<PCクエストノベル(1人)>


海の底で 〜海人の村フェデラ村〜

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【冒険者一覧】
【整理番号/名前/クラス】

 ■2623/廣禾・友巳/編集者

【助力探求者】
 なし

【その他登場人物】
 ネロ(フェデラ村住人、少年)
 男性(ネロの父)
 他フェデラ村住人
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 今日もソーンの空は高く青い。
 廣禾・友巳はその空の下で大きく伸びをしながら、海人の村フェデラ村へと向かおうとしていた。
 それは表向き取材という事になっていたが、半分は観光である。
 海人の生態はとても興味深い。
 水中生活人種で、地上でも支障なく生活出来るというのは一体どういう事なのだろう。
 そこを調査すべく友巳はフェデラ村へと向かうのだったが、心は既に海へと向かっている。
 こちらの世界に来てからすっかりご無沙汰しているが、元の世界ではスキューバダイビングが趣味だったのだ。
 海の中を自由に泳ぎ回り、地上では見られない生物を眺め水の流れと一体になる。
 その心地よさがとても好きだった。
 なんでも情報ではフェデラ村には秘薬があって、それを手に入れれば地上生活人種でも1日位は水中で生活できるようになるというのだ。
 いくらスキューバダイビングが好きだと言っても友巳も1日海に潜っていた経験は無い。もちろん、体力的にもその他色々問題がある訳だが。
 こういう時でなければそんな経験も出来ないだろう。

友巳:「ま、取材って言っても楽しくいかなきゃね。ただ、取材費が経費で落ちないのがつらいね‥‥」

 はぁ、と軽い溜息を吐き苦笑しながらも友巳は楽しそうだ。
 こうして友巳は暑い位の日差しに照らされ、フェデラ村へと足を向けた。



 フェデラ村にたどり着くと、気さくに声をかけてくるフェデラ村の人々。
 人を招待し歓迎するのが好き、というのは間違っていないらしい。
 友巳も明るく声を返しながら村の中央へと進む。
 友巳の他にも観光で来ている者も居る様で、ちらほら店でお土産を選んでいる様子も窺えた。

友巳:「へぇ、賑わってるんだ‥‥」

 感心した様子をみせながらも、友巳は取材はそっちのけで秘薬を売っている場所を探す。
 しかし辺りを見渡してみてもそれらしい看板は出ていなかった。
 どうしたものか、と友巳は丁度隣を通った少年を引き留める。

友巳:「あっ、ちょっといいかな?」
少年:「‥‥? なに?」
友巳:「私、海に潜りたくて来たんだけど『水中呼吸薬』と『ふやけ防止の塗り薬』を売ってる場所を教えて貰いたいんだ。教えてくれる?」
少年:「うん、いいよ。おねーさん、良い目してるね。それ、うちで売ってるんだ」

 ふふーん、と得意げに胸を張った少年は友巳の手を引いて走り出す。

友巳:「わっ! ちょっと‥‥」
少年:「早く早く!」

 半ば少年に引きずられる様にして友巳は店へと向かう。
 振り返って友巳を見る少年の鎖骨の辺りに光るものが見える。
 フェデラの村人には身体の何処かに鱗があるのが特徴だと文献で知っていたが、その少年は鎖骨に鱗があるようだった。

友巳:「へぇ、綺麗なもんだね」
少年:「えっ?」
友巳:「いやいや、なんでもない」

 くすり、と笑みを浮かべ友巳は引きずられるままに少年についていった。
 少年が足を止めたのは、浜辺に近い処にある一つの店だった。
 家族で経営しているのか、和気藹々とした雰囲気が漂ってる店だ。

