<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


☆聖夜の大泥棒☆




 ★オープニング

 
 もうすぐで“クリスマス”だ・・。
 もちろんこの世界にクリスマスと言った正式なイベントはない。けれど・・。
 どこで聞きかじったのか、ルディアはその話を知っていた。
 ツリーを飾って、ケーキを食べて・・。とにかく、わいわいと騒ぐパーティー!
 ルディアのなかの“クリスマス”はそうだった。
 知らず知らずのうちに、頭の中で陽気なメロディーが流れ出す。
 スキップでもしそうな勢いのまま、奥の部屋へと足を踏み入れる・・。
 「まずは、ツリーを出して・・、それから・・・。あれ・・??」
 ルディアは、パタリと止まった。
 ツリーを入れておいたはずの部屋に・・ツリーがない!!??
 「あれ??絶対にここに閉まっておいたはずなのに・・あれ!?」
 困惑するルディアの足元に、ヒラリと天井から一枚の紙が舞い落ちてきた。
 それを拾う。
 「予告状・・・・。」

 『予告状、ツリーは頂いた!返して欲しくば聖なる夜に“星の願い丘”まで来たれ!』

 「・・・予告状・・??」
 なにも予告していない気がするが・・それよりも、折角のパーティーにツリーがないのは淋しすぎる。
 「でも、なんでツリーなんか持って行ったんだろう・・。」
 小さくため息をつく。
 けれど、こうなってしまっては仕方がない。
 ルディアは紙とペンを取り出した。

 『聖なる夜にツリーを取り戻してくれる方募集!
  ツリーを取り返した後は白山羊亭でパーティーを盛大に行います!
   詳しくは、ルディアまで。』

 ・・それにしても、なんで聖なる夜に“星の願い丘”・・?
 それに・・どうして今日、ツリーを盗んだのかしら・・?
 
 ルディアは力なく頭を振ると、数度目かのため息をついた。


 ☆いくつかの謎

 ルディアの張り紙を見て、翌日6人が集まってきた。
 集まった面々を眺めると、ルディアはあの予告状と言うなの報告状をついとテーブルの上に置いた。
 それを覗き込む顔に、不可思議な色が宿る。
 「なんだか・・予告と言うより挑戦と言うか、挑発と言うか・・。」
 そう言ったのはジュドー リュヴァイン。
 「そうね・・予告状ではないわね。」
 エヴァーリーンがその意見に賛成の意を述べる。
 「けれど、聖なる夜のパーティーにツリーが無いのは寂しいな・・。」
 フィセル クゥ レイシズが何も飾られていない白山羊亭の一角を眺めながら言った。
 「しかし、何故ツリーなど盗んだのか・・。盗んだのならばそのまま逃げればいい。何故取り返しに来いなどと言ったのか・・。」
 金剛が頭をひねる。
 「そう、何故取り返しに来いと言ったのか・・。悪意のみで盗み、挑発しているようには感じられない。」
 ジュドーはそう言うと、宙に視線を彷徨わせた。
 何故なのか・・理由を考えているのだろう。
 「なんだか中途半端な脅迫状のような印象だな。悪戯かも知れない・・なにか心当たりは無いか?」
 フィセルがルディアに尋ねる。
 ルディアは少しだけ考えた後で、頭を振った。
 「全然・・。」
 思いつきもしないらしい。とりあえず、見知った相手のイヤガラセやいたずらと言うせんは薄くなった。
 「最近のソーンイロモノ筋肉阿波踊り怪盗ってぇのはこう言うのがイケイケナウなのか!?ま、ともかくもここはいっちょ魅惑の腹黒悩殺親父探偵団に任せとけやっ!」
 豪快な口調でオーマ シュヴァルツはそう言うと、ルディアの背中をぽんぽんと叩いた。
 “魅惑の腹黒悩殺親父探偵団”とは、この集まった面々の事なのだろう。
 ・・一部“親父”ではないうら若き女性も含まれているが・・。
 「つまり、星の願い丘に行くしかあるまい。」
 「待って下さい・・。」
 金剛が言った時、アイラスが声を上げた。
 その瞳は何かを考え込むように左右にふられている・・・。
 「聖なる夜に星の願い丘ですが・・。近くに星の願い丘と言う場所がありますか?」
 「いいえ・・・。聞いた事が無いです。」
 「では、探さなくてはなりませんね。それと“聖なる夜”と言うのも曲者ですね。」
 「おい、どーゆうこった?」
 「もしかすると、クリスマスの事ではないのかも知れません。」
 アイラスの発言に、ざわりと場の空気が揺れる。
 「予告状の文面を見て分るとおり、少し普通とは認識が違うのかも知れません。」
 「するってぇとなんだ、相手からするとコレが予告状って事なのか?」
 「そうです。一見すると報告状みたいな内容ですが・・相手からするとそれが“予告”と言う事になるのかも知れません。」
 「つまりは、言語自体の意味のとり方が違う人かもしれないって事だな?」
 「えぇ・・。推測ですが・・。」
 もし、アイラスの言ったとおりだった場合・・。
 この予告状は全てにおいて意味が違っているかも知れないのだ。
 “丘”と書いてあっても“丘”でない場合もある。
 「うむ・・そうした場合、どうすれば良いのか。」
 「予告状を貼り付けましょう。」
 「予告状・・・?」
 「はい。そうですね・・人の目に付きやすい場所と言う事で天使の広場にある天使像へと予告状を付けておきましょう。」
 「それで、なにを予告するってぇんだよ。」
 アイラスはオーマの問いに少しだけ微笑むと、ルディアに紙とペンを用意させた。
 真っ白な紙に赤いペンで大きく書く・・。

