<PCクエストノベル(1人)>
失われた大地に住む人達へ贈る唄
〜 クレモナーラ村 〜
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【冒険者一覧】
【整理番号/ 名前 / クラス 】
【1054/ 山本建一 / アトランティス帰り 】
【助力探求者】
カレン・ヴイオルド
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音楽の村、クレモナーラ。
楽器作りが盛んなことで知られているこの村は、演奏家や楽器職人が数多く住んでいることで有名だ。
村のあちこちから楽しげな音楽が聞こえ、村に訪れる人を楽しませてくれる。
山本健一(やまもと けんいち)が最初に耳にしたのは、にぎやかな打楽器の音色だった。
リズミカルに打ち出される太鼓の音に、自然と心が弾む。
足取り軽く村の中を歩いていくと、大通りにある店の殆どで楽器が売られていることに気付くだろう。
弦楽器・笛類・太鼓など、数多くの品々が店頭に並べられている。
そのどれもが細かいところまで丁寧に作られており、職人の巧みな技が込められていた。
それらをひとつづつ手に取り眺めていると、店員らしき人物が健一に話しかけてきた。
店員「何かお探しでしょうか?」
健一は一瞬言葉に迷った。
特に何も買う予定はなかったため、あいまいな返事で追い返そうかとも思ったが、はたりと気付き、不安ながらも彼に問いかけた。
健一「実は……これと同じものを探しているのです」
健一は懐の袋から弦を取り出しながら、説明した。
弦の素材が特殊であることと、異世界の技術を要することを知ると、店員はそれならば最適な人物がいる、と答えた。
店員「この角を曲がった先にあるアバンさんのところなら、お目当ての物が見つかると思いますよ。何せアバンさんのところは……異世界の技術で作られた楽器が売っているって話ですからね」
もし、当てが外れたとしても、何か情報は得られるかもしれない、と店員は言う。
その言葉を信じて、健一は店員が紹介した店へと向かうことにした。
カラン……
ドアに取り付けられた鐘が軽やかな音を立てる。
鐘の音を合図に、店の奥から聞こえていた木槌(きづち)の音が止み、豊かなヒゲをたくわえた老人が姿を現した。
彼はじろりと健一を見つめながら、深くカウンターの椅子に腰を下ろしてパイプに火をつけた。
甘い香りの煙が部屋をつつむ。
カウンターに飾られているの振り子が鳴らす音が妙に大きく聞こえる。
店の外は音楽であふれているにも関わらず、店の中は全くの無音と思えるほど静かだった。
棚に並ぶ楽器類はどれも素晴らしく、装飾があまりないシンプルな造りだったが、見た目からは想像も出来ない音色を弾きだした。
健一 「見事な楽器ですね。アバン……さんの作品ですか?」
アバン「ああ……そうさ。おれにとっちゃ、そいつらは大事なガキみたいなもんだ」
パイプを吹かし、彼はわずかに満足げな表情を見せる。
自分が本当に気に入った逸品しか並べないらしく、商品として並べられているものは数少ない。
本当に楽器造りを愛しているんだろうな、という気持ちがひしひしと感じられる。
部屋が静かなのも、店の中にある楽器達の音をはっきりと聞くことが出来るようにするための工夫が施されているのだろう。
よく見ると、壁には防音加工が施してあり、音が乱反射しないように家具も布地で覆われているものが多い。
その中で、自分が持っている竪琴と似たような素材の弦が張られているものを健一は見つけた。
健一 「すみません。あの……この竪琴なんですが……」
アバン「そいつか? 悪いがそいつは……おまえさんには過ぎた物だ。何せ、その竪琴には俺の故郷の技術が入っているからな」
健一 「故郷……もしかして、天界の?」
健一の言葉に、アバンは眉根をぴくりとあげた。
アバン「おまえさん、もしかしてアトランティス帰りの方かい?」
