い微妙な雰囲気を醸し出されてしまえば、話しかけずにいることはできなかった。
「チェスで負けたんです……、」
「で、何かあったんですか?」
「チェスで負けてしまいまして……、」
「そのくらいで、何でそんなに落ち込んで――」
「チェスで負けて……、」
「だから、どうしたって言うのよ!」
 痺れを切らしたルディアの手が、盆を持ったまま高く振りあがる。
 刹那。
 びくぅっ、と。
 その雰囲気を素早く察したのか、はたっと、その人影が顔を上げた。
 ――サルバーレ・ヴァレンティーノ。白山羊亭からもほど近い旧教教会の、ヘタレで有名な迷惑神父。
 彼は、たった今永い眠りから目覚めたかのように首を振り、長い銀髪の頭に、あくぅ、と唸りながら自分の手を当てると、
「ですから、チェスで負けたと……、」
「いい加減に殴られたいわけ?」
 やっぱ、心配して損したかも――!
 思ったルディアに、
「……いえ、殴られたいだなんて……遠慮させて頂きますよ。――そうでした私、お別れを申し上げに来たんでした」
 何の脈略も無くするり、と、神父は話を入れ替えた。
 あまりにも唐突なことに、きょとん、とするルディアへと、
「私、旅に出ます。……そういうわけで、きっと生きては帰ってこられません。嗚呼、主よ……」
 今まで生かされたこの恵みに、感謝致します。
 勝手に自己完結をする。
 と、思いきや、
「チェスで負けたんですよ、リパラーレに。そうしたら、罰ゲームに『医学典範』取って来いって言われましてね……あ、ご存知です?『医学典範』。最近この周辺にリッチなんてモンスターが出ますけれど、彼等が奪って行ったとされる、有名な医学書ですよ」
 リパラーレにも、『医学典範』なる書物の話しについても、ルディアにも心当たりがある。ちなみにリパラーレは、この神父の親友で、相当手が粗いが腕の良い、エルザードのとある診療所の院長であった。
 ルディアがふぅん、と目を細める。
「良いじゃないですか、リッチの所に行くんですね? リッチなんて、確かにモンスターですけれど、まだ話が通じるもの。神父様、説得とかお得意じゃあないですか」
 リッチといえば、負の力に飲み込まれた、大魔導師の成れの果てとされている存在であった。ただそれだけに知性もあり、リッチと話をしたという人の話しも聞く。その上個体数も、それほど多くはないはずであった。
「まあ、そうは思っているのですけれどもね……でも、それまでの道のりですとか、沢山魔物も出てくるでしょうし、それにもしリッチの人が説得に応じてくれなかったらと考えますと、色々怖いですしねえ……それに考えてみてくださいよ。相手に何のお礼も無しに、ただ『持っている書物を下さいな』だなんて言って、くれるはずがあると思います?」
 そりゃあ、まあ。
 ルディアが心の中で、ひっそりと付け加える。
 だって神父様、きっとあの似非医者、……神父様が苦労するの見て、楽しんでみたいだけなのよ、絶対。この状況に、乗じて。
「旅のお供は、もうお願い致してありますが――だってリパラーレ、私が行かないと知ったら、私のこと、冬の森の中に放り込むつもりなんですよ……」
「じゃあ良いじゃないですか。どうせ結構、頼りになる人、集めてるんでしょ?」
「ええ、まあ、……それは、まあ」
 でもどうして私がこんなことをしなくてはならないんです――?
 付け加えて、再び神父は無言の中へとぱたりと伏した。


【Il preludio】

「……まあ、負けた神父さんが悪いということはさて置いておくとして、チェスの話はどうでもいいのですけれど、」
「よくないです!」
「要は、リッチさんの所へ行って、本をいただいてくれば良いのですよね?」
 当然神父さんは、リッチさんの居所も、相手の趣味や思考パターンも、行動時間帯も、ご存知なんですよね――?
 サルバーレの教会の聖堂で、早速。
 共に旅立つ事が決まった顔ぶれで、まずは初相談――というような場所で、サルバーレを質問攻めにしていたのは、アイラス・サーリアスであった。
 色素の薄い髪は対照的に、濃く青い色をした瞳が、神父とは比べものにならないほどしっかりとした頼りになる光をもって、今回の事の当事者を見つめている。
「こういうことになりますと、それこそ、事前の準備が重要ですからね。行動を起こした後では、できることも減ってしまいますから」
「まあ、死にに行くわけじゃあ、ありませんからね。小さな旅とは雖も、何が起こるかはわかりませんよ。……そのようなことは、当然、ご存知ですよね? 神父サンは」
 遠まわしに、そんな心構えで旅に出ようとしていたんですか? と赤い瞳でサルバーレを見据えたのは、顔の下半分を笑顔の仮面で覆ったある旅一座の青年、ロレンツォ・ディミケーレであった。
 ちなみに今回、護衛として旅に参加することとなっているロレンツォと神父の間には、何かしらの見返り、という物が裏でこっそりと約束されていた。その何かしら、という部分は、まだ全く決まっていないのだが。
 アイラスもアイラスで、ロレンツォの言葉には同感したい部分が沢山あった。しかし、それは口に出さずに、またもいじけ始めていた神父に、新しい質問を投げかける。
「ところで、神父さんは、『医学典範』の外見がどのようなものであるか、ご存知なんですよね?」
「――え」
 アイラスからの質問に、そういえば……と神父は考え始める。
 うーん、
 ……そんなこと、リパラーレから、
「そういえば、そんな話は聞いていないような」
「そっ、それじゃあ、……どんなものかわかりもしないのに、探しに行こうとしていたんですか?」
 突如として、そこに遠慮がちに割り込んできたのは、青銀色の長い髪の少女――メイであった。
 その紫銀の瞳が、サルバーレのことを、気持ち的になぜか追い詰めてくる。
「いっ、言われてみれば、そんなような気も」
「そんなのっ、む、無責任じゃあないですかっ!!」
 珍しくメイは、多少の怒りを孕んだ声音で、
「誠実じゃあありませんっ!」
「せ、誠実ぅっ?!」
「皆様をお誘いになっておいて、神父様は何もご存じないだなんて……!」
「それは確かに、言えてることですね」
「ルーン神父までっ!」
 すっと口を挟んだのは、緑色の髪に金色の瞳がよく映えているエルフの青年――サルバーレの同僚にして、つまりは旧教の司祭である、ルーン・シードヴィルであった。
 ルーンは、サルバーレの抗議には全く聞く耳を持たず、
「第一、女性に対して愚痴を零すだなんて……神父である前に、一人の人、おっと、エルフとして、恥ずかしいとはお思いにならないんですか?」
「第一! 神に仕える身ありながらも、負の力を帯びた者との戦いを嫌がるとは……何事ですか!」
「まったくもって、嘆かわしいことです」
「死する者は還す、負に堕ちたものは正へと昇華する。――それが、神に仕える者としての、当然の行いではありませんか!」
「……あう」
 理由に違いはあったものの、一度に二人に攻めたてられ、サルバーレはがっくりと肩を落とす。
 そこに、見かねたこの教会の居候の少女、オンサ・パンテールが、森の美しい木々を思わせる茶の瞳に苦笑の色を浮かべて、助け舟を出した。
「まあまあ、それでも神父は、きちんと約束を果たすって言ってるんだろ? まだそれだけ、偉いじゃあないか」
 小麦色の肌には、美しく描かれた彼女の民族の戦士の証でもある入墨。瞳と同じ色の長い髪が、何も纏っていない背に美しく流れていた。
「そんなの、当然のことじゃあないですか!……ですよね、ルーン神父?!」
「ええ、偉いも何も、主は必ずや約束をお守りになる方ですよ? そのようなお方に仕えている私達にとって、今更、約束を守る守らないだなんて、問題にするようなことであってはならないわけですからね」
「もう……いいんですよ、オンサさん……」
 でもほら、メイさん、少し落ち着かれてください――?
 そう言ってメイを宥めるルーンを横目に、サルバーレはふぅ、と大きなため息を吐いた。
 オンサはぽん、と、サルバーレの肩に手を置いて、
「あんたも災難だったね――でも何であんな約束をしたんだい?」
「だって……話の流れで、そうなってしまったんですもの……」
「まったく、ほんっとうに乗せられ易い性格なんだね、あんたは」
 それじゃあやっぱり、自業自得じゃあないか。
 ま、いつものことだけど……と笑ったオンサに、サルバーレが少しだけ微笑を浮かべていた。

