<PCクエストノベル(5人)>


□■□■ 聖筋界より愛を込めてゴラァ封印記 〜ルクエンドの地下水脈〜 ■□■□


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■冒険者一覧■

1953 / オーマ・シュヴァルツ / 医者兼ヴァンサー腹黒副業有
1649 / アイラス・サーリアス / フィズィクル・アディプト&腹黒同盟の2番
1125 / リース・エルーシア  / 言霊師
2403 / レニアラ       / 竜騎士
2606 / ナーディル・K    / 吟遊詩人

■その他登場人物■



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■SCENE:1 綺麗なお城の怖い話?■

 その話をオーマが聞いたのは、エルザード城でパートタイム皿洗いをイロモノ人面植物達と共に軽やかにこなしている、極々平和な午後だった。
 食堂のカウンターには見知った女性が腰掛け、優雅な様子でティーカップを傾けている。
 ニヤリと、いつものように少し人の悪い笑みを浮かべる女性――レニアラ。
 流しに向かってフンフンと鼻歌混じり、御機嫌に泡と戯れるオーマに、彼女は一つの話を聞かせに来たのだった。

オーマ:「ルクエンドに異界の門だぁ? んなことついぞ聞いてねぇが、本当かいそりゃあ」
レニアラ:「真実も真実。最近色々とこの世界にも変動があったからな、世情の混乱に反応してか、門が開いてしまったらしい。元々閉じていたものなのだから直すのは容易いはずなのだが――出向いた連中、揃ってマトモな状態ではなくなっていてな」
オーマ:「ってぇと?」
レニアラ「貴公風に言うならば、『ワル筋化』」
オーマ:「そいつはメラマッチョに大事りんぐ☆ だ」

 どないですか。
 思考回路の経緯は定かにならずとも、ことがけっして軽いものではないと理解したオーマは、その表情を曇らせる。事実眼鏡が曇っている。じたばた暴れる人面草達の花粉が、辺りを舞っていた。
 しかしそれをまるで気にする素振り無く、二人は平然と会話を続ける。

レニアラ:「王室も、ことを内密のままでは済ませられないと感じたらしい。そこで近々、封印を目的とした大会が開かれることになった」
オーマ:「大会? 王室が関わるッつーとアレか、アレだな、アレアレ詐欺。もとい――」
レニアラ:「そう、まあ、胸キュン親父なんたらバトル大会だ。近々冒険者を募る一般公募もあるのだが、その前に貴公と話を付けておきたくてな。今回はことがことだけに、五人一組制となっている。どうだ私と一緒に組まんか?」
オーマ:「お前さんとかい? 俺は別に構わんが、他の近衛連中は入るのか? だとしたら俺様的腹黒マッスル精鋭部隊の投入が、ちぃーっとばかし難しくなっちまうんだが」
レニアラ:「否、私だけで充分だ。他の面子は貴公に任せる。了承頂けたようで、感謝する――共に、最善を尽くそうか」

 ククッと小さく喉を鳴らし、何か企むような笑みを浮かべるレニアラの様子を、露ほども訝ることなくオーマは了承する。
 かくして、『ソーンラブラブ胸キュンシリーズ番外編☆アニキ第六弾★ルクエンド筋より爆裂せし激ヤバ桃色異界目指しマッチョ☆伝説の聖筋界最狂むんむんバトル筋大会★』への準備が、シュヴァルツ総合病院にて華麗に美しくしなやかに進められることとなった。

■SCENE:2 暗い洞窟の怪しいかほり?■

 空は冴え冴えと、白々しく晴れ渡っている。
 アイラスはぼんやりとそれ見上げながら、周りに立ち込める殺気によく似た緊張感を楽しむ。事態は確かに気楽に構えられる状態ではないが、それでも気負った所で結果に直結するとは限らない。己のペースを維持し続けることが、何よりも現状では優先されるべき所作だろう。

 ぴょこぴょこと羽ウサギの手を掴みながらじゃれるリースは、そんなアイラスの後ろに隠れるように佇んでいた。空気に飲まれれば、自分の出来ることと出来ないことを錯覚してしまう。みゅぅ、と少し不安そうに鳴くみるくを宥めるように軽く笑いながら、ただ時間を待つ。

