<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
積み重ねた想い
心からの想いを込めて
ずっとずっと暖めた想いを抱えて
寒空の下の暖かな触れ合い
「ねぇ、一緒に見に行きたいものがあるんだけど」
そう言いながらティアリスがスラッシュを訪ねた時、外では粉雪が舞っていた。
クリスマス・イブに舞う雪はそれだけでとても神聖で特別なものの様に見える。
「それは構わないが‥‥」
何を?、とスラッシュがティアリスに尋ねると、ティアリスはニッコリと笑みを浮かべ言った。
「綺麗に飾り付けられたツリーがあるんですって。それを一緒に見に行けたらなぁと思って」
スラッシュが苦手とする太陽の光も今はちらつく雪のせいで遮断されていたし、それに、クリスマスは一緒に過ごしましょう、と言っていたティアリスとの約束が守れれば特に問題は無いのでスラッシュは小さく頷いた。こんな日に二人で出かけるのも悪くない。
「本当? 良かった。ちょっと楽しみにしていたの」
「支度をするから‥‥」
そう言ってスラッシュはティアリスを招き入れると暖炉の前へと促す。
ティアリスも少し冷たくなった手を手袋ごと暖めた。
柔らかい暖炉の炎を見ているとだんだんと外の寒さで冷えた体も温まってくる。
そうしている間にスラッシュは用意を終わらせ、ティアリスを呼んだ。
「ティア、行こう」
声を掛けながら、スラッシュはポケットの中に綺麗にラッピングされた箱をしまい込む。
暖炉の火を消そうと向かうがティアリスはそれを手で制して、自分でさっさと消してしまうとスラッシュの元へと駆け寄り微笑んだ。
するっ、とティアリスはスラッシュの腕に自分の腕を絡めて外へと出る。
「行きましょう」
「場所は‥‥」
「案内するわ」
ふふっ、と嬉しそうに笑ったティアリスの顔は幸せそうだった。
街を歩けば、どこもかしこもクリスマス色に染まり楽しげな雰囲気だ。
たくさんのカップルがショーウィンドウを覗き込んでは声を上げて笑っている。
聞こえてくる音楽も楽しげでその場にいるだけで、気分が高揚してくるような気がした。
それはもちろん隣に一番一緒にいたい人物が居るからだ、ということに二人は気付いていたが。しかし二人はまだ友達以上恋人未満で互いに意識することはあっても、言葉通りそれ以上の関係ではない。
「賑やかね」
「あぁ‥‥」
その賑やかな中に自分たちも入っているということにふと気付いたティアリスは、ちらっとスラッシュを見上げる。
するとスラッシュも同じ事を思ってかティアリスのことを見つめており、二人は目があった瞬間照れたようにはにかんだ笑みを浮かべた。
一緒にいることがくすぐったい、と感じるのは何故だろうとティアリスは思う。
でもそのことがとても嬉しい。
そう思えることがとても幸せだとも思った。
こうして二人の時間がゆっくりと過ぎていけばいいのにと。
「あ、あそこの喫茶店お薦めなの」
少し飲んでいきましょう、とティアリスがスラッシュを誘うとスラッシュは微かに笑みを浮かべて頷いた。
ティアリスはその笑顔があれば、どんな寒い場所にいたとしても暖かいのではないかと思う。
それほどティアリスにとってスラッシュの浮かべる笑みは大きなものだった。
喫茶店で飲んだお茶も体を温めてくれたが、何よりも心が温まるのはたわいない話をスラッシュと一緒にしている時だった。
ティアリスの言葉にスラッシュは言葉少ないながらも、相槌を打ち反応を返してくれる。
そういったやりとりがとても嬉しくて、ティアリスはその幸せな気持ちを心の中に蓄積していく。
それはスラッシュも同じ事だった。
明るいティアリスの笑みで救われることが何度もあった。
強くて明るくて、それでいて何処か脆さを持っているティアリスを支えてやりたいと思う。
一緒にいることで互いのバランスが上手く取れているのかもしれないと、スラッシュは思っていた。
