<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


++   ちょっとそこまで   ++


《オープニング》

「や〜皆さんお揃いで!」
 力一杯に扉を開いたかと思うと、その女性はわざとらしいくらいの大声を張り上げた。
「ここに何や冒険したがっとる奴等が集まっとるって聞いたんやけど〜」
「依頼に来たんですか〜?」
 ルディアがいつものように明るく出迎えると、彼女はますます声を大にして話しを続けた。
「ちょっと頼まれて欲しいねん、ここにあつまっとるんは「屈強な冒険者達」なんやろ〜?」
「まぁ…依頼によるけれどね」
 ルディアがそう答えると、彼女はげらげらと笑い声を上げた。
「なんも楽しくやってくれたらええねん。そらちょ〜っとだけ危険かも知れへんけどなぁ、怪我したってちょ〜っとだけ痛いだけやし平気やろ〜?」
「ちょっと、あなたね〜」
 さすがのルディアもほんの少し不快感を露わにしたところで、その女性は本題を振った。
「頼みってのは盗みや。ほんまにちょろっと出掛けてちょろっと取って来るだけでええんよ。やってくれる奴は? もちろんおるやろ?? こんだけ人あつまっとったらなぁ」
「盗み!?」
「そう…大丈夫、そんなにやばい相手やないで。ほんっまにムカツク奴やけどなぁ〜せやなぁ、したたかで口の強い奴、求む!あとはそれなりに強かったらなぁ、何とかなるわ」
「…で、何を盗んでくるの?」
「そんなもんきまっとるやろ! うちの指輪や!」
 何が決まっているのかはさておき、彼女はどかっと豪快な音を立てて椅子に座り込んだ。
「盗まれたから盗み返すんや!
あいつの屋敷はアクアーネ村の奥や! めっさ近いやろ!?行く気になったやろ!!? なっ………!!??
ほんま、頼むわ。あれ、うちのおかあちゃんの形見やねん」
 彼女が悔しそうに顔を歪めて口を閉じると、辺りにも静寂が訪れた。
「…皆、どうする?」
 ルディアの声だけが、辺りに響いていた。


《依頼話? それとも旅行話?》

 しーん……

 一瞬だけ、辺りが静まり返った。
 しかしそれも束の間。
 忙しなく駆け出す足音と共に、白山羊亭の扉が大きく揺さぶられる。まるで叩きつけられたかのように――
「し、しかたねーな……ヒマだし、付き合ってやっても……いーぜ?」
 大きな瞳が心なしか赤らんでいるように見える。
 幼さを残す可愛らしい容姿で、白山羊亭の扉の前に仁王立ちするその姿――ギルルイ・ヴュイーユは、「おかあちゃんの形見」というくだりに内心泣きそうになりつつ、気がつくと駆け出していたのだった。

 ……しーん。

「な……何だよ!!」
 慌てた様子で取り繕う。その姿が何とも可愛らしい。
 彼女の様子に微笑しつつ、席に着いて盗むとか盗まないとか…そんなやり取りを感慨深く聞いていたアイラス・サーリアスが声を掛ける。
「ギルルイさん、どうしたんですか、そんなに慌てて……」
「おう、あんたも居たのか。つうか慌ててなんかいねーよ! いや、今丁度ヒマなんだよ、ほら、だから…仕方ねーから俺も手伝ってやるって!」
「……そうですか?」
 ふぅむ…と、アイラスが首を傾げる。
 その様子にギルルイは「何だよ、何か文句あんのかよ」と凄んで見せるが、「いいえ」とやんわり微笑んだアイラスに難なくかわされてしまった。
「では僕も御一緒させていただきましょう」
「え? あんたも行くのか」
 驚いた様子のギルルイが黒い瞳を瞬かせる。
「えぇ、何か問題でもありましたか?」
 首を傾げるアイラスに「いや、何もねーって」と言いながら彼女は依頼人の方を向いた。
「あんた名前は?」
「おぉ、ねーちゃんほんまに協力してくれんの? いや〜ありがとな〜、うちは〜………せやなぁ……………………………………アリスって呼んでや」
「…………………………………………アリス?」
 アイラスの眼鏡の奥にある青い瞳がきらりと輝いた。
「…せや」
「どうかしたんですか? 何か間が…」
「な…何でもあらしまへんがな〜っ」
 ハハハと異様に大きな笑い声を上げたアリスを庇うように、何時の間にか席に着いてお茶を啜っていたギルルイが立ち上がった。
「おい、あんた。アリスは今おかあちゃんの形見を盗られて傷ついてるんだからな! あんまし追い詰めんなよ」
「…そうですね。アリスさん、済みませんでした」
 にこにこ笑顔で席に戻るアイラス。その奥の席に着いていた大柄な男が、いつの間にやら観光ガイドを片手ににっと笑った。
「アクアーネ村! いいね〜そりゃあ。おう、これだこれだ、
『エルザードと他地域との小さな中継地点でもあり、又同時に、有名な観光地でもある。水によって生かされる『水の都』――村中に張り巡らされた運河にゴンドラの揺れる光景は、この村特有のものでもある。とにかく歴史が古い為、たまに発見された遺跡に大騒ぎになる事も。村中に漂う水の香りが、夏でもどこか涼しさを思わせる』
おい見てみろよアイラス、こりゃあバカンスに持って来いだぜ!!」
「バカンスですか……オーマさんも行かれるんですか?」
「おう、皆でバカンスだな」
「いえ、これは歴とした依頼ですよ、オーマさん……?」
 その背後からいつの間に紛れ込んだやら、小さな少女がひょっこりと顔を出した。
「あくあーねってなになにな〜に〜〜?それおいしい〜〜?シキョウたべられる〜〜??たのしーのとかわくわく〜〜だったらシキョウもいくいく〜〜〜っっ♪♪あとね〜シキョウはおかあさんいないんだけどね〜、おねーちゃんの「ゆびわ」っておかあさんとの「おもいのきずな」なのかな〜〜?だったらちゃんとおねーちゃんといっしょいっしょしてなきゃだめだめだよね〜〜?」
「おー、シキョウ。お前位の胃袋の持ち主なら村ごと食っちまえるかもなぁ。
どした? おまえも観光行きてぇのか? ん??」
 オーマがシキョウの頭をわしわしっと大きな手で掻き回す。
 シキョウは少し嬉しそうに笑いながら、じっとオーマを見詰めた。
「えへへ〜、わくわく〜〜?」
「おう、そうだぜ。バカンスはうきうきわくわく親父心躍る大冒険だぜ!」
「たのしそう〜っシキョウもいくいく〜〜〜っっ」
「おっし、これでおまえも桃色筋肉体験だな!!」
「ももいろ〜〜っっ!」
 シキョウが両手を高々と上げて、嬉しそうに賛同する。
「あのー……お二人さん?」
 盛り上がった二人にアイラスの言葉は既に届かない。
 仕舞いには隣に座っていたギルルイまでもが「そうかぁ…バカンスか〜」等とぼやき始める。

