<PCクエストノベル(2人)>
So COOL! 〜ハルフ村〜
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【冒険者一覧】
【 1603 / ゴンザレス / サボテン / 旅人兼バーテンダー 】
【 1602 / ブルーノ / サボテン / 流離のウクレレ弾き(迷子) 】
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☆序章
雑多な文化、人種、種族、あらゆるものが混沌の中で混ざり合い、融合と断絶を繰り返していつしか、一つ一つの粒子は明らかに個別の形を保ちながらも、数え切れない程のそれらが集まって新しい一個体を形成している、それが聖獣界ソーン。それらの粒子の下となったのは、各地に残る古の遺跡からの出土品、冒険談、或いはインスピレーションなのだと言う。
だがしかし、それでも尚、ソーン創世の謎が解けた断言するには真実は程遠く、誰もが納得する真実を手に入れる事が出来たのなら、富と名声を一気に手に入れる事ができると言われている。
それ故、今日も冒険者達・研究者達が名誉と財産を夢見て、仲間と、或いは一人でソーン各地の遺跡へと、果てなき冒険の旅に出る。ある時は危険な、そしてある時は不可思議な冒険に…。
……と、言うのが一般に良く語られる『ゴールデン・ドリーム』の概要なのだが、中には、自らの意思とは全く関係なく、数多の冒険に巻き込まれてしまうものもいる。
それをトラブルメーカーと呼ぶか、それとも時代が求めた救世主と呼ぶか……それは、その物語を聞いた者達の判断に任せるより他、ないのだった。
☆本章
〜ハルフ村良いとこ一度はおいで〜
かぽーん。
木製の湯桶を石造りの床面に置くと、音が反響して浴室内に浪々と響き渡る。この音も温泉宿の醍醐味のひとつとばかりに、身体を泡だらけにしたブルーノは、わざと音を立てて湯桶を扱っていた。
ゴンザレス:「Hey,Brother.そうそう無粋な音を立てるもんじゃないゼ」
ブルーノ:「何を言うか、この音こそが温泉の醍醐味っつうもんだろうが。この重厚な湯桶と風呂椅子から香るヒノキの芳香、立ち昇る湯気、そして反響する音。一曲聴かせてやろうか?」
そう言うとブルーノは、ウクレレを持つ格好をしてかき鳴らす真似をする。喋ったのは、二匹の傍らに置いてある麦わら帽子だが、そんな帽子の戯言にブルーノは律儀に付き合ってやったのだ。もうひとつの帽子、メキシコ風帽子の持ち主は勿論ゴンザレスだが、彼はと言うと帽子達の他愛も無い会話を聞き流すだけで、ゆったりと湯に浸かって身体の芯から温まっていた。
ここハルフ村は、湯治場として有名な観光地である。温泉の効能の良さは勿論の事、岩風呂、檜風呂等、風呂の種類も多種多様で、子供から大人まで楽しめる志向となっており、幅広い世代、あらゆる種族、職業の者達が訪れる。
よって、ゴンザレスとブルーノのように、どこからどう見てもサボテンの二匹(二人?)がのんびり風呂の湯に浸かっていても、何ら不思議はないのである。
尤も、元よりソーンには、ありとあらゆる種族が渾然一体となっていたから、今更サボテンの一匹や二匹、どうって事はなかったのだが。
やがて、ほっかほかの茹で立てサボテンと化した二匹が、タオルを首周りに掛けてご機嫌な様子で男風呂から出てくる。さすがに帽子達は風呂には入らなかったが、今ゴンザレス達の身体から立ち昇る暖かな湯気に蒸され、彼らもご機嫌だ。
ブルーノ:「このクソ寒い冬に、のんびり風呂に浸かって美味いもんたらふく食って、まさに極楽気分って奴だなぁ、ゴンザレス」