ずっと‥‥永遠などは存在しないかもしれないが、一緒にいたいと願うことを止めることは出来ない。
そんなことを想いながら外を眺めていたスラッシュを見て、ティアリスが言う。
「そろそろ暗くなってきたし‥‥ライトアップされたかしら」
「どうだろうな‥‥行ってみるか?」
「そうね。もしライトアップされて無くても良い場所取ってしまいましょう」
くすっ、と笑いティアリスは手にした包みを大事そうに胸に抱く。
「‥‥‥?」
スラッシュの見つめる視線に気がついたティアリスは誤魔化すように笑う。
「こ‥これはまだいいの。さ、行きましょう」
コレと同じか、とスラッシュは自分のポケットの中で微かな音を立てる箱を思い出して、ティアリスの後に続きながら微笑する。
こういった仕草もまた良いと。
「スラッシュー、こっちよ」
先に歩き出していたティアリスがスラッシュを呼んでいる。
自分に気付いたのを見て、ティアリスは辺りをきょろきょろと眺め始めた。
ツリーに近づいているからなのか、だんだんと人混みが激しくなってきていてどちら側から行けばよいか迷っているようだった。ティアリスのことだ。早く着けるのはどちらかを考えているに違いない。
そのうちにティアリスの姿が人に埋もれてしまいそうになり、慌ててスラッシュはティアリスの手を引き寄せた。
ぽふん、とスラッシュの腕の中にティアリスは収まる。
「いなくなるかと‥‥」
「ふふっ、大丈夫よ。スラッシュを置いてなんて行かないわ」
そう笑ったティアリスだったが、自分がスラッシュに背後から抱きしめられている状況に気づき頬を赤く染める。
えっと‥あの‥、と口ごもったティアリスの様子に気づき、スラッシュは漸く自分がティアリスを抱きしめていることに気がついた。
そしてそこが道の真ん中であることにも。
「あぁ、すまない‥‥」
「ううん、いいの」
回された腕がはずされるのをティアリスは何処か寂しげに見つめる。
ここが外でなければずっとそのままでも良かったのに、という言葉が脳裏に浮かんでは消えていく。
しかしすぐにティアリスの顔に笑顔が浮かんだ。
差し出されたスラッシュの手をティアリスはそっと握る。
またはぐれてしまわないようにと。
繋いだ手の温かさにティアリスは安心した。
街の中心に出来た大きなクリスマスツリーの回りは流石に凄い人だった。
もう既にライトは点灯され、ちかちかと点滅している光が遠くからも見て取れる。
「遠くからでも綺麗ね」
「そうだな‥‥」
「でももう少し近くで見てみましょう」
二人はゆっくりとツリーを眺めて回る。
大きなツリーは見上げるほどだったが、その回りには小さなツリーが点在しておりあちこちで小さな瞬きを繰り返していた。
たくさんあるツリーを順番に見て歩きながら人通りの無いツリーの側でスラッシュが突然立ち止まった。
「どうしたの?」
小首を傾げるティアリスにスラッシュはポケットの中から一つの小さな箱を取り出す。
「ティアに‥‥」
「あ。‥‥‥私もあるの、プレゼント」
先ほど胸に大事そうに抱えた包みをティアリスはスラッシュへと差し出した。
互いにクリスマスプレゼントの交換をする。
ティアリスはスラッシュに尋ねた。
「開けてみても良い?」
頷いたスラッシュは自分も開けて良いかティアリスに尋ね、ティアリスが頷いたのを見て包みに手を掛けた。それをティアリスはじっと見つめる。緊張の瞬間だ。
スラッシュの開けた包みから出てきたのはモカブラウンのマフラー。
それは暖かな温もりをスラッシュに与える。少し目がぼこぼことしているのは初めて編んだからなのだろう。反対側の方は目が均一で上達の課程が見て取れた。
きっとティアリスの事だから隠れてこそこそと編んでいたに違いない、とその一生懸命編んでいる姿を思い浮かべてスラッシュは笑顔を浮かべた。
「ありがとう‥‥」
するっ、とそれを首に巻いたスラッシュはその温かさが本物であることを知る。