 そんなこんなで、まず徹底的にアイラスやメイが行ったのは、リッチや、旅立つ地域について調べておくこと、であった。
 図書館や白・黒山羊亭の情報網に頼り、二人は、この面ではかなりの収穫を得ていた。
 その二人の情報と、ルーンとサルバーレという二人の聖職者の知識、オンサの野性的な知識を頼りに、いよいよ出発する日も決まり。
 ――いよいよ、少し季節の早い小春日和のある朝。
 六人は、天使の広場に集まると、早速、エルザードの門を目指して歩き始めていた。


【Il primo movimento】

 旅は、それなりに順調に進んでいた。
 時折出てくる動物達はメイやオンサの威嚇にて上手く追い返し、途中出てきた盗賊も、ルーンの長い説教に屈服して姿を消し。
 途中サルバーレが疲れたと言って駄々をこねたりはしたものの、そこは五人で一致団結し、脅すなり何なりして無理やり歩かせることにした。
 やがて、太陽が南中を過ぎ、下り始めた頃、道端に、一人の男が立っているのが見えた。
 男は、明らかにこっちをじっと見据えていた。サルバーレはまさか、と思っていたが、近づいて声を掛けられた瞬間、飛び上がるほどに驚いてしまった。
「Hallo, Guten Tag!〈やあ、こんにちは〉――これはこれは皆さん、お揃いで」
「……やっぱり、どうしてこんなところにいるわけっ?!」
 洒落た異国言葉での挨拶に、神父は大きく目を見張っていた。
 相変わらずの白衣姿で現れた医者――今回、サルバーレに、本を取って来い! と指示したはずのあのリパラーレは、そんな親友の肩を大袈裟に二度叩くと、
「そんなに驚くなって、サルバーレ。実はなぁ、俺、診療所がね、暇になってしまったのだよ」
「アホ」
 リパラーレの、現れての一言めに、考えるよりも先につっこんだのは、オンサであった。
 呆れきり、むすり、と医者の前まで歩み寄ると、
「診療所に暇だとか暇じゃないとかあってたまるかい! 天災は、忘れた頃にやって来る!」
 ――って、神父がいっつも言ってるわけだけど!
 しかし、医者はふーんと知らん振りを装うと、
「いいんだ、暇になったんだ。俺がそー決めたんだ、だから暇なんだよ」
「……最っ低! 医者としてどうなんですか……それは!」
「だから、暇な診療所よりも、メイちゃんのような可愛い女の子が怪我をしたら困ると思ってね。わざわざこっちに来たわけだ」
「オンサさんの仰るとおり、誰が、いつどんな怪我や病気をするかなんて、わからないんですよ!」
 メイの言葉が、悲しみと怒りとの間に揺れる。
 医者はそんな少女に歩み寄り、素早くきゅっと抱きしめると、
「本当に可愛いね、メイちゃんは――だがね、君の存在は、他の誰にも代えられないんだ」
「そんなの、誰の存在だって同じことだろうがっ!」
「おっと」
 素早く振り下ろされたオンサの長い弓を、抱きしめたメイごとするりとかわす。
 医者は、渋々、といった様子で、驚いたまま何も言えなくなってしまっていたメイを解放すると、
「あ、オンサちゃん、もしかしなくても、ヤキモチ? やだな、勘違いしないでほしいね。俺にとっては、オンサちゃんだって掛替えの無い――、」
「この節操無しが!」
 オンサは腰元の矢立てから一本矢を抜くと、そのまま医者の足元へと勢いよく投げつけた。
 矢は綺麗な曲線を描き、医者の靴のつま先まん前へと突き刺さる。
「っと、危ないだろ、オンサちゃん……。でもねえオンサちゃん、嫌よ嫌よも好きの内、ってことで、やっぱり君、サルバーレなんかより、俺の方が好きなんじゃあ……」
「帰ってしまえ! あんたがいなくても、あたい達は平気だからね!」
「つれないね。もしかして、照れちゃったかい?」
「都合の良い男め……! 大体、あんたはいつも……!」
 そのままオンサと医者とは、いつも通りの終わりの無い言い合いへと突入していく。
 そんな様子を遠目に呆れながら、アイラスはいまだに呆然と突っ立っているメイへと声をかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
「えっ、あ、あの――はい……」
 メイはそのまま真っ赤になって俯くと、心を落ち着けようと一つ大きく深呼吸をした。
 ようやく鼓動が落ち着いてきた頃、ふと、メイの耳に、傍にいるサルバーレとロレンツォの会話が聞えてくる。
「……ロレンツォさん、あなた、今回のことをどこまでご存知なんですか……? リパラーレがこんな所にいるだなんて……!」
「さあ、な」
「大体、なんだか怪しいって思ってたんですよ、私は……ロレンツォさんって、リパラーレと気が合いそうですものね」
「さあ、何の話でしょうね」
 ロレンツォは、珍しく、しつこく追究してくる神父へと、
「大体、今回俺を誘ったのは、あんたの方じゃあないですか」
 エルザードの街中で、お願いします、助けてください! と声をかけたのは、確かに神父の方であった。
 ――その時になぜか、傍にいた親友の医者が、おっ、アイツなんてどうだ? とロレンツォを指で示したことなど、神父は覚えていないわけなのだが。
 神父は一瞬黙り込んだが、
「確かにっ! 付いて来てくださいってお願いしたのは私ですけれど……! でも別に、その――む、無理強いしたつもりは、そのぉ……私としても、その……無かったわけで……、」
 最後は言っていて心苦しくなったのか、語調を弱めて付け加える。
 しかし、
「青春はうるわし、されど逃れゆく――」
 唐突に、ロレンツォの口から、ある時代のある地域で豪華王と渾名された男の詩が零れ落ちた。
 その意図を全く理解できないサルバーレが、勢いづいて問う。
「ちょっと! 人の話を聞いている、ん、……ですかぁっ……?!」
 しかし、颯爽とその息を切らすなり、その場に屈み込んでしまう。
 どうやら、ロレンツォが予想した通り、叫んでいる内に神父の体力に限界がきたらしい。
「楽しみてあれ、明日は定めなきゆえ……」
 神父の相手はここまでにして、ロレンツォはくるぅりと背後を振り返った。
「ほう、今後の予定か」
 神父と話ながら、ロレンツォはこっそりと、聞き耳を立てていたのだ。
 振り返ったその先には、立ち話をするルーンとアイラス、そうしてメイとがいた。
「ええ、皆さん取り込み中でいらっしゃるようですし、私達だけでも、少しくらいそういう話をしておいた方が良いと思いましてね」
 答えたのは、ルーンであった。
「それにしても、当事者のサルバーレ神父は予想通りリタイヤの兆し、リパラーレさんはリパラーレさんで目的が書物から女性に移り変わっているようで……嘆かわしいことです」
 歩み寄ってきたロレンツォも含め、四人で小さな輪の形に並ぶ。
「ほら、もうそろそろ、暗くなってくると思いまして」
 ルーンの言葉は努力して聞き流したのか、メイがそっと話をすり代える。
「ですから、今日はこの辺りで、休んだ方が良いんじゃないかって、話をしていたんです」
「アンデットの類は、やはり夜になると、昼間よりも強くなってしまうそうですから。この辺で野宿にした方が良さそうですねって話をしていたんですよ」
 どうやらリッチもその系統のようですからね、と、アイラスは背負っていた荷物を、とりあえずと言わんばかりに地面に降ろした。
 ――ほんのうっすらと夕焼け色を帯びた世界に、七人の影が、長く伸びていた。

