<PCクエストノベル(5人)>


薬草を求めて 〜ルクエンドの地下水脈〜

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【冒険者一覧】
【整理番号/名前/クラス】

 ■1956/イレイル・レスト/風使い(風魔法使い)
 ■0812/シグルマ/戦士
 ■1925/ユーリ・フォレスト/植物学者
 ■1972/シュウ・ホウメイ/リレン師
 ■1997/ファサード/人形師(細工師)

【助力探求者】
 なし

【その他登場人物】
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◆◆◆

 春の柔らかい日差しの中、イレイル・レストは窓辺で一冊の本を読んでいた。
 薬草屋を営むイレイルは珍しい薬草に目がない。
 多数の種族からなるソーンには、未だその種族間でしか知られていない薬草なども多い。それを集めた様な本もたまに出版されるのだが、イレイルが目を通していたのもその類のものだった。
 そこには大変興味深い薬草が載っていた。

イレイル:「薬草の花の開花時期は3日ですか‥‥」
シグルマ:「なんだ、また難しそうな顔しやがって」
イレイル:「あぁ、シグルマさん。いらっしゃいませ」

 誌面からシグルマへと視線を移したイレイルが柔らかな微笑を向けた。
 これですよ、とイレイルはシグルマに今まで自分が見ていた誌面を指差す。

ファサード:「へぇ‥‥それは、とても面白そう‥‥」
イレイル:「ファサードさんもいらっしゃいませ」
ファサード:「こんにちは‥‥お久しぶり、です‥‥」

 とことことシグルマの背後からやってきたファサードも本を覗き込んで、その薬草の絵を眺めた。

イレイル:「花の開花時期は3日だそうです。これを探しに行ってみたいんですけど、この開花時期に間に合うかどうか‥‥難しい所ですね」

 苦笑気味にイレイルが告げると、シグルマとファサードが顔を見合わせ言う。

シグルマ:「ま、行ってみねえと分からねえしな。付き合うぜ」
ファサード:「行ってみるだけの‥‥価値は、ありそうです」
イレイル:「お二人とも一緒に来て頂けるのですか?」
シグルマ:「一人じゃ大変そうだし。上手い事、手も空いてるしな」
ファサード:「‥‥僕は、足手まといになるかも、‥‥ね」

 シグルマが四本の手を振って見せ、くすくすとファサードが笑うとイレイルが首を振る。

イレイル:「そんなことありませんよ。実は一人で行くのがほんの少し不安だったんです。お二人ともありがとうございます」

 イレイルがにっこりと微笑んだ時、薬草屋のドアが静かに開かれた。顔を覗かせたのはシュウ・ホウメイとユーリ・フォレストの二人だ。
 楽しそうな話し声は薬草屋の外まで響いていたらしい。

シュウ:「久しぶりだな。随分と賑やかだったが‥‥何処かへ出かけるのか?」
ユーリ:「こんにちは。楽しそうな声が聞こえてきたから寄ってみたんだけれど、あら‥‥?」

 ユーリがイレイルの手にした本に目をとめ声を上げる。
 イレイルの元へと近づいたユーリはじっとその花を見つめた。植物学者でもあるユーリはすぐにその花が何であるか気付いた様だ。確か、とユーリは自分の知っている知識を無意識のうちに呟く。

ユーリ:「確か疲労回復に効果があると言われていて‥‥花は三日間しか咲かないからとても珍しいと有名だったはず。花が薬になるのよね。‥‥もしかしてこれを探しに行くのかしら?」
イレイル:「えぇ、そうなんです。ただ、花の咲いている時期に見つけられるかが問題なんですけどね」
ファサード:「疲労回復に‥‥効果‥有り‥‥? 僕のような者にも‥‥‥効くのかな‥‥?」

 首を傾げつつファサードが言うと、イレイルが本を閉じながら告げる。

イレイル:「効くかどうかは俺には分かりませんけど、試してみる事は悪い事ではないと思いますよ」
ユーリ:「私もそう思います。何事もやってみなければ、調べてみなければ分かりませんから。それで‥‥、と言ったら付け足しみたいで申し訳ないのだけれど、もし良かったら私もご一緒させて貰えないかしら? とても珍しい花だから研究してみたいの」
シュウ:「そうだな。その価値はある」
イレイル:「もちろんです。皆さんで行った方が楽しいでしょうし。それにユーリさんの研究の材料になるのならそれも嬉しい事です」
シグルマ:「人数も増えて楽しくなってきたな。よし、行くかー」

