<クリスマス・聖なる夜の物語2004>
心に映る人
粉雪が風に舞い、穏やかな時間が流れ出す。
触れる手の温もりが心地よくて。
浮かぶ小さな笑み。
何時だって側にいたいと思いながらも、自分たちは互いに個々の存在で一人の人間ではないからそれは出来なくて。
だから触れる温もりをそっと感じて。
今あるこの時間を大切にしたい。
かけがえのない想いと共に。
そして大切なものは今この手に‥‥
街は楽しげな音楽を響かせ、真っ白な世界に煌びやかな灯りを灯らせる。
通りを歩く人々の表情も明るい。
今日は一年に一度のクリスマスと名の付いた聖夜だった。
ふわふわと舞うような雪が降る中、幸せそうな恋人達の姿が数多くゥられるエルザードの街並。
今日は恋人達が待ち望んだホワイトクリスマスだった。
地上ではそんな幸せな光景が見られたが、いつもと同様賑わっている黒山羊亭内のある席には、クリスマスには似合わないどんよりとした重苦しい雰囲気が漂っていた。
地下にある黒山羊亭は元から薄暗いのだが、その闇を更に濃くしたような雰囲気がそこにはある。
はぁ、と大きな溜息を吐いた人物が長い金の髪の毛を揺らし淡々と呟いた。
「‥‥‥なんというか。世間様は聖夜だクリスマスだと華やいでいる時に、私はなんでここでお前と二人並んでるんだろうな」
「‥‥‥その言葉、そっくりそのままあなたに返すわ、ジュドー」
琥珀色の酒を揺らし、ジュドー・リュヴァインの隣に座ったエヴァーリーンが少し呆れた様子で言うと、ジュドーは慌てたように告げる。
「いや別に、良いんだけどな。恋人だ何だと、がっつく気はないし。当面、己の腕を磨いていければ、それでいいし。だから、別に此処にいるって事はいいんだけど」
「‥‥何、良い訳みたいな事を言っているの? 私だって別に、恋人がどうのと騒ぐ気はないけれど‥‥」
だからそんなことはどうだっていいんだ、とでも言いたげな様子で二人は顔を見合わせた。
ただ、なんで『お前と』なんだろうなぁ、とジュドー。
でもなんだって、こんな‥‥戦う事しか頭にないような人と聖夜をすごしてるのかしらね、とエヴァーリーン。
同じような内容を同じタイミングで溜息と共に漏らし、二人はがっくりと項垂れた。
実はとても素晴らしいシンクロ具合なのではないか、と黒山羊亭の踊り子はそんなことを思いながら、苦笑しつつ横を通り過ぎる。
いつもと同じように同じ席を陣取った二人組。
しかし他の人物がそんなことを思って通り過ぎた事に二人は気付く事もなく、もう一度深い溜息を吐いた。
ジュドーも別にエヴァーリーンが嫌いな訳ではない。
むしろ気の合う良い人物だといつも思っている。
ジュドーがエヴァーリーンを依頼に引っ張り回し、ただ働きをさせても文句を言いつつも最後には『ツケにしておいてあげる』の一言で済ませてくれていることにも感謝をしていた。ツケはたまりに溜まって凄い事になっていそうだが、未だにそれを本気で払えと言われた事はない。なんだかんだとエヴァーリーンも楽しんでくれているのではないかとジュドーはこっそり思っていた。
依頼を受ける時も双方の利点を生かし、上手く分担も出来ていると思う。
ただ毎日毎日こうして示し合わせてもいないのに、いつの間にか隣にいる状況はどうなんだろうと思っただけだった。
なにもこんな『クリスマス』という日にまで一緒にいなくても良いのではないかと。
しかし今こうして酒を酌み交わしている事が、自分たちらしいような気がする事も事実だった。
いつもと同じように時が過ぎ、いつもと同じように一日が終わる。
めまぐるしく変わっていく世界の中で、こんなイベントの日でも二人のこの一時は変わらなかった。
降り積もる雪のように二人の間に降り積もるもの。
「まぁ、でも‥‥これはこれで、私達らしいのかもな」
ふっ、と微笑んでジュドーは琥珀色の液体を飲み干すと、丁度脇を通ったウェイターに次の酒を頼む。
「出会ってからなんだかんだと、得物でやりあったり、口でやりあったり」
今まで口で勝ったことはないけど、とジュドーは苦笑した。
何を言ってもエヴァーリーンには勝てた試しがないのだ。
エヴァーリーンがしたたかなのか、それともただ単にジュドーがお人好しだからなのか。
もう少し反論してみたいと思うものの、エヴァーリーンの的を得た答えにジュドーは毎度反論の余地がない。
ジュドーの言葉を否定する事もなく、エヴァーリーンは遠い日のことを思い出すように宙を見上げる。
「そうね、初めて会ったときは‥‥後先考えずに突っ込んでくる、何この戦闘馬鹿とか思ってて」
隣で苦笑しているジュドーに向かってエヴァーリーンは真顔でそんな言葉を投げた。
そんなエヴァーリーンを見てジュドーは本気でそうエヴァーリーンが思っていた事に気付く。
それ本気で言ってるだろう、とジュドーに言われ、さぁ、とエヴァーリーンは瞳をそっと伏せた。
「ジュドーって‥‥放っておいたら何しでかすか分からないから、付き合ってみたけど‥‥なんだか毎回ろくでもないことに巻き込まれてばっかりのような気もするわね‥‥」
「そんなことないだろう。まるで私だけが悪いような言い方をするな」
だってただ働きさせられたりとか、とエヴァーリーンが肩肘を机に付き、その掌に頬を預け横目でジュドーを眺めながらぼそっと呟く。
するとジュドーは今度こそお手上げだ、とでも言うように片手をあげて、目の前に置かれた新しいグラスを手に取った。
「まぁ、いいじゃないか。こうして酒を飲みながらたわいない話をして」
まるで興味のない、そっけないそぶりを見せていたエヴァーリーンだったが、そんなジュドーの言葉に悪戯な笑みを浮かべてジュドーと同じようにグラスを手に取る。
「でも‥‥そんな日々も悪くは、ないわ。まぁ‥‥当面、飽きるまでは付き合ってあげるから‥‥安心しなさい」
「これからもよろしくな」
合わせたグラスの中の氷が触れ合って透明な音を立てる。
ざわつく店内に響いたその音が一瞬だけ二人の回りの音を消したようだった。
これからもこんな日々は続いていくのかもしれない、とジュドーは口にグラスを運びながら思う。
永遠に続く、ということはあり得ないのかもしれないが、今はこうして二人で酒を飲むのも悪くない。
クリスマスの夜にも続く腐れ縁。
それはとても大切な絆のようにも思えて。
まだ暫くはシングル×シングルクリスマスも悪くない、とジュドーはエヴァーリーンの隣で微笑んだ。
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★ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ★
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
●1149/ジュドー・リュヴァイン/女性/19歳/武士(もののふ)
●2087/エヴァーリーン/女性/19歳/ジェノサイド
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■ ライター通信 ■
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本当に本当に今更ではございますが、明けましておめでとうございます。(遅すぎです、私)
昨年はジュドーさんのお話を色々と紡ぐ事が出来てとても幸せでした。
格好良い女の人を書く事はとても楽しくて。
戦闘シーン意外にもほのぼのとしたお話しを書かせて頂けて嬉しいです。
少しでもイメージに沿うようなお話しを紡ぐ事が出来ればと思います。
今年もまた機会がありましたらどうぞお付き合いくださいませ。
今年もジュドーさんにとって素敵な年になりますよう、お祈り申し上げます。
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