<バレンタイン・恋人達の物語2005>


「チョコレート教室」

 バレンタインデーが後数日に迫ったある日。
「チョコレート、どうしようかなぁ……」
 店のディスプレイを見て悩む少女が一人。
「本当は作るのが良いんだろうけど……」
 去年は渡しそびれちゃったし、今年も渡せるかどうかわからないし……どうしよう……と悩み倒していたそのときである。
「チョコレート教室かぁ……」
 店のディスプレイの直ぐ傍に、小さな看板が置いてあるのが目に入った。どうやらバレンタインデーのためにチョコレートの作り方を説明する教室が近々開かれるようだ。
「チョコレート作りからラッピングまで教えますか……今度こそ大丈夫かもしれない。きょ、去年は失敗したけど今年こそ! 」
 ディスプレイの前でファイティングポーズをとって気合十分なその少女は、この教室のことを詳しく訊く為に店の奥へと入っていった。

【1】
リース:「あれ?場所はここであってるよね?」
 チョコレート教室が開かれると告知されている日、それが今日。リースは店で貰った地図を頼りに来たのだが……。
リース:「誰もいないなぁ……」
 場所は合っていると思う。建物の中に入るとそこには「チョコレート教室にいらした方は右へお進みください」という張り紙がしてあったし、その指示通りに進んだし。指示された部屋には調理場が四つ並んでいる。
リース:「場所も時間も日にちも確認してきてるし、間違いないのになぁ……」
 部屋を見て溜息をつくと、帰ろうかな……と思ったそのとき。
???:「先生!遅刻ですっ!まずいですっ!!折角来てくれた人も帰ってしまいますよ!」
???:「あらあら、そんなに急いでは転んでしまうわ。大丈夫だから落ち着きなさいな」
部屋の外から元気の良い女の子の声、そしてのほほんとしたゆっくり口調な女性の声が聞こえてきた。
リース:「?」
 声のする方へ顔を向けると、扉から入ってくる人が二人。リースを見て笑顔をうかべた。
???:「良かったぁ……セーフですね先生」
???:「だから大丈夫と言ったでしょう?マリーは慌てすぎよ」
マリー:「そうですか?」
 首を傾げ問いかけるマリーという少女に、女性はふんわりとした笑みをうかべた。
???:「ええ、そうよ。あらあら、驚かせてしまってごめんなさいね」
 視線をマリーからリースへと移すと、女性は丁寧にお辞儀をした。
???:「わたしの名前はフィアナ・ルートと言います。今日は楽しくチョコレート作りをしましょうね」
マリー:「わたしはマリー・ルウ。先生の弟子です」
 フィアナがリースに向って自己紹介をすると、隣にいたマリーもぺこりと頭を下げてそれにならった。
リース:「はじめまして、リース・エルーシアです。肩に乗っているのがみるくです。よろしくお願いします!」
 二人の挨拶にリースもぺこりとお辞儀をして自己紹介をすると、元気の良さそうな笑顔をうかべた。
フィアナ:「女の子は元気なのが一番ね。では早速始めましょうか?」
 元気の良いリースの挨拶に、フィアナはにこりと笑みをうかべると、
フィアナ:「マリー、リースさんに今日の説明をお願いしますね」
そう告げて扉を出て行った。
 マリーはわかりました、とフィアナに返事をすると、手に持っていた資料をリースに見せた。
マリー:「何を作りたいか決めてありますか?予め渡してある資料に記述されているものならどれでも作ることができます」
リース:「あ、あの……!」
マリー:「なんでしょうか?」
リース:「あたし、料理が下手だから……簡単にできるものがいいなって」
 苦笑をうかべると、リースは手元の資料からマリーへと視線を移した。
リース:「ここに載っているものでも作れるかどうかわからなくて」
マリー:「そのことなら平気です。先生もわたしもついていますから。そうですね、簡単にできるものは……」
 リースの不安を打ち消すようににこりと笑みをうかべたマリーは、資料を目で追うと簡単に作れるチョコレートの名前をあげはじめた。
マリー:「溶かして固める型抜きチョコレート、冷ましたチョコレートを丸めてココアパウダーをまぶすトリュフ、カラメリゼしたアーモンドにチョコレートをからませたアマンドショコラ……」
 資料を見てふむ、と指を口元にあてて考えこむと、マリーはこのぐらいです、とリースに言った。
マリー:「ではどれにしますか?どれも簡単です」
リース:「うーん……」
 マリーの問いにリースは考え始めた。
リース:「型抜きチョコレートは去年作ったから違うのがいいかな?」
去年作ったものは一応食べられそうなチョコだったけど……見た目は、とちらりと思いつつ。
マリー:「ではアマンドショコラはどうですか?型抜きチョコレートが去年作れたのなら、今年は少しレベルを高くしても良いと思います」
リース:「うん!じゃあそれにするね」
マリー:「わかりました」
 作るチョコレートが決まるとマリーはにこりと笑みをうかべ、身支度をしましょうとリースに言った。
フィアナ:「お待たせしました。マリー、作るものは決まったのね?」
マリー:「はい。たった今決まりました」
 リースやマリーが身支度を始めたとき、ちょうど良くフィアナが部屋に戻ってきた。どうやらふわふわの長い髪をまとめるのに時間がかかっていたようだ。
 マリーの答えを聞いたフィアナはふわりと笑みをうかべると、軽くガッツポーズをとった。
フィアナ:「ありがとう。では、準備も整ったようだし、始めましょうか」
 しかし、この二人はリースの料理の腕がいかに悪いか……知ることとなる。去年の白山羊亭の悪夢再び、といわんばかりの状況が今、これから起ころうとしていた。

