<PCクエストノベル(4人)>
酒と男と雪景色
白銀の世界が広がっていた。灰色の空からはゆっくりと、幽かな白い結晶体が舞い降りている。
のどかなここハルフ村は美しい冬景色に染まっていた。
深々と降る雪が神秘的だ。
「おーし!美味ぇ酒探すぞコラー!」
「こんっ」
ケイシス・パールと焔がその神秘的な風景に似合わない大きな声で意気揚々と叫んだ。
”ガッツポーズ”を天に仰いで、やる気マンマンだ。
「楽しくなりそうですね」
微笑みながら後ろに続くアイラス・サーリアスは穏やかな口調で言った。
「酒漁りの後は温泉だな。今日は満喫させてもらうぜ。しっかし冬のハルフは綺麗だなァ」
あたりを見渡しながらそう言ったのはオーマ・シュヴァルツだ。何度か訪れたことがあるらしい。
「よし、んじゃあ俺は先にブランデーでも探してくるかナ♪またあとで合流しようネ☆」
軽い足取りでどんどん先に行こうとするのはルーン・ルン。3人に元気よく手を振りながら段々遠くへと行ってしまう。
アイラス・ケイシス(+焔)・オーマ・ルーンの4人(+1匹)は、ハルフ村に温泉旅行に来ていた。
交流を深めながら、美味しい酒を探すという目的も兼ねて。
ルーンに遅れをとりながらもその後を追う3人(+一匹)。
後ろに続く足跡が、白のやわらかさを物語っていた。
様々な色とりどりの看板を目視しながらアイラスが口を開いた。
「さて、これからどうしましょうか。オーマさん、ハルフには3度目なんですよね?何処かお勧めの酒屋さんか何かをご存知では?」
「さぁーてねえ。前は別に酒を買いにココ来たわけじゃねぇからな。ま、皆で探せばなんとかなるだろ」
にぃっと笑ってオーマが答えた。
「おい、ルーンのヤツ行っちまったぞ。いいのか?っていうかアイツ、単独行動で平気かよ?」
「こん?」
ケイシスがルーンが消えた方角を指差してアイラスとオーマに聞いた。
「まあ、なんとかなるだろ」
「なんとかなるでしょう」
「…なんとかなるか!」
「…こんこん」
3人(+1匹)の結論は同じだった。
その言葉を皮切りに、歩く速度を落とし、付近の看板を吟味し始めた。
武器屋・防具屋・道具屋などは目に付くものの、酒屋はなかなか見当たらない。
「うーん、なかなか見当たりませんね」
アイラスが多少疲労感を含んだ声を漏らす。
「おっ」
アイラスとケイシスが落胆しているとき、オーマが声を弾ませた。
「あれじゃねーか?酒屋」
オーマのゴツゴツとした指の指す方角には、古びたセピア色の看板があった。
看板の端のほうにLIQUORとかかれている。まちがいなさそうだ。
「おおー!やったぜー!入ろう入ろう!」
「こんっ♪」
嬉しそうに尻尾を振る焔、尻尾はないけど嬉しそうなケイシスが一足早く店の中へと姿を消す。
「キレのあるお酒があると嬉しいですね」
呟いてからアイラス・オーマもまた店の中へと姿を消した。
一方その頃ルーン。
「み〜〜つけタッ♪」
単独行動を楽しんでいたルーンはアイラス達とは別の場所の酒屋を見つけ、すでに試飲などを嗜んでいた。
彼が手にしている小振りのワイングラスにはブランデーが入っていた。
手に持つソレを、まず鼻に近づけ香りを愉しみ、そしてグラスの口に自らの唇を近づけグラスを傾ける。
ノドに注ぎ込まれていくブランデーはしなやかにかがやきながらルーンに吸収されていく。
一口ブランデーを飲むだけの仕草でも、それはとても上品で中性的な美しさがあった。
「フゥ〜…や〜っぱお酒はブランデーに限るヨネ!」
舌でペロりと唇を舐めて店主に対してかそれともただの独り言か、ルーンが笑って言った。
「…は、はぁ。気に入っていただけて光栄です。それで、その…お買い上げでしょうか?」
あまりに美味しそうに飲むのでしばらく見入っていた店主がはっとしてルーンに尋ねた。
ルーンは1秒立たないうちに
「うんッ♪」
と年齢にそぐわない幼げな笑顔でそう答える、ブランデーを得たルーンは店を後にした。
「コラ、ダメだろ焔、お前酒飲むと所構わず火ぃだすんだから」
「こん…」
飲酒用の酒に顔を近づけようとした焔を注意するケイシス。思わず持っていた試飲用グラスを焔から遠ざけた。
「なかなかイイ品揃えじゃねぇか。なあおやっさん、ここに世にも腹黒イロモノな親父ハートズキュンな料理にも使える酒置いてねぇか?」