 結局、その場で野宿することとなり、各々の定位置は自然な成り行きで決まった。
 一箇所に纏められた荷物から右回りに、ロレンツォ、リパラーレ、アイラス、ルーン、メイ、オンサ、サルバーレの順番で、宵闇に輝く薪をぐるりと一囲みする。
 七人は、食事を終え、適当に明日のことを話し終えるとすぐに、寝支度をし、毛布を被っていた。
 しかし、明日のことを考えて早めに寝ましょうね――と提案したメイの言葉もどこへやら、一部の人間は早速暇を持て余して騒ぎ始めていた。
「何で俺がお前等の隣で眠らなくちゃあならないんだって……俺は男の隣は嫌だってあれだけ言ったんだ!」
 むっすりと脹れて毛布を被った医者に、アイラスが溜息と共に指摘する。
「当然ではありませんか、リパラーレさん。健全では、ありませんね」
「ンなこと言ったら、なぁんであのヘタレ神父はオンサちゃんの隣にいるんだっ! ん?!」
 冷静に応じられて余計に腹が立ったのか、今にも掴みかかりそうな勢いで、毛布を被ったままで身を起こす。
「俺よりヘタレがいーって言うのかっ?! 俺の方がアイツよりヘタレてるっていうのかっ!」
「まあまあ、少し落ち着いてくださいよ、リパラーレさ……」
「黙れこの青メガネ!」
 アイラスの動きが、ぴたり、と止る。
 青メガネとは、失礼な……、
 そう反論しようと、改めて身構えたその時であった。
「……なあ」
 静かに、まるで挙手するように、ロレンツォが身を起こしたのは。
「お?」
 ロレンツォの問いに、医者は面倒くさげに振り返る。
 ロレンツォは、ふん、と軽く鼻を鳴らしながら、
「あの二人、デキてんのか?」
 随分とぴったりと寄り添い合っている、オンサとサルバーレとを視線で指した。
 ――確かに。
 その会話の内容まではこちらに聞えて来なかったが、オンサの隣で時折メイが恥ずかしそうに視線を逸らしている様子からも、二人の仲の良さはよくわかる。
「……俺の見たところだと、ちゅー、くらいは、してそうだがね」
 あからさまにいちゃついている、というわけではないが、二人の距離はほとんどゼロに等しい。しかも、いちゃついていないからこそ、余計に仲が睦まじく見える。
 ……あーあ、余計に始末が悪い。
 ロレンツォの声を聞きながら、リパラーレは、心の中で付け加え、
「まあな。サルバーレのヤツ、あー見えても意外と色魔なんだよ!」
 何の根拠も無く吐き捨てると、ロレンツォに背を向けた。
 心なしか、ロレンツォの仮面の笑顔が深くなる。ただし相変わらず、その目は笑っていなかったが。
「神父が?」
「ああそうさ」
「聖職者なのにか」
「ああそうだ、聖職者なのにだ!」
 そんなことあるはずありませんのに……というアイラスの心の声は、誰にも聞えない。
 だがアイラスとしても、今更、二人の会話に割り込む気にはなれなかった。
「――騒がしいですね。全く、子どものお泊り会でもありませんでしょうに」
「僕に言わないでください……迷惑してるのは、僕も一緒です」
 こっそりと溜息を吐いたルーンの言葉に、アイラスも同じくして言葉を返す。
 ルーンは微苦笑を浮かべると、
「こういう時に限っては、サルバーレ神父は賢明でいらっしゃりますね。ほら、もう寝ていらっしゃるようですよ」
 やはり戸惑っているメイのその先を、視線で指し示す。
 ――そこには、同じ毛布の中で母と子のように寄り添いあって眠る、オンサとサルバーレの姿があった。


【Il secondo movimento】

 朝は、早かった。
 賑やかな朝食を済ませると早速、一同は、まだ眠い……と駄々をこねる仲間は無理やり叩き起こすか、或いは置いていくと脅す形で、軽い運動になるくらいの距離を歩いて行った。
 そうして、辺りに、遺跡らしき石造りの廃屋がちらりほらりと見え始めた頃、正面から、大量のアンデット達がこちらに向かってくるのが見えた。
 不意に、メイが一同の先頭に立ち、天高く手を挙げる。
 そのアンデット達に有り余るほどの敵意を感じたのは、何もメイだけではない。話し合いどころではないと悟ったアイラス達も、即座に戦いの準備に入っていた。
 やがて、アンデット達の足音が聞こえるようになった頃。
 ――我等が主よ、
「神よ、我が保護に聖心を向け給え……」
 淡い光が、周囲を包み込んだかのようであった。
 神の祝福を……と、瞳を閉ざしたメイの声音に、全員が、心の中から重荷を取り払われたような感覚を覚えていた。
 祈りに身を投じていたメイが、すっと紫銀の瞳を開き、前を見据える。
「さあ、参りましょう……死したもの、闇に堕ち人に害をなす事を望むものには、罰を――!」
 戦い嫌いの戦天使の手元に、光と共に大きな鎌が現れる。
 無垢の恩寵――イノセントグレイス。
 その神聖なる輝きを見た途端、我先にといわんばかりに魅せられたのか、ゾンビやスケルトン達が一斉に襲い掛かってきた。


