<あけましておめでとうパーティノベル・2005>


新しき年の集い


 新年を迎えたある日。


「モチツキとオセチ料理?」


 ティアリス・ガイラスト(てぃありす・がいらすと)が口にした耳慣れない響きの言葉。
 それは、気心の知れた面々が集まって新年を祝うちょっとした宴会を開こうとなった時に、せっかくだから新年らしい事をしたいと言い出した女丈夫の提案であった。
 元々は異世界の日本という国独特の新年の行事らしい。
「あぁ、でもそれなら琉雨嬢ちゃんは詳しいんじゃないのか?」
 そう言ってエルバード・ウイッシュテン(えるばーど・ういっしゅてん)は自分の胸をテーブルに付けるようにして、円卓で自分の隣に腰掛けている琉雨(るう)の顔を覗きこんだ。
 覗きこまれた琉雨は突然話しを振られて吃驚したように大きな目を更に見開いた。
 確かに、瑠雨の保護者は日本人である。
 エルバートがそんなことを言い出したのは多分にそれが理由であるのだろうが、一体どこでそんな情報を仕入れてきたのか。
 しかし、そう言ったエルバートの台詞にみんなの視線が琉雨に集まる。
 琉雨は視線を感じながらこくりと頷いた。
「それは頼もしいですね」
 耳慣れない言葉に少し不安を感じていたルキス・トゥーラ(るきす・とぅーら)は少し胸を撫で下ろした。心の中で。
「いえ……でも、私も話しで聞いたり本で見たりしたことがあるくらいなので、そんな」
 慌てて琉雨は胸の前で何度も掌を振る。
「大丈夫よ、琉雨。みんなで調べたりすれば。ね?」
 うろたえる琉雨を落ち着かせるようにティアリスはそう言って微笑む。
「確か……モチツキには蒸し器と杵と臼というモチツキ用の道具がいるらしい」
「あぁ、大きなこういうやつだろ?それと大きい木槌みたいなヤツ」
 月杜紅瑠斗(つきもり・くると)がそう言って円卓に水でさっとその絵を描く。
「じゃあ、こうしましょう。私と琉雨は1度琉雨の家に行って本を取りに行って材料なんかを買出しに行ってくるから、男性陣は臼と杵を準備してちょうだい」
 明らかにどちらが大変かといえば後者なのだろうが、確かに順当な割り振りではある。
「でも、か弱い女性二人で材料を運ぶのも大変だろう。誰か1人、男も一緒に着いて行った方が何かと重宝するだろう」
 フェミニストぶりを発揮するようにそう言ってエルバードはテーブルを立とうとしたが、何かが服の裾を押さえていて立ち上がることが出来なかった。
「そうねぇ。じゃあ、ルキス」
と、ティアリスがルキスを指名する。
「スラッシュ、お願いね」
 微笑むティアリスに、
「あぁ……こっちは、任せてくれ」
と眉1つ動かすことなくしれっとした顔でエルバードの服の裾を押さえていた犯人は頷く。
「さ、行きましょう」
 ティアリスに誘われていったん出て行く3人に、銜え煙草のまま面白そうに成り行きを見守っていた紅瑠斗がひらひらと手を振り、琉雨と―――というのもあるが女性陣と引き離されたエルバードはあからさまにガックリと項垂れた。