 オーマの大柄で、小麦色のがっしりとした筋肉質な体系にアリスがよよよ、と言いながらよろめいた。
「そこっっ観光とちゃうやろがッッ!! しっかしあんた見るからに強そうやなぁ、しかも子持ち!?」
「確かに俺は子持ちだがコイツは立派な俺の親友よ」
「そうだよ〜〜オーマはシキョウの「おやぶん」なんだよ〜〜〜っっ」
 シキョウの肩にぽん、と大きな手を置いたオーマが口の端を持ち上げる。その横で、シキョウが腰に手を当てて何かを誇らしげに言う。
 アリスは双方の意見の食い違いを、胡散臭い物でも見るかのように目を細めて流した。
「あんたあかんでぇ、こんないたいけな少年かどわかしたら〜」
「沸かしてねぇしよ」
「シキョウはおんなのこだも〜〜〜ん〜っっ」
「おぉ、悪い悪い、女の子やったか……そうなん?」
 アリスがオーマの方を見遣る。
「見りゃわかんだろうがよ」
 あっさりと返された一言に、彼女は衝撃を受けた様子で激しく首を左右に振った。
「……あかん、うち目ぇ腐ったんやろか」
「おねーちゃん、シキョウおんなのこだよ〜〜?」
「いや、そうかそうか…すまんかったな〜」
 ははは、と誤魔化すように笑い声を立てたアリスに、シキョウは少し不貞腐れた様子で「も〜〜〜っ」と抗議の声を上げた。
「ま、えぇわ。ほなバカンスはともかく皆、うちに協力してくれるっちゅう事でええんやな!
たのんまっせ! 言わばうち等は運命共同体!! 打倒、あの野郎!! 倒せ、この野郎!! かどわかせ、美少女!! 行け行け、マッチョ!! 見分けろ、性別!! 疑念振り払え、青眼鏡君!! ちゅう事で!!」
 「ゴーッッ」といいながら拳を高々と天に突き上げ、彼女は其れに習って腕を翳したシキョウを伴って白山羊亭を走って出て行った。
「おっと、俺も行かねぇとな!」
 そう言ってギルルイはアリスとシキョウ、二人の後を追いかけて出て行ったのだった―――
 しかし、白山羊亭を出たギルルイの視界に二人の姿は欠片も見当たらない。
「あれ……おっかしいなぁ」
 彼女は首を傾げると、周囲の人間に聞き込みを始めた。

「あぁ、その二人なら喋りながらあっちの方に向かっていったよ」
「…あっち? また大雑把な奴だな、もうちょっと詳しい事わかんね―のかよ」
「いやぁ、おじさんも良くわからないんだよ、その二人…実は、物凄い勢いで壁を登っていったり、人間とは思えないほどのジャンプ力で……どっかあっちへ行ったんだよ」
 おじさんが遠い目をする――成る程、確かに物凄い勢いで走って出て行ったが……
「……壁を登っただって?」
 ギルルイはおじさんが口にした気になる単語に目を丸くした。
 どうやらアクアーネ村に着くまでに一波乱ありそうだ。
「よくわかんね―けど、とりあえず「あっち」にいってみるとするかな」
 これが後に語られる大冒険の始まりだった―――


