<クリスマス・聖なる夜の物語2004>
心に映る人
粉雪が風に舞い、穏やかな時間が流れ出す。
触れる手の温もりが心地よくて。
浮かぶ小さな笑み。
何時だって側にいたいと思いながらも、自分たちは互いに個々の存在で一人の人間ではないからそれは出来なくて。
だから触れる温もりをそっと感じて。
今あるこの時間を大切にしたい。
かけがえのない想いと共に。
そして大切なものは今この手に‥
「約束よ、レピア」
「えぇ、約束」
「楽しい夜にするんですっ」
三人は顔を寄せて微笑んだ。
それは誰が言い出したのだろう。
クリスマスを一緒に過ごそうと。
レピア・浮桜がソーンに流れ着いて初めてのクリスマス。
そして冥夜やチェリーと出会って最初のクリスマス。
何もかもが初めてのクリスマスだった。
その日に三人は一緒に過ごす事を決めた。
それはとても素敵な夜になりそうに思え、冥夜はにっこりと微笑む。
場所はエスメラルダに頼み、黒山羊亭の一室を借りる事に成功した。
そこが三人のクリスマスの舞台になる。
「楽しみですぅ」
「本当ね。飾り付けは二人ともお願いね」
「もっちろん! それとね。アタシ、レピアの料理楽しみにしてるんだからっ」
「私もですよー。踊りだって凄く楽しみで」
きちんと役割分担を決めて三人は、また明日、と別れを告げる。
そう、クリスマスは明日に迫っていた。
夕方、黒山羊亭に明るい声が響く。
「メリークリスマースー! って、誰もいないの?」
冥夜が黒山羊亭の扉をガンガン叩いて声を張り上げた。
すると慌ただしい様子でエスメラルダが出てくる。
「アンタ‥‥いつでも何処でも元気ねぇ」
「元気が冥夜ちゃんの取り柄だもんっ! で、部屋貸してくれる?」
そんな言葉を告げる冥夜の後ろから、ひょこっ、と顔を出したチェリーは、メリークリスマスですぅ、と気の抜けるような挨拶をした。
エスメラルダはクリスマスのこの忙しい時期に呼び出され不機嫌極まりなかったが、もうどうでも良くなったのか二人を中に招き入れ勝手に使って良いわよ、と自室に消える。
なんといっても今日はクリスマスなのだ。こんなことで不機嫌になっても仕方がない。ここは一つ大人の余裕を見せて、ゆっくりと衣装を選び化粧をばっちりと決めようとエスメラルダは心に誓う。
戻っていくエスメラルダにひらひらと手を振った冥夜は、レピアが来るのを今か今かと待ちわびていた。
もうすぐ日が暮れる。
レピアの一日が始まる。
二人はレピアよりも早く来て、レピアを迎え入れたかったのだ。
そしてやっと二人の待つ部屋の扉が開かれる。
「メリークリスマス‥‥っと」
レピアに抱きついた冥夜とチェリーを扉を背にする事でなんとか抱きとめるレピア。
「メリークリスマスっ!」
冥夜とチェリーがレピアの両頬に軽いキスを落とすと、レピアはふんわりと微笑んだ。
「大歓迎嬉しいわ。もっと二人に喜んで貰いたいから‥‥料理を作ってくるわね」
二人の頬にキスをして、レピアは笑う。
本当に嬉しそうな表情に冥夜とチェリーも、アタシ達も飾り付け頑張るねー、とレピアに告げそれぞれの行動に移った。
チェリーと一緒に部屋の飾り付けを開始する。
もちろん飾り付けの材料は冥夜のいつもの不思議な鞄から出てくる。
質量法則、その他全てを完全に無視した鞄の中から色とりどりの小物を取り出して、挙げ句の果てには小さなクリスマスツリーまで取り出すとそれに飾り付けを開始した。
金銀のモールをくるくると巻き、ツリーの天辺にはお決まりの大きな星だ。
鼻歌を歌いながら冥夜とチェリーは始終ご機嫌で、部屋に戻ってきたレピアが驚きの表情を浮かべるのを楽しみにしていた。
テーブルには白い布をかぶせ、白い花瓶に花を生ける。
薄暗い黒山羊亭の一室が、まるで高級レストランになったかのように変貌を遂げていた。
少し明るさを増すように、という想いと、雰囲気を出すためにとキャンドルを灯す。
それは火を付けると、ぽうっ、と光が広がり部屋を幻想的に揺らめかせた。
レピアは久々に料理の腕を振るっていた。
咎人にされる前は、踊り子として世界各地を旅しており自炊の経験はあった。家庭料理レベルとはいえ料理の腕は抜群だった。
ブランクがあるかと思われたが、そういうこともなくしっかりと身体が覚えていた。
黒山羊亭の厨房を借りてレピアは二人に食べて貰いたくて、料理を作り続ける。
毎日夜になるとクリスマスの事を考え、何を作るかを考えるのが楽しみだった。
これを作ったら喜んで貰えるのではないか。
あの料理だったら二人は笑顔を浮かべて食べるのではないかと。
誰かのために料理を作る事など久々ではないだろうかと考えて、思わず口元に笑みが浮かぶ。
心の中に暖かいものが溢れてくる。
レピアはそんな気持ちを思い出させてくれた二人に感謝しながら楽しげに料理を続けるのだった。
やがて料理も完成し、レピアが二人の元へと戻る。
