<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


ソーン全国サイコロの旅・副音声 その1
●あらかじめおことわり
 さて、これより記されるのは、とあるテレビ局のディレクター陣2人による、『ソーン全国サイコロの旅』企画のDVD化にともなう副音声解説収録時の模様である。
 その模様をファンの皆様によりリアルに感じていただくため、ディレクター陣の会話の様子は全て対話形式として記させていただいた。くれぐれもご了承願いたい。
 ただ、あくまでこれは副音声。『全然解説になってねぇじゃねぇかっ!』というお叱りの声もあるかもしれないが、一発録りなのでこればかりはどうしようもなかったりする。その点も踏まえてご了承願いたい。
 なお、ソーンの様子が何でビデオカメラに記録されているんだという突っ込みは受け付けない。何故だかあるんだから仕方がない。つくづくご了承願いたい。
 今回ファンの皆様の目に触れるのは、第2夜までの副音声解説である。さあさあ、嫌っていうほど解説を味わってもらおうじゃないですか――。

●副音声収録風景・第0夜
 某テレビ局の小さな一室。マイクなどがテーブルの上にセットされ、近くのモニターには番組のオープニングが流れ始める。
 そのモニターを見ているのは、ヒゲで眼鏡で小太りなフェアリーテイルの逢魔・不死叢と、黒い翼を持つナイトノワールの逢魔・熟死乃という2人。テーブルを挟み、向かい合って座っていた。
 先に口を開いたのは不死叢の方であった。
不死叢:「はい、どうもぉ。不死叢ですよぉ!」
熟死乃:「はいどうも、熟死乃です」
不死叢:「いやぁ、始まりましたなぁ。熟死乃先生」
熟死乃:「そうだね、始まったね、不死叢くん」
不死叢:「ま、我々ディレクター陣がこうして解説なんかを副音声でびしっと行わせていただく訳ですけども」
熟死乃:「2人だけでかい?」
不死叢:「そうですよぉ。……あ、いやいや違うね。とりあえず今は我々2人だけです」
熟死乃:「それはつまり、ゲストをお呼びするかもしれない?」
不死叢:「ないとは言えませんなぁ。その辺はどうぞお楽しみに」
熟死乃:「そう言いながら、最後までボクら2人きりかもしれないけどねえ」
不死叢:「うひゃひゃひゃっ、かもしれませんなぁ。どうなるかも踏まえて、どうぞお楽しみに」
熟死乃:「お楽しみにー」
不死叢:「それで、急に本題に戻りますけど解説ですよ。この副音声では感想や想い出はもちろん、裏話もたっぷり話しますよぉ。何たって我々、いつものことながらハプニングを呼び込んでますから!」
熟死乃:「だよねえ、不死叢くん。そもそも元々の企画が違ってたんだし」
不死叢:「そう、熟死ーの言う通り。本当はね、僕らは当初『神帝軍討伐絵ハガキの旅』って企画をやろうとしてたんですよぉ。お茶の間の皆様はとっくにご存知だと思うけどもぉ」
熟死乃:「散々あちこちで言ったからね、それ」
不死叢:「でも、そうなったのは熟死乃くんのせいなんです」
熟死乃:「俺のせいかい?」
不死叢:「熟死ーの手違いで、ソーンが入っちゃったから」
熟死乃:「でもね、不死やん。ボクはちゃんと確認したよ、絵ハガキ。言われてるような絵ハガキはなかったと思うけど。おっかしいなあ」
不死叢:「いやね、熟死乃くん。僕も絵ハガキについては一部同意する部分があるんですよぉ。帰ってきて調べてみたけど、見当たらないんです、あの1枚だけ」
熟死乃:「おかしいよねえ」
不死叢:「おかしいですなぁ。……と、そうそう。帰ってきてで思い出したんですけど、びっくりしたねぇ」
熟死乃:「何が?」
不死叢:「いやいや、あれですよあれ! 一通り旅を終えて戻ってきたら、神帝軍との戦争すっかり終わっちゃってましたから」
熟死乃:「終わっちゃってたねぇ。確かにそれは驚いたね、ボクら」
不死叢:「おかげであれですよぉ。現在殲騎は、勤め先の放送局の倉庫にて埃かぶってますから」
熟死乃:「おや、かぶってるかい? 最近倉庫には行ってないから、置いてあることも知らなかった」
不死叢:「例えですよ、例え。そのくらい殲騎がお出ましする機会がないということです。だいたいあんなもん、倉庫に置いてあったら大道具さんたちが制作部まで怒鳴り込んでくるよ?」
熟死乃:「邪魔だからどっかにやれってかい、不死叢くん?」
不死叢:「そうですよぉ、熟死乃くん。そもそも局の備品じゃなく私物だしねぇ」
熟死乃:「だよねえ。……とか言ってる間に、第0夜が終わっちゃった」
不死叢:「終わりましたなぁ。では次は第1夜です」

