<PCクエストノベル(3人)>


〜瑠璃色の共鳴〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【 1997/ファサード (ふぁさーど) /人形師(細工師)】
【 1805/スラッシュ (すらっしゅ)/探索士】
【 1953/オーマ・シュヴァルツ (おーま・しゅう゛ぁるつ) /医者兼ガンナー(ヴァンサー)】

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『茨の魔森』を抜けたあたりから、ようやく人の住む土地に出会えた。
遠くにはたくさんの煙が細くたなびき、煙突がいくつも目に入る。
今回の旅は、ファサードが少女に渡した人形の行く末を見に行くことであったが、もうひとつ、オーマが提案していたことがあった。
ファサードはあまり気にしていないようだが、実際には重大な異変が彼の身に起きていたのである。
魔獣に与えた癒しの指輪――――それは、通常の癒しとは別に、ファサードの身体自体も癒し続けていた。
つまり、その組成の多くが未だ未発見の『樹』によって成っている彼の身体の、腐食を止める役目を持っていたのである。
たまに指先や爪先が上手く動かず、ファサードが首を傾げていたのをオーマは知っていた。
また、親友であるスラッシュも、ファサードの「最近どうも身体の調子が悪いんですよね〜・・・」という、呑気にも程がある台詞をたびたび耳にしていただけに、気が気でなかったのだ。
冗談に紛らせて、オーマがファサードから聞いた彼の身体の秘密から、オーマはひとつの提案をファサードにしていた。
『まだ「樹」が見つからないのなら、ダリル・ゴートの腕のいい職人たちに頼んで、同等の能力を持つ指輪を作ってもらったらどうか』と。
ファサードは少し考え込んだが、うなずいた。
職人だけでは無理だろうが、ここにオーマとスラッシュがいることに、改めて気付かされたからである。
オーマは安心した。
そして、それをスラッシュに伝え、結果として同行することになる。
ふたりがふたりとも、ファサードに、「未来」を見せたかったのだった。


スラッシュ:「・・・オーマ」
オーマ:「何だ何だぁ??この愛の伝道師たるラブマッスル親父に何か相談ごとか?」
スラッシュ:「ああ。ファドの癒しの指輪の件、だが」
オーマ:「そいつか・・・」
スラッシュ:「あれはこの世界のものじゃないと・・・以前ファドから聞いたことがある。この世のもので・・・代替できるものだろうか」
オーマ:「そいつぁちいっとばかし難しい質問だな・・・」
スラッシュ:「やっぱりそうか・・・」
オーマ:「実際に作ってみねぇとわからねぇってのが正直なところよ。おめぇさんと俺の力が、ダリル・ゴートで作られるモノそのものにこめられるかってぇ話だな」
スラッシュ:「・・・もしかしたら、ファドを失望させることになるかも知れない、ということか?」
オーマ:「まあ、そう急くなって。このラブパワー炸裂全開パーフェクトな俺様とおめぇさんが一緒にいりゃあ、大抵のことは出来るだろーが。あとはいちかばちかってとこだけどよ」


ファサードは、ひとり元気にダリル・ゴートへ続く最後の直線の道を鼻歌まじりに歩いていく。
その後ろで、オーマとスラッシュはこれからのことを話していた。
ダリル・ゴートで一番腕のいい職人と言えば、ダリル・ゴートを統べるダリルを置いて他にない。
ただ、ダリルの力を借りるにはひとつの条件があった。
今回のことに関して、それはまったくと言っていいほど心配なかったが、普段であればダリルは会ってさえもくれないのである。
その条件とは、「今までにこの世で作成された例のない物を創造する」依頼でなければならない。
元々、癒しの指輪自体、ファサードがいつからかわからないが、ずっと身につけていたもので、銀で出来てはいるが、聖なる清めの祈りがかけられていた。
この「祈り」も、誰がかけたものか不明であり、銀製でまともに磨いたことなどなかったにも関わらず、酸化を起こさなかったのである。
明らかに、この世の物ではなかった。
そんな、出どころや情報の何もかもが皆無の状態から、同じような物を作り出すことが果たして可能であろうか。
しかし、今はそんなことを不安に思っている暇はない。
ダリル・ゴートはすぐ目の前に迫っていた。


