<PCクエストノベル(1人)>


十字の欠片

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【2524/アルミア・エルミナール/ゴーストナイト】
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 ――少女は気だるそうな視線で彼らを一瞥し、光悦そうな笑みを浮かべた。

 その時には既に時遅く、街は人間としての存在が初めからなかったかのように、ただ静かに佇んでいた。古い町並みも、趣のある人々の生活も、全てが過去として定義付けられている。
 アルミナ・エルミナールは小さく舌打ちをし、街の中へ足を踏み入れた。
 彼女がここを訪れたのは偶然ではなく、或る一つの目的を持ってのことだったが、あまりの凄惨な光景に軽く口元を押さえた。それは目的の対象者によるものであることは承知済みではあったが。
アルミナ:「…………」
 声も出さずに周囲を見渡す。念のため警戒を怠らないようにしているが、“食料”の全くない他人の縄張りに、いつまでもいるような相手でもないだろう。

 不死の王・レイド

 その名前はヴァンパイア王として、多くの間に知れ渡っている。伝説とも、噂とも、それとも誰かの創造物かは知れないが、一つの事実があるのは確かである。
アルミナ:「……全てのヴァンパイア絡みの事件に関わっている、か。確かに間違いはないな」
 そこいらに転がっている血の殆ど抜けた人間達の体を見、そのいずれにも首筋に二つの赤い傷痕があることを確認する。確認しながら、恐怖に見開かれている両目を閉じていく。
 じゃり。
 砂地を踏み締める音に、アルミナは攻撃の刃を構える。鼻歌交じりの高音と、砂の上に立つ軽い感じ。気配は後ろからだ。生き残った一人か、と思うが、この状況で誰かが生き残っている可能性というものは皆無に近い。故に導き出される答えは一つ。
アルミナ:「卿はレイドというヴァンパイアを知っているか?」
 敵に向けて発した言葉に、幼い笑いが聞こえる。どうやら相手は少女らしい。屈託ないそれは人間のそのものだが、安易に判断するのも不味いだろう。だが背を向けている状態でい続けるのも、具合が悪い。ここは一つ、意を決して振り向くべきなのだろう。
 予想していたような幼い少女が、黒い髪を切れ長の目をアルミナに向けていた。目が合うとその視線を一層細め、薄く紅を引いた唇から白い歯が覗いた。
アルス:「ヴァンパイアのレイド……『至高の王』ね」
 少女は大きな兎のぬいぐるみを抱えながら、微笑む。
アルス:「数度しかお会いしていないけど、素晴らしい方。惜しいな、汝は。あと、ほんの少し……ほんの少しだけ早くここにいれば、お会い出来たというのにね」
 少女は哂いながら、白い右手を差し出した。
アルス:「ねえ、『アルミア・エルミナール』?」
 つうっと三日月を形創られた口は、喉元から奇妙な声と小さな牙を二つ覗かせていた。

 ……ヴァンパイア、か。

アルス:「我はアルス。まあ別段名乗る必要もないな。見ての通りヴァンパイアの一人だ。汝は『アルミナ・エルミナール』だな」
アルミナ:「……確かに私は『アルミア・エルミナール』だ。して、覚悟はいいな、『アルス』?」
アルス:「覚悟とは、何のだ?」
アルミナ:「選択肢は二つ。一つは素直にレイドの居場所を吐く。一つは痛い目を見て、レイドの居場所を吐く」
アルス:「何ともつまらぬ種族だな。要は我に王の居場所を吐かせることには、違わないだけであろう?」

 アルミナは首肯し、巨大な斧を構えた。

 アルミナは手にした武器を横薙ぎに振るい、アルスは親指と人差し指でその刃をいとも容易く止めた。
アルス:「何故に王に会うことを求める?」
 アルスは刃を流しながら、凛と背を正した状態で問う。
アルス:「王は何も与えぬ。何も求めぬ。故に、汝に何も与えぬ」
アルミナ:「……ただ、知りたいだけだ。噂を聞き、その人となりをこの目で見てみたくなった。それだけだ」
 為される攻撃はただの一度も当たらない。苦渋の顔を浮かべたアルミナの答えに、ヴァンパイアはそうかと、小さく呟いた。面白味の全く籠もっていない目で暫しの間、ゴーストナイトを眺め、
アルス:「餞別、だ」
 片耳のピアスをアルミナに手渡した。
 十字を模した、白い石から作られているものだ。
アルス:「なに、我と接触したという証だ。王に話だけをしたい、と申すなら、それで多少は伝わるやもしれぬ。我の名も多少は知れているからな。アルスからだと申せばいい」
 攻撃の手を休め、アルミナは簡易に礼を述べながらピアスを受け取った。
アルミナ:「だが卿を殺して奪い取った、とは思われないか?」
 眉を顰めるアルミナに、アルスは苦笑してみせる。
アルス:「我は死なぬ。故に安心せよ」
 その証拠の不確定さと、ヴァンパイア自身の静謐とした声。
バックステップで数メートルの間合いを開け、アルスは口端から白い牙を覗かせた。

アルス:「さらばだな」
 一言言い残し、アルスは身を消した。一瞬で灰にやつしたかのように、その気配すら感じさせぬかのように。

 唯一残された白い十字を掌の中に収め、ぎゅっと握り締める。
 後方に敷かれるヴァンパイアの元餌をちらりと見やって、アルミナは小さく目を伏せた。黙祷にも見えるそれの後に、足を前へ一歩踏み出させた。