●副音声収録風景・第1夜
 モニターに第1夜の模様が流れ始める。それを確かめて、2人はまた口を開いた。
不死叢:「はい、不死叢ですよぉ」
熟死乃:「熟死乃です。そうか、1回分終わるごとに無音の時間作らなきゃいけないんだね」
不死叢:「そうです、そうです。区切りになりますから、必要なんです。我々が編集するみたいにはいかないらしく」
熟死乃:「ボクらほんの1秒2秒でも摘むもんね」
不死叢:「その方がテンポが出ますから。手前味噌だけど、だらだら喋ってるように見えても、実はぽんぽんっとテンポよくゆくようにするのが僕らの編集の腕の見せ所。ビシバシ切ってますから、ほんとに秒単位で」
熟死乃:「よーく注意深く見てると分かるよね」
不死叢:「うん、分かるね。意外と手間暇かけて細かい編集やってるんですよぉ、僕ら2人。まあその辺を全部語っちゃうと、副音声終わっちゃいますからしませんけど」
熟死乃:「そういや解説しなくていいのかい、不死やん」
不死叢:「うーん、解説つってもねぇ。この第1夜までは、僕らほら同行してないでしょ。合流するのに必死だったから」
熟死乃:「確かにそうだ。他のスタッフに聞いて、同じように眠ってみてようやくソーンに行けたんだよ。それでボクたちあの場に居ないから、解説しようがねえ」
不死叢:「ないんですよぉ。我々が言えるのは、この時点ではまだ目標が決まってなかったということくらいで」
熟死乃:「目標が定まったのは、合流してからなんだよ。けど、その伏線となるのがこの第1夜にあるってことだね」
不死叢:「熟死ーの言う通り。はい、見て分かるようにここでのサイコロでチルカカに向かってるじゃないですか。向こうで聞いた話がなきゃ、この後に目標も決まってなかった訳です……とか言ってるうちに、もう第1夜も終わりかい?」
熟死乃:「終わりかな?」
不死叢:「じゃ、じゃあ、いよいよ合流の第2夜でまたお会いしましょう」

●副音声収録風景・第2夜
 そしてすぐにまた、第2夜の映像がモニターに流れ始める。先に喋り始めるのは、やはり不死叢からであった。
不死叢:「はいはい、不死叢ですよぉ」
熟死乃:「熟死乃です」
不死叢:「という訳で、第2夜が始まりましたが」
熟死乃:「ようやく合流です」
不死叢:「実はこの回、チルカカに向かう時にサイコロ振ってないんですね。特に熱心なファンの皆様には、看板に偽りありという意見もいただいたりしたんだけどもねぇ」
熟死乃:「でもね、チルカカから移動する時にはサイコロ振ってるから」
不死叢:「振ってるよねぇ。やはり『サイコロの旅』ですから、そこはきちんと」
熟死乃:「きちんとしておかないとねえ」
不死叢:「言うなれば、この回は下準備の回になりますかなぁ。この時点では、我々全員異世界素人でしたから」
熟死乃:「素人が遺跡に挑もうなんて無謀だよ、ほんと」
不死叢:「でももう、我々ソーンも旅慣れたもんです。ここでの講習が役立ってますからなぁ。ちょうど画面、例のチルカカに向かってる所ですよぉ。熟死乃くん、撮れてねぇから黙ってましたけどもぉ」
熟死乃:「撮りたい風景が多すぎるんだって」
不死叢:「あんた、訳の分かんねぇきのこ映してたじゃねぇか」
熟死乃:「そういうのはたまたまだって。第一、馬はソーンでなくても見かけるけど、訳の分かんねえきのこはソーンでなきゃ見ないでしょ、不死叢くん」
不死叢:「そらまぁ熟死乃くんの言うことにも一理あるけども」
熟死乃:「でしょう?」
不死叢:「……何か納得出来ねぇ気がすんのは、俺だけかい?」
熟死乃:「君だけじゃないかい?」
不死叢:「別にいいですけどもぉ。おやおや、そろそろ『イロハのイ』の辺りですかな」
熟死乃:「と言ってたら出ました」
不死叢:「少しの気の緩みで大変なことになる。もっともですなぁ。もちろん我々はびしっと気を引き締めましたよ?」
熟死乃:「で、この翌朝にボクたち遺跡で講習受けた訳です。やあ、大変だったよねえ、あれは。不死叢くん、どうだい?」
不死叢:「確かに大変だった。あれ見てるとさ、俺が一番大変だったように思えるけど、実は違うんだよねぇ」
熟死乃:「実際大変だったのはボクの方なんだよね」
不死叢:「たぶんお茶の間の皆さん分かんないと思うけど、熟死ーは羽根ありますから。これ、意外と幅あるんです。そんで遺跡のあっちこっちで引っかかりそうになってて、僕みたくピンポイントじゃなかったんですよぉ」
熟死乃:「いや。引っかかった場所いくつかあるって」
不死叢:「おや、あったかい?」
熟死乃:「あったよ。編集で全部カットしてるけど」
不死叢:「そうなんです、カットしてるんです。さっきも言ったけど、分かんないから切りました。僕だけが熟死乃くんのカメラの後ろに居るから、どうしても引っかかってることに気付くのがディレクター陣だけになっちゃう訳ですよ」
熟死乃:「同じ引っかかるにしても、君の方が面白かったしね。ディレクターとしては当然の判断だよ」
不死叢:「だよねぇ。まあ副音声をお聞きの皆様には、このようなこともあったとお伝えを」
熟死乃:「結構切る時はばっさり切るもんね」
不死叢:「数時間回してて、使うのがたった2分なんてこともありますからなぁ。おっと、画面の中ではそろそろサイコロを振ることになってますよぉ」
熟死乃:「ここから黄金の楽器を探すという目標が出来たサイコロの旅になる訳だね」
不死叢:「『ソーン観光ガイドマップ』は役に立ちましたなぁ。実際にサイコロ振る場面は第3夜になりますが」
熟死乃:「続いてるからねえ」
不死叢:「チルカカからどこへ向かったかは、第3夜のお楽しみということで。ちょっと引きを作ってみました、我々」
熟死乃:「どうだったんだろうねえ、見てる人たちとしては?」
不死叢:「どうなんでしょうなぁ。どちらのご意見もあったかと思いますけれど……も! それらも含めて、第3夜乞うご期待と!」
熟死乃:「そうだねえ」
不死叢:「ではでは、また第3夜の副音声でお会いしましょう」

【おしまい】