<ホワイトデー・恋人達の物語2005>


Which do you like?

「もうすぐ三倍返しの日だけど……」
 街中を歩きつつ一人溜息をつく青年は、店に飾られているお返し用のプレゼントの数々に視線を向けた。
「どうするかな……」
 女性からチョコレートを貰ったら一ヵ月後に三倍返ししなきゃいけないと知り合いに言われたのだが。……何を返したら良いのか……まったくわからない。
「んー……」
 店に入っていろいろ手にとってみるが……何を基準に選べば良いのか。
「わかんないな」
 手にとった物を置いて店を出ようとした、とそのとき。
「そこのお兄さん。お困りのようですね」
 ぽん、と肩を叩かれたので振り返ってみると、そこには笑顔の店員さんの姿があった。
「もしよろしかったらお手伝いしますよ?お返しって選ぶの大変ですよね」

「……あんた誰?」
 フィーリは目の前に立つにこやかな店員にまずは問ってみた。何者かは見てわかる。だが、いきなりぽんと肩を叩かれ、いきなり協力を申し出られても……誰だって困るだろう、おそらく。
 フィーリの質問にその店員は特に気を悪くすることもなくぺこりとお辞儀をした。
「わたしはこの店で働いているリッツといいます。今の時期はホワイトデーのお返しを探しに来る方がよくみえるので、そのお手伝いをしています」
 リッツと名乗ったその店員は、歳の頃は十七、十八歳くらい。長い髪は二本に分けて三つ編みされ、顔には丸い眼鏡がかかり、明朗快活といったところか。
「俺はフィーリ。こっちが」
「ジークっていうの。よろしくー」
 リッツの自己紹介に合わせてフィーリが名乗ると、ぱたぱたとフィーリの周りを飛んでいたジークもかわいい声で自分の名前を言う。
 双方の自己紹介が済んだところでフィーリはそうそう、とリッツに話し始めた。
「聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「? はい、どうぞ」
「知り合いに女性からチョコレートを貰ったら一ヵ月後に三倍返ししなきゃいけないって言われたんだけど……何を三倍返せばいいの?三倍の代金?それとも貰ったのがチョコレートだから返すのもやっぱりチョコレートなの?」
「え……」
 リッツはフィーリの問いを聞いた途端。鳩が豆鉄砲をくらったように目を丸くし……小さな呟きをもらした。
「(ま、まさか……このイベントのことを何も知らない、なん…て……)」
 始めはフィーリの冗談かと思った。チョコレートを貰ったと本人は言っているのだから貰う意味を知って受け取っているはずだと。
 だがリッツが我に返りフィーリを見ると……フィーリの表情はいたって真面目に疑問を投げかけている表情をしている。
「(知らない…のね……)」
 リッツはしばし考えた後、フィーリに説明しだした。
「まずバレンタインデーのことから知った方がいいみたいですね。バレンタインデーに女の子からチョコレートを貰うってことは、女の子の好きですっていう気持ちを受け取るってことなんです」
「そうなの?」
「そうですよ。だから貰ったチョコレートは込められた想いの分、普段のものよりも美味しかったはずです」
 話を聞いてもきょとんとしているフィーリの様子にリッツは内心で溜息をついていたが……まず、フィーリ自身がホワイトデーの意味を理解してくれなければお返しの物を選ぶ手助けをすることもできず。根気良く説明をしだしたのだが……。
「貰ったチョコレートはジークが食べちゃったからわからないんだけど」
「ええ……!?」
 次のフィーリの発言でリッツは驚きの混ざったショックを受け……ついに額を抑えてしまった。
「(その事態は予測していなかったわ……)」
 ちなみに当該のジークは、なーに?とまんまるな瞳をぱちくりとさせて不思議そうに二人を見ている。
「と、とにかく!バレンタインデーにもらうチョコレートは特別な物ってことがわかってもらえれば良いです。次にホワイトデーというのはチョコレートを貰った女の子に自分も好きですっていう気持ちを込めてクッキーやキャンディーを贈ったり、その女の子のために選んだ物を贈ったりする日です」
 しばしショックを受けて立ち直れないリッツであったが……すっくと立ち直るとその後は早かった。ホワイトデーについてざっと解説をし終えると、にこりと笑顔をうかべた。
「以上です。どうですか?わかってもらえましたか?」
 そんなリッツの問いにフィーリはというと……
「うーん……何を三倍返すのかはわかったけど、他はよくわからないな」
わかったようなわからないような……という複雑な表情をしている。
 フィーリの答えにリッツはやっぱりですか、と溜息をついた。
「では少し意味がずれてしまいますが……普段お世話になっている感謝の気持ちを込めてその子にチョコレートのお返しをする日、と言えばわかりますか?」
「それならわかるかな」
 リッツはおそらくフィーリにわかりやすいだろう言葉に置き換えて説明をしてみた。その結果、どうやらこの説明であればフィーリに理解ができたようである。
 フィーリは口元に手をあてて考えながら頷いた。
「そのなんとかデーっていう日の意味はなんとなくわかったけど、問題は何を三倍返すかだね」
「そうですね。でも三倍返しにしなくても、その人のために選んだものを返せば大丈夫ですよ」
「そういうもんなの?」
「そういうものです」
 フィーリはリッツの話を聞いてきょとんとしていたが、それ以上は気にすることもなく、そういうものかと納得した。
「ではどんなものがいいか、考えていきましょうか。チョコレートを貰った女の子が好きなもの、好きそうなものに心当たりはありませんか?」
「好きなもの?」
「はい。かわいい物が好きとかこの色が好きとかありませんか?」
 何かあったかな?とフィーリは幼馴染の姿を思い浮かべながら考えを巡らせ始める。
「確か美味しいものの食べ歩きは好きだったと思うけど」
「そうなんですか。他にも何かありませんか?」
「うーん……」
 他にといわれ再度考えてみるフィーリであったが……
「特にないかな」
これといって思い浮かぶものもなく、リッツへそのまま告げた。
 フィーリの意見を聞いてしばし考えこんでいたリッツであったが……突然何かひらめいたのかポンと手を打った。
「すっかり忘れていたのですが……お菓子と贈り物がセットになっているお返しがあるんです。その中からその女の子に合うものを選ぶといいと思います」
これなら始めから女の子の好みに合うようにギフトセットとして作られているし、ぴったりだとリッツは笑顔をうかべた。
 リッツの提案にフィーリは異存なく、そうするよと頷いた。
「わかりました。ではそのコーナーにご案内しますね。こちらになります」
 手である区画を示すとリッツはその方向へ向かって歩き出した。
「ジーク、行くよ」
「え、待って待って!フィーリ〜これ食べたい〜!」
 移動するよとフィーリがジークに告げると、ジークは慌ててお菓子の棚から大きな棒付きの飴を引っ張り出してきた。
 よいしょと言いながら飴を持って飛んでくるジークの姿にフィーリは溜息をついた。
「それ食べたいの?」
「うん!」
「持ってくるのは後にして、行くよ」
「はぁ〜い」
 フィーリの元まで大きな飴を運んでこようとしているジークを止めると、一旦飴を戻しに行ったジークを待たずにリッツの行った方向へと歩き出した。
「フィーリ〜待ってよぉ〜!うわっ!?」
「……はぁ……」
 先に歩いていってしまうフィーリを見たジークが慌てて彼の元へ飛んでいこうとした、そのときである。ジークが天井からぶら下げてあった板のオーナメントにぶち当たったのは。
 どんっ!と勢いよくぶつかると、ジークはそのまま降下し……ガラスケースの上にころんと落ちてのびてしまった。
 盛大に溜息をついて額を抑えたフィーリは、ジークの落ちたガラスケースのところまで戻るとくるくると目を回しているジークを抱き上げた。
「よく前を見て飛ばないからそうなるんだよ」
「きぃ……」
 わかったんだかわかってないんだか、とフィーリは溜息をついてその場から離れようとした。が、ふとある物が目に入って足を止めた。そして、じーっと眺めてみる。
 フィーリの視線の先にあった物、それは天使の羽根がつけられたネックレスであった。ちょうどジークをどけた真下にあったものである。
 その天使の羽根のネックレスは、曇りガラスで作られた白い天使の片翼が中央にあり、その両側にスワロフスキーで作られた透明な青いビーズと透明な白のビーズが交互にニ、三個、シルバーのチェーンに通されているものであった。
 なんとなく目に留まったそのネックレスを見ているうちに、フィーリの頭の中には幼馴染の笑顔がうかんでいた。それがなぜかはフィーリにはよくわからなかったが。
「フィーリさん?」
 少し経ち、フィーリが来る気配が無かったためどうしたんだろうと探しに来たリッツは、ガラスケースの前で立っているフィーリをみつけて声をかけた。
「何か良い物がみつかりましたか?」
 名前を呼ばれて振り返ったフィーリに、リッツはにこりと笑顔をうかべて問いかけた。声をかける前にフィーリが何かをじーっと見ていたのを目撃していたので。
 そんなリッツの問いにフィーリは視線をネックレスの方へ戻して答えた。
「なんとなくなんだけど、これがいい気がして」
「これですか?」
 フィーリの視線を見てどれの事を言っているか探すと、リッツは持っていた鍵でガラスケースを開け、天使の羽根のネックレスを取り出した。
 リッツが取り出したネックレスを見てフィーリは頷いた。
「これにするよ。なんでこれがいいのかさっぱり分からないけど」
「わかりました。ではこちらをラッピングしますので少しお待ちくださいね」
 そんなフィーリの様子にくすりと笑みをうかべながらリッツは、こちらへどうぞとフィーリを椅子のあるところへ案内すると自分はネックレスのラッピングをするために店の奥へと入っていった。

