<PCクエストノベル(5人)>


呪われた日々 〜封印の塔〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1353/葉子・S・ミルノルソルン/悪魔業+紅茶屋バイト  】
【1543/オウリス        /個人配達業       】
【1649/アイラス・サーリアス  /フィズィクル・アディプト】
【1962/ティアリス・ガイラスト /王女兼剣士       】
【2237/月杜・灰依音      /月詠          】

【助力探求者】
なし

【その他登場人物】
ケルノイエス・エーヴォ

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 世の中には、呪われた品、という物が存在する。
 それは、特定の人物を呪うために作り上げたものだったり、不特定多数を不幸にするためだったり、単にその品への想いが強すぎて周りの者を巻き込んで不幸にしてしまうものだったりと様々な理由があるが、それらは一部の収集家か研究者でもなければ好んで手に入れようとはしない。
 だが、そう言った品はひとつところに留まるのを好まないのか、往々にして人の手を渡り、伝染病のように辺りへ不幸をふりまいて行く。
 封印の塔は、そういった呪いの品を封じるためだけに作られた建物だった。…そう、言われている。誰が作ったのか、どういった魔法制御技術が使われたのかは未だに謎のままだったが。
 とは言え、塔の成り立ちは知らずとも使う事は出来る。
ケルノ:「………」
 塔の管理者として、長い間この塔の中で暮らしている青年、ケルノイエス・エーヴォがふと読みふけっていた本からゆっくりと顔を上げた。
 今日もまた、『客』が訪れそうな気がする。不思議と、その予感は外れる事が無かった。

*****

灰依音:「――呪いが?」
ティアリス:「そう、何だか能力のほとんどを吸われてしまったみたいなの」
 柔らかな匂いが漂う紅茶屋の中。その心地良さを誘う香りとは対照的に、店内の飾りは悪趣味と言って良いものばかりでごたごたと飾り付けられている。それでも常連は多く、今日もまた賑やかな声と音が行き交っていた。
ティアリス:「だからほら、いつもは気持ち良さそうに浮いてるのに今日はそれもないでしょ?」
 久しぶりにこの店へ訪れた月杜灰依音が、サングラス越しに目の前の少女――ティアリス・ガイラストがこっそりと指し示した人物に目をやった。
葉子:「…………」
 能力だけでなく、筋力まで奪われたのかと思うような力のない足取りで、へろへろとメニューを出したり注文の品を運ぶ葉子・S・ミルノルソルンの姿が、そこにあった。
灰依音:「ふうん…それは大変だろうに」
ティアリス:「まあねえ。でもそんな簡単に解けるものでもないみたい。あんまり長く続いて、彼の気力まで磨り減って行っちゃったらちょっと詰まらないけど」
葉子:「ハァイお待ちど〜サン、ごゆっくりドーゾー」
 自分が話題になっているとは露ほども考えていないらしい葉子をちらと見、
灰依音:「なるほど」
 灰依音がぽつりとそう呟き、
灰依音:「それなら…ふむ」
 一瞬だけ何か楽しい事を思いついたかのように目を輝かせたが、それもサングラスの奥のこと。ティアリスも、事が起こるまでは灰依音が何を考えていたのか全く気づく事が無かった。
 やがて、騒がしい店も一段落付き、テーブル席に残るのは灰依音とティアリスだけになり、そこでようやく休憩に入ったか葉子が楽しげに笑顔を見せつつ、手に1人分のケーキセットを持って2人の席にやって来た。
葉子:「いらっしゃーいマセ。あー疲れた、チョット休憩ー」
 そのままどさりと椅子に身を投げ出し、本当に疲れているらしくふうっと溜息を吐く。
灰依音:「客の前で店員が休憩を取っても良いのか?」
葉子:「そりゃモウ。うちはフレンドリィな店だカラネ」
 にっと笑い、ずず…とお茶を啜る葉子。そんな様子を見つつ、
灰依音:「呪いにかかってるんだって?」
 緩やかに笑みを見せながら、さり気なく身を乗り出した。
葉子:「ソーなの。もぉね、空は飛べネーわゲームに勝てネーわで散々。呪われんのは話の中だけでジューブンでしょ」
 何よりも宙に浮いたままの昼寝が出来ないと、本気で嘆きつつ愚痴る葉子に、その時灰依音がにっと口元だけ笑んで、
灰依音:「それなら、呪いをなんとかしてやろうか」
 隣で話を聞いていたティアリスまでがちょっと目を見開くような言葉を投げかけた。
葉子:「ホント!?――や、まあ、解いてクレルんなら喜んで…と言いたいトコだけど」
灰依音:「なら話は早い。その様子なら動くのも大変だろうし、ここに入って寝て待つといい」
 ごごごごごご、と紅茶屋の空間が不気味なうねりを見せつつ、ぱくりとその黒い口を開けていく。
葉子:「…入ンの?」
灰依音:「入るの」
 にっこり、と…邪気の無い笑みを浮かべる灰依音。――ただ、その目はサングラス越しで、どんな表情を浮かべているのか葉子とティアリスの2人からは見えなかった。