健一 「はい。アバンさんも……ですか?」
アバン「俺は純粋なアトランティスの民だ。だった……といった方が正解だろうな。レベッカ様のお膝元、ダーナでゴーレム造りの手伝いをしてたんだが……気がついたらこの地に飛ばされていてな、今じゃすっかりただの楽器職人だよ」
健一 「そうですか……この竪琴につかってる弦、レンディオンのものと同じ種類の弦ではありませんか?」
アバン「よく分かったな。ちょいと音楽学院に出入りしてたことがあってな、その時に造ってものに近い素材で仕上げてあるぜ」
健一 「あの……もし良ければ、これの替えの弦を頂けないでしょうか?」
アバン「……高くつくぜ?」
健一 「多少は構いません」
だが、アバンが告げた額に健一はがく然とした。
予想してた物と桁がまるで違うのだ。異世界の技術と特殊な素材を使っているにしても高すぎる。まるで売る気がないようにさえ思われた。
少し値引き出来ないかと交渉するも、アバンは首を横に振って苦々しく告げた。
アバン「これでも安く言った方だ。そいつの素材はソーンじゃ殆ど手にいれられん。気にいらなければ買わなくても結構」
健一 「……分かりました。支払います」
渋々と健一は革袋から数枚の金貨を取り出した。
健一 「今はこれだけしかありません。残りは……少し待ってもらえますか?」
アバン「……いいだろう。天界の人間なら、少しは信用出来るからな」
彼は昔、出会った天界人に助けてもらったことを健一に話しはじめた。
その天界人も吟遊詩人で、詩を歌うのが好きだったのだという。
アバン「思えば、俺がこうして楽器を作っているのも、そいつのせいかもしれんな。また会えるっていうわけじゃねぇが、なんとなく奴を身近に感じられる時がある」
健一 「ここは様々な方が訪れる場所ですからね。もしかしたら、お会い出来るかも……しれませんよ」
丁度その時。
軽やかな鐘の音と共に扉が開き、カレン・ヴイオルドが店に入ってきた。
健一の姿を見つけて、カレンは「あら」と声をもらす。
カレン「やはり、このお店にいらしていたんですね」
健一 「ようやく買うことが出来ましたよ」
カレン「よかった。この村に来たかいがありましたね」
にこりとカレンは微笑む。
この村まで案内してきたは良いものの、人づての噂程度でしか情報を得てなかったので、正直連れてきて良かったのか心配だったようだ。
カレン「さあ、村の皆さんがお待ちしてますよ。行きましょう」
健一 「え……」
カレン「ここへは、一緒に音楽を楽しみに来たのでしょう? 健一さんの演奏をぜひ皆さんに聞かせてあげて下さい」
カレンが案内した先は村の広場だった。
広場といってもそれ程大きくはなく、中央に噴水があり、周りが少し開けている他は目立ったものもない。
エルザードの大通りより少し広い程度の広場には、多くの人が集まってきていた。
噴水の台座を舞台にさせて、音楽家達は自慢の演奏を披露している最中だった。
カレン「さあ、私達も弾きましょう」
健一 「はい」
2人は手に楽器を持ち、輪の中へ入っていく。
途端、彼らを歓迎する拍手が起こり、舞台にいた演奏者達が2人を手招いた。
即興でつづられる音楽。
初めて音を合わせたにも関わらず、彼らの音色は巧みに折り重なり、美しい音色となって人々を魅了させた。
何曲か演奏させた頃のことだ。
ふと、健一はアバンが来ていることに気がついた。
初めて出会った時の、厳つい表情は崩さぬまま、じっと舞台を見つめてきている。
健一はくすりと微笑み、ひとつの曲を奏で始めた。
その曲を聞き、アバンの表情が驚きの顔へと変わる。
聞き慣れない音楽に小首を傾げ、カレンはそっと健一に囁いた。
カレン「それ、何の曲ですか?」
健一 「大切な友と過ごした……今は亡き地の唄ですよ」
そう言って健一は静かに微笑んだ。
文章執筆:谷口舞
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