<PCクエストノベル(4人)>


ソーン全国サイコロの旅 〜第10夜〜

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【 冒険者一覧 】
【 整理番号 / PC名 / 性別 
             / 種族 / 年齢 / クラス 】
【 1185 / バンジョー 英二 / 男
              / 魔皇 / 30 / 俳優 】
【 1184 / バンジョー 玉三郎 / 男
            / 魔皇 / 40 / 映画監督 】
【 1333 / 熟死乃 / 男
 / ナイトノワール / 43 / ディレクター兼カメラマン 】
【 1334 / 不死叢 / 男
 / フェアリーテイル / 37 / ディレクター兼ナレーター 】

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●前枠〜前回までのあらすじ?【0】
玉三郎:「こんばんはっ、バンジョー兄弟ですっ」
英二:「どうもこんばんは。バンジョー兄弟のこちらが兄で、僕が弟でぇございます」
 岩場を背景に、バンジョー兄弟の兄・玉三郎と弟・英二の2人は、ナイトノワールの逢魔・熟死乃が構えるデジタルビデオカメラの前に立っていた。気のせいか、どことなくテンションが妙だ。
英二:「しかし、兄さん」
玉三郎:「何だい、英二くん」
 顔を見合わせるバンジョー兄弟。
英二:「やー、もー、困りますわ、ほんまにもー」
玉三郎:「とまあ、お約束も終わった所でね」
 誰かの物真似をした英二を、玉三郎がさらっと流した。慌てて玉三郎の腕をつかむ英二。さて、言い訳開始。
英二:「いやいやいやいやいやっ。このヒゲがやれっつーからやったんだって! 僕ぁここはやるべきじゃないと思ったんだよ? でもねえ……いかんせんタレントの立場って弱いから、デレクターの横暴にも耐えなきゃいけないんだよぉ」
不死叢:「横暴って誰のことだよっ」
 熟死乃の後ろでバンジョー兄弟を見ていたヒゲでフェアリーテイルの逢魔・不死叢がすかさず突っ込みを入れた。
不死叢:「だいたい、1度は物真似やらないとって言ってたのは、英二魔皇様。あなたですよ? だから僕はね、タレントさんの意向を汲んでこうびしっと演出をですねぇ」
英二:「だからって前枠でやらせることねぇだろっ! 不死叢くん、前から思ってたけど君の演出はどっかおかしいんだ」
不死叢:「お、何だい? 前枠からディレクター陣の批判かい? 俺は別にいいけど、熟死乃くんに失礼だろう?」
熟死乃:「何でこっちを巻き込むんだよっ!」
 自分を巻き込もうとする不死叢に、熟死乃が思わず抗議した。その後もやいやい言い合う英二と不死叢を他所に、玉三郎が淡々と今回の解説を始めた。
玉三郎:「……と、何やら隣が騒がしいですが、ついに『黄金の楽器』の情報を入手した我々は、楽器が眠るという『強王の迷宮』へ舞い戻って参りました。ソーン全国サイコロの旅最終夜、それではどうぞ」
英二:「ええっ!? 最終夜っ?」
 英二がぎょっとして玉三郎を見た。
玉三郎:「そう、最終夜。あれ、聞いてなかったっけ?」
 しれっと言い放ち、大きく頷く玉三郎。
英二:「いやー……聞いてないなー」
 それでは本編どうぞ――。