ファサード:「着きましたね〜」
スラッシュ:「ああ」
オーマ:「でっけぇ城壁だな、おい」
ファサード:「この街にはですね〜、いろんな秘密があるらしくて、こうして頑丈な城壁で守らないといけないらしいですよ〜」
スラッシュ:「さすが詳しいな・・・」
ファサード:「もう3回目ですからね〜ここまで来るのは」
オーマ:「おっ、門が開くぜ」
ファサード:「この門も木で出来ているように見えるんですけど、本当は別の物質だそうですよ〜」
スラッシュ:「・・・確かに手触りがちがうな・・・」
オーマ:「さぁて、元気に腹黒同盟の同志どもをこのイロモノ胸キュン☆ダイナマイトセクシー悩殺パワーで集めてくるとするか!」
スラッシュ:「ファド」
ファサード:「何ですか?」
スラッシュ:「少し・・・寄りたいところがあるのだが・・・」
ファサード:「それでは、先に行きましょうか〜?僕の探し人はこの街のどこにいるかわかりませんからね〜」
オーマ:「初めて来たが、ここはグレートファンキーデンジャラスな街だなぁ」
ファサード:「元々切り立った山を切り崩して作った街のようですからね。まるで木彫りの人形のように、山を街に作り変えたそうですよ〜」
スラッシュ:「さすが職人の街だな・・・」


ダリル・ゴートは自然を生かした興味深い街である。
ごつごつとした岩肌がむき出しになっていて、中規模の山の一部をくり抜いて掘り下げ、天然の要塞を成している。
よく見ると城壁も岩を利用したものである。
表面は綺麗に削られ、磨かれているが、山を構成していた地層の跡が残っていた。
また山肌を内側にくり抜いて、住居として利用されていた。
多分に粘土を含んだ土であるため、雨にも強い。
また、外気を遮り、内部の熱を閉じ込めるので冬でも非常に暖かかった。
ダリル・ゴートの長であり、すべての職人たちの頂点に立つダリルという人物は、人間ではなくドワーフであり、その気質から、とても頑固で偏屈だといううわさもある。
だが、オーマの考えとしては、「最高の物を作るには最高の職人に頼む」ということがあり、あえてダリルを訪ねることにしたのだった。
ダリルの家は山の一番高いところにあった。
大きな工房を併設して持ち、そこでは世界でも一級品の装身具を作成している。
ほとんどの物の値段が破格で、普通には手に入らないものばかりだ。
だが、ダリルの信条から、「この世に存在しない物を創造する」依頼の時だけは、金品を受け取らないとしている。
彼は生粋の職人であり、「創造」そのものに魅力と生きがいを感じているのだ。
その点でも、ファサードたちの依頼は彼の理にかなったものになるだろう。
そう信じて、スラッシュはダリルの家の大扉をノックした。
出て来たのは案の定、背の低いドワーフである。
着ているものは非常に高価なもので、宝石のきらめきが上着を彩っている。
ダリルは、面倒くさそうに3人を見上げた。


ダリル:「なんじゃ、おまえさんたちは」
ファサード:「お願いしたいことがあるんです」
ダリル:「わしにか?わしでなくとも、この街には腕利きの職人が大勢おる。他を当たれ」
オーマ:「おっと、待ってくれ。まずは俺たちの話も聞いてくれや」
スラッシュ:「短い話だ。そんなに時間は取らせない」


スラッシュは手短にまとめて、ダリルに話をした。
その間、オーマとファサードはスラッシュに任せて黙っていた。
話が進むにつれ、ダリルの表情が少しずつ変化していく。
眉間に深く刻まれた皺は解かれ、腕を組んで考え込むような姿を見せた。
話が終わってからも、ダリルは身動きひとつせずに地面に視線を落としたままだった。
その様子を3人は固唾を呑んで見守った。
やがて、ダリルは顔を上げた。
そして、3人を室内に招き入れるべく、のっそりと背中を見せ、家の中へと歩き出す。
3人は無言でダリルに従い、中に入った。
ダリルの勧めで、彼らは赤々と燃える暖炉の目の前の、座り心地の良い椅子に腰を下ろした。
温かいお茶がふるまわれ、3人は身体を中からも外からも緩やかに温められた。


ダリル:「なるほどのう・・・不思議な指輪じゃて」
ファサード:「この指輪たちを、いつどんな経緯で手に入れたかはおぼろげにしか覚えていないんです・・・でも、癒しの指輪は、この身体になる時に誰かにもらった記憶があるんです・・・たぶん、『樹』のことを知っている人物から・・・でも僕の記憶はそこまでで、それ以上は何も・・・」
スラッシュ:「ファド、そんな不安そうな顔をするな・・・」
オーマ:「おうよ!これだけビッグスペシャル熱気むんむん☆な力同士を掛け合わせようってぇ算段だ、何だって出来るだろうよ」
ファサード:「そう、ですよね・・・」
オーマ:「『信じる者はボンバー熱血ソウルフルに救われる』って言うじゃねぇか、心配すんな!」
ファサード:「そ、そうですね・・・」
ダリル:「じゃがな、肝心の材料が見つからんじゃろ。どうしたもんかのう・・・」
スラッシュ:「やはり・・・素材が重要、か・・・」
ダリル:「当然じゃ。そこまで力のある物を作るとなれば、それなりの材料でないと無理じゃよ」
オーマ:「・・・ま、同じモンは無理だな」
ファサード:「同じものじゃなくていいんです!あれを手放したのは僕自身なんですから・・・ただ、せめて僕の求める物が見つかるまでの間、この身体が持ちこたえることが出来ればそれで・・・!」
スラッシュ:「ファド、誰もファドを責めちゃいない・・・」
ファサード:「っ・・・すみません・・・」
オーマ:「気にすんなって。おめぇさんがあの魔獣のラブを守ってやりたかった気持ちくらい、わからねぇ俺たちじゃねぇさ。要はあれだな、強い『思い』をこめりゃあいいんだよなぁ?」
ファサード:「そうです・・・」
オーマ:「それなら話は簡単よ。俺とスラッシュのラブラブマッスルグレートでっけぇ気持ちをこめてよ、俺がその物質を具現化してやりゃあいいってことなんだからな」