【2】
フィアナ:「簡単にアマンドショコラの作り方を説明しますね。用意するものはアーモンド、グラニュー糖、チョコレート……」
 フィアナはリースの前に分量通りの材料を置いていきながら、アマンドショコラの作り方を説明しはじめた。
フィアナ:「材料はこれで全部です。次に作り方ですが、作りながら説明するので流れを簡単に話しておきますね。始めにアーモンドをローストして、カラメルを作ってアーモンドとからめて、それをチョコでコーティングして終わりです」
リース:「なんだか大変そう…あたしにもちゃんと作れるかな?」
 フィアナの説明を聞いて、うーむと考え込むリースにマリーは彼女の肩にポンと手を乗せた。
マリー:「説明を聞くと少し難しそうに聞こえますが結構簡単です。実際にやってみればわかります」
リース:「うん!今年こそは自信を持って渡せるように、“食べられる”チョコ……っていうか、“食べても無事でいられる”チョコを作れるように頑張るよっ」
 マリーの励ましにやる気も気合も十分になったのか、リースはぐっとガッツポーズを取ると。
リース:「始めにアーモンドをローストだったよね?」
フィアナ:「はい、そうですよ。ここに並べてください」
 怖いことをさらっと言っていたような気が……とマリーは苦い笑みをうかべたが……フィアナは気にせずにリースとチョコレート作りにとりかかっている。
マリー:「(きっと気のせいに違いないですよね……リースさんは大袈裟に言っているだけです)」
 自分にそう言い聞かせたマリーは、テンパリングのときに使うお湯を沸かそうとやかんに水を入れ始めた。
 だが、順調に進んでいるように見えるチョコレート作りも……それは進むうちに一見、となっていた。
リース:「これをオーブンに入れればいいんだよね。よいしょっと」
フィアナ:「あらあら?オーブンの調子がおかしいのかしら……?今まで火がついていたのに……」
 頬に手をあてておかしいわ、と首を捻るフィアナ。先ほどまで丁度良い具合に温度が上がっていたのに今はなんだか生暖かい程度になっている。
フィアナ:「しょうがないわね……フライパンで炒りましょうか」
溜息をつきつつもにこりと微笑んだフィアナは、フライパンを棚から取り出した。
リース:「マリー、お湯が沸いてるみたいだよ」
マリー:「あ、本当ですね。ありがとうございます、リースさん」
 フィアナとリースの方を見ている間にどうやらお湯が沸いたらしい。リースに言われてマリーがやかんを取ろうとしたそのとき。
リース:「あれ?さいばしが折れちゃったみたい」
マリー:「え?」
バキっと音がしたので振り返ると……フライパンでアーモンドを炒るのに使っていたさいばしが見事にくの字に変形していた。
マリー:「リースさん……一体何を……?」
リース:「えっと……アーモンドを焼いてただけなんだけど」
マリー:「……」
普通にアーモンドを炒っていればさいばしが壊れることなんてないはずなのだが……どうして壊れるんだろうか?マリーは驚きを通り越して沈黙してしまった。
フィアナ:「うーん、そうね……じゃあこれはわたしがやります。リースさんはこちらで火にかけている鍋を見ていてね?茶色くなったら火から降ろしてください」
リース:「うん!それならわたしにもできるかも」
 折れたさいばしをゴミ箱へポイっと投げ入れると、リースはフィアナに言われた通り、別のところで火にかけている鍋を見始めた。これはカラメルを作っている鍋のようである。
リース:「あ!ぷつぷつしてきた」
 鍋の中には熱された砂糖水が沸騰し始め、泡がぷつぷついいながら現れだした。
マリー:「上手くいっていますね。流石先生です。リースさん、焦がし過ぎないように気をつけてください」
リース:「うん……っ!」
 じー…っと凝視することしばし……。徐々に粘り気のある砂糖水が出来始めた。中央がほんのり茶色に染まり始め……
マリー:「はい、これで出来ました。先生!カラメルができました」
フィアナ:「はーい、わかりました。ではリースさん、このアーモンドを鍋に入れてカラメルを絡ませてください」
リース:「これを入れてかき混ぜればいいんだよね?よーし!」
 フィアナからアーモンドのフライパンを渡されると、リースはカラメルの中にアーモンドを入れてかき混ぜ始めた。
マリー:「順調ですね。アーモンドにカラメルが絡まったら……」
 くるくるとさいばしを使ってアーモンドにカラメルを絡ませていくリースの行動にほっと一息つきつつ、マリーが次にすることを言おうとしたそのときである。
リース:「あれ……?」
フィアナ:「? どうしたの?」
 次の作業で使うチョコレートの袋を持ってきたフィアナは、リースの声に首を捻った。
 すると、リースはくるりと振り返り、しゅん……としょげた様子でフィアナに鍋を見せた。
フィアナ:「? あらあら、別のものが出来てしまったのね」
リース:「ごめんなさい……」
 上手く出来ていたのに……とリースは泣きそうな表情をうかべた。
リース:「やっぱりわたしには料理は向いてないのかも……」
 鍋をつかんだまま俯いてしまったリースに、マリーはどう声をかけたら良いのかを考えていたが……。
フィアナ:「大丈夫。失敗してしまったのならもう一度作ればいいの。そんな顔をしないで?」
リース:「でも…あたし……また失敗するかも……」
フィアナ:「そうしたらまた作り直しましょう?諦めたらそこで終わってしまうものだから」
 リースと目線の高さを同じにしたフィアナは、にこりと笑顔をうかべた。
フィアナ:「自分の作ったチョコレートを贈りたい人がいるのでしょう?」
 リースはフィアナの発言に顔をあげると、静かに頷いた。
フィアナ:「だからもう一度頑張ってみましょう?諦めなければ大丈夫」
 小さくガッツポーズをとってみせたフィアナに、リースはしばし沈黙していたが……うん!と元気良く頷いた。
リース:「受け取って貰えるかどうかは解らないけど……あたしの気持ち、精一杯籠めて作りたいなっ」
フィアナ:「ふふふ、その調子で頑張りましょう?リースさんのその気持ちをチョコレートに込めればきっと受け取ってもらえるわ」
 元気の出たリースを見て嬉しそうな表情をうかべたフィアナは、考え込んでいるマリーの肩にぽんと手を置くと。
フィアナ:「もう大丈夫。だからもう一度始めましょう?リースさんの気持ちをこめたチョコレート作りを」
マリー:「は、はい!」
リース:「励まそうとしてくれてありがとう!もう一度お願い、マリー」
はっと我に返ったマリーは、リースの笑顔に安心すると大きく頷いた。
マリー:「はい!もちろんです」
 リースの笑顔に自分も笑顔で返すと、リースの手から鍋を受け取り、作り直す準備を始めた。