 ナーディルは、水脈の入り口を覗き見ていた。傍らには同じように出発の合図を待つ冒険者達と、オーマの姿がある。

ナーディル:「なんともはや、殺気立った気配が充満しているんですね。気楽に構え過ぎると、痛い目ぐらい見てしまいそう、と言ったところでしょうか?」
オーマ:「おーう。なんつーかアレだな、こうプンプンとワル筋オーラのスメルを感じる気分でおりマッチョ☆ だな。良いねぇ良いねぇ、こう身体中の筋肉にビンビン感じるってのは」
レニアラ:「あまりはしゃいで貰っても困るのだがな。民衆に多数被害が出ていると言う事を忘れてもらっては、本末転倒だ」

 呆れた声でやって来たレニアラが、同じように洞窟の中を覗きこむ。
 ルクエンドの水脈は複雑な迷路状になっているため、至る所に入り口がある。だが、一度入り込んで、どこかから外に出られるのならばそれは僥倖だった。道標を怠った為に内部で果てた者も多くは無い、らしい。
 何処か別の世界に行ってしまったと言う可能性も、ありはする。だがそれを確認したものがいない状況では、あくまで根拠の無い数多の仮説に埋もれる一つでしかない。それ以上も以下も無く。

レニアラ:「さぁ、騎士団からの注意がある。参加者は向こうに行くが良い、命が惜しいなら尻尾を巻くのも今の内だ」
ナーディル:「尻尾――ふふ、生憎持っていませんからね。オーマさん、いつまでもポージングしていないで、説明を聞きに行きましょう?」
オーマ:「か、感じる……俺様の灰色の脳細胞と腹筋がピクピクと腹黒イロモノを感じ――ッてぇレニアラ、それはウチのイロモノ植物群!? それの所為でワル筋電波が乱されるじゃねぇかー!!」
レニアラ:「いざと言う時のためにな、少々借りさせてもらった。奥方は喜んで貸し出してくれたが? 文句は自分が引き受けると。異論は?」
オーマ:「アリマセン」

 うぞうぞと動く人面草達の陽気なラインダンスに、オーマはがっくりと項垂れた。
 レニアラのニヤリとした微笑みに、ナーディルは小さく苦笑する。
 何を、企んでいるのやら。少し楽しそうな予感が小さく、した。

■SCENE:3 地下水脈の入り組みマッスル?■

 枯れた水脈の跡、少しじめじめとした洞窟。ぼんやりとした明かりはシュヴァルツ家御用達の人面草が持つ花粉から発せられ、篭った歌声が微かに響く。
 アイラスは釵を手に辺りへと気を配りながら、慎重に脚を進めていた。その後ろにはナーディルとレニアラ、リースが続き、最後尾にはオーマが控える。女性を守る形の隊列で、五人は奥へ奥へと潜るように水脈を辿っていた。

リース:「……でも、なんだかなぁ」
ナーディル:「どうしたの、リースさん」
リース:「あうー。さっきからこっちに向かって来る人達って、みんな、この大会に志願した人達だったでしょ? このまま進んだら、あたし達もどうにかなっちゃいそうで。それでみんなに迷惑掛けるのも嫌だし、やっぱりちょっと怖い……」
レニアラ:「くく、今ならまだ引き返せるぞ? そこの草花に運ばれてな」
リース:「弱虫にはなりたくないっ――それに、被害者さんたちのためにも、出来るだけは頑張らなくちゃだもん。まだ何にも見てない内から、逃げるのはイヤ」

 むん! とリースは意気込んで拳を作る。それから、また歌を歌い出す。
 合いの手を入れるように、みゅぅとみるくが時々鳴いた。

アイラス:「そうですね、リースさんがここで帰ってしまうと、その歌も聞けなくなってしまいますし。勇気付ける為の歌と言うのは、大事な灯火ですからね」

 言いながらもアイラスは、研ぎ澄ますような感覚で警戒をしていた。
 リースの言う通り、今までこちらに向かってきた『敵』は、すべて集められた大会の参加者達である。広場で様子を眺めていた彼も、それは覚えていた。彼らは正気を逸したように焦点の合わない眼差しで、獣のような獰猛さを持って襲い掛かる。もっと奥のどこかで、何かに触れたのだろう。