オーマはスラッシュを手招きして、自分の右手を上に向け、その上にスラッシュの左手をかざすよう言った。
ふたりが同時に目を閉じると、オーマの右手から紫色の火炎が天井めがけて噴き出した。
爆風が起き、辺りの物が宙に舞い、激しく壁に激突する。
だが、ダリルは何も言わず、厳しい瞳でふたりの成すことを見守っていた。
火炎はやがてふたりを包み込み、熱さに顔をしかめて耐え続けるふたりをあざ笑うかのようにごうごうと逆巻いた。
その中心で、少しずつ何かが生まれていた。
ふたりの手の間に別の色の炎が渦巻き、少しずつ形になって彼らの手の中に納まる。
それが完全な球体を成すと同時に、スラッシュとオーマは床に片膝を落として、大きく何度も息をついた。
駆け寄ったファサードに、ふたりは笑み返す。
そして、ふたりは、ファサードにその塊を差し出した。



ファサード:「こ、これは・・・?」
オーマ:「『思い』の結晶ってヤツだな・・・」
ファサード:「『思い』の結晶・・・?」
オーマ:「おうよ。強い強い『思い』を形にしたもんだ。そいつを象嵌すりゃ、あと十数年は保つだろーぜ」
ファサード:「おふたりとも、そんな、ボロボロになって・・・ぼ、僕なんかのために・・・」
スラッシュ:「ファドの・・・ためだから、だろう・・・?」
ファサード:「えっ?!」
スラッシュ:「自分の身体より・・・魔獣の気持ちを優先した・・・そんなファドだから・・・生きててほしいって・・・そう思うんじゃないのか・・・?」
オーマ:「愛を優先するってなぁ、他のどんなことよりもショッキングストレートど真ん中ずきゅん☆な心意気じゃねぇかよ、ああん?」
ファサード:「でも・・・」
ダリル:「ファサード、だったか?おまえさんも、ただ単に『ありがとう』とだけ言えばいいんじゃ」
ファサード:「は、はい・・・おふたりとも・・・本当に、本当にありがとうございました・・・」


ファサードの頬に涙が伝った。
人形でも豊かな感情があれば、泣くことも出来る。
それを見て、ダリルの相好が崩れた。
ファサードの手から、スラッシュとオーマの気持ちの石を受け取り、3人を振り返る。


ダリル:「それじゃ、わしはこれを指輪にしようかの。おまえさんたちは完成するまで、この屋敷におるといい」



それから10日も経った朝。
ダリルはファサードに瑠璃色に輝く、細かい花を彫り込んだうつくしい指輪を渡した。
そして、余ったかけらで、涙の形をしたふたつの小さなペンダントヘッドを作り、銀の鎖に通して、オーマとスラッシュに渡した。


ダリル:「その石はな、共鳴するんじゃよ。3人でいる時、石に祈ればお互いの居場所がわかる。それも、その石の力じゃ」
ファサード:「すごい・・・」
オーマ:「ありがとよ」
スラッシュ:「感謝する」


3人はそれぞれの石を手に、ダリルの屋敷を後にした。
待っている10日の間に、ファサードは人形を渡した少女に会えた。
彼女は既にふたりの娘の母親となり、人形は娘たちに抱かれていた。
あの頃と同じくらい綺麗な状態の人形に、大事に大事にされていたことがうかがえた。
ファサードはうれしかった。
人の愛の素晴らしさと何かを大事に思う気持ち。
それが形になって、彼の空いていた右手の薬指に、瑠璃色の指輪として納まった。
見つめるたびに、彼のために動いてくれたふたりの友を思い出すだろう。
ファサードは城門を出て、空を見上げた。
青く高く澄んだ空は、彼らの帰途を晴れやかに彩ってくれている。


ファサード:「それじゃ、帰りましょうか!」


3人はゆっくりと、彼らを待つ街へと歩き出したのだった。