《事前調査、ですかこれ?》

「盗みを決行するのは昼間の方がいいと思います」
 真っ白いテーブル、それに倣って並べられた椅子、日除けの薄い布がちらちらと風に揺れ、眩い日の光が視界一杯に広がる――水の都アクアーネ村の美しい風景を眺めながら、全員がアイラスの方へと視線を向けた。
 実の所は背後にある、水路に揺れるゴンドラをじっと見詰めている事は彼には内緒だ。
 一行は昨日エルザードを発ったものの、着いたのは真夜中だった――というのも、先頭を切って出発したはずのアリスとシキョウが、共に迷子になっていたらしく、それを捜すのに手間取ったためだ。そのために、歩き疲れた一行は村に着くなりオーマの「アクアーネ宿泊フリーパス一年分」を使用して、ぐったりとしてベッドに横になったのだった。
 そして、次の日の朝――ようやく作戦会議が催されたのだ…敵地のど真ん中で。
「シキョウおなかぺこぺこ〜〜」
「あーっほんとだ、お腹くっつきそうになってんじゃん、すっげー」
「えへへ〜すごい〜〜?」
 ギルルイにお腹を突付かれながら、どこか嬉しそうにシキョウが微笑む。
「マジでか、どれどれ、この腹黒医に見せてみな」
「あんたら朝から元気やなぁ……」
 依頼人ですら気だるそうに視線を流しながら、空腹にコーヒーを流し込んでいる。
「うぉっおまえ腹すっげぇへこんでんじゃねぇか、しっかしなぁ…俺の作って来た特性親父筋☆十段筋肉弁当は昨日お前を見つけた時に食べ尽くしちまったしな…」
「だっておなかすいてたんだも〜〜ん」
「おう、そりゃ仕方ねえよな」
「おう、あんたの弁当美味かったぜ! すげぇよなぁ、あれ、何ていうんだ?? 黄色の細いやつでぐるぐる巻きにしてあったやつ!」
「おぉ、ありゃあ卵のほそっこいやつで野菜のうまみを閉じ込めたひき肉をぐるんぐるんに巻き上げて体に優しい油で揚げた腹黒親父deマッチョ☆愛の下僕主夫特製春巻きだぜ!!」
「へぇ〜、それ全部名前か? 覚えられそうに無いな…」
「…金糸巻き、で良いんじゃないでしょうか」
「何言ってやがるんだ、アイラス。名前も全部ひっくるめてこその下僕主夫特製料理だろうが!」
「……そうでしたね。ところで僕の意見はどうなったんですか?」
「何だ? 甘味が欲しいのか? そうだろう、下僕主夫特製筋肉☆ラブクッキーでも食いてぇのか? あん? 朝っぱらから通だねぇ〜、安心しろよ、そんな事もあろうかと昨日バッチリ焼いてきたぜ! 下僕主夫とあろう者はどんな時でも準備を惰らねぇからな」
 そう言いながらオーマはテーブルの上に下僕主夫特製筋肉☆ラブクッキーのぎっしりと詰まったタッパーをごんっと置く。
「そうではなくて……アリスさんの依頼の件です。そもそもここへは彼女の依頼で来た訳ですし」
 話の腰を折られながらも、アイラスは果敢に挑む。
 しかし甘い物好き、もしくは食欲旺盛という共通点を持った他の三人は、一撃で下僕主夫特製筋肉☆ラブクッキーに群がった。
「おいしそう〜〜〜っね〜〜シキョウたべてもい〜い〜〜?」
「おう、どんどん食えよ! 沢山作ってきたからな!!」
「わ〜〜〜い! いただきま〜〜す」
「お、うまそうじゃん、俺も貰うぜ!」
「うちもいただきます〜。あんたも我慢せんと食べとき〜」
「おう、そうだぜアイラス。我慢は筋肉に良くねぇんだ」
「はぁ……」
 軽くため息をつきながら、アイラスは下僕主夫特製筋肉☆ラブクッキーに手を伸ばした。
「ここまで遠足気分なら…僕も何か作ってくれば良かったですかね」
 小さく呟きながら口元へ運ぶ――確かに、口の中に放り込んだ瞬間から仄かな腹黒親父愛の味(?)がした。
「美味いだろ?」
「えぇ、美味しいですよ」
 オーマの言葉にアイラスは優しく微笑んだ。
「じゃあ腹もちょろっと満たされた所で作戦会議と行こうか」
 ようやく事前調査が始まる――
「アリスさん、「形見を盗んだ相手」というのはどのような方ですか」
 アイラスの質問に、ギルルイが大きく頷きながら依頼人の方をじっと見つめる。
「……あいつの名前は………………………………「リッチィ」ここいら一帯を縄張りにしとる盗み屋や!」
「あんた昨日もすっげぇ間があったよな」
 依頼人の話の妙な間に、下僕主夫特製筋肉☆ラブクッキーを頬張りながら、ギルルイが鋭い指摘をする。
 アイラスは内心ほっとしながら「そうですね」と彼女の意見を肯定した。
「名前、忘れたんや。……うち最近忘れっぽくって」