「お待たせしました、どうぞ」
 しばらくして、リッツは小さな手提げの紙袋を持ってきてフィーリへと手渡した。
「その紙袋ごと渡せるようにラッピングしておきましたので」
 リッツの言葉にフィーリは頷くと、片手にまだのびているジークを、もう片方の手にその紙袋を受け取った。
「ホワイトデーが楽しみですね。ありがとうございました!」
 フィーリが店を出ると、リッツは笑顔でそう言ってからぺこりとお辞儀をし、歩き出したフィーリを見送ってから店の中へと戻っていった。
 フィーリは自分の手にある紙袋の手提げを見て、
「わからなくてもなんとかなるもんだね」
ぼそりと一言呟くと家へと向かって歩き出した。
 ちなみにジークはというと……フィーリが家に着いてから気がつき、飴を買ってもらい損ねたことにショックを受けて大騒ぎをしたんだとか。
 天使の翼を持つその人に会えるまで、天使の羽根は静かにその時を待ち始めた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1112/フィーリ・メンフィス/男性/18歳/魔導剣士】
【NPC/リッツ/女性/18歳/雑貨屋店員】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 はじめまして、こんにちは!月波龍です。
 フィーリさんが選んだお返しの贈り物を気にいっていただけるといいなぁと思っています。
 ご依頼ありがとうございました!また機会がありましたらよろしくお願いします。