ゴンザレス:「Yes,デモ、まだ遣り残した事があるんだヨ。温泉宿に来たからにはやっぱり、温泉に浸かりながら湯に盆を浮かべての晩酌、これは外せないのサ」
言うと、これはさすがに同調したのか、ゴンザレスがうっとりと何か夢見るような表情になる。隣で、ブルーノもウンウンと頷いて同意をしたその時だった。
ブルーノ:「…ッうォ!?」
ブルーノが悲鳴を上げたその理由は、廊下の角を曲がろうとした二匹に向かって、何かが不意に倒れ掛かってきたからだ。二匹は咄嗟に飛び退いて難を逃れようとするが、その倒れたものが人間である事に気付くや否や、その身体が床に叩き付けられる前に素早く両脇から支えてやった。勿論、棘も素早く身体の中に引っ込め、その人物を傷付ける事もなかった。
ブルーノ:「……ほほぅ」
ブルーノの呟きに続いて、ゴンザレスが小粋に口笛を吹く。二匹が抱き起こした相手とは、少女と見紛うばかりの絶世の美少年だったからだ。
〜袖擦りあうも他生の縁〜
??:「本当に、どうもありがとうございました」
深々と二匹に向け頭を下げるのは、髪に白いものが目立ち始めた年頃の、温泉宿には似合わない黒服の紳士である。彼が脇に立つベッドには、先程、二匹が助け起こした美少年が、力なく目を閉じたまま仰臥していた。
紳士の話によると、この少年はさる貴族の跡取りで自分はその坊ちゃん付きの執事、病気がちな坊ちゃんの為に、ここに留まって長期療養をしているとの事だった。
ゴンザレス:「礼には及ばないヨ、men.困った時はお互い様ってね」
ブルーノ:「とは言え、あんな風にしょっちゅう倒れるようじゃ、あんたも大変だな」
ブルーノがそう言うと、執事はそんな事はないと首を左右に振った。
執事:「とんでもありません、私は坊ちゃまがお生まれになった時からお傍でお世話させて頂いております故、坊ちゃまがお幸せならそれで充分で御座います」
ゴンザレス:「…と言う割には坊ちゃん、So Happyには見えないんだけどネ?」
ゴンザレスの指摘に、皆の視線が静かに眠る坊ちゃんの顔に向けられる。抜けるような白い肌、絹糸のような艶やかで細い金髪、静脈が透けてみえる瞼も今は閉じられているが、開けばきっと、透き通る青空のような瞳をしているのだろう。一見すると物凄く繊細に造られた蝋人形のように見えるが、掛け布団が掛けられた薄い胸元が静かに静かに上下しているので、ちゃんと生きているのだと知れる。見るからに上流階級の子息だし、着ているものもこの部屋も最上級のものだ。それでも何故か、ゴンザレスが言うように、坊ちゃんはどう贔屓目に見ても幸せそうには見えないのだ。色白・病弱・薄幸と、基本中の基本の三拍子が揃ってはいるが、最後のひとつはあるよりない方がいいに決まっている。
ブルーノ:「薄幸の美少年っつうのは確かに絵になるが…これは余りに様になり過ぎなんじゃないのか?」
ぼそりとブルーノが呟く。その声は執事には聞こえなかったが、まるで聞こえたかのよう、執事は細く溜息を零して心配そうに眠る若き主人の顔を見た。
その後、目覚めた坊ちゃんも二匹に礼を言い、ゴンザレス&ブルーノと坊ちゃんは自然と親しくなった。大抵は坊ちゃんの傍には執事が影のように控えており、結果的に四人で会話する事となったのだが、坊ちゃんも執事も、ゴンザレス達の気安い態度を咎める事もなく、一見異種多様な、だが穏やかな付き合いが始まったのであるが……。
ある日。ブルーノとゴンザレスがいつものように風呂場――二匹気に入りの岩風呂――へ向かっている時。
坊ちゃん:「あ、ゴンザレスさん、ブルーノさん」
