<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
主夫の誇りにかけて
『ソーンラブラブ胸キュンシリーズ番外編☆タッグアニキ第四弾★』
迫り来る紅色愛記念デーを生き延びれマッチョ☆伝説の聖筋界親子交響曲第666番☆セクシーバトル筋大会
〜下僕主夫親父の威厳は果て無くダウンマッスル☆〜
●招待状
気持ちが良いまでに良く晴れた休日。
心地よい風と陽の光を浴びながら、オーマ・シュヴァルツ(1953)はごろりと草原に寝ころんでいた。
「……また、さぼってる……」
丘の上から冷たい視線でシモン・シュヴァルツ(2079)が彼を見下ろしていた。
オーマはうっすらを目を開け、今日は休日だ、ゆっくり休ませろと視線で訴える。
「……こんなのがきてたよ」
シモンは一枚の羊皮紙を差し出した。
丁寧にも桃色に染め上げられ、香りの良い香油がしみ込ませてある。
よく見ると、丁寧に、山桜の花びらが花吹雪のように貼り付けられているようだ。
「こ、コイツはまさか……」
「……エルファリア王女から、個人的に送られてきた手紙なんだけど……」
羊皮紙の中身を読み、オーマはさらに眉をひそめた。
「またもコイツと戦う日がくるとは……この腹黒親父マッチョ筋の名にかけて、参加しねぇわけにはいかねぇな」
異界から伝わったと言われる伝統的な祭りのひとつ「母の日」
日頃、自分達の世話をしてくれている母親へ、感謝の言葉に変えて贈り物をする日だ。
数年ほど前から、エルファリア王女の提案により、記念日を祝う大会が開かれるようになっていた。
何かと世話になっている奥さんに、プレゼントをしたいと思っていた矢先の話。
良いチャンスだと、オーマは早速大会参加の申し込みにエルファリアの別荘へ向かった。
「どんな大会か……確認しなくていいの?」
大会に関しての詳細はあまり書かれていない。
会場がエルファリアの別荘であること、参加は親子のペア、内容の詳細に関しては当日まで秘密と、怪しさが満載である。
「こいつぁはエルファリア王女から、俺達へのラブリーマッスルプレゼントってぇ代物だ。プレゼントの中身が分かったらつまらねぇだろ? 何が来るか桃色ムンムン筋胸キュン妄想するのが正しき参加方法だぜ」
「……何か違う気がする……」
「するってぇと、アレか? おまえはコイツが信用ならねぇってのか?」
「そうじゃないけど……秘密が多いってのも、問題あると思うよ。うちも変な秘密多いからって……色々言われるし……」
「あん? 誰が言うんだ?」
「……患者さんとか……」
その殆どがオーマが秘密裏、いや……かなり大々的に企てている腹黒同盟にまつわる物ばかりだ。日頃あまり言えない内容だけに、サモンはここぞとばかりに文句を告げる。
「計画を企てるのはいいけどさ……無茶をすると、ウォズと変わらないよ。僕達の力は……ここじゃ強すぎるんだし……どんな影響があるかも、まだはっきりと分かったわけじゃないんだし……」
「ンなことは言われなくても分かってるさ。そのためのヴァレル、そのための装備だろ?」
わずかにではあるが、ソーンにおいての、具現能力での驚異は分かり始めていた。
改めて感じたことはソーンの柔軟性と適応力だろう。ウォズの驚異にさらされながらも、ソーンの世界は柔軟に彼らをも受け止め、住民の一部とさせている。
彼らを完全に内包してしまう日が来るかも知れない。
そうなればオーマ達がヴァンサーとして戦う必要はなくなる。
嬉しくもあり、少し悲しいことではあるが。
「真面目に考えすぎると疲れるぜぇ? 適度に柔らかく物事は判断するもんだ」
「……そうだね……」
何だか言いくるめられたような気もするが、とりあえずサモンは納得することにしてみた。
●お掃除大会
大会当日。
オーマ達が到着した頃には、既に多くの人が集まってきていた。
受付兼説明係のエルファリア王女は、2人を見つけるとすぐさま駆け寄って来た。
「来てくれたんですね、お待ちしておりました」
早速とばかりに彼女は2人に箒を手渡した。
眉根をひそめる彼らに、王女はにこりと微笑みながら言う。
「オーマ様達の担当は地下の倉庫ですわ。頑張ってくださいね」
「……地下?」
「ええ。本日の大会は指定されたお部屋をどのチームが一番キレイに出来るか競いますの。家事がお得意とお聞きしましたので、オーマ様には少々ハンデと致しまして、地下室をお願いすることとなりましたの」
「なるほど。紅色番犬マザーの日にふさわしいセクシーバトル筋大会だな。面白い、受けてたとうじゃねぇか☆」
そう言って、オーマは自信あり気な表情をみせた。
掃除の要点を聞き、こういったものならば得意だといわんばかりに、颯爽(さっそう)と階段を下りていく。
「時間は本日中。夕暮れ時まで、とオーマ様にお伝え下さいね」
「……はい……」
やれやれと肩をすくめて、サモンはその後を追って行った。
階段を下ったオーマ達を待ち受けていたのは、埃で埋もれた小部屋だった。