 『予告状
   聖なる夜(25日)に星の願い丘にてツリーを奪還させていただきます!』

 右の端に青い眼鏡のイラストをつける。

 「これで大丈夫でしょう。これならば、こちらが聖なる夜は25日だと認識していると分っていただけるでしょうから。」
 「んじゃぁ、ついでにコレも一緒に・・。」
 オーマはそう言うと、封筒を取り出した。
 「・・それは・・?」
 「クリスマスカードにきまってんだろ〜!」
 オーマはそう言うと、豪快に笑った
 「それじゃぁ、貼ってきます!」
 ルディアはそう言うと、予告状を持って白山羊亭を後にした。
 一同はしばらく扉を見つめた後で、再び話しに戻った。
 「けれど、星の願い丘と言うのがわからん・・。」
 「近くにそういう場所があれば良いのですが・・。」
 「あら?貴方達“星の願い丘”に興味があるの?」
 ふいに隣のテーブルで談笑していた女性が話しかけてきた。
 ブロンドのゴージャスな巻き毛の美人だ。
 「アタシの友達でその丘についてよく知っている子がいるのよ・・あ、あの子よ。」
 指差された先には、少し大人しめのおさげの女の人が座っていた。
 「ファエラって名前よ。」
 女性はそう言って色っぽく手を振ると、何事も無かったかのように再び同じテーブルの人達と会話をし始めた。
 一行は無言で立ち上がると、一人で静かに本を読んでいるファエラに近づいた。
 「すみません。」
 アイラスの声に、ファエラが顔を上げる。
 「なにか・・?」
 「私達、星の願い丘について調べているんだが・・。」
 「あぁ、フィアネーザに私に聞いて来いって言われたんでしょう?」
 「・・フィアネーザ・・??」
 「あの女の人の事よ。私の友達。」
 そう言うとファエラはさっきの女の人を指差した。
 「星の願い丘って言うのは、ここからエルザード城の方に10キロほど先に行った所にあるわ。」
 ファエラがすっとエルザード城の方角を指差す。
 「それで、なんで星の願い丘になんて行くの?」
 「ソーンイロモノ筋肉阿波踊り怪盗って言うのが魅惑の腹黒悩殺親父探偵団に挑戦状っつーか予告状っつーか、ウキドキ☆プリティー対決状を送ってきやがってなー。」
 「つまり、怪盗からの挑戦状なんです。」
 「・・まぁ・・・予告状ってあったけどね・・。」
 ファエラが困惑の笑みをたたえながら、頷く。
 「そ・・そっか。でも、それならなおさら気をつけて。あそこ・・星の願い丘って、本当は煌きの丘って呼ばれてるのよ。」
 「煌きの丘?」
 「そうなの。12月25日になるとあそこの丘が輝きだすのよ。何でだかは分らないわ。一説では、あそこで亡くなった人の魂が25日になると出現するって・・。」
 なんとも嫌な話だ。
 こちらが言われた日も25日なのだから、なおさら嫌な感じだ。
 「しかし・・行って見るより他はあるまい・・。」
 金剛の小さな呟きに頷いた時・・白山羊亭の扉が勢いよく開き、息を切らしたルディアが走りこんできた。
 「みなさん!大変ですっ!怪盗からのお返事です!」
 !!!!!
 「それで、なんて・・?」
 「えっとですね・・。」

