<PCクエストノベル(1人)>



アドレスブック 〜サンカの隠里〜

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【冒険者一覧】
【2623 / 廣禾・友巳/ 編集者】

【助力探求者】
【なし】

【その他登場人物】
【サンカの老人】
【盗賊紛いの男】
【青年】

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 昼にはあれだけ威光を振りまいていた太陽が、もうすぐ一日の役目を終えて地平線に没しようとしていた。
 もっとも、記者である廣禾・友巳がいるのは鬱蒼と茂る森林の中であるからして、地平線ではなく見えるのは緑ばかりだ。
 ただ空を覆いつくす新緑の隙間から差し込む夕日の光が、もうすぐ一日が終わることを告げていた。
 
友巳「やっぱりこんな地図じゃ無理があったかなぁ。あーあ、疲れちゃった……」

 淡い陽光を見上げながら友巳が唇を尖らせるのも無理はない。
 森林に入ってかれこれ数時間が経とうとしているのだ。歩き慣れていない者ならすでに足がガタガタになってもおかしくはない。それでもスリムな肢体をまっすぐに立たせているのは、昔とった杵柄というべきかスポーツチャンバラと護身術で鍛えていたおかげであろう。
 ただでさえ記者というのは足を使う仕事だ。ネタがあるところにはどんなところへでも行く。
 例えば今回のように、噂でしか聞くことのできないサンカの隠れ里にだって――実を言うと、動機は「やっぱりちょっと人外入った種族って惹かれるよね!」という個人的な興味からくる取材なのだけれど。

??「か、かかかかかっ」

 不意に聞こえてきたのはしわがれた老人の声だった。
 しかしそれは言葉になっておらず、MDプレーヤーにエルボーをかましてしまい曲が延々とループ(実証済み)しているような、そんな感じ。
 友巳はきょとんとしながら視線を背後にやると、そこにサンカであるらしい老人がいた。
 ようやく人に出会えた喜びが胸一杯に広がって、なぜそんな声を発するのかも察せずに出来るだけ優しく声をかけようとする。

友巳「あの、サンカの方ですか?」
老人「か、帰ってくれぇい! ええい不愉快だ! 貴様も先ほどの奴らと同じ泥棒紛いか! いいからわしの前から消えてくれぃ! さもなくば我が愛刀が血で濡れることになるぞ!」
友巳「え!? ど、泥棒だなんてそんな。私はただサンカの風習について知りたいだけで――」

 老人はかなり危なかった。何が危ないって怒り過ぎてポックリと逝ってしまいそうなのもそうだが、手に握った30cmほどの石包丁が血走った眼とあいまってえもいわれぬ狂気を醸し出している。
 いきなりのことに上手く状況が把握できずにいると、さらに続けて叫びながら石包丁を振り回す老人。

老人「そう言ってお前もあれじゃろ。わしの大事にしている水晶を奪うつもりなんじゃ! あれは孫娘が嫁に行く時に渡すと決めて……うぅ、ミコやぁ。わしを置いていかんでくれぇ――ごほん、とにかく外の人間など信用できるか! 帰ってくれぃ!」
 
 とりつく島もなかった。どうでもいいことだが、どこの世界の老人も孫煩悩であるらしい。
 などと考えている場合ではない。このままでは話にならないと察して、友巳はいったん出直すことにした。


******


友巳「はぁ……なんなのさっきのお爺さん。泥棒がどうとか言ってたけど。何かあったのかな?」

 渋々と老人の言葉に従い、なるべく人の通った痕跡のある道を辿りながら呟きを一つ漏らした。
 理不尽な扱いに対する怒りはない。もとより予想はしていたことだったし、なによりその言葉に出てくる泥棒という単語が妙にひっかかる。
 心配そうに何度も後ろを振り向きながら歩いていると――

??「なんでぇ、おめぇも追い返されたのか?」

 二度目の不意な声掛け。今度の声は若くてハッキリとした口調だった。
 先ほどのこともあるので、薄暗い夜道を用心しながら目を凝らして見ると、大木に寄りかかっている男の姿があった。
 
友巳「そうだけど――貴方も?」
男 「おぅよ。あんのクソジジイ、里の中にあるもんなら何でもいいから寄越せって言ったらよ。いきなり斬りかかってくるんだぜ? 腹がたつぜまったく」
友巳「あ、貴方、そんなこと言ったの?」
男 「だっておめぇ、サンカの隠れ里から持ち帰った品物となれば高値で売れるんだぜ?」
友巳「だからって、そんなの追い剥ぎと一緒じゃない!」
男 「なに怒ってんだおめぇ……別にいいじゃねぇか」

 そこでようやく友巳は老人の怒っていた理由を知った。
 いきなりやってきた部外者にそんなことを言われては、誰だって頭にくるというもの。
 なんだか自分までムカムカとしてきてしまい、気づけば思い切り男の頬をひっぱたいていた。
 バシーンという小気味の良い音が森の中に木霊し、いきなりのことに呆然としていた男の顔が段々と怒りで紅潮していく。