a

 そのまま半強制的に、アンデット達と攻防を繰り広げ始めた味方の姿を眺めながら、
「あぁ、主よ、お許しください……! 結局こうして戦うことになるだなんて……!」
 オンサ、ロレンツォ、リパラーレと共に、アンデット達との距離を稼ぐべく後ろに向かって駆け出していたサルバーレが、早速嘆きを零していた。
 やがて四人で立ち止まった頃、オンサが腰元の矢立の矢に手をかけながら、
「そんなこと言ってる場合かいっ! あんた、そんなところでぼっとしてたら、死ぬのはあたい達の方なんだよ!」
 手に取った矢を口に咥え、背からその身長ほどもある弓を下ろした。
「そりゃあ、そうですけれど……」
「つべこべ言わない! 神父、あたいの言いたいこと……わかるね?」
 何を――と、サルバーレにとっては問う必要の無いことであった。
 手を貸してくれ、と、オンサはそう言っているのだ。
「けど……!」
「あんたのことだから、またアンデットにも生きる権利があるとか思ってるのかも知れないけど……!」
 きりきりと、力一杯に弓に引っ掛けた矢を引きながら、オンサはちらり、と神父に視線を送る。
「だったらあたい達にだって、その権利はあるわけだからね!」
 オンサの手から放たれた矢は、アンデットと戦う味方達には掠りもせずに、ルーンの背後を狙っていたスケルトンへと適確に命中する。
 しかし、そのスケルトンに止めを刺したのは、やれやれ……と面倒くささを拭いきれずに振り返った、ルーンの聖水での一撃であった。
 オンサが舌打ちをする。
「神父なら、わかるだろ……?!」
 もう一度構えをとったオンサの言葉に、神父は頷かざるを得なかった。
 オンサの弓矢の腕の良さは、あの広いエルザード中を探しても、おそらく右に出る者はいないほどのものであった。しかし目の前にいるのは、そのオンサの腕をもってしても、一撃で倒れないほど頑強なアンデットであった。
 ……どうやら術者も、かなり力をもったヤツのようだね……!
 オンサは、直感でそれら全てを見抜いた上で、神父に言っているのだ。言葉にはしなかったが、手を貸してくれ、と。
 先ほどのメイの祝福のおかげで、幾分か神聖な力がオンサには付与されている。しかしやはり、もう少し強い力が欲しい。
 ただ、色々とわかっているからこそ、オンサにはサルバーレに、戦いに加担することを無理強いすることができなかった。その気になれば、脅して矢に聖なる力を込めさせることもできたのだろうが、どうしてもその気にはなれなかった。
 そうなればもはや、説得の手段に使えるのは、自分の言葉しかない。
 ……全く、優しすぎるんだ! 神父は!……弱虫なのも、事実だけどねっ!
「あんたの言いたいことはわかるつもりだよ! けどね! 他人に優しくするあまり、自分の命を投げ出すことが、必ずしも正しいとは限らないとあたいは思うわけだ!」
 しかも、ここで戦いを放棄することは、仲間を見捨てることと同義になる――。
 ただ、この点に関しては、オンサは一言も付け加えなかった。
 そこはきっと、サルバーレとしてもわかっているはずだと、オンサにはそんな確信がある。このような矛盾に気づいているからこそ、余計に思い悩んでしまう神父の性格が、よくわかるのだ。
 ――と。
「……感謝の祈りでも、捧げればいい」
 黙りこんでいた神父の横で、ぽつり、と呟いたのは、ロレンツォであった。
「あんたは、食べるために生き物を殺すことを、否定しないんだろう……――ではそれは、何故に、のことです?」
 さも当然のことを聞いているかのような口調で、ロレンツォは神父を流し目に見た。
 しかしロレンツォは、答えは待たずに、
「生きるためでしょう。俺はこういう戦いには、それと少し似たものを感じますがね」
 軽く鼻先で笑ったロレンツォの姿が、不意に、その形を変え始める。
 銀の毛皮の、大きな狼。しかし、瞳の色が赤から黄色へと変わろうとも、相変わらず理性的な光は灯ったままであった。
 ロレンツォは咆哮をあげると、四本の足でおもいきり地を蹴り上げ、メイとルーン、そうしてアイラスの方へと駆け寄って行った。
 ……だから、彼は知らなかった。
 その後すぐに、何かを吹っ切ったかのような面持ちで、サルバーレがオンサのすぐ隣へと歩み寄ったことを。
 オンサと目があうと、サルバーレは無言のままで一つ頷いた。そうして、引かれている矢に向かって、そっと手を翳す。
「Requiem aeternam dona eis Domine, et lux perpetua luceat eis...〈主よ、永遠の安息を彼等に与え、絶えざる光を彼らの上に照らし給え……〉」
 オンサの矢が、聖光に包まれる。
 そうして彼女は、その手を離した。