 生えてる場所は分かってるんだよな?、とシグルマが尋ねると はい、とイレイルは頷く。

イレイル:「では用意が出来たら行きましょう。ルクエンドの地下水脈へ‥‥」

 こうして、ルクエンドの地下水脈へと薬草探しに向かう事になったのだった。



◆◆◆

 周囲を河に囲まれた森ばかりの島。
 豊富な地下水脈が無数にある。その出口は全て解明されている訳ではなく、不明なものが多い。ある程度の簡単な地図はあるものの正確な地図がある訳ではないから、道に迷う事も想定して動かなければならなかった。
 しかしイレイルはそれほど心配してはいなかった。
 あちこちを冒険しているシグルマが一緒だったし、他にも頼りになる人々が一緒なのだから。
 資料となるであろう本と簡単に纏められた地図を持ち、数日分の食料も持つ。
 向かった先はもちろんルクエンドの地下水脈なのだが、辿り着いた場所にあったのは3つの入り口だった。

イレイル:「入り口が3つですか‥‥」
シュウ:「ばらばらに行くのも一つの手だが‥‥」
シグルマ:「戦闘があるかわからねえが、戦力を分散させるのは余りいい手とは思えねえな」

 シグルマの言葉にイレイルは頷く。
 確かに分かれて行った方が、花に辿り着く可能性は高くなる様な気がする。しかし、それは同時に危険度が高くなる事でもあって。全員戦闘に長けているなら分かれて進むのも良いが、戦力にも差があり中がどうなっているのかが分からない場合、それは自殺行為になりかねない。
 イレイルは決断する。

イレイル:「ここは一つの入り口を選んで進みましょう。それで辿り着けなかったら、今回は運が無かったって事で」
ファサード:「‥‥見つかる事を‥‥祈ってます」
ユーリ:「そうですね。見つけられると良いけれど‥‥」

 それでは入り口を選びましょう、とイレイルが告げると既にそちらを探っていたシグルマとシュウが皆を手招く。

シグルマ:「ここだけちょっと他の入り口とは違って、草が生えてるぜ」
ユーリ:「草が生えているという事は、他にも植物がある事が予想されますよね」
イレイル:「風も‥‥あちらから吹いてきている様ですね。何処かに繋がっているのかもしれません」
ファサード:「‥‥行ってみるのも、いいかも‥‥」
シュウ:「ここにするか?」

 他の入り口も除いてみるイレイルだったが、草の生えている入り口に戻ってくると告げた。

イレイル:「一か八かでここから中へと向かいましょう。行き止まりってことはなさそうですし」
シグルマ:「よしっ! それじゃ先に俺が行くぞ」
イレイル:「お願いします」

 ランプを持ったシグルマが先を行き、イレイル、ファサード、ユーリ、シュウの順で中へと入っていく。
 足下はごつごつとした岩場で、身を屈めなければ通れない様な通路だった。

シグルマ:「結構きついな‥‥」
シュウ:「でもまだ匍匐前進をしなくても良いだけましな方だろう」
ファサード:「冒険って‥‥、大変ですよね‥‥」

 軽くファサードが溜息を吐きつつ言うと、イレイルが笑う。

イレイル:「そうですね。目的のものを見つけた時には嬉しいものですけれど、そこに行き着くまでが結構大変だったり。でもそれも冒険の醍醐味というか、それがなければつまらないというか‥‥」
シグルマ:「全くだ。胸を高揚させるような出来事がある冒険はいいぞ。酒の肴にもなる」
シュウ:「酒の肴‥‥か」

 どんなに危険な事であっても無事に戻ってくる事が出来れば、それは後世の人々に語り継がれる素晴らしい物語になる。酒の席で広められ、遠くまでその名声は轟くだろう。

 奥へと進むに連れ、空間は広がり普通に立って歩ける状態へとなった。
 その分辺りを見渡す事も出来、状況を把握しやすくなる。
 壁は苔に覆われ、その間から見た事のない植物が多く生えていた。

ユーリ:「あら、ここら辺は苔も多いけれど‥‥不思議な植物が多いわ」
シュウ:「あぁ、本当だな」

 ユーリが立ち止まりそれらを観察し始める。後ろを守る形で進むシュウもユーリの眺める植物を覗き込んだ。
 星形の形に咲く花は、イレイルが求める花ではなかったが本にも載っていない様な新種の様だった。ユーリはシュウと共にその鼻を観察しながらその植物の特徴などを事細かにメモしていく。
 ぽたり、ぽたり、と上から滴るものには二人とも気付いた様子はない。
 背後から足音が聞こえなくなり不思議に思ったファサードが振り返り、上から今にもユーリ達に襲いかかろうとしている物体を見つけ大声を上げた。