まくしたてるような早口でおぞましい注文を店主に向けて発するオーマ。
「は、はいぃ!?な、なんですかソレ…りょ、料理酒ならそちらにありますが」
店主が手のひらを返して奥のほうを指した。
「おーサンキュー。あ、あとな、女がすきそうな味の地酒は置いてあるか?俺のコレに持って帰ってやろうと思ってな」
小指をぴっとたてて口の端を吊り上げてボソリとオーマが言った。
今度の注文は、先ほどのよりもずいぶんと普通だが店主の顔が曇った。
「そうですね…女性に喜ばれるような甘口で控えめな地酒は当店ではあまり扱ってませんね。御所望でしたらここから200メートル程先のお店にも行ってみてはいかがでしょう?そちらはココと違い女性的なお酒を多く取り扱っていたと存じますが」
店主は丁寧にも他店のことも教えてくれた。オーマはそれを聞いて目を輝かせた。
「そうかそれはいい。わざわざすまねぇな」
オーマは店主に向かって頭を下げ、先ほど紹介してもらった料理酒コーナーへと足を運んだ。
オーマが料理酒に夢中になっている間、アイラスとケイシスは日本酒の銘柄を探していた。
「見ろよ『美少年』だとさ、変な名前だよな!」
ケイシスが日本酒の瓶を握ってゲラゲラと笑い出し、アイラスもそれを見て苦笑した。
「うーん、僕はもう少し辛口でキレのあるほうが好きですね」
繊細な容姿のアイラスの口から意外な答えが返ってきたのでケイシスは目を丸くした。
「そうなのか?おまえ見た目の割りに渋いんだな」
「こん」
焔も首をかしげている。
「とはいえ量は飲みませんよ?実は…」
そこまで言った後アイラスは言葉を途切れさせた。不思議に思ったケイシスが顔を覗き込む。
「お、おいアイラス、実は…なんだってんだ?」
「こん?」
「…い、いえ何でもありませんよ。まあ何と言うか酒癖のほうがあまりよろしくないので」
冷や汗を浮かべながら目を逸らすアイラス。
「ふーんそうなのか。別に気にすることないと思うけどなー。」
「ま、まあ気にしないでください。ところでケイシスさんはどういったお酒を?」
「ん?俺か?俺はそうだなー。やっぱ日本酒だな。まあ他にも店あるみてぇだしそっちでも探してみっかな。ま、とりあえずコレもお買い上げっつーことで」
素早い切り替えしですっかりアイラスの酒癖の悪さの話題を忘れたケイシスは美少年という名の日本酒を小脇に挟んで言った。
「買うんですかソレ。」
口の端を吊り上げながらアイラスが言った。
「面白れー名前だし。アイラスは買わなくていいのかよ?俺はこのあと違う店にも行く予定だけどよ」
「ん?僕はまあ辛口の日本酒さえあれば何でも。買ったら旅館の方に先に行ってますよ」
「そうか、じゃまたあとでな」
そういうとケイシスはカウンターへ美少年を連れて行k…いや持って行き、会計を済ませて店を後にした。
「ふう、僕はいかがしましょうかね…」
アイラスは眼鏡越しに店内の酒を見渡したところ
「おおおおおおおおおお!こりゃいいぜ!」
という声が聞こえてきた。オーマの声だ。
料理酒コーナーにいたオーマに駆け寄るアイラス。オーマの手には試飲用のグラスがあり、その中には真っ黒な色をした謎の液体が揺らいでいた。
「な、なんですかソレ」
見るからに怪しいソレを指差してアイラスが尋ねた。
「ん?料理酒だ見れば分かるだろ」
「わかりません」
「おいおい眼鏡あってねぇんじゃねぇかい、アイラスさんよぉ」
「いたって普通です」
「ほーそうかいそうかい瀬戸内海」
「あの…親父ギャグはやめてください」
傍から見れば漫才をしているかのような二人の掛け合いだ。
「ところで、ソレ、どんな味なんですか?」
「ん?飲んでみるか?」
オーマが試飲グラスいっぱいに注ぎだした。何故か酒のクセに粘り気があるような、ドロドロしているような不思議な流れ方だった。
「な、なんでそんなゲル状なんですか?や、やっぱりいいです飲みたくないです。そもそも料理酒ってそんなに飲むものじゃないでしょう」
「遠慮するな、俺のおごりだ」
「コレ試飲じゃないですか!おごりも何もな…っ」
そこまで言ったアイラスの口をふさぐかのようにオーマが試飲グラスを押し付けた。