【Il terzo movimento】

 あれほど、倒しても倒してもその数を減らさなかったアンデット達が、突如としてその姿を消してから暫く。その代わりに、前方からゆるりと一人姿を現したのは、リッチであった。
 ゾンビの解剖に勤しんでいる医者は放置して、オンサとサルバーレとが、間も無く前衛に合流する。
 現れたリッチは、しかし、こちらと戦おうという素振りも、話しかけてこようとする素振りも見せなかった。
 お互いの沈黙の中で、まず始めにアイラスが、小声でサルバーレを呼びつける。
「ほら、説得なさってください。早くしないと、また僕達、アンデットに襲われるかも知れないんですよ?」
「ち、ちょっと待ってくださいよ……! どうして私が、そんな、」
「当然ではありませんか。神父さんが説得しないで、他の誰が彼――、」
 もとい、彼女かも知れませんが、
「を、説得すると言うんです?」
 アイラスの問いに、サルバーレはすっかりと黙り込んだ。
 ほ、他の誰って、
「……例えば、アイラスさんとかっ」
「僕はそういう役割を担うつもりはありませんよ。それに、こういうお仕事は、元々神父さんの本領ではありませんか」
「私は、説教はあまり得意ではありませんしっ」
「説教とこれとは別の問題ですよ」
「それにほらっ、神父でしたらほら! ここにも!」
 丁度都合の良い……これこそ主の贈り物です! と言わんばかりに、ルーンを精一杯の力で前に押し出す。
 ルーンは一瞬沈黙したものの、
「確かに大丈夫ですよ。私がいますからね」
 自信満々に、自分の胸を一つ叩く。
 そもそも期待してルーンを押し出したわけではなかったサルバーレの瞳が、きらら希望に満ち溢れた。
「何か策があるんですかっ、ルーン神父!」
 しかし、ルーンは瞳を細めるなり、
「私は、そのようなことは申し上げておりませんよ?」
 どこか悪戯っぽく微笑むと、得意気な顔をして一言付け加えた。
「もしお葬式を挙げるような事態になりましたら、私にお任せください、ということです――サルバーレ神父、折角の機会です。司祭らしい、威厳を見せてくださいね?」
「神父うぅうううううっ!」
 今にも泣き出しそうな声音で、サルバーレが訴えてくる。
 ルーンはそれに、ああ、そういえば……と、ぽむりと一つ手を打つと、確認するような口調で話を始めた。
「終油のご心配なら、必要ありませんよ? 聖油でしたら、持って来てありますから」
「そういうことじゃあなくて……って、死ぬことを前提にしないでくださいよ!」
「おや、終油の秘蹟は、信者の心と体の回復を願うためのものですよ? 死ぬことを前提とするだなんて、そんな……」
「ルーン神父はそのつもりでいらっしゃるんでしょうっ! どうせ、『主に生前の悪行を懺悔してから逝かせて差し上げます』とでも仰るつもりでしょうに!」
「人をお疑いになるだなんて、司祭としてあるまじき行為ですよ……サルバーレ神父」
 心の底から憐れむような視線を、サルバーレへと送る。
 仕方無しにサルバーレは、最後の望みをかけ、オンサへと視線を投げかけた。
 オンサは微笑すると、
「大丈夫だよ、神父。相手に敵意は無いし、……それに、あたいにはこの刺青の加護があるように、あんたにはあんたの神様の加護があるんだろ? 何とかなるさ」
「オンサさんっ!」
 久々にまともな言葉をかけてもらえたことが相当嬉しかったのか、神父は再び弓を背負ったオンサの両手を取った。
「あなただけです、そうやって私に優しくしてくださるのは」
「サルバーレ神父、今はオンサさんを口説いている場合ではありませんよ。きちんと成すべきことをなさってください」
「ほぉら、見てくださいよ! こうやって世間は、私に冷たくあたりすぎなんです……」
 ルーンの言葉を受け、そのままよよよ……と、泣き崩れる。
 ――と、そこに、
「私のことは無視かね。全く、外のペット達が賑やかだと思って来て見たら……」
 いよいよ痺れを切らして自分から話し掛けてきたのは、例のリッチであった。
 いまだに泣き崩れているサルバーレの代わりに、ルーンが話しに応じる。
「おや、ペットですか?」
「アンデット達だ。そこの医者に解剖されているジョニー君は、確かクレモナーラ出身の農夫だったかね。……まあいい、後で返してもらえれば、それでいいのだ」
「ペットにしてはぞんざいな扱いなんですね」
「そこの神父は口が悪いな。だから教会に人が来なくなる」
「私達ができるのは、あくまでも信徒の皆さんを正しい信仰に導くことですからね。教会に来ない方の怠慢や面倒くさがりを取り除くことはできませんよ?」
「しかも口数が多いときた。……まあいい、面倒だ。さっさと用件を言い給え。こんな所に来るということは、何か用事があるということだろう?」
 リッチは全員をぐるり見回すと、私は忙しいのだ、と、一言付け加えた。
 オンサは、周囲の味方達が何も言わないでいるのを確認してから、サルバーレからリッチへと視線を移す。
「あんた、『医学典範』とかいう書物は持ってるのかい?」
「おお……その書物なら、確か私の書庫に埋もれていたはずだ。それが、どうかしたのかね?」
「それをよこせと言っているんだよ、俺は。埋もれてるんなら余計によこせ」
 それが人から物を貰おうとしている時の態度かい……?
 ゾンビの解剖に使っていたらしいメスを白い布で拭きながらやってくる医者の気配に、オンサは大きく溜息を吐いた。
「俺が有効利用してやるよ。猫に小判、豚に真珠は馬鹿げてるからな」
「やれやれ、今日の客は態度のデカイのばっかりなのだね……そこの高飛車な医者は、何の対価も無しに私に貴重な書物をよこせと言うのかね」
「対価なら……仕方が無い! 対価として、ロレンツォの華麗なショーでも見せてやるよ」
「俺はお断りだ」
 唐突に話の矛先を向けられたロレンツォではあったが、動じることもなく即座に却下する。
 人に戻ろうとも、先ほどのように狼の姿になろうとも、その態度の重さは全く変わらない。
「なんだよ、ちょっとくらいいいだろ。減るもんじゃあるまいし」
「俺の体力やら気力が減るね」
「そのくらい我慢しろよ。全く、やっぱりロレンツォじゃ頼りにならなかったか……!」
「なら最初から、俺に話を振るな」
「あーはいはい、ちょっとでも期待した俺がバカでしたよ、だ」
 ちぇっ、と舌打ちを一つすると、医者は仕方なく、もう一度リッチへと向き直った。
「じゃあ仕方がない。とりあえず聞いてやるかどうかは俺の気まぐれ次第だが、お前の望みを言ってみろ!」
「私の望みか。……『医学典範』と引き換えの、か?」
「ああそうだ」
「そうだな……」
 リッチが、すっと、瞳を細めたような気がした。
 ――やがて、暫く。
