<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


サクラを咲かせに

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「今年もサクラが咲き始めたわね。もう少し経てば見頃になるかしら?」
 黒山羊亭へ向うエスメラルダの目に、淡いピンクの色がちらりと映る。
「誰かを誘って花見に行くのもいいわね」
 ソーンにはサクラという樹はあまりないためか、花見という概念もほとんどない。だからこそエスメラルダは誰かを誘って花見に行こうと考えていた。
 あれこれと考えているうちにエスメラルダは黒山羊亭に到着すると、いつものように扉を開けて入ろうとした。だが……扉の前に誰かがいるのをみつけて首を傾げた。
「誰かしら?依頼人?」
 エスメラルダが扉に近づくと、扉の前にいた人はぱっと顔をあげた。
「あ、あの……あなたがここのオーナーさんですか?」
「ええ、そうよ」
 扉の前にいたのは年のころなら十二、三歳といったところか。まだあどけない顔をしている淡いピンクの髪を持った少女であった。
「わたし、依頼をしに来たんです」
 やはり依頼人だったのね、とエスメラルダは思いつつ少女を中へ招き入れると早速話を聞き始めた。
「……つまりこういうことね。あなたはサクラの樹の精霊で、サクラを綺麗に咲かせたい。でもサクラを綺麗に咲かせたいのに魔物が邪魔をしに来るから咲かせることができない、と」
「はい……」
「だからサクラを咲かすのを邪魔しに来る魔物をなんとかして欲しい、というのが依頼内容ね」
「そうです……どうかお願いします」

【1】
 今日も大盛況の黒山羊亭の扉をいつものように開けて中へ入る。そして一番に探すのは……そう、大好きなエスメラルダの姿である。
 きょろきょろと辺りを見回してエスメラルダの姿を探す……と、その姿は一番奥の席にあった。
レピア:「エスメラルダ、今夜お花見に行かない?」
エスメラルダ:「あら、レピア」
 いらっしゃい、と笑顔で振り向いて応じるエスメラルダに、レピアは声をかけてそのまま抱きつこうと手を伸ばしたが……ふと、視界に入った少女を見て更に嬉しそうな表情をうかべた。
レピア:「かわいい娘がいるわね。お客さん?」
エスメラルダ:「いいえ、依頼人よ」
レピア:「依頼人?」
 エスメラルダは興味を持った様子のレピアにこの少女がサクラといい、依頼はサクラの花を咲かせる魔物をなんとかすることで、サクラには魔を浄化する力があってどうやらそれを嫌っての犯行であるようだということ、魔法が使える人型の魔物が相手らしいということを簡単に説明をしてくれた。
 レピアはエスメラルダの話を聞き終わるとにこりと笑みをうかべた。
レピア:「あたしもこの依頼受けるわ。綺麗に咲いたサクラの下で花見をするの好きだもの」
だからあたしにも手伝わせて、とレピアがサクラに申し出ると、サクラは先程と同じようにお願いしますとお辞儀をして笑みをうかべた。
エスメラルダ:「メンバーも無事決まったようね。気をつけていってらっしゃい」

【2】
 翌日の夕方。今日は満月の晩で視界も良く、道も歩きやすいだろうということでサクラを含めた五人は問題のサクラの樹に向かっていた。
サクラ:「もう少し行くと見えてくると思います」
 先頭を歩き案内していたサクラは、周りの景色が次第に見慣れたものになってきたのか振り返って言った。
スアン:「緑の多いところですね。昼間は鳥さんがたくさん鳴いていそうです」
アイラス:「動物もたくさんいそうですね」