●最終夜の理由【1】
不死叢:「という訳で、今回が最後です!」
 前枠を撮り終わり、不死叢が改めてバンジョー兄弟に言った。
英二:「ちょっと待てよ。確かにそろそろ終わりかな、とは思ったたけど、あまりに急でないかい? さっきも言ったけど、僕ぁ聞いてない」
 肩を竦めたまま両手を肩口の辺りで開き、英二が素朴な疑問を不死叢にぶつける。
不死叢:「えー、それについては熟死乃くんの方から説明してもらいます」
英二:「熟死ー、どういうことだい?」
熟死乃:「もう、フィルムもバッテリーも限界なんだよ」
英二:「あー、あー、あー。なるほど」
 熟死乃が口にした理由に、深く納得する英二。これまで延々とソーン世界を回ってきて、ビデオテープとバッテリーの残量が非常に少なくなってきていたのである。いくら続けたくとも、撮影機材が使えなくなっては強制終了である。
英二:「至極まともな理由でしたねぇ」
 もっとたいそうな理由があるのかと身構えていた英二は、微妙にすかされて残念という表情を浮かべていた。
不死叢:「ですから我々、これから『強王の迷宮』へ乗り込みます。大丈夫ですかっ、法則は覚えてますねっ?」
 不死叢が英二に念を押す。
英二:「おおっ! 覚えてるさぁっ。『右手法』に『左手法』、例外もたまにあるっ!」
 おお、見事に英二は覚えていた。
英二:「右手か左手を壁につけて歩くんだったよね、うん。いやー、腕が鳴るなあ。ほれ、この通り」
 ぶん、と腕を振る英二。
不死叢:「やめろよぉっ。編集ん時、効果音つけなきゃならねぇじゃねぇかっ」
英二:「もう1度振れば、今度はメタリックな音がするんじゃないかなぁ」
 再び、ぶんと腕を振る英二。
不死叢:「だからやめろって! お前ややこしくすんなって!!」
 英二に抗議する不死叢。でも顔は笑っていた。
玉三郎:「えー、実はバッテリーとかの問題だけでなく、もう1つ理由がありまして」
 突然玉三郎が口を挟んできた。不死叢が『それ、言っちゃうんですか?』という表情を玉三郎に向ける。
英二:「はいはい、もう1つ理由が」
玉三郎:「道中、ディレクター陣と話し合ったんですけど、この『強王の迷宮』になけりゃもうどこにもないんじゃないかという結論に達しまして。まあ、それもそうだなと」
英二:「は?」
 英二が『何を言ってるんだ、この人は?』といった目を玉三郎に向けた。
英二:「えーと、分かってるかい、兄さん? 僕らがね、『黄金の楽器』を求めて、サイコロに振り回されてるのもだぁ……全部あんたが言い出したんだろっ!! 納得してどうすんだよっ!!」
玉三郎:「まあまあ、弟よ。見付からなくてもいいじゃないかっ!」
 玉三郎が英二の肩をぽむと叩いた。ただ今、『いいじゃないか運動』開催中。
英二:「何か俺は納得出来ねぇなぁ……」
 むすっとなる英二。そんな英二に不死叢が言う。
不死叢:「別に英二魔皇様、1人で探してもいいですよ? でも僕ら帰りますけど。映しませんよ? だってバッテリーとかないですから」
英二:「よーし、見付からなくてもいいじゃないかぁっ!」
 『いいじゃないか運動』拡大。
英二:「まあ僕も分からず屋じゃないから、うん。そーゆー事情なら仕方ないねぇ」
不死叢:「分かっていただけましたか」
英二:「ウィ」
熟死乃:「何でそこでフランス語なんだよ」
英二:「ほら、僕は昔はフランスの貴族だったしね。僕が男爵で兄さんが伯爵」
 唐突に英二のほら話が始まった。
不死叢:「うひゃひゃひゃひゃっ、あんたらラテンだろぉっ!? というか、前回に本名が『番城』って言ってませんでしたかっ!?」
英二:「向こうの名前の当て字だよっ!」
 ほら話終了。
英二:「そういえば、ずっと疑問なんだけどさ」
不死叢:「おや、何ですかなぁ?」
英二:「だいたい楽器って、未だに何の楽器なんだか聞かされてないんだけど……。情報あったかい?」
不死叢:「……ありませんなぁ」
英二:「だろぉ? そもそも持っていける物なのかい? こーんなでっかいハープとかだったらどうすんのよ」
 身振りをつけ、半笑いで英二が言った。
不死叢:「迷宮から出ないってことも、十分あり得ますねぇ。その時は、お二人の力で何とかしていただいて」
英二:「出来ねぇって! 第一、まだ本当にあるともどうとも分かってねぇし……」
玉三郎:「別に、見付かんなきゃそれでいいんじゃない?」
 少し面倒そうに言う玉三郎。『いいじゃないか運動』はまだ継続中。
不死叢:「それじゃあそろそろ、迷宮の中へ行きましょうか」
 不死叢がバンジョー兄弟を促した。
英二:「本当に行くのかい?」
不死叢:「行きますよぉ」
英二:「どうしても行くんだね?」
不死叢:「お前行きたくねぇなっ?」
 げし。不死叢の蹴りが英二に向かって放たれた。しっかり熟死乃の構えるデジカメにも映っている。
英二:「分かったよっ、行けばいいんだろぉ。奇跡を起こしてやるから、余すことなく撮ってくれよぉ?」
 玉三郎の背中を押しながら、一緒に英二はフレームアウトする。すかさず不死叢が、フレームの下部に文字を書いた羊皮紙を出した。
不死叢:「……いよいよこの後黄金の楽器が!」
玉三郎:「とうとうテロップまで直付けやるようになっちゃいましたね」
 呆れたような玉三郎の声が聞こえていた……。

