<PCクエストノベル(1人)>
3分の2の捩れ“天空の塔”〜クーガ湿地帯〜
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1953/オーマ シュヴァルツ/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【助力探求者】
なし
【その他登場人物】
【大蜘蛛/クーガ湿地帯に住む大蜘蛛】
【リュス/大蜘蛛の巣を襲ったウォズ。捩れの空間に住む】
【ガラン/捩れの空間に住む、少々クールな男】
【偽大蜘蛛/リュスと行動を共にしている大蜘蛛】
【姫/天空の塔の最上階にいると言う・・・】
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クーガ湿地帯には大蜘蛛が生息している。凶暴と噂される大蜘蛛。
しかしそこを訪れる冒険者が少なくないのは、大蜘蛛の糸が高値で取引されるからだ。
そう・・そこに生息している蜘蛛の都合なんてお構い無しに、冒険者達は糸を求めて大蜘蛛のねぐらを訪れる。
大蜘蛛もまた、冒険者達の都合なんてお構い無しに攻撃を繰り出す。
双方命がけの戦い。
生活を守るためなのは、・・双方とも同じだ。
どちらも、悪くはない・・。
■□■
オーマ シュヴァルツはそこで生活を営んでいる蜘蛛と仲が良かった。
色々な諸事情により仲良くなった大蜘蛛を訪ねては、世間筋肉話に興じ、腹黒スパイダー見合を進めてみたりもした。
湿地帯を荒らす者はイロモノ返り討ち奥義を炸裂させ追い返したりして大蜘蛛との親父愛交流を深める日々。
最初は見向きもしなかった大蜘蛛だが、最近ではオーマが来るとこちらに出てきて挨拶を交わすほどにまでなった。
オーマ「おぅ、今日も筋肉ムキムキ、マッスルパワーでゴー!ってか?」
大蜘蛛「・・・・・・・・・。」
フルフルと震えながら、何も答えない大蜘蛛。
大蜘蛛「・・まが・・。」
オーマ「あぁん?」
大蜘蛛「貴様が来るとロクな事がないっ!!」
大蜘蛛はそう言うと、オーマに向かって白い糸をぺっぺと吐き出す。
オーマは身軽にそれを避ける。
丁度先ほどまで、糸を取りに来た冒険者達と死闘を繰り広げていた大蜘蛛はやってきたオーマの力によって助かったようなものだった。
それなのにこの仕打ち・・。
オーマの脳裏に、ちらりと麗しい地獄の大奥様の顔が浮かんだ。
大蜘蛛「貴様が来る日に限ってああ言うやからが訪れるっ!きっさっまっがっ!!」
とんだ言いがかりだ。
しかし、大蜘蛛はオーマに向かって糸を吐き続け、オーマもそれを身軽に避けていく・・。
大蜘蛛とのスウィーツな愛は、日々こうして育まれて行くのだ・・。
□■□
その日も、オーマは大蜘蛛を訪ねて湿地帯を歩いていた。
本日はどのような筋肉話に花を咲かせようかと思いをめぐらせていた時、視界いっぱいに大蜘蛛の姿がうつった。
それも、瓜二つな大蜘蛛2匹・・。
なんだなんだ、大蜘蛛のヤツ、ラブラブな彼女でも作ってスウィーツラヴ☆ターイムでも満喫しているのか?と思いつつ近づいてみるが・・どうやらそうではないらしい。
大蜘蛛が・・大蜘蛛に襲われている!