さすがに入り口付近はキレイに片づいているが、奥の方はうっすらと霧がかってさえ見える。
「……ここを掃除する、の?」
埃臭くてやだなぁ、とサモンは心の中で呟く。
「時間はたっぷりある。この狭さなら俺ひとりでも究極絶品パーフェクト芸術ゾーンの完成は可能だ。入りたくねぇなら、そこでセンチメンタルシットダウンしてるんだな」
「……水汲んでくる」
部屋の隅に転がっていた桶を拾い上げ、サモンは外の井戸へと向かっていく。
じゃぐちをひねれば水が出る近未来都市ゼノビアと違い、ソーンの文化は基本的には中世に近い。
精霊という便利な力がある反面、その分技術の進行が遅れており、日常のちょっとしたことで不便を感じさせられる。
露骨に現れるのは、こうした掃除や家事全般作業においてだろう。
使える掃除道具は箒とはたきとぞうきん。
「まずは埃落としからだな。それから、荷物整理をしてだなぁ……」
さて、どうやって進めていこうか。迅速に頭を巡らせながら、オーマは不敵な笑みをもらした。
●一仕事のあとのお仕事
桶に水を汲み終え、サモンが戻ってくると。部屋は見違えるほど綺麗になっていた。
埃はほぼ払い落とされ、ごちゃごちゃしていた棚やタンスはきちんと整理されている。
「さすがに……しつけられてるだけ、ある……ね」
「あん? どういう意味だそりゃ」
「……それより、後は何をすればいいの?」
「そうだな。そいつの上にある窓と、棚を拭いてもらうか。最後に床を桃色乙女肌ツルツル仕上げに磨き上げるから、汚してないぞうきんをとっておけよ」
「分かった……」
言われた通りにサモンはてきぱきと作業を進めていく。
正確かつ丁寧な仕事は彼ならではの技だ。
「よぉし、これでほぼフル清掃マッチョ完成だ☆これならば優勝豪華絢爛ズッキュン桃色パワフルプレゼントは間違いなしだなっ」
満足げに額の汗をぬぐうオーマ。
あっさりとばかりに完了したのに、少々納得がいかないのか、サモンの表情は明るくなかった。
「おうおう、どうした。ずいぶんと暗いじゃねぇか。腹黒親父マッチョ筋一流の腕前が信用ならないってのか?」
「……そうじゃないけど……嫌な予感がする……」
サモンの気持ちは置いといて、とりあえず報告に行こうと、2人は階段を上がっていく。
どうやらまだ他の人達は作業をしているらしく、集合場所で待っていたのはエルファリア王女だけであった。
「あら、一番乗りですわ。さすがは一流の主夫とお聞きするだけありますわね」
一番の証として、王女は2人にカーネイションのブローチを付けてやる。
「審議は私の女中達が行うことになっております。そのため、結果は後日ということになりますので、このままお帰り下さっても大丈夫ですが、如何いたしますか?」
「そのまま帰るのはつまらねぇな。仕事の後はキンと冷たいワインを喉に滑らせるってのがオツってもんだろ?」
「やはりそうですよね。そう言って下さると思い、打ち上げ場所を用意しておきましたの」
エルファリア王女の案内のもと、2人はテラスへと向かった。
「あら、あんた達も来てたの?」
見慣れた姿の女性がもぐもぐと食事をしている。彼女は艶やかな表情でワインを口に運びながら、にやりと微笑んだ。
「ここにあるご馳走は全部あたいのものよ。残念でした」
「いや、それより……なんでここにいるんだ」
「あら。案内状が来てたじゃない。居間のテーブルに置いてあったのを読んで来たんじゃないの?」
そういえば、手紙を読み終えた後、こっそり捨てるのを忘れていたのを今更ながらにオーマは気付く。
「大会の後の食事会なら参加してもいいな、と思って来てあげたのよ☆あたいみたいな華が居た方が楽しいでしょ?」
反論出来ずにただがっくりとうなだれるオーマの肩を、サモンはぽんと軽く叩いてやる。
「……ご馳走の機会が伸びただけだと思おう……よ………」
「あ、ああ。そう、だな……」
「ちょっとー。つったってないでお代わりぐらい入れて頂戴!」
「へいへい、只今」
ひとつ息を吐き出し、オーマは手近にあったワインボトルを手に取った。
●贈り物
後日。
エルファリア王女から贈られてきた物は、見事な鉢植えに植えられた草花だった。
「『先日の大会のご参加有り難うございました。素敵な出来栄えに皆びっくりしてました。お医者様のオーマ様ならば、料理よりは香草類の方が良いと思い、わたくしの庭にある珍しい草達を贈ります。これからも素敵な主夫でいらしてください』………だって」
「らしいっちゃらしい贈りモンだが、何処に置くかねぇ……」
「……庭先でいいんじゃない」
オーマの2倍はあろうかと思える程の大きな鉢に、びっしりとハーブ達が詰め込まれていた。
薬にはあまり使えない種類のものばかりだったが、観賞用として置いておくには問題ないだろう。
「庭がにぎやかになったな」
「……うん」
色とりどりに咲くハーブの花を眺め、たまにはこういうのもいいかな、と思う2人であった。
おわり
(文章執筆:谷口舞)
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