<PCクエストノベル(2人)>
塔が見せたもの 〜ダルダロスの黒夜塔〜
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【冒険者一覧】
【整理番号/名前/クラス】
■1985/エルバード・ウイッシュテン/元軍人、現在は旅人?
■2067/琉雨/召還士兼学者見習い
【助力探求者】
なし
【その他登場人物】
ニーナ
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エルバード・ウイッシュテンは目の前に座る琉雨が、真剣な表情でダルダロスの黒夜塔についての資料を読み進める姿を眺めた。
夕暮れ時の柔らかな橙色の光が、琉雨の桜色の髪を照らし、窓から吹き込んだ風がさらさらとその髪を弄ぶ。
それはエルバートの目を楽しませ、エルバートの顔には自然と笑みが浮かんだ。
ふと、顔をあげた琉雨が首を傾げて見せる。
琉雨:「どうかしましたか?」
エルバート:「いーや、別に。ところで嬢ちゃん、さっきから真剣に読んでるが何か気になるのか?」
琉雨は、こくん、と頷きその資料をエルバートに見せる。
琉雨:「このダルダロスの黒夜塔にいる魔物‥‥ダルダロスは架空のものだと思うんです。この塔には窓も入り口もなく、上部にのみぽっかりと穴が開いているだけだといいます」
エルバート:「あぁ、そういえば上からしか入れないんだったな」
琉雨:「塔の構造から吹き抜ける風が恐ろしげに響き、侵入者を阻む仕組みなのではないかと思うんですけど‥‥」
どうでしょうか、と琉雨はエルバートに尋ねる。
琉雨はそれが気になって仕方がないのだろう。
それならば見に行くのが一番だ、とエルバートは思う。机上の空論をいつまで考えていても埒があかない。
見に行く事が出来るのだったら自分の目で確かめればいい。
何処かに閉じこめられたお姫様でもあるまいし、とエルバートはにっと琉雨に微笑みかける。
琉雨はその瞬間、頬を染めて俯いた。
こういったことに慣れていないのだ。
エルバート:「嬢ちゃん、そんなに気になるなら実際に見に行ってみるか?」
琉雨:「‥‥えっ?」
エルバート:「行く事が出来るんだったら、行って自分の目で確かめるのが一番だと俺は思うけどな」
嬢ちゃんは籠の中の鳥じゃないだろう?、とエルバートは続ける。
その言葉に琉雨は頷いた。
琉雨:「はい。でも‥‥」
エルバート:「あぁ、嬢ちゃんを一人でなんて行かせる事はしないさ。もちろん、俺も一緒にな」
琉雨:「えっと‥‥よろしいんですか?」
エルバート:「こういう時は遠慮なんて要らないな。欲しい言葉はもっと他に‥‥」
琉雨:「ありがとうございます」
琉雨は小さな笑みを浮かべてエルバートに告げる。
ほんの少しずつ向けられる表情が豊かになってきているような気がするのは、エルバートの自惚れだろうか。
大切で愛おしい者。
存在自体を大切にしてあげたいと思える者が望む事を、否定する事は出来ない。
だから一緒に向かうのだ。
エルバート:「上等だな。それじゃ、早速行くか」
琉雨:「はい。よろしくお願いします」
こうして二人はダルダロスの塔へと向かう事になった。
ダルダロスの塔へ向かう途中、エルバートの知人の少女の家に一泊することになった。美しい銀髪と青い瞳のニーナという少女だったが、塔の傍に一人きりで住んでいるとの事だった。
ニーナは突然訪れた二人を快く迎えてくれたが、事前に連絡を入れていた訳では無かった為、素晴らしいハプニングがおまけとしてくっついてきた。
エルバートにとっては万々歳、世界の神様ありがとう、な状況である。
ニーナ:「ごめんなさい。ベッド‥‥一つしかないの」
琉雨:「あの‥‥こちらこそ突然お邪魔してすみません」
琉雨が申し訳なさそうにニーナに謝罪している横で、エルバートは、気にしない気にしない、と二人に声をかける。
エルバート:「よし、嬢ちゃん一緒に寝‥‥」
琉雨:「‥‥‥‥‥」
ゴォォォォッ!と素晴らしい音が響く。
無言のまま琉雨によって召還されたベビィサラマンダーにより燃やされるエルバート。