聞いた事のある声が響き、二匹が振り向くと、坊ちゃんが執事と共に歩いてくる所だった。執事の腕には二匹と同じように、マイ湯桶とその他バスグッズを抱えている所を見ると、目的は同じであるらしい。ご一緒にとの誘いを断る理由も無いので、二人と二匹で揃って岩風呂へと向かった。
ブルーノ:「…ッあ〜、極楽極楽〜〜、やっぱ温泉はサイコーだなぁ、おい」
ゴンザレス:「オヤジ臭いよ、ブルーノ。まぁそのopinionには同意するけどネ」
そう言うゴンザレスも、表情だけを見ればオヤジ臭いと称されたブルーノと余り大差はない寛ぎまくりの表情をしていた。そんな二匹の遣り取りを見て、同じく肩まで浸かった坊ちゃんが楽しげに微笑む。温かい湯に浸かっている所為で、頬がほんのり薔薇色に紅潮しているが、それでも健康的に見えないのは何故だろう。それどころか、二匹が坊ちゃんと出会ってまだ数日だと言うのに、坊ちゃんの具合は良くなるどころか、日に日に悪くなっていくようにも見える。ゴンザレス達の視線は鋭く光るが、それでも何も言う事はなかった。
風呂から上がり、少々湯当たりした坊ちゃんを部屋まで送って行くからと、二人は先に脱衣所を出て行った。ゴンザレスとブルーノは、いつものようにコーヒー牛乳とフルーツ牛乳の一気飲み(勿論、足は肩幅、手は腰に!)を楽しんでから自分達の部屋に戻ろうとすると、先に部屋に戻った筈の執事が二匹を呼び止めたのであった。
執事:「あの…もしよろしければ、私の話を少し聞いて頂けないでしょうか……」
元より断るつもりなど無かったが、執事の、その沈痛な面持ちを見れば断りたくても断れなかっただろう。ゴンザレスとブルーノは、執事を伴って自分達の部屋へと戻っていった。
〜どこにでもある〜
執事:「実は…坊ちゃまの事なのですが……」
ゴンザレス:「そりゃそうだろう。youがそんな深刻な顔をするとなると、坊ちゃんに関わる事しか考えられないからネ」
ブルーノ:「で、坊ちゃんがどうかしたのか?長く湯治している割には一向に回復してなさそうな事と何か関係あるのか?」
ブルーノがさり気無くそう言うと、執事の肩がびくっと驚きで跳ねた。暫し二匹を見開いた目で見詰めていたが、やがてほっとしたように息を深く吐く。
執事:「…やはりお見通しでしたか…お二方に相談して間違いはなかったようです。実は、まさにその事なのですが…坊ちゃんの体調が一向に改善しないのは、何者かに『つかれて』いる所為ではないかと思うのです」
ブルーノ:「疲れている?そんなに毎晩激しいのか、あんなに可愛い顔して」
目を瞬かせ、そう言うブルーノに、ゴンザレスがてしっと裏手ツッコミを入れる。
ゴンザレス:「ブルーノ、下品な事を言うんじゃないヨ」
ブルーノ:「…なんで下品なんだ。俺はただ、疲れる程毎晩筋トレしてるのかと聞いただけだが」
ゴンザレス:「…………」
どうやら、邪だったのはゴンザレスの方だったようだ。尤も、ゴンザレス自体はぶんぶんと頭を左右に振って否定をし、頭に乗っかってる帽子に、何て事を言うんだと拳でげしげし突っ込んでいたから、本当に邪なのはゴンザレスの帽子の方だったのだが。そんな遣り取りは知ってか知らずか、ブルーノが憮然とした顔で言葉を続ける。
ブルーノ:「違うのか。じゃあ棒術の練習のし過ぎとか……」
ゴンザレス:「肉体改造から離れたらどうだい、ブルーノ。棒で突かれてると言いたいんダロ。そうじゃなくて、風呂の湯に…」
執事:「浸かれている訳でもありません。憑かれている、です」
業を煮やした執事が、口をへの字にしてゴンザレスの言葉を遮る。ご丁寧に、何処からともなく取り出した黒板に、白チョークで見事な達筆で『憑かれている』と書き記した。
ゴンザレス:「憑かれているって、穏やかじゃないネ」
ブルーノ:「何に憑かれているって言うんだ?まさか、この宿に古くから居付いている地縛霊とか…」