「◎×▽■☆!○※〒?〜〜〜〜〜〜〜〜ΣΣ(゚д゚lll)!?!?」
どんな味だったかはご想像にお任せします(任せるな)。
さて、こちらはルーン。
ブランデーを買ったのでご機嫌な様子だ。まだ買うつもりらしく、辺りの店をきょろきょろしながら見ている。
「あっとは〜地酒かっナー♪美味しいお酒があるといいナ〜〜♪あ!」
と立ち止まった視線の先には新しく発見した酒屋。スキップしながら入っていく。
カランコロンとドアベルが鳴り響いた。
「いらっしゃいませ」
店員らしい女性が挨拶した。
「あれ?なんだルーンお前も来たのかよ」
入り口のすぐそばでケイシスが立っていた。
「あ、ケイちゃんに焔ンじゃないカ〜♪」
「やめろよそのあだ名」
「こんっ!」
突然の命名に1人と1匹はやや不満そうだ。
「あ、ごめんネ、ケイしぃにほむほむ。」
「あだ名変わってんぞ」
「こん・・・」
安定しない名前に少々あきれた様子。
「ところでケイくんは何をしてるノ?俺は地酒買いに来たんだけど〜♪ブランデーも買ったんだけどネッ」
「いや、酒屋来て何も買わねぇで何するってんだよ、俺も日本酒買いにきた。コレで二本目だ」
お互いの収穫物を見せ合いっこしながら会話は進んでいく。ケイシスのほうは既に買う予定のものを握っていた。
「ん?なんていうお酒?もう見つかったノ?」
「コレか?『男山』だ。んでこっちが『美少年』」
「…なんか趣味疑われそうな名前だヨ、ケイっち」
「うるせー」
「こん」
軽くちょっと突き刺さりそうな言葉を吐くルーンに焔は短く吼えた。
「さて、俺はこれで満足したし旅館にいってるかな。多分アイラスやオーマもそろそろ着いてる頃だ。お前も早く来いよ」
「うンっすぐ行くからネ!じゃねーケイケイにホームラン♪」
「…(もはや原型留めてねぇじゃねぇかι)」
「…こん…」
ケイシスは何か言いたそうな雰囲気を残しながらもルーンに背を向け、皆の居る所へと向かっていった。
残されたルーンは、またも試飲可能な商品を上品に吟味し、その度に美味しそうな反応を返すのであった。
一足早く旅館に到着したアイラスとオーマ。各々の手には、辛口の日本酒に、女性が好むと思われる甘口の酒、それに怪しい料理酒だ。
「あれ?まだ二人は来てないみたいですね」
予約していた部屋に荷物を置き、あたりを見渡すアイラス。二人の荷物やら来た形跡やらはどこにもなかった。
「まだ買い物してんじゃねぇか?どこまで買いに行ったんだか」
オーマは多少疲れた様子で床によっこらせと落ち着いた。瞬間後には我が家の様にくつろぎだした。
「この後どうします?」
「んあ?皆そろったら温泉でも行くか?飯はその後でイイと思うぜ」
「そうですね。そうしますか。じゃあ僕石鹸とか色々もらってきますね」
「あーありがとさん」
アイラスは部屋を後にし、受付へと向かった。
そのとき、入り口の扉が開いた。
「やっとついたぜ〜!お、アイラス、やっぱ先に来てたのか」
ケイシスと焔だ。
「ケイシスさん。焔も。お買い物ご苦労様です。ルーンさんが揃ったらこのあと温泉ですよ」
「そうなのか!ルーンのヤツはもうちょっとかかりそうだったぜ?ま、そのうち来るだろうけどよ。んじゃ部屋に行くかな」
「こんっ♪」
1人と一匹の背中を見送りアイラスは受付から4人分の石鹸やタオルなどを受け取った。
「ふぅ、それにしてもルーンさん遅いですね」
荷物を両手一杯に持ちながらアイラスが部屋に帰ろうとしたそのとき、扉が開きルーンが現れた。
「ルーンさん!遅かったですね、あれっきり姿が見えないもんだから心配しましたよ」
「アイちゃん!(あだ名)ごめんネー!色々買ってたら遅くなっちゃってサ!」
入ってくるなり軽いテンションで寄って来るルーン。
アイラスはルーンのネーミングセンスにたじたじだ。
「…(アイちゃん)」
「そういえばアイラッシィ、皆は?もう部屋にいるノ?俺ビリ?」
自分でつけたあだ名を瞬間的に変換してしまう(というより忘れる?)才能はすごいとアイラスは感心する。
それはおいておいて、アイラスはルーン以外のメンバーが揃っている事を伝える。
「はい、皆もう部屋にいますよ。ルーンさんが揃ったら温泉に行くことになってるんです。すぐ入るんで仕度しておいてくださいね」