「シキョウもね〜〜たま〜に「わすれもの」することあるんだよ〜〜〜このあいだもねぇ〜あそんでて「くつ」わすれてかえったらおこられちゃったの〜〜〜えへへ〜〜」
「「「「…………………」」」」
 気を取り直してアイラスが質問を再開する。
「……まぁ、いいでしょう。盗みに入る屋敷というのはどのようなものですか」
「あ、せやな、簡単やけどこれ見取り図! うち昨日迷子になった時に暇やったから描いといたんよ。いやぁ昨日は大変やったわ、うちこの辺の道程ようわからんかったから、シキョウの言う通りに歩いてったんよ、そしたら村まで一本道のはずやのに森に入ったり川に入ったりしてなぁ、大変やったんやわ〜ははは。まぁ、結局はお陰さんで無事たどり着いたけどな」
「えへへ〜〜〜シキョウえらい〜〜〜〜?」
「いやーほんまに助かったで、ありがとなぁ、シキョウ」
 大声で恥ずかしい体験談を高々と申告する。
 この言葉に、流石に彼女とシキョウ以外の三人は乾いた笑い声をあげた。
 聞いていた者は決して口になど出来なかった。「それは…もしかして、彼女のせいでならなくてもいい迷子になったのでは…?」などとは、決して。
「俺昨日すぐにあんた達の後追ったのに、何かどこ捜しても居ないからおかしいなぁと思ってたんだよな」
 昨日彼女は道を訊ねたおじさんに言われた通り、「あっちの方」に向かって歩き、二人の後を追っていったのだ。
 一体あの短時間の間にどうしてそこまで寄り道ができるのか、と思うほどの痕跡を追いながら――森へ入り、川を渡り――困りに困って残りの二人と合流して二人の探索に望んだ。とにかく、後を追うのにも苦労をしたのだ。
 その苦労の原因が今わかった――二人は迷子だったのだ。 
 ギルルイはそうかぁ…とぼやきながら下僕主夫特製筋肉☆ラブクッキーを片手に、アイラスの受け取った見取り図を横から覗き見る。
「流石に方向音痴なだけあって、素晴らしい見取り図だよな。俺全然わかんねー」
「これは……流石に僕もお手上げですね」
「そないな事言わんといてや。それでも頑張って描いたんやから」
 そういう彼女の描いた「見取り図」らしき物は、大きな四角の中にいびつな四角が並び、時には重なり合い…その中に×印だとか、そういう物が描いてあった。要するに色々と判別不能であった訳なのだが。
「せめて二階とかは別に描いて欲しかったですね」
「立体感目指して描いたんやけど、どうも上手くいきひんかったん」
 照れ笑いなのか、彼女は頬を赤らめつつ鼻の頭を掻く。
「結構芸術的なんじゃねぇの?」という腹黒親父の言葉に、「そう思うか!? そう思ってくれるか!!?」と、アリスが飛びついた事は言うまでもない。
「で、アリスさん、僕達が屋敷から盗み出す「指輪」は一体何処に保管されているのでしょう。指輪の形状ですとか…細かい事もお聞きしておきたいのですが」
 アリスはうーん、と唸った。
「指輪は二階の金庫にしまっとるっちゅう話やで。形は真ん丸。」
「指輪が丸いのは当たり前だろ……?」
 ギルルイの突っ込みにアリスはわははと豪快に笑って誤魔化す。
「せやなぁ、色は金色。実はも一個あってなぁ、それは銀色。んでもってその指輪にはごっつぃでかい石がついとんねん。その石は向こうが透けて見えるくらいに透明度が高いのに七色に輝く、それはもうきれいな指輪なんよ〜」
「…形見の指輪、二つもあんのか?」
「色々と事情があんねん」
 アリスはにへらっと笑ってギルルイの疑問を打ち砕く。
「へぇ…変わってんな、七色に光るのか…」
「ただの光の加減ではなくてですか?」
 こくりと頷いてみせたアリスは、口の端を思い切り引き上げた。
「あんたの最初にゆうてた意見にうちも賛成やで。あいつ昼間は「仕事」しとって滅多に屋敷にはおらへんからなぁ、盗みに入るなら今頃から夕方前にかけてが丁度いい頃合やで」
「そうですか…」
 そう言いながらアイラスは席を立ち上がった。
「アイラスどこかいくの〜〜〜?」
「えぇ、もう少し下調べが必要なようですからね…少し町に出てみます。頃合としては屋敷の人間が「仕事」に向かったとしても、少し間をおいてから入るべきでしょうね…忘れ物をして取りに戻らないとも限りませんから。そうですね…昼頃には盗みに入りましょう。」
「じゃあ現地集合だな」
 その場にいる全員がこくりと頷いた。
「……皆さん、余り目立つ行動は控えてくださいね?」
 念を押すように言うアイラスに、皆はもう一度、こっくりと深く首を頷けたのだった。