*****

オウリス:「たーりらーりらったら〜〜けーきちょ〜だーい」
 冬晴れの良い天気に誘われたか、眠そうな目でぽてぽてと歩いていたオウリスが鼻歌交じりに紅茶屋に顔を出したその時、見覚えのある足が歪んだ空間の中へと消えて行った。…そのまま、開いていた空間が何事もなかったかのように閉じていく。
オウリス:「ん〜?」
ティアリス:「あら、オウリスいらっしゃい。ケーキならここにあるわよ」
 にこにこと笑いつつティアリスが指差したのは、先程葉子が自分のために持って来ていたケーキ。…尤もまだ手も付けられておらず、そのまま放置して痛むよりは、と考えたものだろう。
オウリス:「客よりも先にメニューが出てるなんて、やるね〜」
 ぽてぽて。
 すとんと腰を降ろし、何のためらいも無くケーキをぱくぱくと口に運ぶオウリスに、灰依音と目を見合わせたティアリスがくすりと笑った。
灰依音:「――さて。それでは行くかな」
ティアリス:「葉子ちゃんの呪いを解きに?」
 かたりと立ち上がった灰依音へ訊ねたティアリス。だが、灰依音はにこりと笑ってゆるりと首を振り、
灰依音:「呪いがかけられた葉子を『どうにか』しに、封印の塔に行く」
 あっさりととんでもない事を口にした。…葉子が呪われた状態とみて、封印してしまうつもりらしく、あら、とティアリスも目をちょっとだけ見開く。
ティアリス:「…世のため人のため?」
灰依音:「そうそう」
 そこで浮かべた微笑が、どこか悪戯っぽいものであるのに気付いたか、
ティアリス:「面白そうね。それじゃあ、お弁当を作るから私も一緒に付いて行こうかしら」
 豊かな黄金の髪をさらりと掻き上げながら、ティアリスまでが微笑み。
オウリス:「おもしろそーねー」
 ケーキを食べ終え、話を聞くとも無く聞いていたオウリスが、お弁当と聞いて少し眠気が覚めたかわくわくした顔で2人を見詰め。
 ――そして、3人は、穏やかな表情のまま外へと出て行き。
アイラス:「…僕の力が必要なんですか?」
オウリス:「うん。アイラスも一緒にいこ〜」
 ぽてんころん、と灰依音の肩から降り立ったふわふわのフクロウが、しゅるしゅるとオウリスの姿へ変化してこくこくと頷く。
灰依音:「封印の塔で何かしら戦闘が起こるかもしれない。そうなれば戦士としての力量があるアイラスさんに頼んだ方がいいだろうと思ってね」
オウリス:「お弁当も付くよ〜」
 ティアリスの持つバスケットにじぃと視線を注いだ後に、アイラスへと向き直ったオウリスがにこにこ笑いながら誘いをかけた。その言葉を聞いて、アイラスがほんの少しだけ苦笑する。
アイラス:「ええと…それで、封印の塔へ行くんですね。何か封じなければならないアイテムでも見つかったんでしょうか」
ティアリス:「アイテムと言うか…ちょっと違うのだけれど。葉子ちゃんをね」
灰依音:「そう。彼を、この際ですから封印してしまおうかと」
アイラス:「…………なるほど」
 一瞬あっけにとられ、その後暫く思考するように首を傾げていたアイラスだったが、
アイラス:「いいでしょう、行きましょうか」
 にこりと穏やかな笑みを浮かべつつ言い切った。