 夕焼けの色に染まる木々を見ながら、スアンは嬉しそうに飛んでいるキルシェを見て微笑む。そんな二方の様子を見てからアイラスも辺りを見回してみた。ほとんど人の手が入っていない、ありのままの自然がそこに広がっている。
オーマ:「緑も多い、桜も綺麗とくればやっぱり弁当は必需品だねぇ。作ってきて良かったぜ。桜に因んだ下僕主夫特製親父マニアックス悶絶豪華アニキ無限段弁当をよ」
レピア:「わたしはお花見をしながら思う存分踊りたいわ」
 お花見することを前提に作ってきた何十段もあるお弁当を持って満足そうに笑みをうかべるオーマ。その隣でくるりとまわって見せながらレピアは久しぶりの花見に期待大な様子である。
サクラ:「見えました。あの樹です」
 四人がそれぞれ思いながら歩くことしばし。少し高くなった場所に大きく枝を伸ばしたサクラの樹が次第に見えてきた。
アイラス:「魔物の姿は無いようですね……」
オーマ:「だねぇ。けどよ、どっからかいてぇぐらいの殺気がするぜ」
 サクラの樹が見え始めた時からだろうか?五人に向けて刺すような視線、殺気を感じるようになっていた。
レピア:「スアン戦闘は?」
スアン:「すみません、苦手です……」
 いつの間にか戻ってきたキルシェを抱きながらスアンはすまなそうに俯いて答えた。
オーマ:「そのことなら問題ねぇぜ。スアンもサクラもこのハッスルマッスルスーパー桃色親父に任せとけってね。がっつりガードしてやるぜ」
アイラス:「僕も微力ながら守りますので安心してください、スアンさんサクラさん」
 戦闘ができない女性を守るのは男の仕事、とオーマとアイラスは手に武器を構えてから笑みをうかべて言う。
レピア:「あたしもスアンやサクラを守れるわ」
 二人がスアンやサクラに言ったのを見て、レピアもエスメラルダに用意してもらった折りたたみ式の槍を完装させながら言う。
スアン:「オーマさんアイラスさんレピアさん……ありがとうございます」
サクラ:「お心遣いありがとうございます」
 三人の言葉を聞いて笑顔をうかべたスアンはそう言ってサクラと共にぺこりとお辞儀をした。三人の気持ちがとても嬉しかったので。
オーマ:「ということでだ。そろそろ出てきてもいいんじゃねぇか?サクラを困らせてる魔物さんとやら」
 話が上手くまとまったところで、オーマはにやりと笑みをうかべると後方に向っておもむろに大きな声をあげた。さっきからそこにいるのはわかってるぜ、と。
???:「はっ。いい感覚をもってやがる」
 オーマがそう言い終えた十数秒の沈黙の後。いきなりケタケタと笑い声が聞こえたかと思うと、未だ姿は見えない状態で嘲りの混じった声が聞こえてきた。
???:「サクラを咲かせるのを諦めてどっか行ったと思ったら、まぁいっぱい味方をつれてきて魔物退治ってわけですか?ピンクのお嬢さん」
サクラ:「わたしの仕事はサクラを咲かせること。仕事を遂行せずに諦めるものですか!それにあなたを退治しようとは考えていません。何度も言ってます。ここからどこか別の場所へ移動してくださいと」
 盛大に皮肉が入った言葉がサクラへ飛ぶと、サクラは凛とした声ではっきりと魔物へ言い返す。
 しかし魔物は再度ケタケタと笑いだした。
???:「またお話し合いをしましょうとか言うんじゃねぇだろうな?まったくもってくだらねぇ!そんなんで解決してりゃあ揉め事なんて起きないっての!」
 ぶわっと殺気が膨らんだ、と思った瞬間。サクラに向けて鋭い刃のようなものが続けて放たれた。
アイラス:「サクラさん!」
サクラ:「!?」
 魔物からの攻撃を素早く感知したアイラスはとっさにサクラを守るべく動いていた。サクラを抱き上げるとそのまま横へ跳んで攻撃をかわす。