しかも、大蜘蛛よりも大蜘蛛のほうが遥かに力が強く、大蜘蛛が大蜘蛛を大蜘蛛・・・。
オーマ「やいやいやい、喧嘩かぁ〜?そう言うのはなぁ、この腹黒大統領のこのオーマさ・・。」
大蜘蛛「また貴様かっ!これだから貴様が来るとロクなことないんだっ!」
オーマ「おう、言ってくれんじゃねぇか。あんなに毎日毎日スウィーツでダイナマイトなあっつぅ〜っい関係でラブラブ・・。」
大蜘蛛「それは貴様の妄想だっ!まったく、本当に貴様が来るとロクな・・。」
オーマに向かって怒鳴り散らしていた大蜘蛛の身体が、後方に吹き飛ばされる。
オーマは素早く大蜘蛛の側に行くと、前に立ちはだかった。
オーマ「そんで、コイツはなんなんだ?見た所、おめぇさんのキューティーでラブリーなハニーってわけじゃ、なさそうだが・・。」
大蜘蛛「アイツは男だっ!そんな趣味は無いっ!」
オーマ「つったってよぉ。最近は世界も寛容になってきて、腹黒親父的ワールドな視点で・・。」
大蜘蛛「たわけっ!そんな話をしている場合かっ!この状況をどうするか、そこを第一に考えなければならぬのではないかっ!!」
オーマ「んで、どうしてこんなミステリーかつファンタジーなドッペルゲンガーが現れたんだ?」
大蜘蛛「知らぬわっ!目覚めたらこやつが巣を荒らし・・。」
オーマ「つま〜り、おめぇさんに非はねぇっつーこったな?」
大蜘蛛「当たり前だ!」
オーマ「おめぇさん、ここいらでちょーっと顔に傷のある人をグルグルーにして砂の中にひょひょいっと生き埋めにした経験なんかねぇか?」
大蜘蛛「ここを荒らしに来る不届き者の顔など覚え取らんわ!そもそも、何故顔に傷があるもの限定なのだっ!」
オーマ「そりゃぁよぅ、グレイトでイロモノなや・・。」
オーマと大蜘蛛の話に痺れを切らした偽大蜘蛛が、2人めがけて糸を吐き出した。
それを難なく避けると、地面に着地しようとした・・瞬間、凄まじいスピードで偽大蜘蛛が糸を吐き出してきた。
避けられない、そう思った時には既に2人とも偽大蜘蛛の糸にからめ取られてしまっていた。
糸はドンドンと吐き出され、オーマと大蜘蛛を飲み込んでいく。
少し粘り気のある糸は、もがく手足をなおさら縛りつける。
体全部が糸に巻かれ、顔の方にまで糸が来た時・・オーマの視界にカレが映った。
人型の・・ウォズ・・。
なんで、こんな所に・・・。
オーマの視界が閉ざされ、その思考も・・闇に閉ざされた。
■□■
オーマは、何かが胸の辺りでもぞもぞと動き回る感触で目が覚めた。
小さな虫が這いずり回っているような感触に、僅かに顔をゆがめる。
くすぐったい・・。
しかし、パカリと開いた胸元には何もいなかった。
銀色のアクセサリーがジャラリと重い音を立てただけだった。
それにしても、ここはどこなのだろうか?
真っ白な空間・・。それも結構狭い・・。
オーマは未だにすっきりとしない頭に鞭打って考え出した。
朝から麗しい地獄の番犬様こと、麗しの奥様に叩き起こされて・・逃げるようにクーガ湿地帯に・・。
脳裏に、大蜘蛛と大蜘蛛のデス☆マッチの映像が流れ込んでくる。
そうだ!!
偽大蜘蛛の糸にからめ取られて・・。
オーマはキョロキョロと辺りを見渡した。大蜘蛛の姿が無い・・。
確かに、一緒にマキマキされたはずだ。それなのに、どうして・・。
???「貴様は何処を向いているっ!ここだっ!!!」
ふいに聞こえてきたか細い声に、オーマは目を皿のようにして声の主を探す。
随分とプリティーボイスになってしまっているが、あのしゃべり方は大蜘蛛だろう。
しかし、何故あんなにか細く可愛らしい声になってしまっているのだろうか・・。
オーマはそんな事を考えながら右へ左へキョロリキョロリと視線を彷徨わせるものの、大蜘蛛の姿形は見えない。
???「ここだ!こっこっ!!!」
幾分苛立った声と共に、オーマの胸元がもそもそとくすぐったくなる。
もしやと思い・・視線をそちらにスライドさせる。
パカリと開いた胸元に、ジャラリと揺れる銀のアクセサリーそして・・・。
そのアクセサリーの中に埋もれるようにしてチョコリといるのは・・。