*****

 眠っているのかどうかさえ、分からないような暗闇。目を開けても閉じても暗いのだから致し方ないのだが。
灰依音:「はい到着、さ、出ておいで」
 なんだか小動物のような扱いを受けつつも、外の明るさに目を瞬かせながら、のそりとそこから外に出――そして、じわじわと戻る視界に映る世界に、目をゆっくりと見開いた。
葉子:「――エ?」
 にこにこと、何ともいえない笑みを浮かべている灰依音は、直日が差さない室内だからかサングラスを外して、銀色の瞳を露に葉子を室内の中央へと導いていく。
 その周りにいるのは、一緒にいたティアリス。それに、葉子があの空間に入ってから集まったのかアイラスとオウリスが増えており、その上見知らぬ青年が1人、どこか戸惑ったような表情で葉子の事を見詰めている。
 おまけに。
 なんというか、葉子の身体に何らかの危機が訪れているのが分かる。どういった類なのかはまだ良く分からないのだが、身体のどこかが精一杯悲鳴を上げているのを聞き、何だろうと思いながら足元を見れば。
 ――独特の文様で描かれた魔方陣に、片足を載せるところだった。
葉子:「――ッッ!?」
 踏みとどまったのは、僅か数センチの距離。ぴたりと降ろす足を止め、後退しようとした身体が、ぐ、と止められる。
灰依音:「どうした?」
 …あくまで穏やかな笑みを浮かべた灰依音が、葉子の腕をしっかりと掴んでいた。
葉子:「灰依音サン、何で俺の腕掴んデルノ?」
灰依音:「なんでだろうね?」
 じりじりと、互いに牽制するように押し合いながら、にっこりと顔を見合わせて。
葉子:「――っつうか俺の事どうするツモリなんだっツーノ」
 ぐいと押せば、
ティアリス:「呪いごとどうにかしちゃうんでしょ?」
 楽しそうな彼女の声と共に、手伝って魔方陣の中へと入れようとする様子が見え、
オウリス:「終わったらね〜、みんなでご飯食べるの〜。だから早く済ませよ〜」
 思い切り無邪気な顔のオウリスが、にこにこと笑いながら背後からとん、と軽く押した。
葉子:「わ、と、ととととと…」
 ふらり足を泳がせた所に、
灰依音:「覚悟するんだな」
 楽しげに――口元だけ笑んで、
灰依音:「楽になれるよ――きっと」
 魔方陣の上に倒れ掛かる葉子に、ばいばい、と軽く手を振って見せた。
アイラス:「うーん。なかなか、皆さんチームワークが良いですね」
 その脇で、葉子を押し出すのに参加はしなかったものの、逃げようとすればフォローを入れるつもりでさり気なく葉子の逃走ルート上に立っていたアイラスが、まるで他人事のように言い切ってにこりと笑う。
 そして。
 ぽてん、とバランスを崩した身体を支えきれずに魔方陣の中へ転がり込んだ葉子のを、ぽう…と床から発せられた光が包み込んだ。
葉子:「のーのー。そんなチョット力が弱ってる悪魔に何てコトするカナ。これじゃどっちが悪魔かわかりゃシネエ」
 引きつり気味な笑顔を見せつつ、じわりと身体に浸透していきそうな光が気持ち悪いのか身を捩りつつそこから逃げ出そうとして、だが…魔方陣を囲むように立つ4人に葉子が何とも言えない悲鳴を上げた。
ケルノ:「あのー」
 魔方陣の真ん中でひんひん泣いている葉子に、くすくす笑い合っている皆を見つつ、恐る恐る声をかけるケルノイエス。塔にこの5人が来てから、ほとんど放置されている状況を打破しようと声をかけたものらしい。
 半分以上逃げ腰だったが。
灰依音:「何か?」
ケルノ:「皆様何をなさっているんですか?」
ティアリス:「そりゃあもう」
オウリス:「封印だよね〜」
アイラス:「…と言う事になっています」
 こくりと頷く灰依音に、何か意味ありげな笑みを浮かべる3人。もう逃げる事も出来ず、床に座り込んで時が来るのを待つ姿勢になっている葉子はその様子に気付いていないらしい。
ケルノ:「――この塔で封印できるのは、『呪いのアイテム』なんですが…もしかしてその方はアイテムなのでしょうか」
灰依音:「出来ないと?彼は、しっかり呪われているのですが」
ケルノ:「呪われていても、生き物の封印は出来ませんよ。…いえ、それだけではなくてまずは彼の呪いを解く事が先決なのでは?」
アイラス:「それはそうですけど。でもほら、彼悪魔ですし」
 しれっとした顔でそんな事を言うアイラスだが、ケルノイエスがそう言い出す事にはそれ程驚きを持っていなかったようだった。
 それは、その場にいる3人も同じ事。ただ、悲嘆に暮れている葉子だけは、まだ言葉が届いていないようだったが…。
ケルノ:「あー、そう言う事ではなくてですねー」
 どう説明したら良いのか頭を悩ませるケルノイエスにくすっと笑ったティアリスが、
ティアリス:「まあまあ。ちょっと試してみただけじゃない。ねえ――」
 そう言いつつ振り返った目が見開かれ、他の者がその様子に気付く前に、ざざっと足の位置を変えて得物を改め――そして、ちょっと困った顔になって見詰めた。手に持つ白い…紙で作られたハリセンを。
アイラス:「どうしました――」
 そして見た。
 魔方陣の上に蹲る葉子の、上にエクトプラズムのようにもやもやと広がる巨大な何かの形を。
 それは、次第に形を取り、鮮やかな色を浮かべ、
葉子?:『ハーイ♪』
 と実に楽しそうに手を振った……巨大な、かなりデフォルメされた葉子が。
ティアリス:「――どうして呪いの元まで葉子ちゃんそっくりなのよっ!」
 すぱあああん!
 間髪入れず顔面にハリセンがヒットした。
アイラス:「えーと」
 反対側で、どうしたものかと迷いを浮かべつつ、剣をすらりと抜いたアイラスが、ハリセンの一撃で粉砕し、小さなデフォルメ葉子になってふわふわ浮いて漂っているそれを攻撃して良いものかどうか激しく迷いながらぺちぺちと剣の腹で叩いて元の位置へ戻していく。
ミニ葉子:『うひゃひゃ』
ミニ葉子:『ひゃはは』
ミニ葉子:『ふわふわ〜』
オウリス:「おー。こうしてみるとコレも結構かわいい、かも〜」
葉子:「俺様は元から可愛いッテーノ…オヤ?」
 ようやく事の次第に気付いた葉子が、ぷかぷかと浮かぶミニ葉子を見上げ、
葉子:「…うっわ怖くネェー」
 ぼそりと呟いた。