《行動開始》

 ギルルイは村を一通り眺め見て、それから屋敷へ向かおうとしていた。
「お前も一緒に行くか?」
「え? うち??」
「おう。ちょっと村の中見てまわろうぜ」
 ……まさかとは思うが、村の中でまで迷子になっては欲しくない。そんな想いでギルルイはアリスを誘ったのだった。
「ここ、あいつのテリトリーやし、うちはあんまほっつかない方がええと思うねん」
「そっか、そういやそうだよな。リッチィはお前の顔知ってるんだもんな」
 その言葉にアリスが何度も激しく首を縦に振う。それはもうオーバーなくらいに。
「せやから一人で行ってきいや、うちはその辺に居るわ」
 置いていくのは少々気が引けたが、堂々と歩けないのならば余り連れまわす事も出来なかった。
 ギルルイは少しだけ思案すると、一応念だけは押しておいた。
「……迷子にだけはなるなよ?」
「わはは、ならんならん。こんな所で誰が迷子になんぞなるかいな!」
「そっか…そうだよな。じゃあ、また後でな」
 笑って誤魔化された気がしたが、ギルルイはそのまま一人で村の中へと入っていったのだった。

 水の香りが漂う村――ギルルイは大きく深呼吸をすると、潮の香りとはまた違ったすがすがしさを感じながら村の中を一回りする。
「さて、と。そろそろ屋敷の方でも見に行くかな」
 アクアーネ村の奥にある大きな屋敷。
 そこにアリスの母の形見を盗んだという悪党が居るのだ。
 彼女は気を引き締めて屋敷の方へと向かった――しかし、その屋敷の前の木陰に、アリスがいた。
 何やら屋敷の中の様子を窺っているようだ。
 そっと後ろから忍び寄って彼女に声を掛ける。
「お前、何してんだ?」
「わっびっくりした!!」
 異様にリアクションの大きいアリスは、なにやら慌てた様子だ。
「どうした? 何かあったのか」
「あ、あぁ、大変やで、シキョウが誘拐されたわ!!」
「誘拐!?」
「今し方屋敷ん中に入っていったんや、うちたまたま見てしもうてん!!」
「な……なんだって!?」
 形見を盗んだ上にシキョウを誘拐、突如顔色を変えたギルルイは、すっと手を伸ばし――気がつくとその手に大きな「鮫歯刀」という、根元に細かい歯のついた巨大な剣を握り締めていた。
 彼女はそのまま屋敷の扉の前へと進み出た。勿論凄まじい剣幕で。

「盗んだ物を………」

 予想以上に大きな屋敷の前で、一人の女性が憮然とした表情で立ち尽くしていた。

「返しやがれーーーーーーっっ!!!!」

 大声で怒鳴りつける、これは只ならぬ事態だ。慌てたアリスは彼女をいさめようと必死だ。

「んなーーーっ!!ギルルイのねぇちゃん落ち着いてぇなーーーーーーっっ!!!」

「落ち着いてられっかーーーーーっっ!!!!!」

 大声で話す二人の背後から、一人の青年が現れた。彼は大目立ちで大活躍している二人を見て一瞬、足を止めた。
 彼はよからぬ想像でもしたかのように軽く首を左右に振う。そして、諦めたように屋敷の真ん前で騒ぎ立てている二人の方へと足を進めた。
「どうしたんですか?」
 背後からかけられた声に、ギルルイとアリスの二人は後ろを振り返った。
「おっ、やっと来たか、アイラス」
「もう、おそいわ、遅刻やで!」
 色々勝手な事を言われたような気がしたが、アイラスはとりあえず気に留めないでおくことにした。
「で、どうしたんですか? 何をそんなに騒いでいるんです」
 アイラスの質問にギルルイが答える。
「リッチィがシキョウを誘拐したんだ! アリスが屋敷の方を見に行った時に、偶然屋敷に入っていくのを見たって言うんだよ」
「シキョウさんを、誘拐?」
「せや、窃盗どころかあいつ、誘拐にまで手を伸ばしたんや!! もう許せんわっちゅう事でギルルイが屋敷に喧嘩売った所やったんやで」
「よーし、宣言も済ませたし、乗り込むぜ!!」
「え!? ちょっと待ってくださ…」
 アイラスが止める間も無く、ギルルイは鮫歯刀を構えて屋敷の扉に突っ込んでいった!
 回転しながら勢いをつけて扉を打ち砕く――

 ドゴオッッ

 扉の砕かれる音が響き、其れに相応しい振動が屋敷と彼らの立つ地面とを震わせた。
「容赦しねぇからな!」
 意気揚々と屋敷に侵入していくギルルイの背中を見ながら、アイラスは「こうなったら仕方がありませんね」と言って、何かしらの覚悟を決めた様子で彼女の後に続いて屋敷へと入っていった。


