<クリスマス・聖なる夜の物語2004>


聖なる夜の物語:Light Light Christmas

■物語の始まりは……
「クリスマスの夜にだけ現れる、光る実のなるモミの木がある」
そんな噂が流れたのはいつのころからだったか。

 ある森の奥深く。一本の大きなモミの木があるという。
 その木にはクリスマスイブの夜にだけ、ほのかに光る小さな実がたくさんなるのだそうだ。
 それを食べれば願いがかなう、愛する人と食べれば恋人になれる……。
 まぁ、要は幸せになれるということらしい。
「そのモミの木の情報なんだがな、つい最近目撃された、という情報が入ったんだ」
各地の情報を仲介している、バーの店主はにこりと笑みを浮かべる。
 こんな話に耳を傾けたあなたに、彼は更に一言付け加えた。

「ただな、その木の周りに怪物がうろついているって話も聞いている。
 行くんだったら気をつけてな」

■幻翼人・リースの小さな冒険記
「幸せになれる、光る木の実かぁ……」
マスターの話に目を輝かせたのは、活発そうな、くりくりとした目をした女の子、リース・エルーシアだった。
「それ自体も珍しいけど、クリスマスだけ実がなるっていうのが神秘的だね」
 これ、というはっきりした願いはまだ考えていなかったが、世にも珍しい現象への好奇心が彼女を木へ向かわせた一番の理由だった。
「でも、木の側には怪物もいるかも知れないんだね……。できれば、穏便に済ませたいな。ね? みるく」
「みゅう」
リースの肩の上で、蝶の羽根を持つウサギ、みるくが鳴き声を上げる。

 彼女らが向かったのは、街から程近い小さな森。歩いて半日とかからない場所にある。
「こんな近くにあったなんて気付かなかったなぁ……」
マスターの話によればその木は毎年、現れる場所が違うらしいとの事。
 今年は偶然、この森にあるのを旅人の一人が見つけたらしい。
 森自体はさほど大きくない。そして何より……。
「あっ! あの木だねっ」
森の真ん中辺りに一本、他の木々よりやや大きなモミの木が伸びている。そのモミの木は所々ほんのりと黄色い光を放っている。
 それは、まるでクリスマスツリーのようにも見える。あの光を目印にすれば、あまり迷わずに木の根元までたどり着けるだろう。
「綺麗だねー……。よし、行ってみよう!」
「みゅぅ」
 元気よく、彼女は森の奥へと踏み込んでいった……。

■モミと、竜と、少女
 木々の間から見えるかすかな光を目印に目的のモミの木まで近づいてきたリース。
 木が近くなるにつれ、みるくが鼻をひくつかせる。リースの元にも、ほのかに甘い香りが漂ってくる。
「なんだろう? あの実の香りなのかな?」
 そうするうちに森が小さく開けた場所に出た。
 森の真ん中にぽっかりとあいた空き地の真ん中、あのモミの木が静かに、そして凛として立っていた。
 そして、その根元には……。
「あ、あれが噂の怪物だね……」
 モミの木の根元あたりに何かがいる。近くの茂みに身を潜め、様子を伺う。

 そこにいたのは体長2メートルほどの、深い緑の鱗をした竜だった。
 蛇に似た、上質のエメラルドのような光沢を持つ身体をくねらせ、しきりにモミの木の幹に巻きつこうとしている。
 しかし、モミの木の幹は彼の身体よりはるかに周囲が長く、少しよじ登ってはどさり、よじ登ってはどさりと落ちている。
 時々、竜は木を見上げ、小さく鳴き声を上げる。
「きゅー……」
 その目は、とても落ち込んでいるように見えた。
「もしかして、実を取ろうとしているのかな?」
小さくつぶやいたとき、ひれのような耳がピクリと動いた。くるりと振り返ってきょろきょろと辺りを見回している。
 怪物、と言われていた割にはくりくりと丸い眼をした、可愛らしい顔である。
「……きゅ?」
どうやら、茂みに隠れたリースを見つけられなかったらしい。小首をかしげ、竜は再びモミの木との格闘を再開する。
「どうしようか……? あの子、助けてあげられないかな……」
「みゅぅ」
「……決めた! 光る実が欲しい気持ちは一緒だもの」
リースは茂みから出、竜に近寄った。
「きゅ!?」
突然現れたリースに竜は少しばかり驚いたようだった。丸い目をますます丸くし、彼女を警戒した様子で見つめている。
「大丈夫、何も危害は加えないよ。……あなた、あの実が欲しいの?」
リースは頭上の光る実を指す。
 竜は、どうやら人間の言葉は通じないらしい。なんだろう? といわんばかりの怪訝そうな顔でリースを見つめている。
「うーん、どうしたら良いかな……」
 何とか意志の疎通を試みたくて、腕を組んで考え込む。
 その時、みるくがリースの肩からふわりと飛び上がった。
「あっ!?」
 パタパタと青い、蝶の羽根を羽ばたかせ、ミルクは枝の間へと消える。
 そしてしばらくして、彼女は大事そうに光る実を抱えて降りて来た。
「そっか! あたしが取ってきてあげればいいんだよねっ」
 彼女は普段は隠れている翼を大きく広げる。純白の翼。その姿は天使のものによく似ていた。
「ちょっと待っててねっ」
翼を羽ばたかせる。彼女の体はふわり、と宙に浮き上がり、実のなっている枝の高さまであっという間に飛び上がることができた。
「わぁ……、すぐ近くに来るとすごくいい香りがするね……」
 ふんわりと甘い香りが漂ってくる。実は、直径1センチほどの小さなリンゴに似ている実だった。元々は赤い色をしているようだから、尚の事似ていると思うのかもしれない。
 その実は、中心からほんのりと光を放っている。軽くつついてみたが、中が空洞になっているわけでもなさそうだ。一体、どうやって光を発しているのか。リースにはとても不思議な現象だと感じられた。
「さっ、竜さんにも取ってあげなきゃ」
 鈴なりになっている実の中から、特に強く光っている実、色美しい実を選んで摘み取る。
 自分の分と、竜の分。あまりたくさん摘み取っては今度は木が可愛そうな気がしたからだ。
「竜さん、これがあなたの分だよ」
いくつか手に取り、竜の鼻先に差し出す。
 竜は、警戒した様子でリースの手を嗅いでいたが、安心したようだ。手に乗せられた実を器用に口で受け取った。