ゴンザレス:「Oh,NO!そんなものが居たのかい、Brother!だったら早く教えてくれよ!」
ブルーノ:「…いや、こう言う古びた宿にはありがちか、と……」
ゴンザレス:「ま、確かに。そう言う話はどこにでもあるtaleだネ」
ブルーノ:「いや、満更噂でもないかも知れんぞ。火の無い所に煙は立たずと言うし…」
執事:「………。あの………」
すぐに脱線する二匹を、執事が溜め息混じりに首根っこの後ろ側を引っ掴んで引き戻した。
執事:「何者かは分かりません。私が見張っている時は姿を現わさず、私が覗くと瞬く間に消えてしまうのです。ですが、何者かが夜な夜な坊ちゃんの寝室に侵入している事は確かなのです。恐らく、坊ちゃまはそいつに生気を吸い取られているに違いありません。お願いします、どうか奴の招待を暴いて坊ちゃまをお救いください」
そう言って執事は深々と頭を下げる。ブルーノとゴンザレスは互いの顔を見、そして小さく頷いた。
ゴンザレス:「勿論、OKだとも、baby。俺達に任せておけば、ALL OK!さ」
ブルーノ:「ああ、ここで知り合ったのも何かの縁だしな」
快く了承する二匹に、執事の表情もぱっと明るくなった。
執事:「ありがとうございます!勿論、充分な謝礼はさせて頂きますので!」
ゴンザレス:「No problem,気にする事はないヨ」
ブルーノ:「そうとも、これは人助けだしな。気を遣わなくてもいいぜ」
とかなんとか言っている二匹だが、もしも二匹が犬だったら、きっと尻尾が千切れんばかりにぶんぶん振られていただろう。間違いない。
〜幽霊の正体見たり…〜
さて、そう言う事で二匹はどうしたかと言うと、やはりここは何者かに狙われている坊ちゃんをエサに……
執事:「何を言ってるんですかッ!」
は、無理なので、執事をエサに……
執事:「そんな…私も既に四十路を過ぎ、顔にも身体にも自信はありませんし……」
ブルーノ:「そう言いながら脱ぐなよ。…って、すげぇイイ身体してんじゃねーか!」
ゴンザレス:「そりゃそうさ、昔から執事は『脱ぐと凄いんです』ってのがordinaryだからネ」
ブルーノ:「…つうか、そんなムキムキなら、何も俺達に頼まずとも自分で……むがっ!?」
ブルーノはいきなりゴンザレスに口許を押さえられ、目を白黒させる。無言でブルーノを睨みつけるゴンザレスの瞳が、『報酬がいらんのか、貴様は』と毒付いていた。
まぁそれはともかく、執事は坊ちゃんの傍にいて貰うと言う事にして、坊ちゃんの寝室にはゴンザレスとブルーノが隠れて敵を待つ事にした。坊ちゃんのベッドには枕と毛布で人が寝ているような形を作り、ゴンザレスはベッド脇の大きな壷の中(壷の上に、蓋のように帽子が乗っかってはいるが)、ブルーノは天井に張り付いて寝ずの番をする事となった。
そして幾許かの時が経ち。室内にはカチコチと時を刻む時計の音だけが響いている。ゴンザレスもブルーノも息を潜めて相手が来るのを待っていたが、何もしないでじっとしていると言うのもなかなか苦痛なもの。緊張感が、ある程度の制御力になってはいたが、それでも静けさと暗闇は、まさに寝てくれと言わんばかりの状況である。時折、こくりと舟を漕ぎ掛け慌てて起きる、を繰り返していたゴンザレスが、何かの違和感に気付いて壷の中で身構えた。
ふわり、と空気が移動する気配がする。窓はしっかり閉めた筈だし、開いた様子もない。だが、室内には確かに誰か第三者の気配があった。コツ、と小さな靴音が響いてベッドの方に近付いて行く。息を潜めたゴンザレスが、そっと頭の上の帽子を持ち上げつつ、壷の中から顔を覗かせたその時だった。
がったーん!