ナーディル:「確かに、少し不安ですね……意識を奪われた状態で誰かを傷つけたりするのはイヤですし、私の場合、色々問題もありますから。自分の業ならまだしも、そんなことで狂化なんかしたら居た堪れません」
アイラス:「問題のあるなしに関わらず、意識の外で変な行動を取らされるのは御免ですね。ついでに誰かに倒されて人面草に運ばれ脱出なんてもっとイヤです」
オーマ:「なんだとぅアイラス、お前はまだウチのナマモノたちの愛らしさと素晴らしさとマーヴェラスな魅力をいまいち――」
アイラス:「おや、新しいお客さんが来ましたよ?」
レニアラ:「やれやれ、千客万来だな……草とナマモノは後ろでリースを守れ。リースは、こちらの回復を頼むぞ」
リース:「うんっ。頑張って歌うけど、気を付けてね、みんなもっ」

 身体を揺らめかせながら、それでも高速で走り込んで来る人影に、全員が身構えた。

■SCENE:4 イロモノ扉の賢しき麗人?■

ナーディル:「……何、でしょう。あれ」

 ふわふわと灯る花粉に照らされた洞窟の奥、闇に似た黒を最初に見付けたのはナーディルだった。
 まったく繋ぎ目の見えない、一枚岩と思しき巨大な黒が、道を塞ぐように佇んでいる。冷たい硬質のそれは、どうやら黒曜石であるものらしかった。縦に一筋巨大な亀裂が入っている――否、それは、亀裂ではない。

レニアラ:「ふむ。ここまで巨大な石は珍しいな。ただの石ではなく、貴石の類か……それに、この中央の線。僅かにずれている」
アイラス:「まるで、開き掛けの扉ですね。オーマさんのワル筋嗅覚頼りで来ましたが、本当に大当たりするとは思っていませんでした――ですが、妙ですね。こんなに近付いているのに、何も仕掛けてくる気配が無い」

 アイラスの言葉に、オーマが一歩踏み出す。その後ろには、人面草のランプも付いていた。ぞろぞろと彼の後ろにはナマモノが続いている。大黒柱親衛隊、シュヴァルツ家精鋭ナマモノ機関。彼らは例え火の中水の中草の中森の中、土の中雲の中奥方様の裾の中までも付いて行く。かもしれない。

リース:「あ、あんまり近付いたら危ないんだからねっ!? 慎重に行かないと――オーマが変になってイロモノ万歳はっふん上等になっちゃったら、人面草達だって運ぶの大変なんだからっ! それに、岩盤崩れたらあたし達が下敷きになっちゃうし」
オーマ:「何気に俺の心配はまるでしてない、そんなお前のラブが痛くて宜しく愛愁ゾッコンリーベ! と冗談はともかく――この中で一番頑丈なのは俺だろーよ? 特攻調査のお夕飯拝見はまっかせっなさーい」
ナーディル:「はい、すっごく不安です。」
レニアラ:「右に同じく」
アイラス:「じゃ、僕は左に同じですね」
オーマ:「お前ら全員テラ単位でラブ。と、まあ、冗談はさておきな――プンプン臭うな、こいつは」

 スン、とオーマは鼻を鳴らす。
 石の中央、その隙間。恐らくこの石は、以前もどこかで見掛けた『扉』と同じ機能を果たすものなのだろう。
 変動のあった平行世界を繋ぐもの。証拠に、よく見れば石の表面には、ソーンの文化とはまったく異なる文字がいくつか刻まれている。

オーマ:「字がいくつか刻まれてんなぁ、つっても俺にゃあよく読めんが。ナーディル、こーゆーの得意な性質か?」
ナーディル:「文字ですか? そうですね、職業柄色々な文字は覚えましたけれど、見てみないと判別は……ちょっと暗いですね。そっちの人面草、もう少しこっちに寄せて頂けますか?」
オーマ:「ういよ」
???:「うぎゃッ!?」

 人面草がナーディルの言葉で石に擦り寄ると同時に、悲鳴が上がる。
 全員が、一斉に警戒態勢を取った。
 が――

???:「たんま、たんまたんたんまー!! ちょ、待って、本気に!」
オーマ:「……。んだぁ?」
???:「草、退けて草! そ、その花粉やばい、宇宙やばい、銀河やばい! こっちに寄せないで!」