 『OK、わかったちょ☆待ってるヨ♪
  追伸:夜に来てね!そうだな・・日が地平線に落ちてからが良いな〜。  by聖夜の大泥棒』

 「・・・・・・。」
 「・・えっと・・。聖夜の大泥棒さんからのお返事、以上です・・。」
 ルディアはコソコソと紙を丸めてポケットの中にしまった。
 その様子がどこか恥ずかしそうなのは・・言うまでもない。
 息せき切って持ってきた怪盗からの返事が、あんなにも軽いものだとは誰も思うまい。
 「と・・とりあえず、夜に行けば良いんだな?」
 「え・・えぇ・・。」
 フィセルとルディアが苦笑いをしながら顔を見合わせる。
 「でも、とりあえずコレでこの・・聖夜の大泥棒?があながちただの怪盗ってワケでもないわね。」
 「それにしても、予告状なんて送ってきて“怪盗”みたいなのに署名では“泥棒”なんですね・・。」
 アイラスがポツリと呟く。
 誰もその問いに答えるものはいなかったが、アイラス自身も誰に問うたワケでもなかった。
 最初から、理由なんて決まっているのだから・・・。

 “何も考えていないだけ!”

 
 ★聖夜の追いかけっこ

 25日の夕方少し前・・一同はひとまず白山羊亭に集結していた。
 何も持たない軽装で来た者もいれば、なにやら怪しげな白い大きな包みを持って表れた者もいた。
 「それで・・その中身はなんです?」
 アイラスがオーマにきく。
 オーマの持った白い袋の中では“ナニカ”がうねうねと蠢いている・・。
 オーマはそれにただ微笑を浮かべただけで何も答えなかった・・。
 「そんじゃぁ、ちょっくら星の願い丘に行ってくっか!」
 「あ・・パーティーの用意はしておきますからっ!」
 ルディアが出ていく6人の背中に言う。
 ツリーを奪還すれば白山羊亭で楽しいパーティーが始まる。


 星の願い丘に着いたのは、丁度夕日が地平線に沈んだ頃だった。
 丘の丁度中央に、チカチカと電飾がともったツリーがぽんと置いてある。
 「あそこ・・ですね。」
 他には何も無い。ただ広いだけの丘。
 近くに隠れられる所は無い。
 「でも、このどこかに怪盗・・盗んだ張本人がいるんだな。」
 エヴァーリーンがジュドーに何事か囁くと、その場を後にした。
 「もしもの時のための切り札・・だな。」
 ジュドーはそうとだけ言うと、きっとツリーを見上げた。
 「っつーこたぁ、やっとマッスル筋肉盆踊り選手権大会優勝候補者怪盗に会えるんだなっ!」
 オーマはそう言うと、ズカズカとツリーのほうに歩み寄った。
 エヴァーリーンを除いた残りのメンバーもその後に続く。
 丁度ツリーの直ぐ側まで来た時、チカリと何かが光った気がした。そう・・空で・・。
 「あっ・・。」
 見上げたそこには星がいくつも輝いていた・・その星が、何故かこちらに向かって落ちてきている・・!!??
 バラバラと降ってきた星は、地上に落ちると直ぐに四方八方にピョコピョコと散って行った。
 空は真っ暗・・星の願い丘の上には月が寂しく浮かんでいるだけだ。
 「なっ・・。」
 「大変ら〜大変ら〜っ!星が落っこったったぞ!みんなで集めなきゃ〜なの〜っ!」
 場にそぐわないほどにのんびりとした口調で、ツリーの影から小さな女の子が出てくる。
 真っ白な髪の毛と、赤い瞳が特徴的だ。
 少女の周りには、白く輝く光が取り巻いている・・。
 「あなたは・・。」
 「アタシの名前はナイラ。それよりも、大変ら〜!」
 「ナイラがツリーを盗ったのか・・?」
 「ふふ☆それはどーかしら〜ん?アタシはただ、ここに住まうヨーセーみたいなもんらもん♪」
 少ししたったらずな調子で話すナイラの表情はキラキラと輝いていた。
 その後から、ザッとエヴァーリーンが現れた。しかしその歩は、ナイラの数歩後で止まる。
 「アタシの周りには見えないものがあるんだど☆落っこちたった星は全部で6個だどっ!それをみ〜んな集めて持ってこないとツリーは返せないどっ!」
 どうやら、星を12個集めない限りはナイラに近づくことさえ出来ないらしい。
 「ここは、星を12個集めて持ってくるしか方法は無いだろうな。」
 「2人1組になるのが効率的かと思います。その場合・・1組2つの計算になりますが・・。」
 「そうした方が良いだろうな。」
 「それじゃぁ、私とエヴァ、オーマとアイラス、金剛とフィセルでどう?」
 ジュドーの提案に、頷く。
 「それでは僕達はこっちを探しますので、ジュドーさん達はあちら、金剛さん達はあっちを探してください!」
 アイラスが、星達が散って行ったと思われる方角を指し示す。
 「それじゃぁ、また後で・・。」
 フィセルの言葉を最後に、6人は2組に分かれて星を追いかけ始めた・・。