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■買い出し班■


 まず琉雨の家に寄って彼女の家にある日本の料理の本を借りた3人は市場へと向かっていた。
 あまり行儀の良い事ではないが、ぱらぱらとその本を開いてどれを作るかと相談しながら歩いていた琉雨とルキスの後ろを歩いていたティアリスの小さな声が聞こえて2人は振り向いた。
 くすくすと笑っているティアリスに、琉雨とルキスは不思議そうな顔をして彼女の顔を見る。
 そんな2人の視線に気付いたティアリスは、
「あぁ、ごめんなさい。でも、さっきのエルの顔ったら」
 思い出しただけでも可笑しくってと、言っている事はそれなりに辛辣なのだがそれを感じさせない華のような笑みをティアリスは浮かべる。
 そう言われて思い出せば、あのあからさまにガックリしたエルバードの顔は確かに可笑しくて、琉雨とルキスも釣られたように笑いだした。
「あ、でもね、別に意地悪をしようと思ってルキスを誘ったんじゃないのよ」
「判っていますよ」
 弁明するティアリスにルキスは頷く。
 ルキスは家事一般が得意であるしそれに買い物先で当たりの柔らかい笑顔でいつも上手に値切るのは得意中の得意であるのだ。
 エルバードを買物に連れて行っても本当に荷物持ちにしかならないが、ルキスを連れて行けば安く材料を仕入れることが出来るであろうし、それに、きっとオセチ料理も琉雨とルキスが中心になって作ることになるだろう事は容易に想像が出来た。
「でも、きっと今頃大きなくしゃみをしてるかもね」
 ティアリスの悪戯っぽい笑みにまた2人は笑う。
「さぁ、心配だから早く買い物を済ませましょ」
「そうですね」
 ちゃんと道具を借りるなりして調達できたのかが気になり、ティアリス、琉雨、ルキスの3人は足をはやめることにした。


■道具調達班■


「いつまでがっかりしてるんだ」
 少し時間を遡ってこちらは道具調達班。スラッシュが依然とがっくりしているエルバードにそう言う。
「別にがっかりなんてして――」
しかし、後が続かずに一瞬黙って、ふぅとため息をついた。
「何も……今生の別れというわけではないだろう」
「野郎ばっかりじゃ花がね」
 諦めつつもまだエルバードはそんなことを口にする。
「わかるわかる! やっぱり潤いは必要だよな」
 紅瑠斗がすかさずエルバードに賛成の意を示した。
 どうもこの2人、軽い印象を受ける口調だとかどこか飄々とした所だとか見た目がいいのに中身は……というところだとか、どこか似たような雰囲気を持っている。
「いや、気が合うなエルバード」
「人生には女性は必要不可欠な存在だろう」
 どうも似た印象どころか気も合ってしまったらしい。いや、合ったらマズイと言うことではないのだが。
「そんなに言うのなら……何で、さっきは止めなかったんだ?」
 ティアリスたちを笑顔で送り出していた紅瑠斗の姿を思い出してスラッシュは問いかけた。
 どこか自分の姉に似た所のあるティアに逆らえなかっただけとは言えず、
「そんなことより!ほら、さっさと道具探しに行かねぇと買出しにいった連中戻ってきちまう」
と話しをすりかえる。
「ん……それもそうだな」
「じゃあ、嬢ちゃんたちが帰って来る前に探しに行くとするか」
野郎3人で……とぼそっと呟いたあたり、やはり根に持っていたようだ。