●見よ! これが『黄金の楽器』だ!【2】
 『強王の迷宮』――そこはヴァンパイアが封じられていた迷宮。しかも未だ各種ギルドが協力して探索中という、どんな危険が待ち受けているか分かったもんじゃない場所だ。
 一行がここに来るのはこれで2度目。前回は入口の前にテントを張って1泊しただけで次の場所へ向かったが、とうとう今度は中へ入らなくてはならなかった。
玉三郎:「さて。我々は『強王の迷宮』の入口前に移動してきました」
英二:「ぽっかり口を開けて、我々を飲み込もうとしてますねぇ」
 バンジョー兄弟の背後には『強王の迷宮』の入口があった。ここまで来たら、もう逃げることなど出来ない。
不死叢:「では入る前に、英二魔皇様から一言いただきましょうか。はい、キュー!」
英二:「絶対に『黄金の楽器』を持って帰ってくるぞっ! おーっ!!」
 こぶしを高らかと突き上げ、英二が宣言した。
玉三郎:「地下4階までの安全は確保されたっていうしね。大丈夫でしょう」
 などとお気楽なことを言い、先に玉三郎が迷宮に入ってゆく。次いで英二が、それから熟死乃、最後に不死叢という順番で続いてゆく。
 そして翌朝――。
英二:「おはようございます」
玉三郎:「おはようございます」
 迷宮の入口前には、とても疲れ果てた様子のバンジョー兄弟が立っていた。何だか不機嫌でもある。
不死叢:「おやおや、どうしました? とても疲れていらっしゃるようですが?」
 わざとらしい口調で不死叢がバンジョー兄弟に尋ねた。
英二:「そりゃ疲れるだろぉ。一晩中この迷宮の中をうろついていたんだ、疲れない方がおかしいって」
玉三郎:「……さすが『強王の迷宮』ですね。一筋縄じゃいかない場所でした」
 少し切れ気味の英二と、深い溜息を吐く玉三郎。一部安全が確保されたとはいえ、そんじょそこらの迷宮とは格が違うようである。
不死叢:「おや、そうでしたかぁ。ということは、『黄金の楽器』は見付からなかったんですね?」
 不死叢が非常に重要な質問をバンジョー兄弟にぶつけた。いったい『黄金の楽器』はどうなったのだろうか?
玉三郎:「えー、見付かりました」
 さらりと玉三郎が答えた。
玉三郎:「いやあ、意外な場所にありました」
英二:「『灯台下暗し』ってああいうことを言うんだろうねぇ」
 口々に言うバンジョー兄弟。けれども2人とも複雑な表情をしているのは気のせいであろうか。
不死叢:「ほう、そんなに意外な場所でしたか」
玉三郎:「意外だよ? 何しろ、この入口からとっても近い場所にあったんだから」
 なるほど、そんなに近くにあったんですか。
玉三郎:「というか、迷宮に入る必要なかったでしょ」
 ……は?
英二:「詰め所にあったなんて、本当に意外な場所だよ……ったく」
 はい? 詰め所って……入口の近くにある、各種ギルドが建てたあれですか?
不死叢:「先に聞けばよかったですなぁ」
英二:「ていうか、前に来た時に聞いとけよっ、ヒゲッ!!」
 英二の怒りは当然であった。もし聞いていたなら、あの後もまた延々とソーンを回る必要もなかったかもしれないのに。
不死叢:「あの、言い訳する訳じゃないですけど、あの時は僕らもいっぱいいっぱいでしたから」
英二:「十分言い訳じゃねぇかよっ!!」
玉三郎:「えー、お茶の間の皆さんに説明しますと。一晩中、迷宮を歩き回ったんですが、見付かりませんでした。で、今朝になって入口まで戻ってきたら詰め所の人がここに居たんで、事情を説明したら、何と詰め所に『黄金の楽器』があると。その上何と! 我々に無償で譲っていただけることになりまして」
 英二と不死叢の言い争いを他所に、玉三郎がこれまでの経緯を説明した。別の冒険者たちが『黄金の楽器』を見付けたのだが、邪魔だからという理由で詰め所に置いていったのだという。詰め所の者が『黄金の楽器』を譲ったのも、全く同じ理由からであった。
 だが、1つ気になることがある。英二が覚えた『右手法』や『左手法』の効果は、果たしてどうだったのかということである。
玉三郎:「普通の迷宮だと思っちゃいけなかったんですよ」
英二:「そうだね、兄さん。誰が思う? あちこちに転移の魔法がかけられてるなんて」
 そう、『強王の迷宮』のあちこちには転移の魔法がかけられていたのである。『右手法』『左手法』は、そういう迷宮では役立たずとなってしまう。つまり、例外のケースだったという訳だ。それに気付くのが遅れたために、一行は延々と無駄に歩き続けるはめになったのだった。
不死叢:「ともかく『黄金の楽器』が見付かったんですから、ぜひカメラの前に出していただこうと」
 不死叢がバンジョー兄弟に、『黄金の楽器』を出すよう促した。
英二:「……本当に出すのかい?」
玉三郎:「このまま終わりにしてもいいんじゃないですか?」
 何故だか消極的なバンジョー兄弟。
不死叢:「いやいや、ここは出していただかないと!」
英二:「…………」
玉三郎:「…………」
 強く促す不死叢の言葉に、バンジョー兄弟は無言で顔を見合わせてから、しょうがないといった様子で楽器をカメラの前に出した。
 英二が出したのは、黄金のバンジョー。そして玉三郎が出してきたのは……黄金のマラカスだった。
英二:「…………」
玉三郎:「…………」
 無表情で黄金のバンジョーをポロンポロンつま弾く英二。玉三郎はやけになって、左右に腰を振りながら黄金のマラカスを上下に振っていた。
不死叢:「うひゃひゃひゃひゃひゃ……! うひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ……」
 不死叢の笑い声とともに、だんだんと熟死乃のデジカメが遠ざかってゆく。バンジョー兄弟の姿が、小さく小さくなってきた。
 さよなら、バンジョー兄弟――。