??:「きゃあッ!?」
大きな物音がしたかと思ったら、その直後、明らかに女の悲鳴が響き渡る。その両方に驚いてゴンザレスが壷から飛び出すと、目の前の光景に思わず体が硬直した。
ゴンザレス:「…Hey,Brother……一体、何をやってるんだい……?」
??:「そんな呑気な事言ってないで、さっさと抜きなさいよ、コレ!」
そう金切声をあげたのはやはり女だ。背が高く、すらりと細身ながらボッ・キュッ・ボンのナイスバディで、露出度の高い際どい黒のドレスを身に纏っている。十人中九人までが美人だと評する女だが、頭の上に大きなサボテンが刺さっている姿は、はっきり言って間抜けであった。どうやら、天井に張り付いていたブルーノが居眠りをしていまい、つい気の緩んだ所で落下してしまったのだが、上手い具合にそこは侵入者の頭上だったと言う事らしい。キィッとキレた女は、頭の上にブルーノを勢いよく引き抜くと、力任せに床に叩き付けようとする。が、既に目の覚めていたブルーノは、身軽に宙で一回転し、見事な着地を見せた。
ブルーノ:「…ふっ、俺を頭に挿してなお平気でいるとは…お前、只者ではないな」
ゴンザレス:「そんな、計算付くだったみたいにカッコ付けなくてもOKだヨ、ブルーノ。と言うか、Lady,youが坊ちゃんを狙って夜な夜な忍び込んでいたヤツかい?」
??:「あら、あんた達、あのカワイコちゃんの護衛なの」
ふふん、と女が鼻で笑う。そうよ、とあっさりそれを認め、両の拳を括れた腰に宛い、豊満な胸を張った。
??:「あんた達が何者かは知らないけど、下手に手出ししない方が身の為よ」
ブルーノ:「そうだなぁ、俺達が幾ら手練だと言っても、ネクロバンパイア相手に闘うのはちっとキツいかもなぁ」
言葉の内容とは裏腹に、のんびりとした口調でブルーノが言う。が、言われた女は驚いたように目を丸くした。
ネクロバンパイア:「あら嫌だ、バレてたのね」
ゴンザレス:「甘く見ないで欲しいな、lady. 生気を吸い取っているらしい事、被害者が稀に見る美少年な事、その他諸々の情報を鑑みれば、その結果に行き着いて当然だヨ」
ネクロバンパイア:「そりゃ失礼したわね。只のボケサボテンだと思ったあたしがバカだったようね」
ブルーノ:「ただのサボテンにボケも何もないだろう。…って、そうじゃなく。これ以上、坊ちゃんには手出しはさせない。もっと健康的なヤツを狙うんだな」
ネクロバンパイア:「嫌よ。あのか弱そうな所がいいんじゃない。あるか無いか分からないような微妙な生気を吸うのが醍醐味なのよ」
ネクロバンパイアは、自慢げに言って胸を張る。何を言っても無駄らしい、とゴンザレス達は溜め息を零して肩を落とした。
ゴンザレス:「しょうがないネ、Baby. オイタの過ぎるコには、可哀想だけどオシオキが必要だネ」
ネクロバンパイア:「面白いじゃない、やってみなさいよ。相手になってあげるわ」
ははん、と見下すような笑みを浮べるネクロバンパイア。どうやら、二匹が素手である事に気付き、武器はないものとタカをくくっているらしい。それに気付いた二匹は、ほぼ同時にニヤリと笑う。そしてやはり同時に帽子の中に手を突っ込み、何かを引っ張り出した。
ネクロバンパイア:「な、なによ、それ!」
ゴンザレス:「ははン、甘く見るなと言っただろう?バンパイアだと目星をつけておいて、俺達が何も準備をしないとでも思っていたのかい?」
そんなゴンザレスが手にしているのは、銀製のフォークだ。ちなみにブルーノのは同じく銀製のナイフ。
ネクロバンパイア:「って、それ!肉汁がこびりついているじゃない!失礼ね!」
ブルーノ:「しょうがないだろ、食堂の食器洗浄機から拝借して来たんだから。ヤラれキャラの癖に文句言うんじゃねえ」
ネクロバンパイア:「洗い終わったのを拝借してくればいいでしょ、何もわざわざ汚れているのを持って来なくても!」
怒ってダンダン!と足を踏み鳴らすネクロバンパイアに、当然ながら隙が出来る。その隙を二匹が見逃す筈もなく、ゴンザレスとブルーノはほぼ同時に、ネクロバンパイアに向かって突進した。
が。
ゴンザレス:「oh,NO!」
ブルーノ:「うわッ!?」