今度はレピアが料理を運んでくるからと思ってか、二人は静かにテーブルについていた。
レピアはあっという間に雰囲気のがらりと変わった部屋に驚きつつも、真っ白なテーブルクロスの上に美味しそうな料理を運び込んだ。
「すっごーい!!! こんな料理作れちゃうんだ!」
「これ位は‥‥‥ね」
始めましょう、とレピアはシャンパンを開ける。
ポンっ、と軽い音が響く。そしてレピアは目の前のグラスにシャンパンを注ぎ、グラスを軽く掲げた。
「改めて。メリークリスマス」
「メリークリスマスー!」
レピアの真似をして軽くグラスを持った手をあげて、二人はシャンパンに口を付けた。
食べて頂戴、とレピアは料理を勧める。
「口に合うかしらね」
おどけた様子で告げると、冥夜は首を振る。
「だって匂いからして美味しそうだもん。それじゃいっただきまーす」
冥夜とチェリーは嬉しそうにレピア特製クリスマス料理を食べ始める。
「おいしー!」
「おいしいですぅ。なんでこんなに柔らかいですか?」
首を傾げるチェリーに、それはもう愛情込めてるからよ、と笑顔で返すレピア。
「だったらアタシ達もレピアに愛情たっくさんお返ししなきゃ」
ふふっ、と笑ったレピアは部屋の隅にあった蓄音機を鳴らしリズムを取る。
そしてステージ上になっている部分でレピアは踊り始めた。
初めは緩やかなリズム。
それが曲の盛り上がりと共に、段々と官能的な激しさを増していく。
レピアの青い髪が揺れ、肌に鏤められた汗が飛んだ。
それをじっと見つめる冥夜とチェリー。
冷めないうちに、と言われたものに口を付けてはいるが視線はレピアに釘付けだ。
ひときわ高い音が鳴り、音楽が止まる。
レピアも動きを止めその踊りは終わりを告げた。
二人からレピアに盛大な拍手が送られる。
「凄い、凄いよ!」
「今までで一番凄く綺麗でした」
「ありがとう。ねぇ、二人も踊りましょう」
差し伸べられた手。
二人はそれを迷うことなくつかみ取る。
レピアと同じ様な踊りは出来ないけれど。
一緒に楽しく踊る事は出来る。
三人はふざけあいながら、顔には笑みを浮かべて踊りを純粋に楽しむ。
息が切れてきた頃、レピアは持参していたプレゼントを二人へと渡した。
レピアが二人に渡したのは、冥夜には履き心地の良い軽い靴を。
チェリーには手袋とマフラーのセットだった。
そのプレゼントに二人は目を輝かせる。
「あの‥‥本当に貰って良いの?」
「当たり前でしょう? 貰ってくれなかったらそのプレゼントはゴミ箱行きよ」
苦笑するレピアに二人は抱きついた。
「大好きだよ、レピア」
「ありがとうございますぅ」
「アタシ達ね、色々考えたんだよ。でもレピアに一番あげたいのはアタシ達の気持ち。あのね、ずっとレピアと一緒にこうしていられたらなって。レピアが呼んでくれたらいつでも駆けつけるよ。ずっと手だって握っていてあげたいんだ。心はずっと奥深い所にいけるよね。蓄積されるでしょ」
ぎゅっ、と冥夜がレピアと手を繋いでおずおずとレピアの唇と重ねた。
「側にいたいですぅ」
ぎゅぅっ、とレピアに抱きついたチェリー。
レピアはそんな二人を愛おしそうに眺めながら、二人に柔らかなキスを贈る。
「そうね。ありがとう。私も二人と一緒に居たいわ」
啄むようなキスを何度も贈って。
キャンドルの灯りが三人の重なる影を揺らめかす。
聖なる夜は更けていく。
甘いキスと想いと共に。
大切なものは此処にある。
いつでも自分の手の中に。
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★ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ★
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
●1926/レピア・浮桜/女性/23歳/傾国の踊り子
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■ ライター通信 ■
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本当に本当に今更ではございますが、明けましておめでとうございます。(遅すぎです、私)
昨年はレピアさんのお話を色々と紡ぐ事が出来てとても幸せでした。
うちの子達と楽しく色んな冒険に出て頂きアリガトウございますv
戦闘シーン以外にもたっくさんほのぼのとしたお話しを書かせて頂けて嬉しいです。
少しでもイメージに沿うようなお話しを紡ぐ事が出来ればと思います。
今年もまた機会がありましたらどうぞお付き合いくださいませ。
今年もレピアさんにとって素敵な年になりますよう、お祈り申し上げます。
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