スアン:「大丈夫ですか?アイラスさん、サクラさん……」
レピア:「スアン下がって!」
 攻撃を逃れた二人に駆け寄ろうとしたスアンであったが、レピアの声に動きを止めた。と、次の瞬間。スアン目掛けて先程と同じものが容赦なく襲い掛かる。
 レピアはスアンをぐいっと自分の後ろへ下げると、慣れた槍さばきで向ってきた刃のようなものを跳ね返す。
オーマ:「無事か!?レピア、スアン!」
レピア:「ええ。あたしはよく覚えてないんだけど身体がばっちり使い方を覚えているみたいだから」
 オーマの問いかけにレピアは槍を構え直しながらそう答える。
アイラス:「今の攻撃の角度からいっておそらく……」
オーマ:「ああ、あの辺りだろうねぇ」
 サクラを連れて戻ってきたアイラスは、オーマと背中合わせの形で立つとこそりと会話をする。どうやら双方の意見が合致したらしい。二人の視線は同じところを見ている。
 オーマとアイラスは一度視線を交わして頷くと、サクラとレピア、そしてスアンを見た。
オーマ:「レピア、サクラを連れて桜の樹へ行ってくれ。スアンもだ」
アイラス:「ここは僕たちがなんとかしますから」
 二人の言葉にレピアは意見を述べようと口を開きかけたが……二人の目が何かを言っているのを悟り、黙って頷いた。
レピア:「わかったわ。サクラ、スアン行くわよ」
スアン&サクラ:「はい!」
 レピアがそう言うと、二人はすぐに返事をし、サクラの樹に向って走り出した。最後にレピアが駆け出す。
???:「ちっ!そうはさせないぜ!」
 三人がサクラの樹に向って走っていくのを見た魔物は、舌打ちをすると刃のようなものを再度放ち始めた。
 魔物が攻撃をし始めたのを見てオーマとアイラスは魔物のいる方向へ駆け出した。そして……
オーマ:「お前さんまだまだ甘いぜ!」
???:「正面から堂々とおでましかよ!」
 盾を具現化し攻撃を受けながら近づいてくるオーマに、馬鹿にしたように笑う魔物。まるで姿が見えていれば怖いものは無いぞ、とばかりに。
???:「避けるばかりなんてつまんねぇことはやめてさー。かかってこいよ、おっさん」
オーマ:「なるほどねぇ。確かに避けるばかりじゃ勝てねぇだろうなぁ。だがよ、それは勝ち負けを決めるときの場合だ」
 魔物の言葉にオーマは楽しそうに笑みをうかべて言った。
オーマ:「威勢の良さだけじゃ何も解決しねぇのさ」
???:「はぁ?何言って!?」
 勝ち誇ったような笑みがオーマの顔にうかんだ、そのときである。オーマに気をとられている魔物が樹から叩き落されたのは。
 樹から叩き落された魔物はそのまま地面に落ちるかと思いきや……オーマの持っていた盾がぐにゃりと網に姿を変え、見事に魔物を受け止めてぐるぐる巻きにした。
アイラス:「上手くいきましたね」
オーマ:「おうよ!」
魔物:「……」
 二人の作戦に見事引っかかりぐるぐる巻きにされている魔物は、サクラの言っていたように人型で、外見は人間と変わりは無い。年のころならサクラと同じ十二、三といったところで、頭に一つ角が生えていた。
 魔物は諦めたのか観念したのか。無言で二人を睨んでいた。
レピア:「上手くいったのね」
アイラス:「レピアさん。戻ってこられたんですか?」
 サクラの樹へは途中まで走り、魔物が捕まったのを見て戻ってきたようだ。
オーマ:「サクラたちも戻ってきたことだしよ。いっちょこいつの言い分を聞いてみてぇんだが、どうよ?」
 魔物を捕らえている網から手を離さずに四人へとオーマは問いかける。すると……