 ☆金剛&フィセル組

 金剛とフィセルは正面に小さく光る点を追いかけた。
 どうやらタラタラ走っていては到底追いつけない・・。
 2人は速度を速めると、グングンと星に近づいていった。
 小さく見えていた点が、ドンドンと大きくなる。
 そして・・。
 「2つ一緒・・か。」
 点は2つに分離した。
 「ふむ、好都合だ。」
 金剛が小さく呟く。
 星が直ぐ近くまで迫ってきた2人に気がつき・・叫んだ。
 「キャー!!火事よ〜っ!!」
 「・・・え・・・?」
 あっけにとられる2人をよそに、星たちはバラバラの方角に向かって飛んで行った。
 「言葉が話せるのか・・?」
 「しかも、火事とは・・。ともかく追うか。」
 金剛とフィセルが2手に別れる。
 2人の距離が遠くなってきた・・かと思うと、星達は円を書くように戻ってくる。
 そして、今度は金剛がフィセルの追っていた星を、フィセルが金剛の追っていた星を追い始める。
 するとまた星達はUターンをして・・・。
 2人は一旦追うのを止めて立ち止まった。
 「完全に遊ばれているな。」
 「けれど・・。星達の動きは規則的。つまり・・。」
 フィセルはそう言うと、金剛に何事かを囁いた。金剛が軽く頷く。
 「それで・・いくか。」
 2人は声を揃えてそう言うと、パチリと手を合わせた・・。

 数分後、2人は無事に星2つを手にナイラの元へと戻ってきた。
 そして、全員が揃った頃ナイラがゆっくりとこちらに近づいてきた。
 「はい、ご苦労なんらもん♪」
 ニコニコと手を差し出す。
 その手に全部の星を乗せた時、急にツリーが光りだした。
 「で、何故ツリーを盗んだ?」
 「キミ達をココに呼ぶためなんだどっ。」
 ナイラはそれだけ言うと、クルクルとその場で回った。
 手から星が弾け飛び、再び夜空で瞬き始める。
 「そりゃぁどう言うこった?」
 「25日になるとこうやって星達がいくつか落ちるんだど。でも、去年まではアタシが捕まえてたんだけど・・。年々数が多くなってきて、いい加減大変になったのら。」
 「それだったら、そう言ってくだされば僕達お手伝いしましたよ・・。」
 「そうそう、ツリーなんか盗まんでも人は集まったと思うぞ?」
 優しい言葉に、ナイラが恥ずかしそうに微笑む。
 「ありがとうなのら!」
 「来年も言ってくれれば手伝うよ。」
 「・・で、この予告状の事なんだが・・。」
 「予告状・・?」
 「ほら、コレの事よ。」
 エヴァーリーンが白い紙・・予告状を差し出す。
 「間違えたどっ!挑戦状って書くつもりだったのらっ!!」
 ・・挑戦状・・!?
 「なんだかなぁ・・。」
 「それで、この最後の“聖夜の大泥棒”って言うのは?」
 エヴァーリーンがもう一枚の紙を差し出す。
 それを見て、ナイラは少し微笑むと悪戯っぽい視線を上げた。
 「アタシの事なんだどっ☆」
 ツリーを盗んで・・聖夜の大泥棒・・?
 なんだか“大泥棒”と言うにはスケールが小さい気がするが・・それでも、ナイラが大泥棒と言うからには大泥棒なのだろう。
 「それでは、ツリーも取り返したことですし・・白山羊亭に戻ってパーティーをしましょうか。」
 「ナイラも行くぞ。」
 「え??」
 「俺のあげた血と涙タップリ☆デップリドップリ!な、クリスマスカード持ってんだろう?」
 「・・これぇ・・?」
 ナイラがポケットから一枚の封筒を取り出してオーマのほうに差し出した。
 「あ・・あの時の・・。」
 「そうそう、俺の愛情タップリドッキリ☆スペクタクルセンチュリーマッスル★クリスマスカードだ!」
 ジュドーがその手からクリスマスカードを取ると、ぱっと広げた。