勢いよくダッシュを掛けた二匹だったが、何しろ室内はほぼ暗闇のまま。足許が覚束なく、何かに蹴躓いた二匹の手からすっぽ抜けたフォーク&ナイフが、一直線にネクロバンパイア目掛けてすっ飛んでいった。その、意表を突いた攻撃には、さしものネクロバンパイアも対処し切れなかったらしい。避け切れず、煌めく肉汁付きナイフとフォークが、見事に彼女の右肩と左上腕部に突き刺さった。
ネクロバンパイア:「クッ……やってくれるじゃないの、サボテンの分際で…」
ゴンザレス:「その発言は頂けないな、lady. それはサボテン差別と言うものだヨ」
ブルーノ:「ま、仰る通り、確かに俺達はたかがサボテンだけどな。だが、交わした約束は貫き通すぜ。これ以上、坊ちゃんを狙うのは止めるんだな」
ゴンザレス:「Yes,俺達がいる限り、坊ちゃんには手出しさせないヨ。諦めたらどうだい?」
その身体じゃ、満足に動けないだろう?とゴンザレスがにこやかに指を差す。突き刺さったナイフとフォークの傷は然程深いものではない。だが、素材が銀と言うだけで、それはネクロバンパイアから力を奪っていくようだ。ネクロバンパイアは悔しげに赤い下唇を噛み締めると、その身を翻す。
ネクロバンパイア:「覚えてらっしゃい!」
お約束の捨て台詞を残すと、ネクロバンパイアは瞬く間に姿を消した。残されたブルーノとゴンザレスが、勝利を賞して互いの手の平をパン!と威勢よく叩いた。
☆終章
執事:「本当にありがとうございました」
ここはハルフ村の出入り口近く。会った時より、更に深く、執事が二匹に向けて首を垂れる。その傍らには多少顔色が良くなった坊ちゃんが微笑んでいた。
坊ちゃん:「僕からも、本当にありがとうございました。お二人のお陰で助かりました」
ゴンザレス:「礼には及ばないよ、Boy. 袖擦り合うも多生の縁と言うしネ」
ブルーノ:「そう言う事だ」
ネクロバンパイアも、あの夜からは現われなくなったようだ。それで順調に療養を続けた坊ちゃんが、一旦実家に戻ると言うのでこうして見送っていると言う訳だ。
ブルーノ:「もう大丈夫だとは思うが、念の為に家にも見張りを増やした方がいいな。何しろ女ってのは執念深いからな」
執事:「仰る通りで。勿論、既に旦那様にはご報告済みです。坊ちゃまをお守りする為に、お部屋の窓には鉄格子、ドアは鋼鉄製で外から鍵、と改装を進めているとの事ですので大丈夫かと」
ブルーノ:「…………」
思わず絶句するブルーノの隣で、「それって幽閉ってヤツ…?」とゴンザレスがぼそりと呟いた。
ゴンザレス:「ま、まぁそれはともかく。これからも元気でな、Baby」
引き攣る笑顔ながらにこやかにそう言ったゴンザレスに、坊ちゃんは何の疑問も持たずにハイ!と元気な返事を返した。
執事:「それでは失礼致します。ゴンザレス様もブルーノ様もお達者で…」
そう言い残し、坊ちゃんと執事を乗せた馬車は軽快な車輪音を立てて走って行く。その姿を、二匹は見えなくなるまで見送っていたのだが。
ゴンザレス:「あーッ!」
ブルーノ:「報酬!!」
二匹が同時に叫んだ。そう言えば、何の謝礼も受け取ってない!
ブルーノ:「いや、別に謝礼目当てで引き受けた訳じゃないけどさ…」
ゴンザレス:「でもoneyは必要だヨ、Brother. 腹が減っては戦は出来ぬと言うだろう?」
二匹は顔を見合わせ、盛大な溜め息をつく。恨めしげに、消えてしまった馬車の行った方向をじっと見詰めた。
ゴンザレス:「…坊ちゃん、また療養に来るって言ってたよネ…それまで待ってるかい?」
ブルーノ:「…いや、もう二度と屋敷から出して貰えない、に一万点」
おわり。
☆ライターより
はじめまして、この度はクエストノベルのご依頼、誠にありがとうございます!ライターの碧川桜でございます。そして毎度の事ながら納品が遅くなりまして申し訳ありませんでした。
ゴンザレス氏の口調が、何やら日曜放映の某アニメに登場する、超大金持ちの坊ちゃんのようになってしまいましたが(汗)、如何だったでしょうか?ギャグorコメディのノリが、最初はうまく乗れなかったのでどうかな…と思いますが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
ではでは、またどこかでお会い出来る事をお祈りしつつ、今回はこれにて…。
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