毎度毎度懲りない男である。何度琉雨に燃やされれば気が済むのだろうか。
焦げたエルバートをそのままに琉雨はニーナに告げる。
琉雨:「ベッドはニーナさんが使って下さい。突然来た私達が悪いんですから」
ニーナ:「でも‥‥」
エルバート:「そういうことなら、嬢ちゃん達二人で使えばいい。それなら良いだろ?」
さっきのは冗談だ、と復活したエルバートが二人に声をかける。
どこから何処まで冗談なのかエルバートの場合は判断しにくい、と琉雨は思うがそれがエルバートだった。
俺はあっち、とエルバートはソファを指し示す。
いいんですか?、と目で訴える琉雨に優しく頷いてみせるエルバート。
少しほっとした様子で、ありがとうございます、と琉雨は言うとニーナに、ご一緒させて頂きます、と告げたのだった。
夜、一緒のベッドに入ったニーナに琉雨は尋ねる。
どうしても聞きたかった事があったのだ。
一つの場所に留まり一人で暮らす少女。それは昔の自分の姿に重なる。
ただし、琉雨の場合一人きりではなく養父が居たが、家から出ずに暮らしていたのは同じだった。
ニーナは本当に一人きりでここに暮らしている。
琉雨:「一人は寂しくは無いですか‥‥?」
恐る恐る言葉を紡いだ琉雨だったが、ニーナは特に気にした様子もなく首を振る。
ニーナ:「それが日常だから‥‥」
日常だからといって、淋しくないというのは違うのではないか、と琉雨は思う。
少女は表情を変える事はない。しかし感情が無い訳では無いと思うのだ。
そうですか、と琉雨は呟きながらも胸中で、少女が笑顔になる日が訪れて欲しい、と願った。
自分が少しずつ感情を表せることが出来るようになったように。
翌日、エルバート達はニーナに別れを告げ目的地であるダルダロスの黒夜塔へと向かった。
ニーナの家から直ぐある塔は本当に入り口が上空にある一カ所だけの様だ。
ぽっかりと開いた黒い口。
この塔の中には本当にダルダロスが住んでいるのだろうか。
それとも琉雨が推測した通りなのだろうか。
エルバート:「よーし、嬢ちゃん。あそこまで飛ぶぞ」
琉雨:「はいっ!」
エルバートの飛翔術で塔内部に潜り込む事に成功する。
中は真っ暗だったが、ベビィサラマンダーが吐き出す火でぽうっと辺りは明るくなる。
その灯りを頼りに二人はゆっくりと階下へと向かった。
エルバート:「随分と狭いな」
琉雨:「本当ですね。外からはそんなに狭くは見えないのに‥‥」
琉雨は自分の仮説が正しかったのではないかと思う。
細い空洞を風が通り不気味な音を立てているのだと。
ただ、時空を曲げるということがよく分からない。
それをしっかりと調査しなければ、と琉雨はぐっと手を握って少しの変化も見逃さないように歩いていく。
しかし、突然頭が軽くなった。
髪の重さ分が消えたのだ。
えっ?、と声をあげた琉雨は自分の髪の毛を触る。
そこに長い桜色の髪の毛は無かった。
琉雨:「あっ‥‥」
エルバート:「へぇ、面白いな」
エルバートの姿も琉雨と同様変化していた。
髪が黒く長く伸び、少し大人びた姿に変化している。男前度に磨きがかかった感じだ。年齢を増すと出てくる男の色気というやつだろうか。
しかし琉雨が一人慌てふためいているのに、エルバートは楽しそうにそんな自分と琉雨を眺めていた。
エルバートが楽しそうなのには訳がある。
もちろん、自分が変化したのがおもしろいからというのも理由の一つだが、何よりも琉雨の変化にその原因はあった。
琉雨は少し活発そうな雰囲気の大人びた女性になっていたのだ。まるで未来図とでも言えるような。
それと不思議なのが何故か白衣というオプション付き。
仕事の出来る研究者の様な姿を見て、エルバートは嬉々として琉雨を口説き始める。
エルバート:「嬢ちゃん、なかなか良いカンジだな。うん、良い。あの綺麗な長い髪も心を擽られるが、ショートも似合ってる」
琉雨:「あ‥‥えっと‥‥」
エルバート:「どっかの研究者みたいだな。そうか、嬢ちゃんが大人になるとこんなカンジになるのか。あぁ、一緒にこの姿のまま飲みにでも行こうか。この姿なら訴えられる事も無いだろうしな」
