<PCクエストノベル(2人)>


ゴンドラ遊覧記

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1921 / クインタ・ニート / 護衛部隊員】
【1552 / パフティ・リーフ / メカニック兼ボディガード】

【NPC / 村人A・B・C】
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+序章+

 聖獣界ソーンの低空をゆったりと漂っている工場(に見えるようで実は半重力と慣性制御で浮かぶ船である)――トーブ家交易船があった。
 地上で羊を追っていた少年がそれを見つけ、空に想いを馳せている。自分もああいう風に空を飛べたらなぁと。
 それはそれとして、船の乗員はといえば一人の例外もなく陰鬱な雰囲気に包まれていた。
 なぜかといえば諸般の事情により、予定されていた休みが連続で潰れてしまい心身共に疲れきってしまったからだ。
 このままでは衛生上よろしくない。労働基準法よ我らを助けたまえ。我らを大地へ!大地へ!
 等と彼らが言ったかどうかは定かではないが、船は骨休みを兼ねて休みをとることになり――

クインタ:「パ、パフティ!」
パフティ:「あら、どうしたのクインタ。もしかして休日でも取れた?」

 船内の通路を慌しく駆けてくるクインタを見つけ、パフティはからかい半分に笑ってみせる。
 クインタは鍛えているだけあって息切れをすぐにひっこめると、走ってきたせいか他の要因のせいか、わずかに頬を上気させながらにんまりと笑った。

クインタ:「まさにそれだよ。船がアクアーネ村に寄港することになったんだ。骨休みの名目でね」
パフティ:「本当? よかったぁ、久しぶりの休日ね、クインタ」

 純度100%、無添加物の笑みで思わぬ反撃を受けたクインタは「一緒に村を回ろう」という一言を放つのに3分の時間を要した。


+1+
 
 アクアーネがどんな村であるかは、事前知識を差し引いても見れば一目瞭然だ。
 港場はもちろんのこと、村中に走っている運河の数はゆうに十を下るまい。水の香りは水面と同じく透明感を感じさせる――そんな村だった。
 二人(赤子もいるので実質四人)は港場で船から降り、そのまま村人の操るゴンドラに乗って村の中に入っていった。
 村の裏道を歩く猫よりも低い視線で、古いながらも趣を感じさせる建物を眺める二人。

クインタ:「うーん、気持ちが良い村だね」

 そんな何気ないクインタの呟きを聞いたパフティがくすりと笑みを漏らす。

パフティ:「綺麗じゃなくて気持ち良いなんて、クインタらしいわね」

 確かに気持ちも良いだろう。うんちく好きの操舵手がマイナスイオンが豊富なんですよ、と出所の怪しい知識をひけらかしている。
 二人に抱かれた双子の赤子も、ゆらゆらと揺れるゴンドラが楽しいのか、あーだとかうーだとか気持ちよさそうに笑っている。
 言葉も少なく(クインタは手を握ろうかどうしようかと必死になっているため、静かだ)そうしていると、村人が何かを思いついたかのように「あ」と声を漏らした。

村人A:「そういえばお二人さん、もう少し先にいったところで水中花火をやっているんですが、見ていかれますか?」
パフティ:「水中花火? なんですかそれは?」
クインタ:「水中でやる花火なんて聞いたことがないな」

 きょとんとする二人に、喜んで貰えそうだと村人の口元がほころぶ。そして誇らしげに説明を始めた。

村人A:「まあ、名前通りの催しなんですがね。とある科学者が水中花火っていうのを発明したんですわ。もうすぐ日も暮れますし、丁度良いでしょう。あとは見てからのお楽しみということで」

 そんなわけで、操舵手と四人を乗せたゴンドラが揺ら揺らと、目的地へと向かう。

 ――それを街角で監視している二つの影があった。
 影は何事かを囁き合いながら(通りがかった村人が聞き取ったのは「ついに来ましたね」という一言だけ)ゴンドラを追うように走り始める。
 バタバタと、騒々しい足音が村を駆け抜ける。


+2+

 日が暮れる前に食事を済ませておこうということで、二人は今、運河の上にあるレストランに立ち寄っていた。
 そこは巨大なゴンドラを改造してレストランにしたらしく、看板にも書いてあるが、まさに「運河の上のレストラン」なのだ。

クインタ:「しかし、ロープで固定されてるといっても、揺れてて落ち着かないな」
パフティ:「そう? 私は楽しいと思うけど」
クインタ:「うーん……でも料理がこぼれないか心配だ」