ファサード:「二人とも、逃げてください‥‥!」

 その声にイレイルとシグルマも振り返る。
 音もなく二人に近づいていたのは、ドロドロとした固定された形を持たないアメーバ状の物体だった。
 シュウが咄嗟にユーリを庇い前に出る。
 イレイルの放った風がアメーバ状の物体を切り裂いた。しかしそれは直ぐに合わさり同じ状態に戻ってしまう。
 ずるずるとシュウ達に近寄っていく物体。
 シグルマも向かおうとするが通路は狭い。舌打ちをし、見ていることしか出来ない状況を苦々しく思った。前を見ればもう少しで開けた場所へと出る。あそこまで行けばうまく立ち回れるのではないか、と考えイレイルに告げる。
 再生能力はある様だが、物体の動く速度は遅い。切り裂かれた箇所を再生している間に逃げ切る事は可能かもしれない。

イレイル:「シュウさん、俺がそいつを切り裂いた瞬間駆けてください。先に少し開けた所があります」
シュウ:「分かった」

 頷いたシュウを確認するとイレイルは、いきます、と声をかけ風魔法を放った。
 空気を振るわせ物体へと真っ直ぐに飛んでいく。
 鈍い音が響き、切り裂かれた箇所からぼたぼたと液体が落ちる。
 その瞬間、その下をシュウとユーリは駆け抜けた。
 液体が顔につくが構ってはいられない。
 再生していく物体は獲物に逃げられた事を知ると追ってくる。しかしその速度は遅く、全速力で駆けるシュウ達には及ばない。
 その間にシグルマ達は開けた場所まで駆ける。ホールに入る直前で止まり、シグルマが中を確認する。
 危険が無いのを確認すると皆を中へと通した。
 シュウとユーリも追いつき、漸く自分たちを襲おうとしていた物体を振り返る。ずるずると這ってそれはもうすぐ皆の居るホールへと辿り着く。しかしずるずると這ってきたのは1体ではなく2体だった。
 シグルマが愛用の武器を構え、その物体を迎え撃とうと笑みを浮かべる。

イレイル:「切り裂いても復活出来るのは何処かに核があるんだと思います。俺が全体的に攻撃を仕掛けるので、シグルマさんはその核を攻撃して貰えますか?」
シグルマ:「分かったぜ」

 お願いします、とイレイルは告げ近づく物体に向けて再び風で攻撃をする。先ほどよりも細かく切り刻む様に傷付けていくとその切れ目から赤い核と思われる物体が確認出来た。再生に忙しく、動く事は出来ない様だ。

シグルマ:「見えた!」

 ニヤッ、と笑ったシグルマはその赤い核に向かって勢いよく剣と斧を振り降ろす。がつっ、と刃に手応えを感じ、そのまま下まで叩き付けた。途中で、ばりっ、と罅が入る音が聞こえる。
 終わったな、とシグルマが思った時、再生能力を失った物体がどろどろと溶けて床に水たまりを作った。
 ファサードがほっとした溜息をイレイルの後ろで吐く。

イレイル:「シグルマさん、お疲れ様です。ありがとうございました」
シグルマ:「結構呆気ないもんだな」
シュウ:「助かった。気配も感じなかったからな」

 シュウがファサードに礼を述べると、おっとりとした笑みをファサードは浮かべて首を振った。

ファサード:「声を、かけただけで‥‥僕は何も‥‥」
ユーリ:「でもあの時、気付いてくれなかったらそのまま食べられてしまっていたかもしれないわ」

 だからありがとうございます、とユーリが微笑むとファサードも、そうかな‥‥、と呟きつつ笑ってみせた。

イレイル:「さぁ、先に進みましょう。なんだか奥の方が光ってるみたいです」
ファサード:「綺麗、だな‥‥」
ユーリ:「‥‥人魚の涙かしら」
シュウ:「進もう」

 一行が求めるのは人魚の涙との別名を持つ藍玉草という花だった。
 それは花自体が光っているのだと本には書いてあった。
 もしかしたら丁度開花しているのかもしれない。
 歩き出したシグルマ達。
 その後をユーリの手を取ったシュウが続く。
 ホールの向こうは光の海だった。
 そこへ一行は消えていく。