オーマ「大蜘蛛〜っ!?っつーか、なんてぇの、大蜘蛛って言うより子蜘蛛!?ミニマム腹黒サンキュープリティー蜘蛛!?」
大蜘蛛「うるっさ〜いっ!なんなんだ、なんなんだその軽い言動は!なぜ、なぜこんな姿になっているのだ!」
オーマ「ってーか、普通に・・どっちがどうなったわけ?」
大蜘蛛「・・なにがだ?」
オーマ「俺がムキムキビッグ★サイズ!になったのか、おめぇさんがプリティーミニマムサイズ☆になったのか・・。」
大蜘蛛「貴様だっ!貴様が無駄にでかくなったのだ!そうだ、きっとそうだ・・。」
オーマ「っつってもよぅ、俺がマッスルビッグになったとしても・・糸がでかくなってないんだからやっぱりおめぇさんが・・・。」
大蜘蛛「うるっさい!良いのだっ!おかしくなったのは我ではなく貴様だっ!」
どうやら、プリティーミニマムサイズになったのがよほどお気に召さないらしい。
ピュッピュと白い糸をオーマの胸元に吐き出していく。
・・が、その威力はまったくない。
大蜘蛛「ともかく、この中から出るのだ!はやく、巨大馬鹿っ!はやくここから出さんかっ!」
この傍若無人っぷりにはオーマも慣れていた。
そう、こういう性格のものを相手にする時は決まって逆らわない方が良いのだ。
相手のためにも・・そして何より自分の生命のためにも。
それを教えてくれたのは、オーマの妻であり、麗しの番犬様だ。
オーマはビッと片手を糸に突き当てた。
糸・・と言うよりは、繭に近い状態なのだろう。
あっけなく外が顔を覗かせる。オーマはそこから更に腕を差し込んで、繭をバラバラに割った。
そして、そこから外に出る。
オーマ「どうやら、別段ファンキーな場所に飛ばされてるってわけでも・・。」
大蜘蛛「貴様の目は節穴かっ!いや、節穴だ!そんな役に立たない目なんて捨ててしまえっ!!」
オーマ「つったってよぉ・・。」
大蜘蛛「アレが見えんのかっ!あの、意味不明にでかい建物がっ!!」
大蜘蛛がびょこびょことオーマの胸元ではねる。
その姿はさながらノミのようだ。大きさが大きさなだけに、なおさらそう見える・・。
オーマは大蜘蛛がビョコビョコと指す方角を眺めた。
そこには・・天にも届くかと思われるほどに高いが1つ立ちはだかっていた。
その色はショッキングピンクだ・・。
・・・なんてセンスの無い配色・・見た方がショッキングだ。
オーマはずっと上を見上げた・・
見える限りでは一番上が見えない。
オーマ「・・なんだありゃぁ・・。親父イロモノラブリーピンク全開のムネキュン☆塔は・・?」
大蜘蛛「本当に貴様は緊張感が無い・・。なんだか我がここまで焦っている事がおかしな事のようではないかっ!」
オーマ「っつったってよぉ、ここはクーガ湿地帯だ。それは異論ねぇな?」
大蜘蛛「確かにココはクーガ湿地帯だ。」
オーマ「んでもって、そんじゃぁここはどこだ・・?」
大蜘蛛「知らん。だが・・ソーンではない。」
オーマ「それよりあの、ムラムラ☆ズキューンなウォズと大蜘蛛は何処に行ったんだ・・?」
大蜘蛛「そんな事は知るかっ!それよりも、とっととソーンへ帰るぞ!そして、我を元の大きさに戻せっ!」
オーマ「んで、どーやってこっからソーンに帰れば良いんだよ、プリティーミニマム☆腹黒ムネキュン大蜘蛛よぉ。」
大蜘蛛「なんじゃその“ぷりてーみにまむ”とか言う奴は!我はただの大蜘蛛だっ!」
オーマ「(ぷりてー・・?)まぁ、そいつぁ置いといて・・どぉすりゃ良いんだ?」
大蜘蛛「たわけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜っ!!!!!!ここに、あの塔以外に一体全体何があると言うんじゃぁっ!!」
オーマ「わ・・分った、分ったから落ちつけ。な?ほら、親父愛ターップリの弁当もこうして持ってきたことだし・・な??」
オーマはそう言うと、崩れかけた糸の中からお重を取り出した。
紫色の風呂敷包みをパラリと解き、漆黒に濡れたお重を取り出してパカリと開いた。
大蜘蛛「貴様といると、頭が痛くなるっ!糸がなくなるっ!寿命が縮まるっ!」
大蜘蛛が、オーマの胸元でゴロゴロと身もだえする。