アイラス:「僕は賛成です。できればこれ以上の戦闘は避けたいですし、相手にも言い分があるでしょうしね」
スアン:「私も賛成です。魔物さんがサクラを咲かせるのを邪魔するのには理由があるのですよね?」
レピア:「あたしも賛成よ。意見を聞いてみてから動いても遅くないもの」
オーマ:「満場一致ってやつだな」
全員同意見だったようだ。オーマはにっと笑みをうかべると魔物に向って言った。
オーマ:「っつう訳だ。そちらの言い分を聞かせちゃくれねぇか?」

【3】
 辺りはすっかりと暗くなり、満月がひょっこりと顔を出した。そんな頃、四人とサクラ、そして魔物はサクラの樹の前に移動した。
オーマ:「で、話を聞かせてもらおうじゃねぇか。どうして桜を咲かせたくないのか」
 地面にどっかりと腰を下ろし、魔物を捕らえている網を少々緩めたところでオーマが魔物へ問いかける。
 すると魔物はふてくされながらもぼそりぼそりと話し出した。
魔物:「サクラを咲かせたくない理由ならそいつに聞いてるんじゃねぇの?」
アイラス:「この桜が咲くと魔を浄化してしまうからですか?」
魔物:「聞いてるじゃねぇか」
 アイラスの問いに魔物はふんっと顔をそっぽに向けながら肯定する。
レピア:「だったらサクラのない土地に行けばいいんじゃないの?」
魔物:「お前もそいつと同じことを言うんだな……ま、それについちゃあそいつにはわかってないようだから説明してやるよ」
 レピアの問いが癪に障ったのか魔物は鋭い視線をレピアとサクラに向けたが、理由を話し出した。
魔物:「このサクラの樹は魔を浄化する力だけを持ってるんじゃねぇんだよ。誰か魔力感じるやついねぇのか?」
スアン:「……?」
サクラ:「魔力が何か関係を?」
 魔物の問いに首を傾げたスアンはサクラを見、サクラは首を左右に振ると問い返した。
魔物:「やれやれ……あんたホントにサクラ樹の精かよ」
アイラス:「魔力ですか……そう言われてみればこの桜の樹には魔力が宿っているようですね」
 盛大な溜息をつきながら言う魔物の発言に、アイラスは枝を広げている桜の樹を見上げて言う。
オーマ:「っつーことはだ。桜に魔力が宿ってんのとお前さんと何か関係があるってぇのを言いてぇ訳だ」
魔物:「おっさん冴えてんじゃん」
 オーマの指摘に顔を明るくした魔物は続きを話し出した。
魔物:「俺はこのサクラの樹から魔力を得て生きてんだ。つまり、この樹の近くにいねぇと魔力切れで俺は消滅」
アイラス:「なるほど。それであなたはここから移動することができないんですね」
レピア:「それでサクラが咲いたら困るわけね」
 魔物の解説にサクラを含めた五人は納得して頷いた。そういうことかと。
魔物:「サクラが咲いたら俺は浄化されて消える。だからここから逃げる。だが魔力が無ければ消滅は免れない。どうせ結果が同じだったら抵抗するってのは当たり前だろ?」
 納得した五人を見て魔物は俺が正しいと言わんばかりに腕を組んでふんぞり返る。
オーマ:「だったらよ。魔力のあるアイテムとか持ってればいいんじゃねぇのか?」
魔物:「アイテムねぇ。アイテムで良ければ苦労してねぇっつーの」
 ふと思いついた提案をオーマは魔物に言ってみた。だが、魔物はむっとするとまたふてくされた様子で答えた。
魔物:「魔力のあるアイテムだとそのうち魔力が無くなるんだ。いつか必ずな。じゃあ魔力の長持ちするアイテムを次々と探していけばいい、そう言うかもしれねぇけどよ。アイテムの魔力の寿命がどれほどのもんか手にとってわかんねぇっつーのにわざわざ危ないつり橋渡らなくてもいいだろ?」
ここに尽きない魔力の源があるんだからよ、と魔物は指でサクラの樹を示す。