 『親父愛マッスル状:そんなにツリーが欲しけりゃ、
  ホーリー腹黒ナイトに星の願い丘でお前さんに人面ツリーと君のマッスルボディにカンパイ☆な一夜を親父フォーユーしてやるぜ★』

 「・・・人面ツリー・・?」
 「おうおう、コイツラのことだ・・。」
 ガサリと音を立てて、オーマは袋の中からうねうねと踊っている草を取り出した。
 その一つ一つが結びついて、巨大なツリーになる。
 「それも白山羊亭に飾ると良いのらっ!」
 ルディアが見たらどんな顔をするのだろうか・・・。
 そう思いつつも、一向は星の願い丘を後にした。


 ★聖夜の大泥棒

 白山羊亭につくと、すぐにナイラがルディアに頭を下げた。
 「なぁんだ、そんなことだったら言ってくだされば・・。でも、こうしてツリーも戻ってきましたし、一緒にパーティーしましょうよ。」
 「ありがとうなのら!」
 白山羊亭のテーブルいっぱいに、豪華な料理が置かれていく・・。
 白いレールのテーブルクロスが料理たちを華やかに輝かせ、1つ1つのグラスに落とされた淡い宝石がカチャかチャと軽快な音を立てる。
 飾り付けられたツリーは煌き、白山羊亭の中を色鮮やかに照らす。
 「それで、みなさんどぉやって星を捕まえたんですか〜??」
 赤い顔をしながら、ルディアがよろめきながら尋ねる。
 「私達は・・ジュドーが星を追って・・。」
 「エヴァが鋼糸を張り巡らせて捕獲したんだ。」
 「そぉなんれすかぁ・・。」
 ルディアの呂律が段々回らなくなってくる。
 「俺達はフィセルが星達を追いかけて・・。」
 「金剛さんに落とし穴を作って貰ったんだ。そしてそこに落として・・。」
 「なんらかみなひゃんれんれんちらったやりかたなんひぇすれぇ〜。(なんだか皆さん全然違ったやり方なんですね〜。)」
 「俺らんとこはアイラスが星を追いかけて・・。」
 「これを・・星達の前に置いたんです。」
 アイラスが、白山羊亭の隅っこの方でうねうねと奇妙な踊りを披露している人面ツリーを指差した。
 ツリー達が一同の視線を受けて、恥ずかしそうにウネウネ・・もとい、クニャクニャと踊る。
 「それで・・捕まえられたの?」
 「おう!星達がこのプリティームンムンフェロモンるんるん★人面ツリー達にやられて立ち止まったんだ。」
 「そこを、捕獲したんです。」
 フェロモンでやられたわけではなく、きっと・・あまりの異様さに星達も思わず足を止めたのだろう。
 もしもこれを街中でふいっと見たならば・・固まる・・。
 「ねぇねぇみんな!外で雪合戦をしようら!雪合戦!!」
 ナイラが外を指差しながらはしゃぐ。
 とは言っても・・・雪なんて降っていない・・。
 「けれど、雪は降って・・。」
 「おぉっし!ここは腹黒ウキ★ドキ♪セクシーダイナマイツな具現能力でいっちょ雪でもトロピカルに降らせっか!」