どうやら、愛情タップリ弁当がお気に召さなかったらしい。
・・まぁ、今の大蜘蛛にとって見れば巨大な食べ物の山のようで・・己が小さくなった事をまざまざと見せ付ける存在なだけに嫌なのだろうが・・。
オーマは元通りお重をしまうと、塔に向き合った。
目もくらむほどに高い塔は、存在自体が圧倒的だ。
オーマ「それじゃぁ、再び協定を結ぶかっ!」
大蜘蛛「仕方がない・・。しかし、ソーンに帰るまでだからなっ!」
オーマとミニマム大蜘蛛は、天にまで届くかと思われる塔の中に入っていった・・。
□■□
塔の中は、荒れ果てていた。
ショッキングピンクで友好的な外見とは異なり、塔の中はむき出しの石の壁や今にも崩れそうな石の柱があり、外からの訪問者を歓迎してはくれない。
ところどころ崩れた所もある。
酷い有様だった。
大きなホールの左右に置かれている天使の像の羽が落ちている。
その手に捧げ持っている丸い球は、黒くすすけている。
オーマ「なんだこりゃぁ・・。随分と荒れ果ててんじゃねぇか・・。こんな中にソーンに戻る素敵転送装置があんのかぁ・・?」
大蜘蛛「分らん・・が、ココ以外に外には何もないと・・さっきから言っとろ〜がっ!!」
どうやら、小さくなったストレスのせいで怒りっぽくなっているらしい。
びょこびょことのみのように跳びまわる大蜘蛛の姿は、なんだか可愛らしかった。
オーマ「んで、おめぇさんよぉ。そこでびょこっびょこ跳びまわんのは良いけど・・あんましびょこんびょこんやられっと、潰しちまう可能性が・・。」
大蜘蛛「そんなものは貴様が気をつけんかっ!何のための巨体だ!なんのためのデカイ身体だっ!」
少なくとも、大蜘蛛を潰さないようにするための巨体でない事だけは確かだった。
だがそんな事を言われたところで、こんなミニマムサイズの大蜘蛛を何かの弾みで潰さないと言う約束は出来なかった。
なにせ今の大蜘蛛は普通の蜘蛛よりも小さい。
大蜘蛛という名のミニマム蜘蛛・・。
これをプチっとすることは簡単だが、そうしないようにすることは難しかった。
オーマはミニマム大蜘蛛を気にしつつも、塔の奥へと進んで行った・・。
床に転がる瓦礫の山に、足を取られないように・・それでいて、足元ばかりに気を取られないように・・。
大蜘蛛「おい、貴様・・。聞こえるか?」
ふいに大蜘蛛が、緊迫した声を出した。
オーマは耳をすませた・・。
何かが、聞こえてくる・・。なんだ・・?人の・・話し声・・??
すると、いくつか先の部屋らしき所から1人の青年が姿を現した。
ウォズだ・・。さっきの・・。大蜘蛛の姿もある。
そしてもう一人・・長身の男の姿・・。
???「さっさとしろ!どうして湿地帯ごとこちらに持ってきてしまったのだ!しかも、あの大蜘蛛と・・大柄の男までこちらに転送して・・!」
???「すみませんっ!!こちらの不注意で・・。今、転送装置を直している所ですが・・。」
???「言い訳など聞きたくない!!さっさとしろ!湿地帯とあやつらを元に戻せ!いいな、今、すぐにだっ!」
男が、持っていた大鎌を青年の喉下に突きつける。
青年が小さな悲鳴を漏らすが・・それは、息が出入りする音ほどに微かなものだった。
顔色がどんどん青くなる・・目は既に涙目だ。
流石のオーマも、痺れを切らした。
目の前でこんな事をされて黙っていられるほど、オーマは無神経ではない。
オーマ「おうおうよ〜。こんなとこで仲間割れか?ここはひとつ、悩殺ラブリー親父愛ミックススペシャル弁当でも食って、仲直りといこうや〜。」
???「・・お前・・湿地帯ごとこちらに運ばれてきた・・。」
オーマ「あぁ、俺は聖都公認腹黒同盟総帥のオーマ シュヴァルツっつーもんで・・。」
???「知っている。聖都公認うんぬんは知らぬが・・・。私の名はガラン。この天空の塔に住んでいる。こっちがリュスだ。」
リュス「あ・・はじめ・・まして・・。」
ガラン「それで、あの大蜘蛛は何処に行った?見た所一緒ではないようだが・・?」
オーマ「いんやぁ、一応一緒なんだがな・・。」
大蜘蛛「一応とはなんだ!一応とは!貴様、またそうやって我を馬鹿にしおって!このっ!このっ!!」