少年:「水中呼吸薬とふやけ防止の塗り薬一人分〜!」
男性:「おっ。お客さんか?」
少年:「そ。丁度隣通ったら捕まった」
友巳:「捕まえてみました」

 少年が冗談めかして言うのを受けて、友巳もそれに便乗してみる。
 すると少年の父親と母親らしき人物が笑い出した。そして気さくに声をかけてくる。

男性:「そうかそうか。お嬢さん、今日は観光かい?」
友巳:「表向きはこの村の取材‥‥なんですけど、自分に正直になっちゃうと観光が目的です」
男性:「自分で言うのもなんだが、この村は観光には向いてると思うぞ。ほら、すぐそこ浜辺になってるだろ。この気候だしな、年がら年中海を堪能出来る」
友巳:「澄んでいてとても綺麗な海ですよね」
男性:「そりゃぁな。俺たちの故郷といっても良いものだし。俺たちの宝と言っても良い」
友巳:「宝‥‥‥確かにそうかもしれない。買えないものね、こんな綺麗な海」

 ぽつり、と海を見つめ呟いた友巳の掌に、ぽん、と乗せられる薬。
 はっ、と顔を向けた友巳の瞳に、少年の父親が浮かべる全開の笑顔が飛び込んできた。

男性:「あんたいい人みたいだからな、とっておきのポイントを教えてやるよ」

 少年の頭を、ぽん、と叩いて言う。

男性:「コイツはネロ。あんたをとっておきの海底神殿へ連れて行ってくれる」
ネロ:「え? 教えて良いの?」

 驚いた表情を浮かべるネロだったが、父親が頷くのを見て笑顔になる。

友巳:「あの‥‥私記事にしてしまうかもしれませんよ?」
男性:「まぁ、その時はその時。でも間違った事実やその神殿の存在を脅かすようなことはしないだろう?」
友巳:「えぇ、それは‥‥事実を曲げて書く事は私の本意ではありませんし‥‥」
ネロ:「だったらいいじゃん。すっげぇ綺麗なんだ。早く早く!」

 ネロは再び友巳の手を引いて走り出す。

友巳:「待って待って。私まだ薬飲んでないし、塗り薬も塗ってないよ」
ネロ:「そんなん、砂浜でいーじゃん」

 ネロに押し切られる形で友巳は浜辺へと向かい、そこで渡された薬を飲み、塗り薬を塗り始める。
 とりあえず全部塗らないと駄目なのだろうか、と思いつつも肌の露出している部分に適当に塗っていく。

友巳:「ねぇ、これ出てる部分だけで良いのかな?」
ネロ:「ん? あぁ、塗り薬? うん、見える部分だけで大丈夫だよ」

 そう言われて友巳は一瞬躊躇ったが、履いていたジーンズを脱ぎ下着姿になり、上はTシャツ一枚になる。
 スリムだがなかなか良いスタイルをしている。
 ジーンズのままでは泳ぎにくいし、こちらの世界で水着は持っていない。
 恥ずかしいなぁ、と思いつつもそれしかないのだから仕方ないだろう。
 しかし友巳の気持ちなど少年は気にした様子もなく、砂浜に器用に砂の城を作っていた。
 友巳は足にも塗り薬を塗りながらネロに尋ねる。

友巳:「この村の人は普段どうやって過ごしてるのかな?」
ネロ:「えっとねー、朝起きてご飯食べて漁に行って寝るだけ」
友巳:「いやいや、そうじゃなくて。いつも海の中で過ごしてるんじゃないのかなって思ってたんだけど」
ネロ:「じーちゃんやばーちゃんたちは海の中の方が住み慣れてるって海の中にいるけど、村には若い人が集まってるんだ。別に海中で生活しなきゃならないって訳じゃないから。ほら、海産物とか他の人達喜ぶだろ。村を訪れた人達喜んでるのって嬉しいじゃん」
友巳:「お年寄りは海中で若者は陸上で‥‥か」
ネロ:「じーちゃんたちに会いたい時は潜れば良いだけだし、二重生活も楽しいよって皆言ってる」

 二重生活ね、と友巳は笑う。
 確かに海中と陸上の二つの場所で暮らせるのはこの種族だけで、そんな暮らしぶりをそのように言うのも頷ける。

友巳:「それじゃ、質問! 鮫とかは襲ってこないの? 海中で火は焚けないけど困らないの?」
ネロ:「この海域には昔から近寄らないんだ。だから平気。 あー、火はいらないんだ。別に困った事はないよ」