 オーマがそう言ったとたん・・白山羊亭の窓にチラチラと白いものが落ちてきた。
 雪だ・・。
 立ち上がると、外に出る。
 「冷たくない・・。」
 雪は、確かに掌などに落ちると儚く解け消える。けれども、それは冷たさを伴わない終わりだった。
 「雪合戦なのら!アタシとジュドーとフィセルとオーマはこっち!ルディアとエヴァと金剛とアイラスはそっちなのら!!」
 ナイラがテキパキと指示する。
 ・・とは言っても、ルディアはとても雪合戦を出来るような様子ではない。
 「う〜ん・・それじゃぁ、人面ツリーをあげるのら!」
 それがどれほどの役に立つのかは分らないまま、アイラスと金剛でツリーを運んでくる。
 「それでは!開始なのらっ!!」
 白い雪球が行き交う・・一つ、一つと、ゆっくりと投げかわされる雪球・・。
 ナイラチームはそこそこやる気があるのだが・・人面ツリーチームのやる気が薄い。
 頑張って投げているのはリーダーくらいだ。
 「おい、ちょっと・・。」
 オーマが隣で球を作っていたジュドーになにかを囁いた。
 そして、2人でこっそりと親指を立てる。
 2人は手早く数10個の雪球をつく作ると、せーので一斉に投げた。
 「なっ・・。」
 狙いはアイラスとエヴァーリーンだ。
 2人は鍛え上げられた反射神経で、球を避けるが・・次々と繰り出される雪球に避けきれなくなりいくつかが身体や頭を直撃する。
 「ほら、エヴァ。真面目にやらないから。」
 「どーだ腹黒同盟の祝いの雪だまボンバー攻撃親父愛ムンムンみっちり★スペシャルは!」
 数分間続いたその攻撃は、球切れと共に終わった。
 エヴァーリーンとアイラスは、雪で真っ白になりながらフルフルと震えていた。
 「エヴァ・・?」
 流石に心配になったジュドーが呼びかける・・その途端、エヴァーリーンが持っていた雪球を投げた。それを寸での所で避ける。
 「いくわよ、ジュドー。」
 いつもと同じ、感情のあまり見られない表情・・しかし声の色だけははっきりと変わっていた。
 「エヴァーリーンさん。僕も手伝いますよ・・。」
 アイラスも低く言う。
 どうやら2人の導火線に着火してしまったらしい・・。
 「金剛さん!どんどん雪球を作ってください!」
 「・・石を入れても良いわ・・。」
 ・・・彼らは本気だ。
 「おい、やっべぇぞ!スペシャルミックスロイヤルマッスル!早いとここっちもスペシャル☆腹黒球を作らねば!!」
 「フィセル!こっちもドンドン球を作って!」
 「・・わかった・・。」
 どうやらフィセルも、やる気になってきたらしい。凄いスピードで手ごろな雪球を作っていく。
 金剛は大きな雪球をいくつも作る。
 目まぐるしいほどに、雪球が行き来する。
 あたったり、あてられたり。
 投げたり、投げられたり・・・。
 日ごろの色々な事はすっかり頭の中から抜け落ち、今はただ・・相手に雪球をぶつける事のみが支配していた・・。