ガラン「・・なんだ・・?声だけは聞こえてくるようだが・・。」
リュス「あ・・ガラン様・・ここです・・。」
リュスが、大蜘蛛を指差した。
ガランが、一瞬だけポーカーフェイスを“はぁっ?”とでも言いたげな顔に崩した。
それはそうだ。
あんなに大きかった蜘蛛が、いつの間にかミニマムサイズでご登場なのだ。そりゃぁ、顔を崩したくもなる。
リュス「多分・・ここに来てしまったせいで・・。」
オーマ「んでよぅ、ここは一体全体何処なんだ?見た所、湿地帯自体はソーンだが・・場所はイロモノワンダーワールドになってるが・・。」
リュス「ここは、元の世界よりも“3分の2”捩れた場所にあるのです。」
オーマ「するってーと、場所自体はソーンっつーこったな?」
リュス「えぇ。空間自体は違いますが、場所はオーマさんの言うソーンと同じ所です。」
オーマ「ここがどこかっつーのは分った。んで、おめぇさん達は何のためにソーンまで来て大蜘蛛と俺のラブラブ住処を荒らした?」
大蜘蛛「貴様と“らぶらぶ”になった覚えはない!!妄想をこんな所でも発揮するなっ!!」
大蜘蛛がびょこびょこと跳びはね、白く細い糸を吐き出す。
それをガランは呆れたような顔で見つめ、リュスは微笑みながら見つめている。
リュスの顔色も元に戻っている・・。
リュス「この塔のてっぺんに、ある姫様が寝ておられるのです。花のように可憐な姫様・・。ご病気で、この塔からは出られない姫様・・。」
ガラン「姫の病気の薬として、大蜘蛛の糸が大量に要るのだ。」
リュス「本当は、力ずくで奪うような真似をしたくは無かったのですが・・。ゴメンナサイ。」
リュスが、オーマと大蜘蛛に頭を下げる。
オーマはその頭をポンポンと叩くと、顔を上げさせた。
オーマ「緊急だったんだろう?仕方ねぇじゃねぇか。それよりも、水くせぇなぁ。言ってくれりゃぁ俺らただって全然マッハでオールOK、全速力でGO☆力になったのに、なぁ大蜘蛛・・?」
大蜘蛛「・・・・。」
リュス「一度、お願いにはあがったのですが・・。」
オーマ「おいてめぇ!みずくせぇじゃねぇかよっ!腹黒同盟掟第389条!困った時はお互い様精神を忘れたのかっ!?」
大蜘蛛「我は腹黒同盟などではない!そもそも、少しばかり糸を分けてくれと言うのならば考えたかも知れぬが、全部の糸をくれといわれて、ひょいひょいとあげられるわけがなかろうっ!」
オーマ「それはそうだけどよぉ・・。」
リュス「良いんです。始めから無理なお願いだったのですから・・。」
ガラン「リュス、話はそのくらいにして、さっさと2人を元の場所に戻せ。大蜘蛛のサイズもきちんと戻せ。」
リュス「はい・・。」
ガランの一言で、リュスがペコリと一礼するとその場から駆け出していった。
その後を大蜘蛛が追いかける。
ガラン「ここは世界から3分の2捩れた場所にある。そのため、世界とは相容れぬ。」
オーマ「どういうこった?」
ガラン「リュスが、湿地帯とお前らをこちらの世界に引き入れてしまったために、塔自体が世界と時を同じくしようとしている。」
オーマ「だから、それは・・。」
ガラン「この、塔の荒廃はついさっきの出来事だ。柱がボロボロになり、階段がいくつか崩れた。」
オーマ「つまり、俺らがこっちにきたから、こうなったってわけか?」
ガラン「簡単に言うと。」
大蜘蛛「我の姿もそうなのか?」
ガラン「だろう。少しの捩れでも、時と言うものは拒絶する。その反動はそこに住まう全てに影響を及ぼす。」
オーマ「それで、最上階にいる姫は大丈夫なのか?」
ガラン「もともと、あの姫は死ぬことが許されぬ。・・だから、世界から捩れたこの世界にいる・・。私の言っている意味が分るな?」
オーマ「つまり、世界だけでなくそこにいるやつらも世界から捩れた場所にいるって事か?」
ガラン「そうだ。お前の身体になにも変化が起きないのを、不思議に思う。こちらの世界と相容れぬ場合、身体に何かしらの影響を受けるはずなのに・・。」
大蜘蛛「しかし、あのリュスと言う男と大蜘蛛は、我の前に現れた時あのままだったが・・?」