【3】
フィアナ:「仕上げにココアをまぶして……」
 真剣な表情でチョコレートに茶こしを使ってココアをまぶすリース。そしてそれを見守るフィアナとマリー……。
 ふぅと一息つくと、リースは茶こしをそっと置いてにこりと笑顔をうかべた。
リース:「できたぁ!」
 リースの元気の良い一声に、フィアナとマリーの表情は自然と笑みが零れた。
フィアナ:「できたわね、リースさんの気持ちのこもったチョコレートが」
マリー:「よく頑張りましたね」
リース:「フィアナ、マリー、ありがとう!」
 途中でチョコレートを味見したのだが……ちゃんと食べることができるチョコレートができていることが自分で確認でき、リースはそれだけでも嬉しかったのだが、きちんと自分の手で完成させたことがさらに嬉しかったのである。
フィアナ:「どういたしまして。じゃあチョコレートをラッピングしましょうか」
マリー:「お礼を言われるほどのことはしてません。でもお役に立てたようで嬉しいです。ではラッピングも好きなものを選んでください」
 リースの満足そうな表情に、二人も満足そうな表情をうかべると、リースの選んだラッピングを実行するためにいろいろと準備を始めた。

フィアナ:「今日は楽しかったです。また料理教室を開きたいと思っているのでそのときはよろしくお願いしますね」
マリー:「またどこかでお会いしましょう」
リース:「うんっ!今日はありがとう!」
 お見送りをしてくれた二人に大きく手を振ると、リースは自分で作り、自分でラッピングをしたチョコレートを大事に持つと、家へ向って歩き出した。
リース:「ちゃんと受け取ってもらえるかな?……ううん。今年はちゃんと受け取ってもらおう!」
 去年は渡せなかったけど、今年は去年の分まで想いをこめたんだから。
 夕焼けで赤く染まった空を見上げて、リースは明日の空へと願いをかけた。わたしの想いがどうか、あなたに届きますように……と。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1125/リース・エルーシア/女性/17歳/言霊師】
【NPC/フィアナ・ルート/女性/料理教室講師】
【NPC/マリー・ルウ/女性/フィアナの弟子】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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  はじめまして、こんにちは。月波龍です。ご依頼ありがとうございました!
  また、お届けするのが遅れてしまい、すみませんでした。
  元気の良い女の子を、バレンタインのシチュエーションで書けるとは思っていませんでした!
  リースさんを書くことができて楽しかったです。
  また機会がありましたらよろしくお願いします。