●後枠〜終わりなき旅【3】
玉三郎:「そんな訳で、不本意ではありますが、我々『黄金の楽器』を手に入れました!」
英二:「ほんと不本意だよ」
 無理矢理にもテンションを上げている玉三郎に対し、英二は不機嫌である。
玉三郎:「色々とあった旅でしたが、ちょっと行程を振り返ってみましょう」
 そう言い、玉三郎は羊皮紙に描かれた簡単な地図を熟死乃のデジカメの前に持ってきた。聖都エルザードを出発し、チルカカ、ハルフ村、川下り、『強王の迷宮』、フェデラ、底無しのヴォー沼、クレモナーラ村と回り、再び『強王の迷宮』へ戻ってきたという行程である。改めて考えてみると、ずいぶんとあちこち回ってきたものだ。
英二:「デレクターがしっかりしてたら、このフェデラから後はなくてもよかったんだよ」
 ちくりと毒を吐く英二。
不死叢:「でも『強王の迷宮』に『黄金の楽器』があるって分かったのは、クレモナーラ村に寄ったからですよぉ?」
英二:「聞いたら、俺たちが最初にここに来る前に見付かってたって言ってたぞ? 手に入ったからこれ以上言わないけど、帰ったら謝罪会見開いてもらうから」
不死叢:「しゃ、謝罪会見ですかぁ?」
 笑いながら不死叢が言った。
英二:「そうだよ。そこでプレゼントの抽選会もやってやるぞぉ」
玉三郎:「ではここで視聴者プレゼント! 我々が立ち寄った各地で手に入れたお土産を、持って帰れたなら差し上げます!」
 そして、色々とお土産を紹介してゆくバンジョー兄弟。それも終わると、最後に英二が締めの台詞を口にした。
英二:「2度とやらねぇぞ、こんなの!!」
 けれども、彼らはまたすることになる。サイコロの神に魅入られている限りは絶対に。
 今回の旅は終わっても、サイコロの旅はまだまだ続くのである……。

【ソーン全国サイコロの旅 〜第10夜〜 おしまい】