*****

オウリス:「ごっはん〜ごっはん〜」
ティアリス:「多めに作ってきたから、みんなの分あるわよ。…あ、ええと…ケルノも一緒にどう?」
ケルノ:「わ、私もですか?」
 葉子から染み出して来たモノは、葉子が魔方陣を離れると同時に一斉に彼の身体の中へと戻って行った。
 生き物を置いた事が無いと言うケルノイエスの言葉を信じるなら、そこから出て来たモノが呪いの元であるかどうかは分からず、何が起こるか分からないと言うのでそのまま葉子の身体の中へ戻したのだ。
葉子:「ふーヤレヤレ。俺様一時どうなるかと思ったら何にもナラナカッタネ」
 自分の身の安全を確信したか、でんと1人分のスペースをしっかり確保し、ティアリスが作ったというお弁当に手を伸ばす葉子。
灰依音:「それにしても惜しい。せっかくこの世界の平和の一端を担えると思ったのに」
葉子:「まだ言うカネ灰依音サン…」
 とは言え、流石に灰依音には警戒心を持ったらしく、ほんの少し距離を置いている。
アイラス:「まあまあ。灰依音さんに悪気は無かったんですから」
葉子:「……いやソレってちょっと問題発言ジャネ?」
 そんな風に和気あいあいと。
オウリス:「帰りはそっちの肩に乗る〜」
 ぱくぱくと美味しそうに食べつつ、葉子の肩にじぃと視線を注ぐオウリスと、
アイラス:「行きに持って行けば良かったですね。帰りにバスケットを持ちましょうか」
ティアリス:「あら、ありがとう。そう言ってくれると嬉しいわ」
 冬の旅行も乙なものだと、楽しそうに頬を上気させているティアリス。
ケルノ:「これはなかなか美味な…そうですか、もう冬になっているんですね」
 塔の外に出る事がなく、季節感を感じる事も無いケルノイエスは、お弁当のおかずにちょっぴり感激していたりした。
 そして、空になったバスケットと、相変わらず呪われたままの紅茶屋の店員とを連れて、ぽてぽてと…今度は行きと違ってのんびりと足を運びながら帰っていく。
葉子:「結局俺の呪いは解けネェままかー。まあしょうがないネ。こう言う事は焦っても上手く行くもんジャネエし」
 そういう葉子の表情からは落胆の色は伺えない。
灰依音:「そうだな。焦っても…まあいい、また次のチャンスはあるだろうし」
葉子:「諦め悪ィ男はもてネェヨ?」
 にゅっと首を前に回し、サングラスをかけた灰依音の目の前でニィと笑ってみせる葉子。
ティアリス:「でも…本当に早く治るといいわね、それ。やっぱり何だか落ち着かないもの」
葉子:「有り難いネー。そう言ってくれるのはあんたダケさ〜」
 うんうんと頷きつつ、その勢いでぎゅうと抱きしめようとするのを素早く避け、
ティアリス:「ナマモノでもいいわ、もう一度ケルノに頼んで封印してもらわない?」
 にっこりと笑いながらそう言いきった。…目は笑っていなかった。
灰依音:「いい考えだな」
アイラス:「店員さんがいなくて暫く不自由するでしょうけど…募集のポスター作りましょうか」
オウリス:「おー。ビラ配りするよー」
 ぶんぶんと大きく首を振る葉子に、皆が皆悪意の一片も感じさせない笑顔を浮かべる。
 ――もちろん、本気で再び塔に向かうつもりは無かったのだけれど。
葉子:「カンベンして〜。店戻ったらケーキセット奢るからサ」
 とは言え、今日ばかりは葉子にその冗談は通用しそうになかった。


-END-