<PCクエストノベル(1人)>


堕ちた天空・幕間

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【2155 / ルーン・ルン / ピルグリム・スティグマータ】

【助力探求者】
なし

【その他登場人物】
なし
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■ 会話 ■■

中編的境界線上を歩む者──ボーダー。亡き友はルーン・ルンをそう呼んだ。
でも其れは昔の事だ。遠い遠い昔の事だ。もう懐古すらされない、口にも上らない呼び名。今でもそう呼ばれていたならば、何か違っていたのだろうか──? 否、もしも、は存在しない。ルーンは緩く頭(かぶり)を振る。

ルーン:「境界ナド何処にも在りはしなイ──」

目を細め、笑いながらルーンは呟いた。其れが否定だと言う風な表情では無く、唯当り前であるかのような顔付きを見せて。薄い唇から述べられる言葉は脈々と続く。まるで謳うように。

ルーン:「……境界を定めるのは人の性、魂の性。空を求め焦がれテ、空にあっても線を引ク」

ルーンの言葉に僅かに身動ぎをしたものの、ガルゥは口を開く事は無かった。唯敵意の無い妖気を漂わせながら、じっとルーンを見詰めている。古き友を、まるで新しい物でも見るかのように。暫らく無言の時が流れた後、ガルゥは漸く其の重い口を開いた。

ガルゥ:「喰わなくなっても──変わりない」
ルーン:「まだあんたは……喰らうと言ウ言葉を使うのカイ」

可笑しそうに笑って、ルーンは肩を揺らした。ガルゥは何も答えなかった。
──彼の聖者は、存在を「喰らう」と言う。人を、魔を、そして神をも。もう目の前の「ルーン」は喰わないとでも言うのか。思い当たる節に、ガルゥは緩く其の双眸を細めた。
光を宿さない其の瞳は、重く冷たくルーンを貫く。人為らざる者の、闇色。

ガルゥ:「天に其の力の大半を返したと……」

言外に、何故其処迄、と聞いても居た。其処迄する必要が在ったのか。そうまでさせた理由は何なのか。友人として今日日再会する迄、其の空間は白紙だ。知り得るのは御互いの過去のみだ。真っ白の期間なぞ、知らない。ガルゥは視線をルーンから外さず、其の侭促す。
ルーンはガルゥの言葉で其の視線を彼へと戻し、口端をにぃと吊り上げた。

ルーン:「──喰われたのサ」

両手をひらと広げて、何でも無いようにルーンは言う。喰われたのだと。喰う筈の存在が、逆に喰われて仕舞ったのだと。
俺の嘗てを知っていても、此れは知り得なかった事だろウ──? そうとでも言いたげに、傲慢に唇を吊り上げる。過去は過去の侭、其の時を刻む事は無い。時を刻むのは、「今」だけだ。
ガルゥを見詰め、ルーンは過去に心を馳せる。

先の大戦で、アセシナートに与した強猛な魔、ソレがGaluh(ガルゥ)。男の嘗てを知るだろう数少ない者。
自分の過去を知る者も、今では殆ど居なくなって仕舞った──ふと笑みを引かせ、ルーンは視線を落とす。其の青い双眸を彩る睫毛が、綺麗に影を落とした。
其の仕草を見てか見ずか、ゆったりとガルゥは口を開いた。

ガルゥ:「人は夕暮れの陽にノスタルジーを含むとか?」

ガルゥはふと笑って、二人の足下に雫を落とした。雫は水溜りと為り、波紋と共に錆びた風景が其の水面に広がってくる。其れは二人が見慣れた光景。
錆びた色の大地。灼けた草叢(くさむら)。水面から風が吹く──嗚呼、とルーンは目を細めた。鼻をつく錆鉄の匂いは、嗅ぎ慣れた戦場の特有の物だ。耳に遠く聞こえるのは砲火。

映された大地──其れは在りし日のアセシナート。紛れも無いあの光景。

ガルゥ:「──貴方は我らに近い」

妖気に静けささえも纏わせながら、ガルゥは至極穏やかに呟いた。アセシナートの情景は錆びた色と匂いを湛えた侭、唯静かに水面に横たわっている。ゆらゆらと揺れる其の中で、在りし日が確かに存在した事を告げている。
錆びた匂いは焦げた其れか、其れとも流される夥(おびただ)しい血の匂いか。どちらでも惨い状況で在る事に変わりは無かった。

其の風景に、ルーンは不思議な色を瞳に湛えながら、つとガルゥを見遣った。唇が弧の形に吊り上がる。自嘲にも似た──笑み。
傲慢にも思えるような態度で、ルーンは言い放った。

ルーン:「出来た手品ダヨ」



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■ ライターより ■■

今日和、硝子屋歪で御座います。(礼
御発注有難う御座いますっ。

前編・後編の間の幕間と言う事で、ガルゥさんとの会話や交わる視線・感情を念頭に置いて書いてみました。
幕間じゃなく、中編になっているかもしれないのですが(笑
出来は如何でしょうか?御気に召しましたら幸いで御座います。

其れでは。