ガラン「リュスも大蜘蛛も、もともとあちらの存在だ。心の捩れでこの世界にいるだけ・・。」
リュス「オーマさ〜ん、大蜘蛛さ〜ん。できました!」
リュスが、向こう側からパタパタと走ってくる。
オーマ達の前で止まると、肩で息をしながら晴れやかな顔を覗かせた。
リュス「出来ました!こちらにどうぞ!ソーンに帰しますっ!」
リュスが、オーマの手を引く。
オーマはガランの方を振り返ると、一つだけ疑問に思った事を口に出した。
オーマ「俺らが帰ったら、ここはスペシャルビューティー☆な塔に戻るのかよ?」
ガラン「・・分らぬ。今までそういったことがなかったからな。しかし、崩れ落ちることは無かろう。」
オーマ「んじゃぁ、最上階で寝てるっつーお姫様によろしく言っといてくれや。」
ガラン「・・面白いヤツだ。なんと言えば良いのだ?」
オーマ「スペシャル☆ダンディーな聖都公認、腹黒親父同盟総帥の筋肉ムキムキ★オーマが来たってな。」
ガラン「その言葉全てを覚えられるかどうかは不安だが・・ニュアンスだけでも、伝えておこう。」
オーマはガランに向かって片手を上げると、リュスの導きに従って小さな部屋に入った。
そこには大蜘蛛の糸が張り巡らされ、その中央には四角く光る台座が置かれていた。
リュス「これが転送装置です。本当、僕の不注意でこんな所まで引っ張ってきてしまい、申し訳ありませんでした。」
オーマ「なぁに、このワンダースペシャル★ビッグな心はひろーい海原のごとき・・。」
大蜘蛛「良いから、さっさとしろ。」
リュス「本当に、仲が良いんですね・・。」
オーマ「だろう?コイツと俺は周りが妬くほど、スウィーツな関係で・・。」
大蜘蛛「誰が“すうぃーつ”だっ!貴様は、本当にロクな事を言わん!貴様といると、不幸になる!このっ!このっ!!」
大蜘蛛とオーマのじゃれあいに、リュスが小さく声を上げて笑った。
いかにも、心の底からおかしいと言うように・・。
リュス「さぁ、そろそろ時間がありません。こちらへどうぞ・・。」
オーマ「なぁ、聞いてよいか?」
リュス「なんです?」
オーマ「おめぇさんは、どうしてここにいるんだ?ガランのやつは、心の捩れでいるつってたけどよぅ。」
リュス「えぇ。少しだけ、普通よりも根底の心が捩れているんだそうです。まぁ、僕はどこにいても僕ですから・・。それに、一番上で眠る姫様も気になりますし。」
オーマ「一番上で眠る姫っつーのも、捩れてるのか?」
リュス「命の期限が、捩れてるんです。病気で、今にも死にそうなのに・・何年も死ぬ事が出来ない。それが、彼女に科せられた“罪への償い”だから・・。」
オーマ「償い・・?」
リュス「って言っても、僕にもよく分りません。ただ・・この塔には過去の秘密が色々と隠されているんです。けれどそれは色々な仕掛けがあって。」
大蜘蛛「開くことは容易ではないという事か?」
リュス「えぇ。でも、僕とガラン様で紐解いていくつもりです。どうせ長い生をもらったのですから・・。」
大蜘蛛「それで、ガランと言う男は何者なんだ?」
リュス「この世界を作った人です。姫様の・・お兄様・・。」
リュスが言った時、パアっと視界が光り輝いた。
転送装置が作動したのだ。
リュスが小さく手を振って、別れを告げる。
オーマは大蜘蛛を両手の中に入れた。万が一、飛ばされては大変だ。
視界が光に染まるのとは対称的に、意識は闇へと閉ざされた・・。
■□■
???「おい、貴様!さっさと起きろ!このっ!はやく起きろ!大変だ!」
オーマの頭に、ガンガンと言葉の金槌が振り下ろされる。
闇だった意識に、一筋の光が差す・・。
オーマはゆっくりと目を開いた。
視界いっぱいに、青年の顔が広がる。
見た事のない顔だった。
精巧に作られた人形のように繊細な顔・・はっきり言って、美しかった。
???「起きたのなら、しゃきっとしろ!このたわけがっ!」
オーマ「・・おめぇさん・・一体全体誰なんだ?」
???「我の顔を忘れたかっ!当たり前だ!我とて、こんな姿になって驚いているのだからな!」
青年の言葉は、どこかおかしかった。
どうやら彼も、相当何かに驚いているらしい。
それにしても、誰なのだろう・・?