 それから数時間後、かなりお疲れな様子で一向は白山羊亭の中に舞い戻ってきた。
 その体は、雪に濡れて真っ白だ。
 しかし冷たくはないし濡れてもいない。
 解けた雪は直ぐに蒸発して、身体に張り付くことは無かった。
 「みなさん、どうしたんですか・・その格好・・。」
 いつの間にか酔いのさめたルディアが、目を見開いて見つめる。
 「いや・・なんっつーか、青春ドキウキ☆メモリアルファンタジーっつーか、筋肉ムキメキ大雪合戦っつーか・・。」
 「とにかく、スープを用意したんで・・どうぞ。」
 ルディアはそういうと、ホカホカのスープを持ってきた。
 確かに外は寒かったが、なにぶん雪は冷たくない。一生懸命雪合戦で死闘を繰り広げてきた一向はかなり暑かった。
 取りあえず、出されたスープを一口だけすすって脇によける。
 「なぁなぁオーマ・・。」
 ふいにナイラがオーマの裾をちょいちょいと引っ張った。
 「・・あぁ・・?なんでぇ?」
 「あのな、オーマ・・こう言うのは出来のら?」
 ナイラがオーマの耳元で何事かを囁く。
 「あぁん?そんなの朝飯前、昼飯前、年中無休でハッピーラッキー!余裕余裕。」
 「それじゃぁ・・アタシが合図を送ったら外に出すのら。」
 「OK、OK。」
 ナイラはそう言ったきり白山羊亭から駆け出していった。
 「ナイラさんはなんて・・?」
 「ちょっくら、雪と花火のオンステージin白山羊亭前、親父愛の最高傑作、打ち上げ師はこのオーマ。腹黒スペシャルなナイツをフォーユー!」
 「雪と花火・・か・・。」
 その時、白山羊亭の中にか細い笛の音が響いた。
 合図だ。
 オーマが全員を外に連れ出す・・。
 そこには空に咲く大輪の花が浮かんでいた。
 音は無い。しかし、花が散ると同時にそこから白い雪がキラキラと降ってくる。
 そしてそれは途中で七色に輝きだし、エルザードの町並みを染め上げる。
 「綺麗だな・・。」
 そう言った時、ふっとエルザード内の電燈が消えた。
 町が闇の中に沈みこむ・・。
 「月が・・。」
 フィセルの呟きに空を見ると、月がなくなっていた。
 いや・・それだけではない。星の輝きも・・空には浮かんでいなかった。
 漆黒の闇が辺りを包み込む中、オーマの具現の花火と雪だけが唯一の光として輝く。
 大輪の花が、枯れては雪が舞う。雪が舞っては、七色に輝く・・。
 幻想的な、雪と花火のステージ・・。
 雪の降る微かな音だけがエルザードの町に響く。
 しんしんと、キラキラと・・。
 「聖夜の大泥棒・・この事だったんですね・・。」
 「星と月・・そして灯りを盗んだのか・・。」
 「とんだ大泥棒ね。」
 「でも・・。」
 聖夜の大泥棒・・盗んだものは明日には戻っているだろう。
 けれどこの光景は思い出の一端になり、忘れない限り永遠に花開き続けるのだろう。
 聖夜の大泥棒・・とんだサンタクロースだ・・。

  
     〈END〉


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

  1149/ジュドー リュヴァイン/女性/19歳/武士(もののふ)

  2087/エヴァーリーン/女性/19歳/ジェノサイド

  2251/金剛/男性/180歳/拳闘士

  1378/フィセル クゥ レイシズ/22歳/魔法剣士

  1649/アイラス サーリアス/19歳/フィズィクル アディプト

  1953/オーマ シュヴァルツ/39歳/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り


  *受注順になっております


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■         ライター通信          ■
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この度は“聖夜の大泥棒”にご参加いただきありがとう御座いました!
 ライターの宮瀬です。
 今回、皆様“怪盗が悪い人とは思えない”とプレイングにお書きくださり、このようなお話が出来上がりました。
 きっと星の願い丘には来年も星が落ちるんでしょうね・・。
 この“聖夜の大泥棒”は怪盗(泥棒)がサンタクロースと言う展開を作りたいと思っておりました。
 思ったとおりにかけたとは思っておりますが・・如何でしょうか?
 なるべく皆様のプレングに沿うようにと執筆いたしましたが、十二分に生かせない点があったと反省をしております。


 フィセル クゥ レイシズ様

 初めまして、この度はご参加ありがとう御座います。
 星捕獲作戦では、策士として・・雪合戦では球作り師として・・色々と動き回っていただきました。
 フィセル様はクールな印象を受けましたので、それほど雪合戦にも熱くはなっておられないと思いましたが・・雪球作りは素早く、御2方に雪球を提供しておられたことと思います。
 フィセル様の言動は基準にクールを、それでいて冷たくならないように・・を、心がけましたが如何でしょうか?
 上手く表現できていれば嬉しく思います。

 それでは、またどこかでお逢いしました時はよろしくお願いいたします。