いつもならここら辺でベビィサラマンダーの炎の洗礼を受けるエルバートだったが、混乱している琉雨はそこまで頭が回らないようだ。
混乱に乗じて、エルバートは琉雨の髪の毛に触れる。
さらさらと指の間を滑る滑らかな桜色の髪。
いつまでも触れていたいと思わせるその感触にエルバートは笑みを深めた。
それを間近で見てしまい、琉雨は更に混乱する。
真っ赤になった頬に悪戯心からエルバートは軽く口付けを落とした。
琉雨:「きゃっ!」
小さな悲鳴が上がるが、それはエルバートのキスがあったからではない。
琉雨の小さな悲鳴は自分の身が落ちていく事に対しての声だった。
琉雨の立っていた階段が、ずるり、とおかしな動きを見せエルバートとの間を広げる。
手を伸ばすが間に合わない。
みるみるうちにエルバートとの段差は広まり暗闇に飲み込まれるように琉雨の姿が消えた。
ちっ、と舌打ちをしたエルバートは飛翔術でその後を追う。
こんなところで失う訳にはいかなかった。
大切にしたいとそう願うのに。
琉雨は何が起きたか分からず、暗闇の中に佇んでいた。
一番下についたのだろうか。
落ちていく感覚は止まっていた。
ベビィサラマンダーを召還した琉雨は吐き出す炎で辺りを見渡す。
その瞬間、背筋が凍り付くのを感じた。
なんと形容して良いのか分からない程、怪物の大群が琉雨の周りに群がっていた。
じりじりとその距離は縮まっていく。
真っ黒なそれらは個であるかのようでいて、全てが混ざり合い一塊のようでもある。
琉雨:「‥‥‥!」
それらが一気に押し寄せてくるのを感じ、琉雨は視線をそれらの中心に向ける。
そこに光の魔方陣が浮かび上がり瞬時にケルベロスが現れた。
あっという間にその場がケルベロスのもたらす火で真っ赤に染まる。
燃えていく怪物の大群。
それらを確認しながら、琉雨は自分が倒れていくのを感じる。
瞳は全ての魔方陣と精神力を使いすぎ、髪と同じ桜色に戻っていた。
地に倒れる瞬間、追いついたエルバートが琉雨の身体を支える。
エルバート:「無事だな」
琉雨:「エル‥‥さ‥ん?」
桜色の瞳がエルバートを捕らえる。
頷き返すと琉雨は、無事で良かった、と微笑んだ。
しかしそこで悠長に感動の再会をしている場合ではなかった。
全てが燃え尽きた訳ではなく、まだ蠢いている者達が居た。
エルバートはとにかく脱出するぞ、と琉雨を横抱きにし、再び塔の最上部を目指す。
抱き上げられた琉雨はぐったりしているものの、その行為に驚き頬を染める。
琉雨:「エルさん‥‥あのっ‥‥」
エルバート:「今は聞かない。聞こえない」
琉雨:「でもっ‥‥えっと‥‥」
エルバート:「嬢ちゃん、放っておくと無茶ばかりするからな」
琉雨:「そんなこと‥‥無いと思います‥‥」
だんだんと小さくなっていく琉雨の声。
でも今回は仕方ないのではないだろうか、と心の中で付け加える。
あのままだったら多分やられていた。
それはエルバートも分かってはいたが、とにかくこの塔から出る事が先だ。
塔の最上部に付いた二人は塔から飛び降りる。
エルバートはそのまま無事に着地し、先ほどの黒い怪物が追ってきていないかを確認したが、塔から出ては来ないようだった。
そしていつの間にか二人の姿も元に戻っていた。
ただ違うのは琉雨の瞳が桜色になっていることだけ。
琉雨:「結局調べきる事が出来ませんでした‥‥」
残念そうに告げる琉雨にエルバートはくしゃくしゃと頭を撫でてやる。
エルバート:「また来ればいいだろ。こいつは逃げやしないんだし」
塔を指差しながらエルバートが告げると琉雨は頷く。
琉雨:「そうですね」
エルバート:「それに、さっきのあの嬢ちゃんの姿が見れるんだったら苦労も厭わない‥‥」
また燃やされる、と一瞬身構えたエルバートだったが、琉雨に今はその力がない事を思いだし笑う。
琉雨:「また一緒に来てくれますか?」
エルバート:「もちろん、喜んで」
嬢ちゃんの頼みならいつでも聞いてやるよ、とエルバートは琉雨と目線を合わせながら柔らかな笑みを浮かべた。
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