???「大蜘蛛だ!あの、一時は屈辱的なまでに小さくなったが・・。」
オーマ「お・・大蜘蛛!?おいおい、嘘だろう?あの、ミニマム大蜘蛛が、なんでこんなグレイトでイロモノ全開、セクシービームビンビン★な腹黒親父に!?」
大蜘蛛「貴様、いちいち変なものをくっつけるな!なんだその“せくしーびーむびんびん”とは!」
オーマ「それよりも、どうしてそんな姿になっちまったんだよ!?なんだなんだ、天変地異か?腹黒大魔神大襲来か!?」
大蜘蛛「あれだ!」
大蜘蛛が、すっとある場所を指差した。
そちらに視線を向ける・・。
天高くそびえる、ショッキングピンクの塔。
あの“3分の2捩れた世界”で見た、てっぺんに姫君が寝ていると言う塔・・。
オーマは辺りを見渡した。
クーガ湿地帯の向こうには、ソーンの風景が広がっている。
オーマ「ここは、ソーンだよな?どっからどう見ても・・。」
大蜘蛛「塔がこちらに来たのだ!」
オーマ「なんでだ・・?」
大蜘蛛「知らぬわ!また、あのリュスとか言う男が転送に失敗でもしたのか・・それとも・・。」
オーマ「塔の時が、こちらに合ったのか・・。」
大蜘蛛「こちらは正規の世界だ。影響は無い。しかし・・あの塔の中にいる者達は・・。」
影響を受ける。
それも、多大なる・・。
塔の中にどれほどの人物がいるのかは分からない。しかし、言える事は“姫”と“ガラン”は影響を確実に受けると言う事・・。
オーマ「リュスと大蜘蛛はもともとこちらの世界のもんだ。でも、ガラン達は・・。」
大蜘蛛「あちらの世界のものだ。」
その時、塔の扉が勢い良く開かれて中からリュスと大蜘蛛が出てきた。
オーマと大蜘蛛が走りよる。
オーマ「おいリュス!大丈夫か!?それよりも、これはどう言う事だ!?」
リュス「あちらの世界と、こちらの世界の時が合わさったんです!だから・・こちらの世界の力に引き込まれて・・!!」
オーマ「それで、中はどうなってんだ!?」
リュス「空間の狭間にいた“怨念”が溢れ、中にいる人達を襲っています!姫様を助けに、ガラン様が最上階に向かい・・!!」
大蜘蛛「怨念・・?」
リュス「空間の狭間で死に絶えた者達の、負の心です。あいつらは、生きている者達を食す・・。はやく・・はやくみんなを元の空間に戻さないと・・!!」
オーマ「方法は!?」
リュス「ガラン様のお力を借りて、僕がみなさんを元の場所に戻します!」
大蜘蛛「つまり、ガランを助けなくてはならんのだな?」
リュス「・・他の・・みんなも・・。僕のせいで・・。」
オーマ「わぁった。全員助ける。これで良いんだろ?」
リュス「ありがとう御座います!!僕も・・大蜘蛛も、一緒にお供します!大蜘蛛はともかく・・僕はなにもできませんが・・。」
大蜘蛛「しかたがない・・。貴様との協定はまだ有効だったな。我も手伝おう・・。」
大蜘蛛はそう言うと、立ち上がった。
オーマは、すっと塔を見つめた・・・。
〈3分の2の捩れ“天空の塔”〜クーガ湿地帯〜 END〉
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