 といってもレストランで使用される皿は底が深く、料理がこぼれないように細工がしてあるので心配はない。
 それでも心もとないといった表情をしていたクインタは、とりあえず定番メニューと思わしき魚料理を二人分頼んだ。
 パフティはセルフサービスになってはいるが、無料のジュースをとりに席を立つ。そこで狙いすましたかのように、船内がグラリと大きく傾き――

パフティ:「きゃっ…!?」
クインタ:「あ、パフ――」

 クインタの行動は迅速だった。椅子を蹴るようにして立ち上がると、転びそうになったパフティの体をさっと抱く。
 それを見た双子はきゃっきゃと何が楽しいのか囃し立てた。

クインタ:「――ティ、だだだだだ大丈夫?」
パフティ:「え、ええ、大丈夫よ。ありがとう。それよりちょっと痛いかな……なんて」

 珍しく照れたような声でぼそぼそと囁くパフティ。
 ようやく抱きかかえていることを思い出したクインタは、大仰に腕をばたばたさせながら体を放した。
 それを見ていた客は羨ましいやら微笑ましいやらで、笑いながらひゅぅひゅうと口笛を吹くのであった。

クインタ:(……揺れるレストランも悪くないな)

 薄く味付けをしたシーフードパスタを食べながら、クインタは心中でそっと誰かに感謝を捧げた。


+終章+

 いよいよ夜も更けてきた頃、例の船員の操るゴンドラに乗って訪れたのは円形状のプールだった。
 プールといってもそれは運河の一部で、右を見ても左を見ても、同じ目的でやってきた観光客のゴンドラがあった。
 目的とはつまり、例の水中花火である。

村人A:「もうそろそろ始まりますよ。さあ水中を覗いていてください」

 村人の言葉通りに、赤子をしっかりと抱きながら水中を覗く二人。しばらくそうしていると、それは唐突に現れた。

パフティ:「わぁ……綺麗…」

 ポツポツと水中に色とりどりの光球が浮かび上がる。
 それらがゆらゆらと揺れながらプールをぐるぐると周り始める。
 繊細な鮮やかさに二人は息を呑んでそれらに魅入った。

クインタ:「うん……パフティも」

 若干一名は、熱心に水面を眺めるパフティに魅入っていたりするが――小声で囁いた言葉は水飛沫の音にかき消される。
 水飛沫は光球が爆ぜるたびに小さくあがる。飛沫にも光球の名残か色がついていて、まるで虹がかかったような美しさだった。
 二人は言葉も発せずに、ただただ、魅入る。
 そしてまた新しい光球が浮かび上がったところで、クインタは、ぎゅっと隣のパフティの手を握った。

パフティ:「クインタ…?」
クインタ:「き、ききき、来て良かったな。ききき綺麗だ」
パフティ:「……うん、とても綺麗ね」

 真っ赤なクインタの頬は夜でも鮮やかだった。くすくすとパフティは忍び笑いを漏らし――

村人B:「今だ!」
村人C:「あいよー!」

 頭上で景気の良い声があがった。何かの合図だろうかと、クインタが上を向く、すると丸い物体が落下してくるのが見えた
 大きさは西瓜一個分ぐらいだろうか、そんなものが落ちてくるのだからたまったものではない、パフティもそれに気づいて二人は同時にビーム銃を抜き――
 面前まで迫った丸い物体は突然爆ぜた。
 そして降り注いだのは――紙吹雪と「ようこそ、アクアーネ村へ!」と書かれたタスキだった。

クインタ:「な、え、えぇぇ?」

 思わず銃を構えたままかくりと膝が折れる。それを支えるパフティもきょとりとしていた。
 呵呵大笑しながら操舵手が二人の肩をぽんと叩く。

村人A:「はははは、驚かせてすみませんねぇ。実はお二人さんで1万人目の観光者でして、あれ、10万人目だったかな?」

 すぐに頭上から先ほどの二人(実は影の正体)の声が降ってくる。

村人B:「ま、そういうわけですよお二人さん!おめでとう!」
村人C:「実はこの花火も、お二人さんのためにやったんでさぁ。いきなりだったんで準備が大変でしたがねぇ」

 そしてあちこちのゴンドラから拍手が聞こえてくる。
 クインタとパフティは突然のことに口をぱくぱくさせながら、顔を見合わせ、気恥ずかしそうに笑いあうのだった。

 これは余談だが、たまたま同じ場所にいた船の乗組員に撮られた写真が、「水面で微笑みあうカップル」という題目で船内に貼り出されることになる。
 その時の二人の反応は如何なものだろうか。きっと気恥ずかしそうに笑いあうのだろう、今回のように――

―終―