 顎に手を当てて考えていたリッチが、器用にも一つ指を打ち鳴らした。
「そうだ、そこの嬢ちゃんの皮を剥がせてくれたら、考えよう。何せ私としても、見たことのない刺青をしている……じっくり、研究させてもらおうか」
 ぴしぃっ、と。
 周囲の空気が、一瞬にして氷りついた。
「なっ……何をっ……!」
 今まで地面にのの字を描いていじけていたはずのサルバーレが、すっくと立ち上がる。
「ちょっと、あなた、今オンサさんの皮を剥ぐって……なんてことを仰るんですかっ! ねえオンサさんっ?! 当然そんなことに付き合う必要は……、」
「付き合おう!」
「はぁっ?!」
 意外なオンサの反応に、サルバーレの開いた口が塞がらなくなる。
「その研究に、付き合うと言ったんだよ、あたいは」
 オンサにも、戦士の誇りがあるのだ。
 あたいは、獣牙族の戦士なんだよ――こんなところで怖気づいていたら、この刺青を受けた者として、申し訳が立たないからね……!
「オンサさんっ、気を確かに持ってくださいよ! あんなリパラーレみたいな、その……どっ、ド阿呆のためにそんなコトをする必要はないですって! 別に本なんて、一冊無くたって死にはしませんしっ!」
「あたいだって、似非医者のためにそうするつもりなんかじゃないよ! あたいはあたいのために、そうするんだ!」
「ちょっと待てヘタレめっ! 誰がド阿呆だ誰が! 大体! ド阿呆なのは、俺よりもそっちのヘンタイリッチのほーじゃねーか!」
 白衣のポケットの中に偉そうに手を突っ込んだままで、リパラーレがサルバーレの眼前へと迫る。
 ついでに、リッチの発言にも腹を立てていたのか、無礼にも真正面からリッチを指しながら、
「オンサちゃんの刺青を皮ごと剥いで研究するだぁ?! ふざけんな! どーせやるなら、お前じゃなくて俺にやらせろ!」
「――ちょっと! 話を聞いていれば、皆様勝手じゃあありませんか……!」
 慌てて止めに入ったのは、すぐ傍で話を聞いていたメイであった。
 メイは、その瞬間、一瞬にして自分のところに視線が集まったことに動揺しつつも、えいっ、と一つ気合を入れ、
「第一に大切なのは、まず人命ではありませんか! 従って、その……リパラーレ様がオンサ様の皮を剥ぐだなんて、論外ですっ!」
「ちょっと待てメイちゃん! 俺はやられる前にやれ≠定義したつもりであって、本気でオンサちゃんの皮を剥ごうとか思っているわけじゃあ……!」
「その次に大切なのが、リッチ、あなた様に、還るべき場所に還って頂くことです!」
「違う! 次に大切なのは、『医学典範』だっ!」
「リパラーレ様は黙っていらしてください!」
「……メイちゃん、怖い……」
 むすり、と素っ気無く返され、ついにリパラーレは黙り込んだ。
「ほおう……」
 リッチが、くすり、と笑ったような気がした。
 メイは、横にたらしていた手を、きゅっと握る。
 怖いのではなく、堪えているのだ。
「あなた様のいるべき場所は、ここではありませんでしょうに……!」
 もし、このリッチがこれ以上、もう少しでも挑発的な行動をとってくるのならば、メイとしては、即滅びを与えてしまいかねなかった。それが、天使としての務めでもあるのだから。
 とは言え、それを問答無用で行ってしまっては、
 ……また神々や天使の評判が悪くなりますし、それに……本のある場所だって、聞き出せないわけですから……。
 少しばかり泣きたくなってしまった気持ちを抑え、メイは気持ちを奮い立たせる。
「私の還るべき場所、か。ふん、私はまだまだ、この世に遣り残したことがあってね。当分神々の下僕になるつもりは、ないわけだ」
「下僕ですって……?! 主は、そんなお方ではありませんっ!」
「私は昔っから、他人に仕えるのが嫌いなのだよ。――ま、嬢ちゃんとこれ以上話しても、わかりあえはしまいよ。それよりも、だ」
 怒りに震えるメイから視線を逸らすと、リッチはこちらの方へと、地面を滑るようにして寄って来た。
 そうして、いまだにきっ、とリッチを見据えているオンサの目の前に立つ。
「本当に珍しい刺青だねえ……研究のし甲斐がありそうだ」
 乾ききった枝のような指が、オンサの体にぴたり、と触れる。
 しかし、オンサは怯えた様子を欠片ほども見せずに、その場に堂々と立ち続ける。
「本当に、いいんだな?」
「ただし! 本はきちんとくれるんだろうね?」
「ああ、勿論だとも。私はこれでも、生前から今にかけて、正直者だとして有名なのだ……」
 リッチの口から、くす、くすすっと笑い声が洩れている。
 その後ろでは、アイラスやメイが、すぐにでも戦えるようにと構えをとっていた。
「痛いんだぞ? 泣いて喚いても、私は知らんがね……」
「そんなことあるもんかい」
「あぁ、あるとも……君は、皮剥ぎの刑を見たことがないから、そう強がっていられるのだよ。処刑方法としてはなかなか有名な方法だ……なかなか死ねない上に、叫ぶことすらできなくなるほどに、痛い時間が延々と続くのだ」
 オンサの首筋に、リッチの指先が止まる。
 この時ふとオンサは、随分前に皆で集まった、怪談話の時のことを思い出していた。
『――男はね、事切れた女戦士の肌に切れ味の良い包丁を入れた。そうしてね、剥いだのさ』
 皆が蝋燭の火を吹き消していったあの夜、今丁度すぐ傍にいるあの似非医者が、そのような話をしていたような気がする。
 殺された女戦士が、剥製に……、
「それも、私だったら生きたままやらせてもらおうと思うがねえ……女性の叫び声は、美しいのだよ」
「構うものかい。あんたの変態趣向に、あたいは付き合うつもりはないしね」
「叫ばずにはいられまいて。それでもよいなら、本をやろう」
「ちょっと、いい加減にしてくださいよ……!」
 勝手に進む話を止めようとはしてみたものの、オンサもリッチも、サルバーレの言葉を気にする様子は欠片ほども見せなかった。
 場に、一触即発の雰囲気が流れる。
 誰もがそれ以上、動こうとはしなかった。各々がそれぞれ、話の展開を見極めようとしていた、その時。
「……よし、わかった」
 と。
 気軽に言ったのは、突如としてオンサの方から身を引いた、リッチであった。
 全員が、きょとん、と見守るその中で、
「いいよ、わかった、気に入ったよ、嬢ちゃん。嬢ちゃんに免じて、本はやろう」
 乾ききった手で、小さく拍手をする。
 そうして、付け加えた。
「実はね、私は医学とやらには興味が無くてね……その代わり、そこの嬢ちゃんには、嬢ちゃんの民族について色々と聞かせてもらおうか。――大丈夫だって、皮ごと刺青を剥すだなんて、私のちょっとしたお茶目な冗談だ」
「どこがお茶目な冗談なんですかっ! び……吃驚したじゃあないですか!」
 オンサの代わりに、神父がへなへなと地面に座り込んだ。


