<PCクエストノベル(1人)>
紡ぎ上げる唄〜戦乙女の旅団〜
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【冒険者一覧】
【整理番号/ 名前 / クラス 】
【0929/ 山本建一 / アトランティス帰り 】
【助力探求者】
カレン・ヴイオルド
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●旅団との出会い
ゆるやかに流れ出す音色。繊細な指からはじき出される唄は人の心を魅了する。
山本建一(やまもとけんいち)の奏でる曲に人々はその足を止め、しばしの間悠久の時を楽しんでいた。
丘向こうにある教会から夕げの時間を報せる鐘の音が聞こえてきた。
リュートの奏でる世界に引き込まれていた人々は、再び自分達の生活へと戻っていく。
その人込みの中で、見慣れた人物を見つけ、健一はふとその手を休めた。
健一「いつからそこにいらしたのですか?」
声を掛けられたカレン・ヴイオルドはにこりと微笑む。
彼女はさりげなく先程健一が奏でていたものと同じ旋律をかき鳴らす。
カレン「綺麗な曲ですね。あまり聞かない旋律ですけど……もしかして故郷の詩とかでしょうか」
健一 「ええ。友と良く弾いていた曲です」
そう言って、健一は少し淋しげに微笑んだ。
カレンは一瞬言葉を詰まらせつつも、また一緒に唄える時が来ますよと声を掛ける。
カレン「ソーンは想いが力になる世界。必ずやあなたの望みは叶えられるでしょう」
健一 「そうなるよう、僕も望んでいます」
カレン「もし皆さんで楽しむような機会がありましたら、是非呼んでくださいね」
健一 「ええ、必ず」
ふと、彼らの前を小さな馬車が通り過ぎた。その中に見知った顔があるのか、カレンは馬車に乗る人々に手を振る。
不思議そうに眺める健一へ、カレンはソーンを旅する一団なのだと告げた。
カレン「各地をああやって馬車で旅をしながら、行商もしておられるようですよ。女性の方が多いそうで、この街の人は『戦乙女の旅団』とも呼んでおられるようですね」
健一 「戦乙女……ああ、聞いた覚えがあります。何でも、彼らに頼めば大抵の物は手に入るそうですね」
カレン「ええ、彼らはこのソーンの隅から隅まで旅をされております。この大地は彼らの家みたいなもの、この地のたくさんの伝説と詩を知りえているのでしょうね」
健一 「……そうだ。あの人達なら、分かるかもしれないですね」
カレン「何かお探しものでもあるんですか?」
健一はこくりと頷き、懐から革袋をとり出した。その中には細い弦が束ねていれてある。
見たことのない弦の素材に気付き、カレンは不思議そうに小首を傾げた。
カレン「珍しい……素材ですね。これは……異国のものでしょうか」
健一 「樹脂と油と皮を混ぜて作った合成繊維です。丈夫でとても軽く、すごく澄んだ音が出るんですよ」
そういって健一は軽く琴をつま弾かせた。
確かに、ソーンで一般的に売っているリュート類より綺麗な音だ。音の強弱も容易に付けられるらしく、健一は自在に音を操り出し、即興で曲を奏でさせた。
健一 「そろそろ替えが欲しいと思っていたところです。戦乙女の旅団ならば、もしかするとお持ちかもしれないと思いまして」
カレン「そうですね……聞いてみないことには分からないですけど……」
ともかくまずは話を聞こうと、2人は旅団が一時停泊しているらしい宿へと向かっていった。
●材料を求めて
宿の1階は酒場になっており、旅団の団員達は夕げの一時を楽しんでいる最中だった。
カレンの紹介のもと、団員のひとりと挨拶を交わし、健一は早速自分の琴の説明をした。
団員 「珍しい琴だね。少し見せてもらっていいかな?」
健一 「どうぞ」
水竜の琴レンディオンを手に取り、団員はただ感動の声をあげる。
じっくりと眺めてから、彼女はひとつため息をついた。
団員 「凄いね、これ。匠の技があちこちに見られるよ……ほら、ここ。糸を自然にぴんと張れるように工夫されてるよね。こういうのって、普通の技術じゃ思いつかないよ。ねえ、これどこで手に入れたの?」