◆◆◆

 眩しい位の光がそこには満ちていた。
 洞窟の暗闇に慣れた瞳にはその光は強すぎる。

イレイル:「すごいですね‥‥」

 漸く慣れた瞳が映し出したのは、辺り一面に群生した光る花だった。
 藍色の淡い光を放つ花は、波間を漂う人魚の涙に例えられていた。
 その場所から上を見上げれば、上部に開いた穴から星の光も見える。
 その上部の穴に向かう様に枝を広げる一本の木を取り囲む様に藍玉草は生えていた。
 その木に近づいていくシュウの後をユーリも追う。
 そっと手をその木の幹につき、軽く瞳を閉じるシュウ。その木の思いを汲み取る様な姿にイレイルはそっと小さな笑みを漏らした。

シグルマ:「こりゃ良い花見が出来るな」

 そう言って取り出したのは持参していた酒瓶。酒豪でもあるシグルマは、花が咲いていたら花見をするつもりで来ていた様だった。
 それを笑いながらイレイルは屈み込んで光る花にそっと触れる。
 花についていた露が地へと落ちた。

ファサード:「早速試してみても‥‥、いいでしょうか‥‥」
イレイル:「そうですね。疲労回復に効果有り、との事ですから。冒険の途中で試してみるには丁度良いかもしれません」
ファサード:「‥‥人形にも効くのかな? 結構、疲れてるような‥‥」

 期待に満ちた瞳でファサードはイレイルが摘んでいく花を眺める。
 摘み取られた花は、一度ふわりと煌めいてイレイルの手の中に収まった。



ユーリ:「シュウさん、木はなんて?」
シュウ:「ここの暮らしが気に入ってるそうだ。そしてこの美しい花たちの存在も。私がユーリと共に居る事を気に入ってるのと同じように」

 えっ、と頬を赤らめたユーリの髪に煌めきを零す花を摘み指してやるシュウ。
 茶色の髪に煌めく天然の髪飾り。

シュウ:「とてもよく似合う」

 恥ずかしそうな表情を見せながらも、ユーリはシュウに幸せそうな微笑みを返した。
 そしてシュウの手をそっと握ると皆の元へと誘う。
 ユーリの視線の先には賑やかに花を煎じている皆の姿があった。
 シュウもユーリに手を引かれそちらへと向かう。
 どうやら話している声を聞くと既に煎じ終わっている様だ。

ファサード:「これを飲んだら‥‥疲れスッキリ‥‥ですね」
シグルマ:「おぉ、そりゃいいな。これ飲んでスッキリした暁には、帰りにまたあいつが出ても俺が気合いを入れてぶった切ってやるからな」
イレイル:「ではいきますか‥‥」
シュウ:「なんだ、私達にはないのか?」
イレイル:「もちろんありますよ。はい、どうぞ」
ユーリ:「実験体はたくさんあったほうがいいですよね」

 にっこりと微笑むユーリだったが、自分たちを実験体と言わなくても、とイレイルが苦笑する。ユーリはきょとん、と首を傾げながらつられて微笑む。
 そしてそれぞれがコップを手にし、煎じた花のお茶を口にした。
 花の蜜もあるからなのか、ほんのりと甘い藍色のお茶はじんわりと身体に染みわたっていく様だった。
 即効性のものなのか、シグルマが声を上げる。

シグルマ:「身体が軽くなった様な気がするがこれは気のせいか?」
イレイル:「いえ、気のせいではないと‥‥」
シュウ:「確かに気分が良い」
ユーリ:「甘くて美味しくて‥‥本当にこれは秘薬ですね」
ファサード:「僕も、なんだかちょっぴり気分が良い様な‥‥人形にも‥‥効いた‥‥?」
イレイル:「本当ですか? それは良かったです。これを摘んでいったらファサードさん用に薬も作れそうですね」

 ぽん、と手を叩くファサード。そこまでは思いつかなかったらしい。

シグルマ:「それじゃ、さっさと萎んじまう前に有り難くこの花を摘もうじゃねえか」
イレイル:「そうですね」
ファサード:「これくらいなら、僕も‥‥」

 ぷちっ、と皆が花を積み始めると揺れる光がその空間を揺らめかせ美しい光景を作り出した。

イレイル:「またこの光景が見たいですね‥‥」
シグルマ:「そん時はまた付いてきてやる」
イレイル:「はい、お願いしますね」

 イレイルは微笑んで、煌めく光を見つめていた。