【Il postludio】

 時刻は、昼を少しまわった頃。この調子で歩き続ければ、夜までにはエルザードに戻れるはずであった。
「いいか、お前等は、俺という名医に貢献することで、世界に偉大な貢献をしたんだからな〜♪ いやもう……今日は充実した一日だった」
 ご丁寧に、男達だけが目の前を歩いている頃合を見計らい、医者はそれはもう上機嫌に、手元の本――『医学典範』を掲げて見せた。
 当然医者の話など誰も聞いてはいなかったのだが、唯一ロレンツォのみが、反応を返す。
「ゾンビの解剖と、親友いぢめで充実した一日、か。――全く、あんたは趣味が悪い」
「お前に言われたかねーよ、ロレンツォ。それに、青春は短し、遊べ遊べだ」
 くくっと人が悪く笑うと、
「あー、それにしても、これで中近東の医学がよっっぅくわかるわけだ。ん?」
「今更そんな古い書物、時代遅れな部分もあるんじゃないのか? それにあんた、中近東の文字なんて読めたのかね」
「いーか、俺の目標は、最新の医学を勉強することだけじゃあない。古代中世近世現代の医学史を知るためには、どうしてもこれが必要なわけだ」
「意味の無いことが好きなんだな。……まあ、悪くはないだろうが」
「だろ? 翻訳版からじゃあ読み取れない知識が、ここにはあるかも知れないってわけで。ま、ミミズがのたくったような文字でも、一年二年もあれば、何とか読み終わるだろ」
 俺は頭が良いからな、と、鼻高々に付け加えた。
 ロレンツォは、そんなリパラーレからすっと視線を逸らすと、ぽつり、と一言呟く。
「しかし、それにしても……酷だな。あんたの親友サンは、随分とお疲れなさったようだがね」
「アイツが苦労するのは、いつものことだ。そういう星の下に生まれてるんだから、仕方ないだろ? それに、だな」
 リパラーレはちらり、と、自分の親友が遠くを歩いていることを確認した。
 この距離ならば聞えまい、とは思いつつも、一応、声の調子を少し落とすと、
「誰だよ。俺が話したサルバーレの不幸っぷりを聞いて、パフォーマンスのネタにでもしようかな……って言ったヤツ」
 ――ここから先は、二人しか知らない話であった。
 実は、ことの発端となるサルバーレとリパラーレのチェス勝負の前には、ロレンツォとリパラーレとの会話があったのだ。
 どうやらリッチが『医学典範』の原書の写本を持っているらしい……と知ったリパラーレと、面白い人間でも観察して新しいパフォーマンスでも考えようかと気紛れに思っていたロレンツォ。二人の利益が一致して、サルバーレはめでたく、その罠に嵌められたのだった。
「しっかし、お前も悪魔だよな。チェックかけられると、ヒゲが出る芸だなんて」
 俺はいまだに仕組みがわからんぞ、と、不意に医者は真顔でロレンツォに問う。
「あれ、結局どういう仕掛けなんだ?」
「さあな」
 しかし、チェス前と同様、ロレンツォは、それについては何も語ろうとはしなかった。
 医者が知っていることと言えば、サルバーレとのチェス前に――それも、教会にチェスをしに行く前に、診療所にて――、少しじっとしていろ、と、ロレンツォに言われたことのみであった。
 ……そしたら急に、ウサギかネコか知らないが、そんなヒゲが生えるんだもんなぁ……。
 サルバーレにチェックをかけられると、突然、自分にひげが生えるようになっていた。しかも、チェックを逃れると、そのヒゲは綺麗に消えてしまう。
 実際、リパラーレの方もかなり驚いたのだが、精神的な動揺という面では、サルバーレには遠く及ばなかった。
 結果、集中力を失ったサルバーレの負け。ちなみにヒゲは、試合の後には生えなくなっていた。
「――アイツ、チェス強いんだよ、あれでも。今まで暇つぶしに相手してやったことが何回かあるがね。大体はステイルメイト……引き分けだ。悔しいが、俺も何度か負けていてるんだよ」
「あんたが弱いだけじゃあないのか?」
「失敬な! 俺はチェスは強いの。今度相手してやろうか?」
「俺は、いい」
 チェスは°ュいのか。
 ふん、とリパラーレを笑い飛ばした丁度その時、ロレンツォに、噂のヘタレ神父が話しかけてきた。
 どうやら、夕食は是非教会で――と、全員に話しかけて歩いているらしい。
「……当然リパラーレさんも、夕食は食べて帰るのでしょう?」
 突然横から、いつの間に並んで歩いていたのか、リパラーレにアイラスが話しかけてきた。
 リパラーレは視線を、それで、見返りは……と神父に請求を始めていたロレンツォから、アイラスへと移すと、
「ん? あ、俺か。アイツのことだから、俺の分は言わなくても準備するだろ?」
「ええ、きっとそうですね」
 すぐに納得したかのように、アイラスが頷いた。
 ――それから、ふ、と、
「そういえば神父さん、アンデットとの戦いの最中に、力を貸してくださったそうで。僕としては、正直意外だったのですけれども」
 思い出したかのように、話題をすり代える。
 リパラーレは少しばかり考え込むと、ぽつり、と呟きを洩らした。
「メイちゃん達の方が、あんなヤツよりずっと優しいんだよ」
 俺はそう思うね、と、手元の書物をもてあそびながら、話の逸れたようなことを言う。
「アイツもわかってるみたいだけどな、ああいう場面で戦いを放棄するのは、優しいんじゃなくてただ単に弱いだけなんだよ。それだけの精神力が無いだけの話だ。もしくは何かの命を奪ったという、罪悪感を背負いたくないだけだ。ただの、逃げだね」
 ま、これはあくまでも俺の意見だがね。
 青メガネがどう考えるのかは知らないが……と付け足され、アイラスは、そこで一つ瞬きをする。
 それから、暫く。
「……ほんっとうに、神父さんとリパラーレさんは、仲が良いんですね?」
 軽く噴出し、思わず笑ってしまった。
 リパラーレは、眉を顰めると、
「は? 気が狂ったか?」
「いいえ。そこまで手厳しいのは、本当に仲が良い証拠なんだろうなぁと思いまして」
「どうしたらそういう結論になるんだ?」
「だってリパラーレさんは、神父さんの目の前でも、そういうことを言えるんじゃあないですか?」
「……だったら、どうしたんだ」
「ほら、やっぱり」
 アイラスは、得意気な笑顔で人差し指を一本おっ立てる。
「言いたいことを言い合える仲ではありませんか。そういうのを、『管鮑の交わり』と言うんですよ?」
「かんぽー……?」
 しかしそこで、聞き流してください、と言わんばかりに、アイラスは大きく前へ歩み出ると、リパラーレを追い抜かして行った。
 ――その傍ではサルバーレが、ルーンとメイとを食事に誘っているのが見えた。
「夕食だなんて、また定番な、もとい、気の利いたことをお考えになったんですね?」
「宜しければ、ルーン神父もいかがですか? まあ、料理するのは私ですから、大したものは出せませんけれど……」
「エルザードに帰ってすぐお休みになった方が良いのではありませんか? 明日からは、いつも通りに聖務なんですよ? 私達」
 どうやらかなり、お疲れなようですし。
 聖職者の朝は早いんです、と微笑したルーンに、サルバーレは軽く首を横に振った。
「それも、わかっていますけれどもね。どうせ帰ったら夜ご飯にしなくてはならないのは、私とオンサさんだけでにしても、私達全員でにしても、同じことですから。人数が違うだけですよ」
「ああでも、どちらにしましても、私は遠慮しておきましょうか」
「……え?」
「折角のお誘いですし、お受けするのも悪くはないでしょうけれどもね。私にも帰るべき教会がありますし、それにそろそろ、シスター・キアラも――、」
 そういえば、パニックに陥って何かを壊していたら、厄介ですね……。
 ルーンは一瞬、そんなことを思ったが、
「お留守番に、疲れていらっしゃるでしょうから」
 とりあえず、そのようなことは無いと信じて、比較的前向きな望みを込めて言葉を続けた。
 まあ、シーピーもクルルもいますし、大丈夫でしょう……。
「まあ、どうしても、と仰るのでしたら、後ほど彼女も連れて、そちらに伺いますよ。いずれにしても、私は一度、教会に戻ってからですね」
「ええ、それでも構いませんので。キアラさんには、宜しくお伝えくださいね」
「はい、相変わらずヘタレていらっしゃったと、そうお伝えしておきますよ」
 そういう意味での、宜しくじゃあないんだけど……と心の中で呟きつつも、次にサルバーレは、メイの方を振り返った。
「メイさんは? 今日は、お暇ですか?」
「あたし、……ですか?」
「ええ」
 メイは暫し考えてから、
「お食事は、ご一緒させていただけるのでしたら――構いませんけれど……」
 ちらり、と、少し遠くを歩く医者の方へと視線を投げかけた。
 その意図に気付き、サルバーレが苦笑して謝罪する。
「リパラーレのヤツ、いっつも女の子見るとちょっかいばっかり……今後一切ああいうことをしないように、後で言い聞かせておきますから」
「言い聞かせたって、無駄だと思いますけれどもね」
「ルーン神父!」
「しっかし、女性に突然抱きついたり何だりと……そんな医者がいるだなんて、世も末ですね」
 自分が責められているわけでもないが、サルバーレはがっくりと項垂れてしまう。
 メイは思わず、二人のやり取りに微苦笑を浮かべていた。
 そうして、一言。
「でも、折角のお誘いですし、やっぱりお受けすることにします」
「そうですか! それは良かった……!」
「いいえ、あたしの方こそ、夜間にお邪魔することになりますから」
「遠慮なさることはありませんよ、メイさん。どうせサルバーレ神父は、チェスでもやってないと暇で暇で死んでしまうほどに暇でいらっしゃるんです。……そうしてまた負けて、その代償に、何かしら皆さんを巻き込んでわたわたなさる、と」
 だが、サルバーレとしては、ルーンの手厳しい言葉に反論することはできなかった。
 事実が事実であるだけに、どうにもやりにくくてたまらない。
「これだけの迷惑に付き合わされたんです。例えこのヘタレ神父に依頼料の請求をなさっても、誰からも文句は飛んで来ないでしょう」
「いえ、あたしはその、務めですから……」
「本当に謙虚でいらっしゃるんですね。どこかの神父さんとは、大違いですよ」
 ……おっと。
 そこで不意に、ルーンは一旦言葉を切った。
「さあメイさん、行きましょうか。こんなヘタレな神父と一緒に歩いていたら、日が暮れてもエルザードには帰れませんよ?」
「え、でも――、」
 話がまだ途中では……。
 言いかけて。
 メイも、ルーンと同じく、後ろの気配に気がついて押し黙った。
 そこには、サルバーレの教会の居候にして、事実上の彼の一番の補佐役でもあり近しい人物でもある、オンサがいたのだから。
「ルーン神父! あなた今、さり気なく酷いことおっしゃりませんでした?」
「私にはそのつもりはありませんよ? そう聞えたとしたら、あなたが自分自身をヘタレだと思っていらっしゃるということです」
 二人の気遣いには全く気がついていないサルバーレの苦情に、ルーンは短く答えを返すと、メイと共に列の前の方へと歩み出した。
 むすり、として取り残されたサルバーレへと、間も無く追いついて来たオンサが話しかけてくる。
「それで、夕食には、何人来るって?」
「私と、オンサさんと、それから、メイさん、アイラスさん、ロレンツォさん、あ、リパラーレ――は、黙っていても来るでしょう。あと、ルーン神父も時間があれば、キアラさんを連れていらっしゃるそうです」
「それじゃあ、とりあえず八人分くらい用意すれば、間に合うんだね? あたいも帰ったら、手伝うよ」
「それは……ありがとうございます」
 穏かな時が、流れていた。
 歩みの一番遅い神父に合わせて歩くオンサと二人で、五人の影を遠く追うようにして歩む。
 前の方からは、賑やかな話し声が、時折風に乗って聞えてくる。
 ――そうして、無言のままに歩み続けて、暫く。
 不意に。
 オンサがふわり、と、神父の胸に抱きついた。
 そこで二人の、足並みが止る。
 震える声で、小さく、オンサが呟いた。
「本当は少し……」
「ええ、」
「少し、怖かったんだ……」
「ええ……」
 小刻みに震える体を不器用に抱きしめながら、サルバーレは静かに瞳を閉ざした。
 オンサの髪を、そっと撫でる。
 リッチがオンサの目前に迫った、あの時。
「――私はどこまでも、無責任ですね」
 一番大切な義務を、責任を、放棄したようなもの。
 本当は、ほんの少し彼女の本音が、わかっていたような気がした。だが、だからといっても、ただただその場に振り回されて、慌てていることしかできなかった。
 だから、
 ……我侭な願いだとは、わかってる。けれど今の私には、こう言うことしか、できないから。
「お願いですから、あまり無茶なことは、なさらないでくださいよ……」
「馬鹿……!」
 穏やかな秋の日差しが、周囲を包み込んでいた。


