<PCクエストノベル(1人)>
刻まれた記憶 〜アクアーネ村〜
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【助力探求者】
なし
【その他登場人物】
発掘隊の人々
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事の発端は、アクアーネ村…水の豊かなことで知られるこの村に、ひとつの新たな遺跡が発見された事だった。
その情報がもたさられてそれ程時間が経つ前に、エルザードの学者や学生たちで結成された遺跡発掘隊…好事家たちがパトロンともなっているため、遺跡発掘ギルドとも呼ばれる彼らは新たな発見に目をきらきら…あるいはぎらぎらと輝かせながら突進し、そしてあっさりと敗れ去った。
原因は未知の力。遥か過去の遺物と分かっているその遺跡の入り口らしき部分は今でもその力が働いているのか、ぴくりとも開く様子が無く、街の高名な魔術師を伴って再びやって来ても、その者は『力の種類が違う』と言う謎の言葉を残しさっさと帰ってしまい。
発掘隊長:「こ、こうなれば…」
発掘隊員:「どうするんですか、隊長?」
発掘隊長:「う、うむ。そりゃもちろん、懸賞をかけるしかないだろうな。アクアーネの遺跡管理組合にも頼まねばなるまい」
発掘隊員:「痛い出費ですねぇ」
発掘隊長:「なに。アクアーネ村側の方は新たな観光地が出来れば文句はないだろうし。発掘品を買い上げてもらえば懸賞金くらい楽にカバーできるさ」
発掘隊員:「皮算用にならなければいいんですけどね…」
その話が決まってから、更に数日後。
エルザードの広場や人々が集まる場所に、遺跡発掘ギルドから、アクアーネ村で発見された遺跡の入り口を開く事が出来る者を募集する、といった内容の紙が張り出された。
内容は、太古のものと思われる遺跡が発見されたが、入り口が特殊な力によって閉ざされており、それは魔法とは異質な力らしいと言う事、この入り口を開いた者にはアクアーネ村宿泊フリーパス一年分、及び報奨金を支払う…そう言った内容だった。
???:「――ほほう。俺様に発掘されたがってる遺跡があるというわけだな」
お使いの途中で立ち寄った折にそんな張り紙を発見した男、オーマ・シュヴァルツが、買い物籠を持った腕を組みながらきらりん、とその目を輝かせた。
アクアーネ村と言えば水の流れる村としても名高い観光地。水路を走るゴンドラも人気と言う話だ。
ましてやそこの村で宿泊フリーパスとくれば――。
オーマ:「ふっふっふっふっふっふっ」
組んでいた腕をちょいと上げて顎を撫でながら、褒賞を貰った時の事を思い浮かべるオーマ。その様子を見て周囲の者が引きまくっている事など気にも留めず、フリーパスが手に入ればああしてこうして、と、賞金はどうやって使おうか、等と張り紙の前でぶつぶつ呟きつつ時間を過ごし、はっと気付いた時には、あたりは真っ暗になっていた。
*****
オーマ:「つーわけで遺跡を調べたいんだが」
発掘隊員:「は……はい」
次の日。
連絡先へとやってきたオーマに、受付に座っていた若者がひきつった顔でぴょこんと立ち上がった。
発掘隊員:「場所はアクアーネ村の本隊が守っています。何しろ新たな遺跡から何が出てくるか分かりませんから。…開かないんですけどね」
これをどうぞ、と手渡したのは、急いで作ったものらしい小さな紙切れで、そこに『参加証』と日付、それからギルド印らしきものが書いてあり。
発掘隊員:「遺跡の中身は我々ギルドメンバーが調べ尽くすまでは持ち出し厳禁です。その辺りは一応発見者の権利と言う事で了承して下さいね。その代わり報奨金が出ますから」
オーマ:「おう、そりゃ構わねえが。これを持っていけばいいんだな?」
発掘隊員:「はい。現地でも同じものを配っていますから、申し出はここで無くても構いませんけど……あの」
オーマ:「うん?どうした?」
発掘隊員:「……大丈夫ですか、その顔」
おずおずと、気になっている事をようやく口にした隊員の視線の先を感じつつ、オーマが苦笑いしてくしゃりと髪を掻き上げる。
オーマ:「まあ、なんつーか、――気にするな…痛てて」
顔にべたべたと判草膏を貼り、それでも隠し切れない爪痕に、顔の表情が動いた事で痛みが走ったか顔を顰めつつ。
オーマ:「じゃあ行って来るぜ。報告を楽しみにな」
ひらっと手を振り、その広い背を向けて出て行った。
……慌てて繕ったのがありありと分かる、袈裟懸けに切り裂かれた服で。
*****
オーマ:「………」
1人、遺跡の入り口にいるオーマが何か考え込んで、外で待っている人々の元へ戻っていく。
発掘隊長:「む?どうだ、何か分かったのか…というか、出来そうか?」
オーマ:「あ?ああ、そりゃ問題ねえ。ひとつ聞きたい事があってな…ありゃあ、いつの時代のか分かるか?」
そんな事は些事だと言うように、オーマがあっさりと答えるとざわざわと数人の人々が顔を見合わせ、
発掘隊員:「数千年は前の物だと…古代様式とも違いますが、埋もれていた部分の地層から見れば、そうですね…断定は出来ませんが、7〜9千年程度だと思われます」
オーマ:「……そうか」
それだけ聞いてまたくるりと背を向けるオーマ。それから一歩進みかけてふと立ち止まると首だけ振り返り、
オーマ:「頼みがあるんだが、入り口を開けて少しの間、中を見させてもらえねえか?」
発掘隊長:「ふーむ…まあいいだろう。見るだけならな」