健一 「それはちょっと……」
苦笑いを浮かべる健一。
あまり詮索するのも悪いと思ったのか、団員はさっさと琴を彼に返した。
カレン「それで、その琴に使っている弦なんですが……」
団員 「うー……ん。私もみたことがないね。頑丈そうだけどしなやかで程よい弾力性があって……魔力は感じられないから、人の手で作り出されたものだとは思うんだけど……ちょっと仲間に聞いてみるよ」
1束だけ借りるね、と言い、団員のひとりは駆け足で奥の階段を駆け上がっていった。
残された2人が何となく椅子に腰掛けると、待っていたかのように他の団員達が2人の元へ歩み寄ってきた。
団員 「お2人とも、一緒に飲まない?」
団員 「今日はとびっきりのワインを持ってきたの。今、皆に振る舞ってるんだけど、あなたたちもどう?」
健一 「あ、ありがとうございます……」
勢いに負けて、いつの間にか健一の周りには料理とワインが山のように並べられていた。
旅人というのは出会いを大切にし、知り合った人には料理をご馳走するという習慣がある。
彼らもその例にもれず、一同の輪の中に入ってきた健一達を「大切な客人」として振る舞ってくれているようだ。
せっかくの好意を断るわけにもいかず、健一はとりあえず料理をつまんでいく。
正直あまりお腹は空いていなかったが、それでも料理の美味しさは感じられたし、ワインの飲み味もさっぱりと心地よい。
団員 「ねえ、もしかしてあなたも音楽をなされるの?」
健一 「あ、はい……」
団員 「もしよかったらあなたの唄を聴かせて欲しいな。そのかわりといってはなんだけど……私達の唄も披露するね」
踊り子のような派手な衣装をまとった団員は、軽やかに空いているテーブルの上へ飛び上がった。
店員がそれに気付き、止めようとするも、彼らは物は壊さないことを誓いながら店員を店の奥へと退ける。
健一 「良いんですか……?」
団員 「平気、平気。この宿は私達の貸しきりになっているもの」
しゃらん。
腕に巻き付かれている鈴が澄んだ音を響かせる。
リズミカルに打ち出される足音と鈴の音に混じり、艶やかな歌が始まった。
歌声には聖獣の意思が通じぬ魔力があるという。
そのため、彼女の紡ぎ上げる歌は初めて聞く発音であり、単語であり、健一の耳に新鮮な音として飛び込んできた。
健一 「これは……」
カレン「ソーンの古い歌……ドルイド達の伝承歌ですね」
自然と共に生きる種族達が、精霊の実りに感謝を捧げる時に歌うものなのだとカレンは言う。
健一 「……何だか不思議な歌ですね」
カレン「そうですね……どこか懐かしい感じのする、素敵な歌ですね」
程なくして、先程上の階へ上っていった団員が戻ってきた。
預かっていた弦を返すと、彼女は息を弾ませながら言う。
団員 「長の話だと、その弦は『アトランティス』の技術が込められてるんだってさ。たしか……クレモナーラ村に、アトランティス出身の技術者がいるらしいんで、その人に聞けばその弦の替えが手に入るんじゃないかって言ってたよ」
健一 「……クレモナーラ村、ですか……」
聖都エルザード南西にある小さな村、クレモナーラ村。
伝統のある楽器の名産地としてしられ、卓越した技術の職人が住む場所として知られている。
旅団の中にも楽器製作に携わる者はいたが、簡単な修理が出来る程度だそう。
中途半端な物を手に入れるよりは、きちんとした技術者に依頼した方が確実だろう。
団員 「ごめんね、あまり力になれなくて」
健一 「いえ、全く手がかりがないより充分助かります。教えて頂き有り難うございます」
お礼に一曲、と健一は静かに琴を奏で始めた。
すると、その曲に合わせるようにカレンが、団員の楽師が楽器を奏で始め、室内は優しい音楽で満たされていった。
曲を終えると同時に拍手が沸き起こる。
鳴り止まぬ拍手とアンコールに応えるため、健一は再び琴の弦を弾いた。
おわり
文章執筆:谷口舞
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