《顛末》

「……誰もいねぇな」
 屋敷内はしんとして静まり返っていた。
 アイラスが少しだけ眉を顰める。
「おかしいですね」
 確かに何処を見回しても辺りには人影一つ無い。
「……せやから、出かけとるんやって、うちちょっと向こうみてくるわ」
「アリスさん、ちょっと待ってください…一人では危険ですから離れないで下さいよ?」
 素早く駆け出していたアリスの腕を、何時の間にか追いかけて背後に迫っていたらしいアイラスが捉える。
「……へっ?」
「どうかしましたか? アリスさん」
 にっこりと笑みを深めたアイラスに、アリスは思わず背中に冷やりとした物を感じて作り笑いを浮かべる。
「うち結構足に自信あるん」
「僕もです」
「…………………へへ?」
 間髪いれずに答えたアイラスに、アリスはただ笑うしかなかった。
「おい、あんたら遊んでないで早くこいよ、階段見つけたから、二階に上がるぞ」
 そう言うギルルイの手には相変わらず鮫歯刀が握られていた。
 結局アイラスはアリスの腕を掴んだまま離さず、彼女は引き摺られるような格好で二階へと上がっていったのであった。
 暫しの沈黙の後、アイラスが思い出したように言う。
「僕が今朝方調べさせていただいた情報によりますと、今日も屋敷の主はおろか、仕えている人間も殆んどお出かけではないそうですよ」
「ふぅん…にしては静かな屋敷だな?」
「へ…へぇ……そうなんや? せやったら危ないんとちゃうの?」
「そうですか? 大丈夫ですよ、あちら様は歓迎して下さりそうなものじゃあありませんか…ねぇ?「アリス」さん」
 アイラスが強調して彼女の名前を呼ぶと、彼女はびくりと肩を震わせた。
「……あんた、もしかして…何か知っとるん?」
「さぁて、何のお話ですか」
 にっこり笑顔で彼女の質問をかわしたアイラスは、ギルルイの方に話を振った。
「ギルルイさん、そこの一番豪華な扉のある所がこの屋敷の主の部屋らしいですよ」
「おう、そうか…でっけぇ扉だな〜」
「今度は壊さない方がいいと思いますけれど…」
「そうか?」
 ギルルイが鮫歯刀をしまって扉をそっと開く――隙間から中を覗くと、彼女は驚いたような反応をして、扉を思い切り押し開いた。
 扉の向こうでは、シキョウが見知らぬ男と楽しそうに遊んでいた。その隣には何故か白衣を纏った「医者」の格好をしたオーマも居た。
「あ〜〜〜ギルルイだ〜〜アリスも〜アイラスもいるいる〜〜〜」
 シキョウが嬉しそうな笑顔を浮かべてギルルイの元へと駆け寄った。
「シキョウ…あんた無事だったのかよ、俺は誘拐されたって言うからてっきり…つぅか何仲良く遊んじまってんだよ、訳わかんねーな」
「え〜〜? リヒトはシキョウの「おともだち」なの〜〜っゆうかいなんてしないよ〜〜〜?」
「へぇ…シキョウさんは誘拐されてたんだ?」
 にっこりと人の良さそうな笑みを浮かべた黒髪の青年がすっと立ち上がり、着衣を正す。
 彼は今し方部屋へと入ってきたギルルイとアイラスに手を差し出すと、固い握手をした。
「はじめまして、私は理人。そこにいる亜里沙の兄です」
「…アリサ? 誰だよそれ」
 ギルルイが首を傾げて後ろを見ると、妙に汗をだらだらと流している女が目に入った。
「……アリス? もしかしてお前亜里沙??」
「………………」
 アリスは瞬きもせずに必死に顔を背け、限界ぎりぎりまで目線をどこか遠くへ飛ばしている。
「…その人達にはアリスって名乗ってるんだ?」
 理人が少しだけ首を傾けてアリスの顔を覗き込む――すると、アリスは耐え切れずにそのまま背を向けた。
「……今の内に素直になった方が良いですよ? 亜里沙さん」
 アイラスは相変わらず、今にも逃げ出しそうな彼女の腕を掴んだまま離さない。彼は苦笑しながら彼女の様子をじっと見守った。
「うっさいわ! うちは亜里沙なんかやないし、めちゃめちゃ素直やっちゅうねん!!」
「なーんかおかしいと思ったんだよなー! 名前言う時変だったし、つぅかあんた「あ」しか合ってねーよ!!」
「あはは、昔からネーミングセンス皆無でねぇ、この子」
 理人は苦笑しながらそう言うと、両手を揃えて胸の前辺りに持ってきた。
「君たちの探し物はこれかな?」
「あっおまえ、それ…亜里沙の指輪盗んだって本当なのか!?」
「そんなことする訳がないじゃないか。第一これは……亜里沙、君が僕にくれた物だろう?」
 最後の方は背を向けたままの亜里沙に問い掛けるように言った。
 彼女は背を向けたままうーーーっっと唸り声を上げている。
「なぁおい、どういうことだ?」
「恥ずかしながら…兄弟喧嘩のなれの果てがこの結果だという事ですよ」
 深いため息をつきながら、理人は首を左右に振う。
「けんかはだめだめなんだよ〜〜〜だから〜〜、ね〜ね〜〜ギルルイもあそぼ〜〜〜〜」
 ギルルイは首を傾げると、シキョウに手を引かれながら部屋の奥へと入っていった。
 彼女達に続いて亜里沙の腕を掴んだまま、アイラスも中へと入っていく。
「いやや〜っうちはもう帰る〜〜っっ」
「駄目だよ亜里沙、それでは自分で雇った人達に申し訳が立たないだろう?」
 にっこりとその顔に笑みを深く刻んだ理人がそのまま扉を閉じる。
 彼はそのまま扉の前に佇んでいる。彼女をどうあっても逃がさないつもりなのだろう。
 アイラスはようやく彼女の腕を解放すると、訳の解らないままシキョウと花瓶から取り出したらしい花を編み上げているギルルイに簡易的な説明をする。
「僕の入手した情報によりますと…この屋敷には仲の良い兄妹が住んでいたそうなのですが、ある日縁談の決まった兄に、大激怒した妹が家を飛び出したそうです」
「んでもってそれでも謝りにこねぇ兄貴に更に逆ギレこいた妹は、色々と事を荒立てようとした――例えば、兄を窃盗犯に仕立て上げようとしたり? 誘拐犯にしてみようとしたり? そのついでに自分がプレゼントした物を奪い返そうとしたり、まぁ、要するにガキが駄々こねてただけってこった」
「きっと不安だったんでしょうね、お兄さんに奥さんが出来てしまえば、もしかすると自分はもう顧られないかも知れない。不要な存在になってしまうかもしれない」