はにかむように笑ったティアリスもスラッシュから受け取った箱を開けた。
中から出てきたのは天使の卵を象った中にティアリスの誕生石を埋め込んだ指輪だった。
翠玉が銀に埋め込まれ輝いている。
ティアリスはその指輪を見て、胸が音を立てるのに気付いた。しかし余り期待してはいけないと冗談めかして言う。
「婚約指輪みたいね?」
するとスラッシュが一瞬戸惑うような気配を見せた。
まずいことでも言ってしまったかとティアリスが視線をあげると、スラッシュがほんの少し照れの混じった複雑な表情で、しかししっかりとした声でティアリスに告げる。
「そう取ってもらっても‥‥構わない‥」
その言葉にティアリスは指輪を握りしめ俯いた。
嬉しくて涙が溢れて止まらない。
ぽたぽたと握りしめた指輪の上に涙が落ちた。
「ティア‥‥」
「凄く‥‥嬉しい」
どうしよう、とティアリスは泣き続ける。
スラッシュはティアリスがこんなに泣くのを初めて見た。ティアリスはいつも笑顔で、辛い時でも回りを盛り立て先陣を切って駆け抜けていくような人物だった。辛くても泣くことは無かったのに、今は嬉しくて泣いている。
その涙がとても綺麗だとスラッシュは素直に思う。
「ティア‥‥俺はずっとティアが真っ直ぐに想いをぶつけてくれることが嬉しかった‥‥。ティアが側にいることで癒され‥そして支えられてきた‥‥」
スラッシュの言葉にティアリスは頷く。
「‥もっと早くに告げようとも思ったんだが‥‥これから先も……同じ道を歩き続けたいと思う‥‥」
「スラッシュ‥」
とん、とティアリスはスラッシュの胸に飛び込んだ。スラッシュの胸にティアリスの涙が染み込む。
本当に嬉しくて涙が止まらなかった。止めようと思っても後から後から溢れてくるのだ。
過去の記憶やスラッシュと過ごしてきた日々がぐるぐると頭の中を駆けめぐり、そして涙を零させる。
「私も一緒に歩き続けたい‥‥とっくの昔にそう思っていたの‥‥ずっと共に歩いていきたいって」
スラッシュはそんなティアリスの顎に手を掛け、顔を上げさせると頬を流れる涙を唇で掬い取った。
ティアリスが驚いて瞬きをするとその瞳から再び涙が零れ、スラッシュはそれを唇で受け止め、優しいキスを頬に降らせた。
「くすぐったい‥‥」
漸く浮かんだティアリスの笑顔にスラッシュは安心したように笑みを浮かべ、ティアリスの左手を取った。
ティアリスが握りしめていた指輪をそっと薬指にはめる。
「天使の卵‥‥この天使の卵にも二人の想いが詰まってるのね」
「あぁ‥‥」
「この想いから生まれる何かがあるのね」
嬉しい、と左手にはめられた指輪を右手で軽く押さえてティアリスはスラッシュに今までで一番の笑みを向けた。
「ありがとう」
スラッシュはティアリスのことをしっかりと抱きしめる。
これから共に歩いていくことを想いながら。
その手の中にある温もりが確かなものであることを感じて。
どちらからともなく瞳を閉じて。
そっと重ねられる唇。
それだけで伝わる想いがある。
触れた唇は寒空の下だというのに柔らかく温かくて。
彩られた聖樹の下でそのキスは交わされる。
空から祝福の真っ白な粉雪が舞う中で。
そっと離れた唇をティアリスは見つめ、そして幸せな笑みを浮かべる。
繋いだ手は先ほどとはまた違った熱を持っていて。
温もりが倍になった気さえする。それは心の温度も上がったからだろうか。
積もり始めた雪の上を二人は一緒に歩き始めた。
ティアリスの左の薬指にはスラッシュからの指輪が。
スラッシュの首にはティアリスの想いのこもったマフラーが。
二人が少しずつ積み重ねてきた想い。
それは降り積もる雪と似て。
ずっと暖めた想いを抱えて二人は一緒に歩いていく。
繋いだ手は寒空の下の暖かな触れ合い。
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