その言葉を聞いて安心したのか、オーマが再び中へと潜って行く。
そして、入り口にある封印のしるしをじぃっと見詰めた。
オーマ:「9はねえ。…どんなに古くても8千年だ」
ぽつりと呟いて、そのしるしに手をぴたりと付ける。懐かしい形だ、と思いながら。
それは、オーマたちの住んでいた異世界で使われていたもの。具現の力によって作られた封印だった。
――がこん。
あっさりと扉は開錠し、そんな古代に作られたとは思えない滑らかさで開いていく。
中は、ひんやりとした空気と、淡い光に満ちていた。何気なく声を出すのも憚られるような、そんな空気が遺跡の中を包んでいる。
オーマ:「ここは――」
通路を進んで開けた場所に出た途端、オーマが絶句する。
誰かが作り出したのだろう、きちんと切り取られた四角い部屋には、いたるところに墓標が建てられていた。
その墓に供えられた手向けの花は、とうに風化してしまっているが、僅かな香りは残っているような気がする。
異世界での、葬儀の風習にあった道具の跡や、この世界と違う形に刻まれた墓石に、思わず息を呑む。
懐かしいとさえ思える文字は、土の中にあったためかしっかりと残っていて、オーマにも読み取る事が出来た。…自分と同じ、ヴァンサーたちの墓なのだと。
部屋はここで終わりではない。何かに導かれるようにふらふらと奥へ進んだオーマが、目をゆっくりと見開いた。
――光によって浮き上がる、精緻な筆遣いと、壁一面にびっしりと書かれた文字。
過去の映像よりも生々しく脳に刻まれるそれは、ウォズとヴァンサーとの戦いを描いた壁画だった。
*****
オーマ:「おう、開いたぞー」
発掘隊長:「おおっ、そうかっ!!流石だな」
喜色満面の笑みを浮かべる男に、だが、ちょっと困った顔をしたオーマがぽりぽりと頬を掻き、
オーマ:「けど、持ち出せるモンねーぞ?」
ぽつりと呟く。
オーマ:「まあ…壁画は結構素敵なシロモンだったからよ、観光にはいいかもしれねえが」
発掘隊長:「な、なにっ?本当か!?」
どたどたと駆け出す発掘隊の後に付いてぶらぶらと行くオーマ。
――遺跡が墓地と知った発掘隊は、それでもめげずに色々と調べていた。特にオーマが言うように、奥の部屋にあった壁画には息を呑み、実に嬉しそうに細部まで見入っていたが。
発掘隊長:「む、むむぅ…ここまで保存の良い壁画も中々無い。が、惜しいな。何か刻まれていたのだろうが、文字らしき部分の方は損傷が激しいようだ」
オーマ:「そうみたいだな」
勿体無いなあ、と言いながら墓地へと戻る。
発掘隊員:「うーん。遺品とか骨とか、あるいはミイラでも残っていればもっと研究出来たんですけどね。あ、後で報奨金とチケットを送りますので、住所と名前教えてもらえます?」
オーマ:「おう、構わねえぜ。でも悪いなぁ、見入りの少ない遺跡だっつうのに貰っちまって」
発掘隊員:「何を言うんですか。あの壁画だけでも十分価値はありますよ。――でもこの人たち、どうして亡くなっちゃったんでしょうね。あの壁画に書かれていたような悪魔じみたものにやられちゃったんでしょうか」
風習や様式は違っても、墓と言うものは分かるらしい。これも新しい様式だと呟きつつ写しを取っていた若者が、オーマを見送って、すぐまた遺跡の中へ入って行った。
オーマ:「…まあ。こんなものか」
参加証に新たに書き加えられた約束のサインをポケットへ捻じ込むと、ちらとアクアーネ村の酒場に名残惜しげな顔を向けつつ、ふう、と溜息を吐いて、一路エルザードへの道を辿って行った。
…何しろ、家に帰るまでは小遣いすらお預けされてしまっているのだから仕方ない。今日こそは夕食までに戻って来いとの厳命も受けているし。
帰り道、ぶらぶら歩きながら、オーマは自分が破壊した壁画の文字の内容を思い浮かべていた。
――異端殲滅戦争が起こっていた事。
そこで、自分たちには理解出来ない、巨大な力の暴走が起こり、その折に異界との接点が開いてしまったらしく、気付けば凶獣たるウォズと共にこの世界へ来ていたと言う事。異端狩りもまた、その力の暴走により終結の時を迎えていたと言うのに、戻り方も分からないままここに来て更に凶暴になったウォズに仲間たちが次々と倒れて行った事…。
そして、壁画に描いた人物が現れ、ウォズを封印した事、等。
オーマ:「やっぱ、あれはあいつだよなぁ」
その姿や、ウォズと対峙した際に使っていたらしい力の具合を見れば、オーマの知る人物のように思えるのだが…確証は無い。
そしてまた、どうしてあの遺跡を封印してしまったのかも謎だった。あの場に並んでいた墓を見るに、当時運ばれて来たヴァンサーたちのほとんどがそこで亡くなっているように思え、そうなると封印する者さえもがいなくなってしまう。
オーマ:「つーことは…あれもあいつか」
全ての犠牲者をあのようにきちんと埋葬し、入り口に封印を施して立ち去った、その後姿まで想像出来てしまい。
何となくだが、あの場を荒らされないように、その者が封じたように思えてオーマが小さく笑った。
何故なら。
発掘隊員:「隊長!この墓地は、どうやっても掘れません!そ、それにこの遺跡の品は、地面に縫い付けてあるみたいで、動かないです!」
発掘隊長:「なにいっ!?古代人の遺品や遺骨も手に入らないのか!?」
――オーマもまた、同じような事をしていたからだった。
-END-
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