スアン:「では魔力の長続きするアイテムを見つけて、それを持って一時避難をすれば解決するのではないでしょうか?」
魔物:「……それができねぇから困ってるんだろ……」
 必死に何かを考えていた様子のスアンであったが、突然ポンと軽く手を打つと、ふわりとした笑みをうかべて魔物へとそう提案する。これなら上手くいきますと。
 しかし魔物は嫌な顔をすると、がっくりと頭を垂れた。こいつ、今までの話聞いてたのか!?と言いたそうである。
魔物:「それができねぇから苦労してるっつー……」
オーマ:「魔力の長続きするアイテムってぇことならいいやつがあるぜ」
魔物:「へ?」
 魔物がスアンに向けて文句を言い始めたそのとき。お!と声をあげたオーマはがさごそと懐を探るとある物を取り出した。それは……。
アイラス:「それってこないだの……」
オーマ:「おうよ!」
アンティーク調の、装飾が綺麗な手鏡であった。
オーマ:「こいつを貸しといてやるよ。活きが良すぎて仕方ねぇからこっちにちょっかい出せねぇように細工してあるぐらいだからよ」
持続力は考えなくていいぜとオーマは手鏡を魔物に渡した。
 魔物は最初その手鏡を疑っていたようだが……恐る恐る手を伸ばして手にとると、嬉しそうな声をあげた。
魔物:「お!確かにこいつはすげぇや。お!?」
五人:「!?」
 手鏡を受け取って少ししたそのときである。魔物の姿が突然変化したのは。
 五人は思わず驚き下がって武器に手をかけたが……どうやらその心配は無かったようだ。
魔物:「すげー!元の姿に戻れたぜ。久々だな」
アイラス:「元の姿ですか……?」
 すっかり上機嫌になったその魔物の姿はというと……長身の男性へと変化していた。ぱっと見ただけの年齢でいえば二十歳前後の姿に。
魔物:「これなら何年かは大丈夫だ。ありがとよおっさん」
オーマ:「なーにいいってことよ。ただしきっちり返しに来るんだぜ?」
魔物:「わかってるって。じゃ、花が終わったら帰ってくるからよ。サクラ咲かせていいぜ」
俺が抵抗する理由は消えたからな、そう言い残すが早く。魔物は手鏡を持って駆け出すとどこかへ走り去ってしまった。
アイラス:「なんだか意外な結果が待っていましたね……」
レピア:「ええ……」
スアン:「ですが何事もなく問題が片付いたのは良いことだと思います」
オーマ:「結果良ければ全て良しってぇ言葉もあるしな」
 魔物が去ってしばらくの沈黙の後。四人はそれぞれ感想を述べてからサクラに視線を集めた。どうやら意外にあっさりと問題が片付いて一番ぽかんとしていたのはサクラだったようである。
 そんなサクラの姿を見て豪快に笑ったオーマは、彼女の肩をポンと軽く叩いてやると桜の樹を示した。
オーマ:「最後の仕上げが残ってるぜサクラ。呆けてる場合じゃねぇだろ?」
サクラ:「……あ、はい!」
 オーマの声と行動でようやく我に返ったサクラは、慌てて返事をすると自分を見ていた四人にぺこりと頭を下げた。
サクラ:「どうもありがとうございました。みなさんのお陰で無事にサクラを咲かせることができます」
 そう言ってふわりと嬉しそうな表情をうかべたサクラは、四人に少し離れるように言うとサクラの樹の前ですうっと息を吸い込んだ。
スアン:「この歌は……」
アイラス:「僕らが黒山羊亭に行ったときに聞こえてきた曲ですね」
オーマ:「なるほどねぇ。そん時の曲がサクラを咲かせる歌だったわけだ」
凛とした声に紡がれる詩。それに合わせて舞う少女の姿。少女の舞に合わせて響く鈴の音……。夜ではあったが、サクラの姿は詩を紡ぎ舞い踊ると共に淡い光を放ちだした。そして……!