Fine



 ■□ I caratteri. 〜登場人物  □■ ゜。。°† ゜。。°★ ゜。。°† ゜。。°★ ゜。
======================================================================

<PC>

★ アイラス・サーリアス
整理番号:1649 性別:男 年齢:19歳
職業:軽戦士

★ メイ
整理番号:1063 性別:女 年齢:13歳
職業:戦天使見習い

★ ロレンツォ・ディミケーレ
整理番号:2349 性別:男 年齢:60歳
職業:道化師

★ オンサ・パンテール
整理番号:0963 性別:女 年齢:16歳
職業:獣牙族の女戦士

★ ルーン・シードヴィル
整理番号:1364 性別:男 年齢:21歳
職業:神父


<NPC>

☆ サルバーレ・ヴァレンティーノ
性別:男 年齢:47歳 職業:エルフのヘタレ神父

☆ リパラーレ
性別:男 年齢:27歳 職業:似非医者



 ■□ Dalla scrivente. 〜ライター通信 □■ ゜。。°† ゜。。°★ ゜。。°† ゜。。
======================================================================

 まずは長々と、本当にお疲れ様でございました。
 今晩は、今宵はいかがお過ごしになっていますでしょうか。海月でございます。今回はご発注をくださりまして、本当にありがとうございました。
 ちなみに今回が、復帰後初めて(9月頃から12月まで、事情により少々休業していたのでございます)の、初めての依頼となりました。なりました、が、……、
 お、遅れてしまいました上に、意味も無くずるずると長くなってしまいまして、大変申し訳ございませ――(そのお約束は皆様が聞き飽きていらっしゃります)。
 ……復帰早々これでは、お先が真っ暗な予感も致しますが、話を先に進めさせていただきとう存じます。
 本当に申し訳ございませんけれども――。

 さて。
 冒頭にもちょっこりと書かせていただきましたが、今回なぜだか字数が阿呆みたいなことになってきましたので、少しだけ分割して納品させていただきました。
 第二楽章【Il secondo movimento】のみ、aとbとに分かれております。
 全体的にも長めとなっておりますが、適当にちょこりちょこりと、必要な部分だけ拾い読みでもしていただければ幸いでございます。

 今回ネタになった『医学典範』ですが、この世界に実在するものであったりします。アヴィケンナことイヴン=シーナー著の、アラビア語の書物だそうです。西洋でもラテン語に翻訳され、医学を志す者の必携書となったとか。その昔は西洋より中東の方が、遙かに文明的には進んでいたみたいです。
 ただ、ソーンにおける医学のレベルがどの程度なのかは、それこそ地域と人とによると思いますが、エルザードの場合は、異世界からの訪問者も多くいらっしゃるものですから、おそらくそのレベルは高いのではないなぁ、と、思います。あの似非医者が好んで使っているのはこの世界でいうところのドイツ語にあたりますので、ドイツが医学の最先端、イコール、割と近代的な知識もある、ということなのではないかなぁ、と、憶測してみたりするのでございます。現代ではレントゲンやらCTスキャンなどといった便利な機械もありますが、ソーンではその代わりに、魔法の力によるそれに似たものがあるのやも知れません。尤も、機械だってあったっておかしくないわけですが……機械と魔法と、都合の良い方が生き残るか、その両方が融合するかなのだと思います、ソーンの世界って。あたしはそういうのが、個人的には好きだったりするのですけれどもね。
 ので、ともあれ、今回の書物探索は、本気で医者の趣味の問題……にしか、ならないと思われます。多分医者の本棚には、どこぞの言語に翻訳された『医学典範』があるはずですし。しかし、やはり原書の写本とはかなり違ってくる部分があるし、興味もあるから――というのが、あの似非医者の言い訳になります。要するに不信者なんですね、あの人。翻訳された書物を読んでいると、原書の作者の意図が直接伝わってこないような気持ちになるようです。

 ……余計なことを長々と書きすぎました。


>アイラスさん
 実は、アイラスさんが復帰後に発注をくださった初めての方であったりします。いつもありがとうございます。
 プレイング、さり気なく酷くてありましたので、こっそり笑わせていただいてしまいました。確かに一番悪いのは、チェスに負けた神父なのですもの〜。しかも、質問攻めになさるって、もしかして、全てわかっていてやっていらっしゃりません? という(笑)。あの神父が何も知らないでこういうことを言っているって、アイラス君ならわかっていらっしゃりそうですので。

>メイさん
 お久しぶりにお目にかかります。今回も、あの似非医者がご迷惑ばかりおかけしてしまいまして申し訳ございませんでした(苦笑)。
 プレイング、ざくざく痛い所を突かれてしまいまして、非常に面白かったのでございます。だってあのヘタレ神父、確かに神父なのに、そういう意味では全く持って仕事放棄してるんですもの〜(笑)。
 ……駄目なNPCしかいなくて、メイさんには申し訳ないのでございます(苦笑)。

>ロレンツォさん
 お初にお目にかかります。ロレンツォ! とか聞きまして、激しくときめいたのは内緒にしておくのでございます……(爆)。
 いぢめキャラでいらっしゃる〜、とのことで、こっそりわけのわからない陰謀に加担させてしまいました(汗)。すみません〜(逃)。
 ロレンツォさんとあの似非医者は、多分気が会うお友達〜の、一歩手前くらいの関係であると思います。どこで出会ったのかは存じておりませんが(駄目)、会えば絶対一緒になって何かやらかしていらっしゃりそうです……。

>オンサさん
 随分と色々お待たせしてしまいまして、申し訳なかったのでございます〜(汗)。やっと、復帰となりました。
 最近ふと気が付いたのですが、全面的に神父に優しい行動をとってくださるのって、オンサさんしかいないんじゃあ、という(爆)。ですので、神父としても非常にオンサさんのことは頼りにしているに違いないのです。と申しますかもう……お二人さん、どこまで進みました? という感じがちらりと――(けふけふ)。

>ルーン神父
 今回のプレイングも本当に面白かったのでございます(笑)。だって、だってどうしてそんな丁寧な口調で酷いことばかり……という(笑)。
 シーピーちゃんは、今回は、最初は一緒の予定でしたが、教会に置いてきていることになってしまっています。いくらなんでもアンデットが相手ですと、危険かなぁ、とも思いましたし、キアラさんと一緒の方が、教会も安全なのではないかなぁと思いまして……。


 それでは、今回はこの辺で失礼致します。
 何かなさりましたら、テラコン等より遠慮なくご連絡くださいまし。
 宜しければ、またどこかでお会いできますことを祈りつつ――。


08 gennaio 2005
Grazie per la vostra lettura !
Lina Umizuki