■■■■■


 大きな荷物を抱えて戻って来た買いだし班の3人ティアリス、ルキス、琉雨の目に最初に飛び込んできたのは大きな臼と2つの杵だった。
「これが、モチツキの道具ですか」
 初見らしいルキスは物珍しそうにそれを見る。
「こっちが臼、こっちが杵。この臼の中に蒸したもち米を入れてこの杵で叩き潰しながら捏ねるんだ」
 経験があるのか紅瑠斗が本当に杵を持ってその所作を真似てルキスに説明している。
 すでに蒸し器は薪をくべた火にかけられている。
「あら、もう準備万端なのね。急いでもち米を準備するわね」
そう言ってティアリスは抱えていた袋をテーブルの上に置き、ルキスからもち米を受け取って手早く水で洗う。
「餅つきの準備をする間に料理の方も取り掛かって良さそうね」
 琉雨の家から持って来た本には餅つきの説明もあった。どうやらこのもち米というものは水で洗ったあと少しの間水につけた後で蒸した方が良いと書いてあったのでその通り、しばらく水に浸したままにした後に水量を調節して蒸し器に移した。
「へぇ、案外面倒なんだな」
 わざわざ、肩を寄せて本を見ているティアリスと琉雨の間からエルバードもその本を覗き込む。
「で、オセチ料理っていうのはどんな物をつくるんだい?」
「えっと……これとかこれを作ろうって……言っていたんですけど」
 覗き込まれた状態で話されると顔や声が近くて、琉雨は少し頬を染めながらそう答える。
「それにしても……たくさん買い込んで来たんだな」
「あれもこれもって考えていたらついつい買いすぎちゃって」
と、ティアリスはスラッシュに向かって小さく舌を出してそういった。自然と、スラッシュは優しげな微笑を浮かべた。
 米が蒸しあがるまでの間に琉雨とルキスが中心になって御節料理つくりに取り掛かる。
「へぇ、そんなにいろんな種類のもの作るわけ?」
 本を見ながらいろんな物を作っているのを見て紅瑠斗は興味深そうに見ているがどうやら手伝う気はあまりないらしい。
「それぞれの料理に意味があるんですよ紅瑠斗お兄様」
と、琉雨は兄のように慕っている紅瑠斗を振り向く。
 すると、
「へぇ。その意味教えて欲しいな」
と、横から割って入ったエルバードはちゃっかり琉雨の左手を握ってじっと琉雨の目を見つめる。
「手取り足取り」
「え……あのっ……手取り足取りって」
 実際すでに手は取られている。
 琉雨は一気に自分の顔が赤くなったのを自覚して、それがまた恥ずかしくて俯いてしまう。
 だが、エルバードはわざわざ屈んで琉雨の顔を下から覗き込もうとする。
 すると突然何かが地面に突き刺さる音がした。
 見ると、エルバードの足先1cmの所にさくっとナイフが刺さっている。
「ほら、料理してる時に手取り足取りなんてしたらこーんな風に刃物が落ちたりして危ないわよ」
 いつのまにスラッシュとの2人の世界から出てきたのか、ティアリスが満面の笑顔でエルバードに向かってそう言った。
「全くその通りだ」
 少し乾いた笑い声をもらしながら、エルバードはそれでも名残惜しそうに琉雨の手を離す。
 そして、手は休めないもののそんな様子を見ていたルキスは小さく笑いながら次々と出来上がった料理を四角いお弁当箱に詰めていく。


■■■■■


「ティア。そろそろ……いいんじゃないか?」
 蒸し器の様子を伺っていたスラッシュがそう声を掛けた。
 すると、
「待ってました」
と、紅瑠斗が飛んでくる。
 火から下ろした蒸し器をそっと開けて中からキレイに蒸されたもち米を臼の中に下ろす。
 まず紅瑠斗がそれぞれ臼の中のもち米を杵でよくこねる。
 ぐいぐいと杵の先で米を捏ねるのだが、これがやたらと力が要る。
「交代交代!」
 そう言って紅瑠斗は杵をスラッシュに渡す。
「これは……確かに……力が……いるな」
 交代で捏ねてようやく米がキレイに柔らかくつぶれた。
「よっしゃ!つくぜー」
 大きく振りかぶって紅瑠斗がドンっと杵を臼の中の餅に叩きつける。
 続けてエルバードが杵を振り下ろす。
 ドン。ドン…ドン…ドン―――
 交互にリズミカルについていくうちに徐々に餅に粘り気が出てきた。
「そろそろひっくり返さなきゃいけないわね」
 そう言ってティアリスが服の袖をまくる。
「熱いしくっつくようだから……これを」
 そう言ってスラッシュが杵のそばにある切り株の上に水を張った大き目の器を置く。
「ありがとう、スラッシュ」
 スラッシュの言うとおり、手を水につけて紅瑠斗とエルバードが交互に叩く間にティアリスはすばやく手を入れて餅をひっくり返す。
 そうしているうちに餅がふっくらとしてよく伸びだした。
「スラッシュ、交代してくれ」
 そう言ってエルバードは自分が持っていた杵をスラッシュに渡す。
「俺も、休憩っ」
 紅瑠斗もそう言って杵を置いて座り込んだ。
 この餅つきという作業。やっているのは楽しそうなのだが、杵が重くて腕、腰、掌といろんな所が痛くなる。結構な体力仕事なのだ。
「じゃあ、最初はゆっくりね」
 ティアリスがスラッシュにそう言った。
 ドン!……ペタ……ドン!……ペタ―――
「さっすが息が合ったところを見せつけてくれるねぇ」
 徐々にリズミカルになっていく2人に、紅瑠斗はにやりと笑い、冷やかすような口笛を吹く。
「そろそろいい頃合ね。そっちはどう?」
「はい。こっちも仕上がりましたよ」
 ティアリスに声をかけられ振り向いたルキスは3つ重ねたお重を掲げて見せた。