男 「て、てんめぇ!」

 男が怒りにまかせて右腕を振りかぶる、護身術の覚えがあるとはいえ長い旅路のせいで体が思うように動かなかった。
 容赦のない男の一撃が顔を殴りつけ――なかった。
 正しくは殴れなかったというべきか、男はその場に立ち尽くしたまま白目を剥いて気絶していた。
 ドサリと男の体が地面に崩れ落ち、何が起こったのかわからずに友巳が目を瞬いていると、男が立っていた場所の後ろに真っ白なフードをかぶった青年が立っていた。

青年「大丈夫ですか?」

 薄暗いこととフードが隠しているせいでよく見えないが、青年の顔にはどことなく気遣うような表情が見受けられる。
 ようやく話の通じる相手に出会ったと理解して、全身から力が抜けてしまう。

友巳「助かりました! ありがとうございます!」
青年「いえいえ、大事がなくて良かったですよ。それにしても見事な平手でしたね?」

 慌てて頭を下げると、そんな冗談めかした声と笑い声に、しばし言い淀みながら視線を彷徨わせる。

友巳「……さっきのは頭に血が上っちゃって、その、つい……」
青年「や、別に咎めているのではありませんよ。貴方がやらなければ私が――やってしまいましたが。とにかく貴女の正義感には恐れ入ります。そういう方は好ましいですよ」

 臆面もなく好ましいと言われて照れないはずがない。
 あーとかうーとか小声で呻きながら視線を彷徨わせていると、青年は続けた。

青年「ところで、サンカの隠れ里には何用でいらしたんです? よければ私が力になりますが――」


******


 夜が深まり梟が鳴く頃には、疲れはあっという間に吹き飛んでいた。
 確かに道に迷ったり、門前払いされたり、泥棒紛いの男に遭遇したりと散々な一日だったけど。
 どうやら目的は果たすことができそうで、喜びで胸が一杯になっていた。
 幸運なことに青年はサンカの住人だった。さらには里について色々と聞くことができ、メモ帳には村の歴史や、村の人の生活等の仔細がびっしりと書き込まれている。
 意外だったのは、情報交換としてこちらが話す外界の話に彼が多大な興味を示しすということだ。
 サンカには外界に興味を持つヒトなんて一人しかいないはずだ。すると、もしかして――

友巳「あの、貴方はもしかして、グアドルース・ロードさんですか?」
青年「さて……どうでしょうね? 確かに彼とは知り合いではありますけど」

 なんてことを言いながらフードを外す青年は、やはりというかなんというか、噂通りの風貌をしていて思わず見入ってしまう。
 素性を隠すのには何かしらの理由があるのだろうと検討をつけて、友巳は深く追求せずに笑顔を見せた。

友巳「じゃあ、グアドルース・ロードさんに伝えてください――外に開かれる事って、良い事ばかりじゃないですよ? でも……頑張ってください!」
青年「わかりました。必ずやお伝えしましょう」

 外に開かれれば、先ほどのような盗賊紛いの人間だってやってくるだろう。
 頭が固い人達の肩を持つわけじゃないけれど、招かれざる客だって必ずいるのだ。
 それでも彼は――

青年「彼ならこう言うでしょうね。どんなに悪いことがあっても、貴女みたいな方と出会えるなら私は本望だと」
友巳「……グアドルースさんって、ちょっぴり軟派なんですね?」
青年「や、キザが過ぎましたか。ははは」

 不意の言葉にドキリとした私を、彼の朗らかな笑い声が解きほぐしていく。
 このヒトならきっと大丈夫。そんな漠然とした確信が心地よくて、友巳はメモ帳を大事そうに抱えた。


******


 それからのことはよく覚えていない。
 さすがに歩き疲れてしまって意識が朦朧としていたのか、さてはそれ自体が夢であったのか。
 いや、夢ではないはずだ。こうしてデスクに向かいながら執筆に勤しむ私の片手には、あの時に抱えていたメモ帳がある。
 そこには彼から聞いた知識がびっしりと書かれていて、余白が足りなかったのかアドレスのページにまで及んでいる。
 ふと、最後の1ページをめくったところで、私は思わず口元を緩めてしまっていた。
 そこにはサンカの文字とは違う、人間がよく使う文字でたった一言だけ――


 マタアイマショウ。


 窓から差し込む陽光が文字を照らす。
 それは森の中で見た夕日の木漏れ日に、よく似ていた。


 〜FIN〜




*ライター通信*

初めまして。この度クエストノベルを書かせていただいた北城ナギサです。
まずは書き上げるのが遅くなってしまい申し訳ありませんでした!(切腹)
友巳様を動かすのは本当に楽しく、時間を忘れて執筆に没頭したことは公然の秘密です。
こうして友巳様を動かせる機会をいただけたことに感謝しつつ。筆を置こうと思います。
遅れてごめんなさい。そして、ありがとうございました。