<PCクエストノベル(1人)>


その意味〜遠見の塔〜




 青空に映える白亜の塔。
 それを下からゆっくりと見上げる・・・。
 ゾロ アーは、持っていた大き目のバッグを地面に下ろすと前髪を風になびかせた。
 風は心地良い冷たさで、ゾロの身体を撫ぜる。
 それを胸いっぱいに吸い込むと・・ゾロは塔に向かって呼びかけた。

 ゾロ「俺の名前はゾロ アーと申します。本日は貴方にききたい事があってやって参りました。どうかこの扉を開いてはいただけないでしょうか?」

 風が言葉を撒き散らし、何処かへと運び去る。
 固く閉じられた扉を見つめながら、ゾロは地面に下ろしたバックから小さく畳まれた緑色の布を取り出した。
 それを広げ、丈夫な木の枝を布の下に通し、簡易なテントを作る。
 少し強い風が吹けば潰れてしまいそうなほどに弱弱しいながらも、しゃんと立つテントを見ながら、ゾロは小さな木の枝を拾い集めた。
 それを縦横に並べ、小さな円を描く。
 古典的な用法で火をつけ・・赤の炎を燃え上がらせる。

 ゾロ「最初から教えていただけるとは思っていません・・。」
 
 ゾロは小さく呟いた。
 そう、これは覚悟してきた事だった。
 用意してきたテントも、この焚き火も・・・。
 ゾロは再び白亜の塔を見つめた。




 賢者と噂される、カラヤン・ファルディナス。
 この遠見の塔に住んでいると言われる彼に、ゾロは会いに来ていた。
 彼に聞きたいことは沢山あった。
 アセシナート公国のデーモン像の壊れた理由。
 ・・きっとそこには何かしらのワケがあるはずだ・・・。
 そして、本来人とは交わらないモンスターが、兵士としてアセシナート側について戦っている理由。
 最後に、自分の聖獣でもあるデーモンの事。
 どんな聖獣なのか、何処に行けば会えるのか・・・。
 その全てを、カラヤンなら知っているはずだった。
 しかしカラヤンに会うのは容易ではない事は、ゾロも知っていた。
 興味を持った人物は塔に招き入れ歓待し、幾日もその知識と情報を語り与えるといわれている。
 そしてその反面、興味本位で塔に上ろうとする者は、塔の螺旋階段の魔力に囚われ登りつづけて、決して兄弟の下にはたどり着けないとも言われている。
 それを知っていながら、ゾロはこの塔まで足を運んでいた。
 そのリスクを冒してでも知りたい事だったから・・・。
 ゾロは手ごろな場所に生えている草を抜くと、すっと気を集中させた。
 それは直ぐに形を変え、愛らしい哺乳動物へと姿を変える。
 ゾロはじっとその瞳を覗き込むと、一つだけため息をついた。
 すりよってくるその動物の頭を優しく撫ぜ、フカフカの毛の中に顔をうずめる。
 丁度良い柔らかさのその動物は、何も言わずにゾロの顔を舐め、温かな温度をゾロに提供する。
 ゾロはしばらくその温度を肌で感じると、そっとその動物を放した。

 ゾロ「さぁ、行きなさい。」

 穏やかに響く声が空気を震わせ・・その動物が闇に向かって走り去って行く。
 その後姿を見守った後で、その場に仰向けに寝転がる。
 パチパチと弾ける焚き火の音が心地良く、ゾロはゆっくりと瞳を閉じた。
 ・・・遠見の塔に来てから早3日。
 ゾロは何も食べていなかった。
 いや、正確に言えば何度も食べようとはしたのだが・・・。
 生き物つくりの神であるゾロは、雑草から動物をつくりだす事が出来た。
 それは食べられる動物にも、食べられない動物にも出来たのだが・・・。
 この場合、食べられない動物をつくりだしても仕方がないので、主に食べられる動物をつくり続けていた。
 それで・・その動物達は今何処にいるかって?
 そんな事はゾロも知らなかった。
 この広い世界のどこかを走り回っているのではないだろうか・・・。
 無論、走り回れない動物だってつくったのだが。
 どうも自分でつくりだした動物を食べることが出来ず、ただ一時の話し相手としてつくりだしては、逃がしていた。
 ゾロは霞む視界の中で、ある一つの決断をしていた。
 それは・・明日まで待って、扉が開かなければ帰ると言う事。
 ここで餓死するわけには行かないし・・・。
 ゾロはそう思うと、ゆっくりと瞳を閉じた。




 明るい朝日を浴びて、見つめる遠見の塔は昨日までとは少し違っていた。
 ・・・何かが違う。
 ゾロはじっと遠見の塔に目を凝らした。
 普段と変わらない白亜の塔・・その、扉が開け放たれているではないか!
 ゾロは急いで荷物をまとめると、扉の前まで歩んだ。
 大きく開かれた扉の向こうには階上へと続く螺旋階段が構えていた。
 それを目で辿っていくものの・・・上は見えない。
 ゾロはその扉の中に足を入れようとして、ある事を思い出した。
 蘇るのは、この塔の有名なお話。
 “興味本位で塔に上ろうとする者は、、塔の螺旋階段の魔力に囚われ・・”
 ゾロは目の前で美しい螺旋を描きながら上へと伸びる階段を見つめた。
 そして・・ザっと、1歩下がった。
 興味本位というわけではなかった。
 しかし、それを何故知りたいのか、どうして知ろうと思ったのか・・そこの感情が曖昧であることに気が付いた。
 自分の知らない事を知りたいと言う欲望は、誰にでもある普通の感情であって、そこに論理的な解釈は無いのかも知れない。
 それでもゾロには分からなかった。
 この扉の先に待つものが。
 導きなのか、迷いなのか・・・。
 ゾロはゆっくりと扉から離れた。
 目の前で閉まる扉が、その行動を褒め称えているかのようだった。
 ソレが正しいのだと。
 高く高くそびえる白亜の塔。
 全ての謎は、閉じられた。
 いや・・違う。
 ゾロは遠見の塔に背を向けた。
 閉じられたのではなく、まだ開くべき時ではないのかも知れない。
 ゾロは道端に生えている雑草を1本だけ抜いた。
 そして、真っ青な鳥に変えると、大空へと放った。
 長く尾を引く鳴き声を辺り一帯に響かせながら優雅に舞う青の鳥。
 それは遥か上空へと舞いあがり、やがて空と混じって見えなくなった。
 ゾロは眩しそうに空を見つめた後で、遠見の塔に背を向けて歩き始めた・・・。


     〈END〉