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「美味い!」
 紅瑠斗はつきたての餅を頬張ってそう叫んだ。
 餅はきな粉と餡子、醤油の3種類。
 3重に重ねられていたお重には黒い豆を甘く煮たものや、ペースト状になっているサツマイモ、ふわふわのに焼いてある卵焼き、軟らかく煮た豚肉、紅白の練り物など色とりどりの料理が綺麗に並べられている。
「いつでも嫁にいけるな琉雨嬢ちゃん―――」
 何か含みを持たせたような笑顔を向けるエルバードは、
「―――とルキスは」
と続けた。
「エルバードさん、それは褒めてないですよ」
「まぁ、それくらい美味いって事だ」
 褒め言葉だ褒め言葉とエルバードはいうが、男としては微妙な所である。
「でも、本当に美味しいわね、お餅もオセチ料理も」
 ティアリスの台詞にスラッシュは頷く。
 そんな時、琉雨がふと手を止めた。
「あの……このお料理少し義父へのお土産に持たせてもらっていいですか?」
と小さく首をかしげた。
「あ、僕も今日これなかった幼馴染に」
「じゃあ、俺も」
 ルキスは幼馴染に、紅瑠斗は兄と姉に。
 勿論本当に料理は美味しい。それには何より気の合う者同士の作る雰囲気が一役かっているのだろう。
 どんなに美味しい料理でも一人で寂しく食べるよりはこうやって気が置けない仲間たちと食べるのでは全く違ってくるはずだ。
 ティアリスとスラッシュは歓談する仲間を見ながら2人でそっと目配せをしあった。

 自分に楽しい事、嬉しい事があったとき。美味しいものを食べた時。
 人は誰でもそれを自分の大切な人にも別けてあげたいと思うものだ。
 それぞれが大切な人に、今日という日を少しでもいい、別けてあげればきっとそれが広がって行くだろう。
 きっと、そう、世界中に。


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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1962 / ティアリス・ガイラスト / 女性 / 23歳 / 王女兼女剣士】

【1805 / スラッシュ / 男性 / 20歳 / 探索士】

【1952 / ルキス・トゥーラ / 男性 / 18歳 / 旅人】

【1985 / エルバード・ウイッシュテン / 男性 / 21歳 / 元軍人、現在は旅人?】

【2067 / 琉雨 / 女性 / 18歳 / 召還士兼学者見習い】

【2238 / 月杜・紅瑠斗 / 男性 / 24歳 / 月護人】

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■         ライター通信          ■
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 はじめまして、こんにちは。遠野藍子です。
 この度は発注有難うございました。
 私事ですが、WR登録させていただいて今春で丸2年なのですが、初のソーンでの納品となりました。
 ソーンの世界観などから入ってみたのですが、なんだかそうとう不安です。やっぱり何にしても“初めて”というのは緊張しますね。
 なにせ、ソーンが初めてなのですから、当然の事ながら今回参加していただいたPCさんは皆さんお初のお客様ばかりという事で。
 各PCさんやPCさん同士の雰囲気がイメージ通りであることを祈るばかりです。
 そして少しでも楽しんでいただければ幸いです。
 それでは、また何かの機会にお会い出来ればなぁと思います。
 各PCさん、PL様それぞれ、今年のご活躍をお祈りして結びの言葉とさせていただきます。
 本当にありがとうございました。