「でもまたなんで盗み出そうなんてしたんだよ? 自分も窃盗犯になっちまうじゃねぇか」
「そこがポイントなんですよね、僕には理解できません」
「あぁ、この子はねぇ、昔からそうなんだよ」
「うっ……ちょっとあんた、余計な事言わんといてや!!」
「どうしてだい、「アリス」? 君には関係のないことだろう?」
 うっと言葉を詰まらせた妹に、兄が楽しそうに笑っている。
「どうしてなんですか? 理人さん」
「あぁ、この子はね、自分のあげた物が他の人の手に渡ったり、捨てられてしまったりする事を酷く嫌うんだよ。どんなにボロボロになってしまっても、手元に置いておいて欲しい――そう考えるせいで昔から私も結構な被害にあっていてねぇ……」
 兄が遠い目をした。
 きっと過去に何か酷い思い出があるのだろう。苦笑してから気を取り直したように皆に笑いかけた。
「きっと亜里沙はこの指輪を彼女にあげてしまうとか思ってしまったんじゃないかな。そうだな……二つあるから、片方を彼女に渡してお揃いにしてしまうとか?」
「……要するにブラザーコンプレックス?」
「……ブラコンか」
「……ブラコン」
 ブラコン呼ばわりに耐えられなくなった亜里沙が突如、拳を震わせる。
「ブラコンブラコンうっさいわーーっ!! うちかて好きでこんなんになったんとちゃうぞ、この兄が悪いんや!! いっつもいっつもへらへらへらへら人の良さそうな笑顔ばっかしてからにーっっヨメに来る女が悪い奴やったらどうするんや、財産盗られて尻に敷かれて終わりか!! そんなんあるか!!? うちはどうなるん、そんなんなったらその女に追い出されてのたれ死ぬのが落ちやろが!! そんなん嫌じゃヴォゲッッ」
「「「「………………………」」」」
「と、まぁこんな風にいつも考えすぎるのがうちの妹の悪い癖でしてね?」
 打って変わって冷静な様子の理人が彼女の台詞にフォローを入れる。
「うーーっっこいつへらへらしとるクセにいっつも丸め込む口だけは巧いんや〜っせやから口の強い奴ゆうたのに〜っっあんたらまで巧い事コロコロされてどないしおんねんっっ!!」
「何を言ってるんですか、コロコロされているのはさっきからあなた一人でしょうに……」
「うっさいわーーっ一言多いんじゃボケェ」
「「アリス」さんは二言ほど多いですよ? もう最初っから怪しいのがバレバレでしたしね」
「くぅ〜っうちを黙らしてどうするつもりやあんたー」
 昨日から引っ張りまわされた疲労感の為か、アイラスが妙な所で口の強さを発揮する。
「でも〜〜シキョウはね〜〜「きょうだい」いないよ〜〜〜? でも〜シキョウみんなのことすきすきなの〜〜。アリスの「おもい」はおにーちゃんのことすきすきなんでしょ〜〜〜? じゃあなかよくしなくちゃだめだめ〜〜だよ〜〜〜? けんかしたらだめなの〜〜〜っ」
 シキョウの言葉に、理人は「そうだねぇ」と呟く。亜里沙に至っては更に黙り込んだ。
「亜里沙、私は君とちゃんと話をしたいんだけれどね…」
「……うちは、謝らんからな」
「うん、解った。でも、一応言っておくけれど――私も謝らないよ?」
「へっ?」
 亜里沙が思わず兄の方をじっと見つめる。
 理人は困ったように笑った。
 その様子から、いつもは兄が折れて収まっていたのであろう兄妹喧嘩の様子が窺える。
「結婚相手のことだけれどね、どうして会いもしない相手のことをそんなに悪く決め付けてしまえるんだい?」
「……突然現れるような女は信頼できひんもん。女は怖いんやで、兄貴は免疫無いからわからんのや!!」
「ははは。酷い言われ様だなぁ。ずっと黙っていたけれど、彼女との付き合いはもう結構長いんだ。出会ってから三年、付き合いを始めてからは二年くらい経つよ?」
 突然知らされた真実に、彼女は目を見開く。
「なっなんやて!? いつの間にそんな事……!! 一言も言わんかったやろが!!」
「それはこんな風に反対すると思っていたから言わなかったんだよ」
「………そら、まぁ」
 それ以上何も反論できなくなってしまったらしい彼女は、そのまま黙り込んでしまった。
「彼女は君のこともちゃんと理解してくれる、とても素晴らしい人だよ」
「……うちの事も話しとるんか」
「自分の家族の事だ、当たり前だろう」
 理人の言葉に亜里沙は顔を俯ける。
「…うち、……うち一人でガキだったん? 皆解ってて、こんな事したん??」
「…良くわかんねぇけど、その人に会ってみるべきなんじゃねーのかな、あんたせっかく兄妹いるんだし、こんな事でもめてるのって…なんだか寂しいよ」
「ね〜〜〜っ?」
 ギルルイは編み上げた花冠をシキョウの頭に乗せてやる。
「ギルルイにシキョウのつくったのあげる〜〜〜っ」
「おっサンキュ」
 シキョウが頑張って作ったらしい小さな花冠は、形こそ整ってはいなかったが、思いは込められている。ギルルイの縛り上げた髪の片方につけてやると、シキョウは嬉しそうに笑った。つられてギルルイも優しい笑みを浮かべる。
「えへへ〜〜おそろいおそろ〜〜〜い♪」
「…可愛いですね」
 理人の言った言葉にギルルイは過剰反応をする。
「おっ……俺が可愛いモン好きで悪いかよっ!!」
「ギルルイさん、誰もそんな事は言っていないですよ…? 似合うと言われたんだと思いますけれど」
「お、おう…そうか?」
 アイラスの言葉に途端に照れしまったのかギルルイが、あたふたとして立ち上がる。
「ね〜ね〜〜シキョウもにあう〜〜〜〜? かわい〜〜い〜〜〜??」
 理人の手を掴んだシキョウが彼に問い掛ける。
「うん。とても似合うよ。可愛いね」
「えへへ〜〜〜〜」
 嬉しそうに微笑むシキョウの素直さに、亜里沙の心も少しだけ、動かされたらしい。
「今回はうちが悪かったわ」
 彼女がぽつりと呟いた言葉に、理人が嬉しそうに笑った。
「今度、彼女に会ってね、亜里沙」
「……気が向いたらな」
「約束だよ?」
「……ん」
 亜里沙は返事こそしっかりとはしなかったが、頭をゆっくりと、強く頷けた。
 それを見た皆はやれやれ、といった様子で任務の完了に安堵の笑顔を洩らす。