「えっ、温泉?皆で一緒ニ?」
「はい」
それを聞いたルーンの笑顔がどことなくいつもよりも硬い。
しばしの沈黙の後、かぶりを振った。
「…う〜〜ん俺はイイや!3人で仲良く入っててヨ!」
ルーンの意外な言葉に驚いたアイラスは聞きなおしてみる。
「えっ?せっかく温泉に来たのに入らないんですか?」
「いや、まだ色々することあるしサ♪それよりホラ、俺こんなにお酒買っちゃっタ♪」
買ったばかりのブランデーや地酒をたっぷりと持って見せ付けるルーン。
「そ、そうなのですか?こればいいのに…」
「イイってイイって。後から入ル☆」
「…?」
なんとなくはぐらかせた感はあるものの特に強制するようなことでもないのでそのままにしておくことにした。
「おおー!露天風呂だーー!こりゃあいいぜー!」
「こんこん♪」
ルーンを除く3人(+一匹)は風呂場に来ていた。様々な種類の湯があったが、一番奥の扉を開けると、白銀の絶景を見渡せる露天風呂になっていた。
「いい眺めですね」
めがねをはずしているため、少し目を細めて雪を見ながらアイラスが笑った。
早速湯に浸かる三人。湯気があたりを取り巻く。
「イイ湯だな〜っと」
上機嫌なオーマは雪を眺めながら歌っている
「ココに酒でもありゃあ最高だな!」
「こん♪」
ケイシスと焔はお互いにお湯をかけあいっこしている。
「ルーンさんもこれば良かったですのに…」
「なんでアイツ来ないんだ?」
「さァ…何かすることがあるみたいな事言ってましたけど」
「もしかして恥ずかしがってんじゃねぇか?」
「こん?」
「お〜〜〜〜〜い皆〜〜♪」
3人がルーンのことを口に出しているとルーンが外壁からよじのぼって顔を出した。
無邪気に手を振っている。
「うわ、ルーン!お前そんなところでなにやってんだよ!」
「こんっ!」
ケイシスと焔はルーンを見て仰天している。
「ん〜?皆にお届けモノ〜〜♪ほら、温泉にはお酒はつき物でショっ!っつーわけでホラ、お酒、適当に入れてきたんだけどサ♪」
お盆に徳利を並べてルーンが見せた。
「気が利きますねルーンさん」
アイラスが微笑んだ。
オーマは腰にタオルを巻いて、ルーンの持つソレを受け取りにいく。
「わざわざ酒届けるんだったらお前も入ればいいのに」
お盆を受け取って呟いた。
「いいってば♪はい、皆で楽しんでね!俺はたまに遊びに来るから」
「あ、あぁ」
ルーンはそういうと壁の向こうへと姿を消した。
「ま、いいや、皆飲もうぜー」
「お〜〜!」
「こんこん!」
「あまり量を飲むとアレなんで僕は少しでいいですけどね」
お盆を湯に浮かべて、3人はお猪口をてにした。
雪が、ふわりふわりと舞い落ちている。
遠くには白く染まった山が見える。
灯篭の明かりが、雪の白さに反射して尚一層強く輝いている。
湯気と、3人の声が夜闇に溶け、これ以上ないくらい幸せな温泉気分を味わった…はずだった。
「ぶはっなんだこりゃ!!!」
「おぇっ!!」
「ひぃっ」
3人の嗚咽交じりの声が響いた。
お猪口の中の物を飲んで初めて気がついた。不味い、とにかく不味い。
「ってこれ、オーマさんの買った料理酒と同じ味と感触ですよ!色は…違いますけど」
アイラスはすでにあの味と感触を経験済みだ。いまだに忘れられない味らしい(いろんな意味で)。
「ル、ルーンのヤツ俺をネタの標的にしやがったな…仕返しにあの料理酒使った料理食わせてやらぁ」
「口の中がドロドロする・・・」
ケイシスが呆然としてお猪口をお盆に返した。焔は、そんなケイシスの様子を見ながらお猪口に近づき、そして…
ペロリ。
次の瞬間、焔の口から巨大な火柱が上がった。
「わあああああ焔ーー!!しまった、油断した!」
「ケイシスっ!」
「こーーーーーーーーん」
「た、大変です!だ、誰かーーー!!」
白い雪と、黒い空と、赤い炎。
絵的にもかなりミスマッチな光景だ。
3人の慌てふためく声をこっそり聞いていたルーンは堪え笑いしている。
「人生楽あれば苦あり、だネ♪」
「ルーーーーン!出て来いーーー!!!」
オーマの声がこだました。
そんなこんなで4人と1匹の夜は更けていくのであった。
fin
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