スアン:「わぁ……」
アイラス:「綺麗ですね……」
オーマ:「白い桜たぁなかなか風流じゃねぇか」
 サクラの淡い光に照らし出されたサクラの樹に、次第に蕾ができ、その蕾から柔らかな花弁がゆっくりと外に向かって広がっていく。
レピア:「あたしも踊るわ!」
 幻想的な光景をじーっと見ていたレピアであったが……ついに耐え切れなくなったのか、サクラの元へ駆け寄り一緒に踊りだした。
スアン:「わたしも一緒に躍らせてください。あ、アイラスさん。これを」
アイラス:「これは……?」
スアン:「わたしが作ってきたお弁当です。持っていてもらえませんか?」
 二人が楽しそうに踊っている様子を見てスアンも共に踊りたくなった様子で、二人の元へ急ごうと思ったが……ふと手にしている物に気づき、アイラスへとそれを手渡した。
 女性陣がサクラの樹の元へ行ってしまったのを見てオーマとアイラスは顔を見合わせると、
オーマ:「俺たちは花見の準備でもするかねぇ」
アイラス:「そうですね」
笑みをうかべながらしっかり持ってきた花見用の道具を広げだした。
 しばらくしてサクラが満開になると、流石に疲れたのかサクラは踊るのを止めてオーマたちの座っているところへ歩いて向かおうとした。が、そこでひょいと伸びてきた手に捕まり、びっくりして振り返る。
 サクラが振り返った先にいたのは踊りを満喫しているレピアであった。
レピア:「もう休むの?」
サクラ:「はい。オーマさんやアイラスさんの用意してくれた席の方も楽しそうですし」
 途中で踊り疲れて抜けたスアンやオーマ、アイラスが楽しそうに会話をしているのを見て興味をひかれたらしい。
 サクラの話を聞いてふむと考え込んだレピアであったが、すぐに顔を明るくするとにこりと笑った。
レピア:「じゃあ先に報酬もらおうかしら」
サクラ:「え?」
三人:「あ」
 サクラがこちらに来そうだと察知して、彼女に向かって手を振ろうとした三人が目撃したもの、それは……レピアがサクラの唇を奪った瞬間であった。
 突然の出来事にサクラは一瞬何が起きたか把握できなかったようだが……しばらくしてレピアの唇が離れた瞬間に、真っ赤になって口元に手をあてた。
レピア:「ふふふ、ご馳走様。ってあれ……?」
サクラ:「あ……」
 満足そうにレピアが笑い離れた瞬間。彼女はそのまま地面にぺたりと座り込んでしまった。本人は訳がわからずに不思議そうな表情をうかべている。
 そんなレピアの前にいたサクラはレピアの様子を見て小さな声をあげたが……次の瞬間。
レピア:「え!?」
サクラの姿がさっきの魔物の姿のように突然変化し……そして、レピアの前には絶世の美女と言って間違いない女性が顔を赤らめて立っていた。
サクラ:「ご、ごめんなさい!わたし、人間の方とえっとこうすると……生気を吸ってしまって……その……ごめんなさい!」
 理由を言いながら顔を隠すサクラの姿に、オーマ、アイラス、スアンは驚いて声も出なかったらしい。が、すぐに回復するとサクラを呼んだ。
オーマ:「レピアの生気を吸って華麗に大変身☆ってやつか」
アイラス:「生気を吸ってしまうとは……相手がレピアさんで良かったですね」
 二人はある意味感心しながらそう呟いた、が。スアンはというと……
スアン:「サクラさーん!今日は鼻提燈型ランプや目玉模様の敷物はないですがお花見の用意できましたよー」
といつもと変わらない様子でふんわりと笑顔をうかべてサクラを呼んでいた。
 柔らかな光を放つ満月を背景に白いサクラを眺める。そんな贅沢な時間を過ごすことは何よりも思い出になるものだろう。
 花見を楽しみだした四人は時折風に揺れるサクラを見上げては、自然と優しい笑みをうかべていた。春一時だけの満足な一時をサクラの元で過ごすことができて嬉しいと。……最後にすればよかったわと少しだけ後悔していた一人も含めて。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男性 / 39歳 / 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2547 / スアン・プリマヴェーラ / 女性 / 16歳 / 常世の歌い手】
【1649 / アイラス・サーリアス / 男性 / 19歳 / フィズィクル・アディプト&腹黒同盟の2番】
【1926 / レピア・浮桜 / 女性 / 23歳 / 傾国の踊り子】
【NPC / サクラ / サクラ樹の精霊】

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■         ライター通信          ■
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  いつもありがとうございます、月波龍です。
  納品が遅れてしまいすみませんでした。
  もし至らない点がありましたらご連絡ください。次回執筆時に参考にさせていただきたいと思います。
  楽しんでいただけたようでしたら光栄です。
  また機会がありましたらよろしくお願いします。