「まぁ、作戦成功、俺様のラブ筋パワーのお陰だなっつぅところで!」
「そうですね、任務完了ですね」
「おっ、そうか。結局兄弟喧嘩だったんだもんな」
「よかったね〜〜なかなおりなかなおり〜〜〜〜っっ」

 一仕事を終えてどこかすがすがしい笑顔を湛えた面々。
 ところが彼らのほのぼのとした会話を打ち砕く、兄の必殺の一撃が待っていた。
「ところで「アリス」? 君のお友達が壊した屋敷の扉――……ちゃあんと後で請求するからね?」
 理人はにっこりと人の良さそうな笑みを浮かべて彼女を見詰めた。
「へっ……うち、が??」
「当たり前だろう、こういった事は雇い主が責任を持つものだよ」
 理人のいう事を理解したアイラスとギルルイ、そしてオーマがこっくりと頷いた。
 シキョウは皆の顔を見て「??」といった風に首を傾げている。

「んじゃ、そういう事で。後は頼んだぜ、ネェちゃん」
「僕達はこのまま観光でもしていきましょうかね」
「おっやったぜ、俺あのゴンドラに乗ってみたかったんだよなー」
「あ〜〜っいいな〜〜シキョウものるのる〜〜〜〜っっ」

 全員がそのまま部屋を後にしたのだった。
 少ししてからひょっこりと顔を出したオーマがにっと笑いながら彼女に言った。
「これから魅惑のアクアーネ親父愛祭り観光を開催すっからよ、話が済んだらお前らもこいよな!」
「楽しそうじゃないか、私もご一緒させてもらっても良いのかい?」
「おう! 勿論だぜ!! じゃあ後でな」
 理人が彼に向かってひらひらと手を振る。
 何も言えずに口をパクパクとさせていた彼女が声を発したのは、彼らがもう大分屋敷から離れた所を歩いている頃だった。
「そ……そないな、こと………んなあほな――――ッッ!!!!」
 アクアーネ村中に「アリス」の絶叫が木霊した。


《おまけ》

 魅惑のアクアーネ親父愛祭り観光――それは、ゴンドラの中で腹黒親父がレッツ筋肉☆ラブタップダンス。
 傍目からみてもそれと良くわかる、激しく揺れる一台のゴンドラの中で――数名がその揺れに酔って吐いたとか、吐かないとか、地獄を体験したとか、してないとか。





―――― FIN.

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 【1649/アイラス・サーリアス/男性/19歳/ 職業】
 【2474/ギルルイ・ヴュイーユ/女性/18歳/ 職業】
 【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳/ 職業】
 【2082/シキョウ/女性/14歳/ 職業】

※エントリー順です。

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 始めましての皆様も、お久しぶりな皆様も、どうもこんにちは、芽李です。
 と、同時に皆様お疲れ様でした。
 色んな人に連れまわされて、最終的には船酔いで具合の悪い結果となりました。
 ご愁傷様です。(最早誰に掛けているのかすらも解らない言葉)笑
 ギルルイさん、「形見」のくだりに涙して参加していただきましたのに…ただのブラコン落ちでした。ごめんなさい。笑

 兄弟はこの後仲良くやっていけるでしょう、きっと。
 今回も様々な分岐点を用意させていただきました。他の方の作品を読んで頂きますと、謎な部分も解けるかと思います。宜しければ読んでみてくださいね。
 それでは皆様、依頼を受けてくださってありがとうございました。
 また、機会がありましたらどうか宜しくお願い致します。