シャリ、もくもく……ごっくん。

竜が実を食べ、そして、満足げな目でリースを見返したのを見て、彼女も一個、かじってみた。
 味はリンゴよりやや甘酸っぱい。リンゴというより、さくらんぼに近いかもしれない。
「おいしー♪」
もう一個とってこようかな? リースがそう思った瞬間だった。
「きゅー」
竜が一声。そして、その身体は淡い光に包まれていく。
「何? どうしたの??」
目の前で起こる変化にリースは目を丸くした。
 身体が完全に光に包まれた竜は、ぐぐっ、と大きくなっていく。そして、その背には実と同じ、淡い光を放つ翼が生えてきたのだ。
「……わぁ……」
完全に姿が変わった後の竜を見、リースは思わず感嘆の声を上げた。
 先ほどの約2倍、4メートルほどのへと姿を変えた竜は口を開く。
「お嬢さん、ありがとうね。おかげでこうして大きくなることができたよ」
「大きく……?」
竜はこくりとうなづく。
「ボクはこのモミの木と一緒に旅をしている護りの竜。毎年たくさんの実がなるように、そして、できた実が悪いことに使われない様に見守るのがお仕事」
「じゃあ、あなたはこのモミの木の護衛だったんだ?」
「うん」と竜はうなづく。
「僕達は普通じゃ成長しない。毎年実がなる時に、実を一個もらって食べるんだ。そうすると少し大きくなって、またモミの木を1年見守ってあげられるようになる。
 ……でも、ボクは今年護衛になったばかりで、身体も小さくて……。実が食べられなくて困ってたんだ」
「そうだったんだ。困ってる子は助けてあげるの当然だもの。……最初はちょっぴりだけびっくりしたけど。だって、怪物だなんて変な噂を聞いてたから」
きゅきゅ、と竜は笑い声(?)を上げて答えた。
「ボクがバケモノだって? 酷いなぁ。そりゃ、人間よりずっと大きくて、違う格好だけど……」
そして、ふと、空を見上げて続ける。
「そろそろ、夜が明けるね」
「えっ!? あ! 本当だ!!」
 いつの間に時間が経っていたのだろう。東の空がだんだんと白んでいくのが見えた。
「ボクはこれからモミの木を導いて、また別の国に行かなきゃいけない。ありがとう、親切なお嬢さん。キミがいなかったらボクは大きくなれなかった」
目を細め、頭を垂れる竜にリースは照れくさそうに応えた。
「うん、こっちこそ。素敵なツリーを見せてくれてありがとう」
その言葉に竜はにっこりと目を細め、翼を広げる。
「……あっ!」
 彼が空に浮き上がるのと同時に、あのモミの木がまばゆい光に包まれていく。
 光は竜に付き従うかのように空へ登り、同時にだんだんモミの木の輪郭が薄れていく。
 幾多の光の粒になったモミの木は、竜を先頭に明け方の空を舞う。朝日を背に、西の方へ……。恐らく次の国へ行くのだろう。

 その光の帯をリースはずっと、見えなくなるまで眺めていた。
「……また、会えたらいいね」
彼女はそう小さく呟いて、家路へ向かうのだった……。

 - Fin -

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★   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ★
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【1125/リース・エルーシア/女性/17歳/言霊師】

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■         ライター通信          ■
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はじめまして。この度はご参加頂き誠にありがとうございました。
誰とでも友達になれるリースさんの魅力が少しでも反映できたのでしたら幸いです。