 元から無ければ気にならないってじーちゃんが言ってた、とネロは言う。
 それももっともな話だ。元から無いのであれば、必要だとも思わないだろう。

友巳:「そっかー。なかなか貴重な意見ありがとう。よしっ! 久々の海ー!」

 準備の整った友巳は、パッ、と立ち上がり海を見つめる。
 友巳の声に驚いてか、海岸で網を引き上げている青年たちが友巳を見つめている。
 ひらひら、と照れ隠しに友巳が手を振ってみせると、青年たちも手を振り返してきた。

青年:「おねーさん、セクシー」
青年:「泳ぎ教えて上げようかー?」
友巳:「素敵なガイドさんが居るから大丈夫」

 ね、とネロに友巳は笑ってみせる。
 すると嬉しそうにネロは笑みを浮かべた。
 頼りにしてるからね、と友巳が告げると大きく頷いて海へと向かう。
 声をかけてきた青年がちょっといい男に見えたが、住む世界が違うのだから見込みのない恋はしない。それよりもネロに海底神殿を案内して貰う事の方が得策だと思う。
 友巳はネロの後について海へと潜った。


 海の中は友巳がこれまで潜ったどの海よりも綺麗で美しかった。
 数々の珊瑚礁や色の美しい魚が目に鮮やかに映る。
 薬の効果は半信半疑だったが、空気が無くても息が出来る。
 効果はバッチリだった。
 スキューバダイビングよりも快適で、友巳はその感覚を堪能する。
 海の散歩と言っても良いかもしれない。
 魚が人を恐れる事を知らないのか、寄ってきては戯れて離れていく。
 まるで友巳を歓迎しているかのようだった。

ネロ:「ここら辺の珊瑚とか魚とか綺麗だろー」
友巳:「本当に。あぁ、海中でも取れるカメラとか欲しかったなー」
ネロ:「カメラ?」
友巳:「この見たままを未来まで残しておけるもの。他の人にもこの美しさが伝えられるでしょ」
ネロ:「へー、そういうのあるんだ」

 此処の世界にはないかもね、と友巳は思ったが黙っておく事にする。
 ネロの案内で漸く海底神殿へとたどり着いた。
 そこはネロの父親が言っていた通り、かなりの規模をもった神殿だった。そして装飾が美しい。
 水圧もあるこの海底でこれだけの装飾が保たれている事の方が不思議だった。

友巳:「凄いね」
ネロ:「そうだろー。もうオレ初めてコレ見た時、すっげぇぇぇぇ!って感動したんだ。だってさ、オレのご先祖様が作ったんぜ」
友巳:「ここはフェデラ村の人々の思いの詰まった場所‥‥」
ネロ:「ココもだけどやっぱオレは海が好きだな」

 ネロが笑うと海に差し込む光に煌めいて、鎖骨の鱗が光った。
 それをほんの少しだけ友巳は眩しそうに見つめる。

友巳:「フェデラ村には宝物がたくさんあるね」
ネロ:「もっちろん。オレの自慢なんだ」

 海も神殿もそして人々の想いも。
 たくさんの宝物に囲まれた村。
 これは生半可な気持ちでは記事に出来ないな、と友巳は改めて思う。

友巳:「またココに遊びに来たら、海の中を案内してくれる?」
ネロ:「いいよ。そのかわり、また一番先に声かけてくれよな」
友巳:「そうだね。また捕まえるよ」

 ネロを、と言いながらくしゃりとネロの頭を撫でると、あーっ!!!、とネロは声を上げる。
 何事かと友巳が目を丸くしていると、友巳の手を掴んでネロは言った。

ネロ:「そうだ。おねーさんの名前、オレまだ聞いてなかったや」

 それだけか、と思う反面子供らしい反応に微笑む。

友巳:「そっか。名乗ってなかったね。私は廣禾・友巳。友巳でいいよ」
ネロ:「ユミね。よし、覚えた!」
友巳:「もう少し散歩していきたいんだけど、あとは何処がお勧め?」
ネロ:「そうだなー‥‥あっち!」

 こっちこっち、と先ほどと同じように友巳の手を掴む手。
 水の中でも友巳はネロに引きずり回されるのだった。

 美しい海と魚と神殿と。
 暫くこの光景を夢に見るだろう、と友巳は目を細めた。