 声は石の狭間から響く。オーマは人面草を手にわしっと持ち、そこに近付けた。やはり、ぎゃーと品の無い悲鳴が上がる。

リース:「え、えっと……だ、誰かいるんですかー?」
???:「それはこっちの台詞! いきなり変な扉が現れて、調査中だったんだよ……何人かの人に声掛けたんだけど、なんでか皆、会話出来ない状態でどっか行っちゃうし。話せる人は初めてだと思ったら、そんなの持ってるし!」
アイラス:「そんなの、と言うのは、この人面草ですか? 別になんの害もありませんよ、確かに一風顔が濃ゆくて泣く子を失神させるインパクトを持っていますが、踊ったり皿洗いしたり椅子になってくれたりと便利なものです」
???:「か、形はどーでも良くて、花粉が問題なんだってば!」

 リースとアイラスは顔を見合わせ、肩を竦める。
 花粉と言えば、ランプ代わりに発光するぐらいだが――。
 と、レニアラが一歩踏み出した。

レニアラ:「貴公らからも、妙なニオイを感じる。これらの花粉と同類のものと見受けるが?」
???:「あ、あー、確かに俺らは粉を飛ばす種族だが」
レニアラ:「ふむ。その粉が、私達の世界には少々馴染まないようだ――住人達が凶暴化してしまうようでな。こちらも治安が乱れて困っている。この人面草が貴公らの天敵であるようだし、この扉、閉鎖させてもらうぞ」
???:「え? え、ちょ、待」
レニアラ:「表に待機させてあった人面草部隊を至急此方に向かわせろ、護衛にナマモノ達もいくらか付けさせてもらう。構わんな、オーマ殿。これも世の為人の為、国の為だ」

 にっこりと。
 誰にも何も有無を言わせない微笑で、レニアラはナマモノ達を従えていた。

■SCENE:5 腹黒病院の仲良き茶会?■

アイラス:「なんだか、嵌められたような気がするんですよね」
ナーディル:「やっぱりそう思いますよね……」
リース:「全部判ってた上でってなると、目的はやっぱり――ナマモノ達だった、のかなぁ?」

 溜息を吐きながらテーブルを囲み、三人はシュヴァルツ総合病院の中庭にいた。
 いつもはその周りをじたじたと走り回るナマモノや、うぞうぞと増殖を続ける人面草、どこから沸いたか判らないマッスル兄貴が幽霊軍団と合コンしながら戯れる――そんな光景が日常的に展開されているのだが、今日は随分と静かである。
 否、半透明な子供がはしゃぎ回っていたり、妙な手がどこからか生えていたりと、イロモノ空間ではある。が、濃度がいつもより低め。
 ナマモノの大部分が、ルクエンド護衛を任じられた為である。

アイラス:「なんだか妙にナマモノ達に拘るとは思っていたのですが、あれらを連れて行って一体どうするつもりなのかが判りませんね。異地と繋がるルクエンドの守りを単純に強化したかったのか」
リース:「病院を淋しくさせたかったのか、ね。うーん、でも病院を淋しくして、なんの意味があるのか判らないんだよね。ちょっと色んな所がスッキリしたけれど、まさか雑草刈りがしたかったってわけじゃないし」
ナーディル:「……思うのですが。あの人面草やナマモノ達、病院内のどこにでも、大概居たものですよね」

 ナーディルの言葉に、アイラスとリースは同時に頷く。

ナーディル:「それがいなくなったって事は、この病院の警備とか……そういう面が大部分削がれた、と言うことになりません? 今、何かがあったとしたら――」

 …………。
 あはははは、と三人は顔を合わせ、乾いた笑いを交し合う。
 ……まさかね。

 ばら撒かれた胞子・花粉その他が発芽し、病院が元の状態に戻るまで、どう考えても一ヶ月は掛かるだろう。その間に何かがあったら、多分その打撃は大きい。例えば城からの介入とか、例えば近衛の来訪とか、例えば竜騎士のおねいさんの企みとか。
 三人はその予感が当たりませんようにと、ひたすらに笑い合う。そんな彼らを、上空で竜に乗ったレニアラが見下ろしている。
 のどかな午後に響く笑い声を聞きながら、オーマは病院の中、奥方様の脚に踏み付けられながら、優勝景品『ミニチュアエルザード城1/100モデル』を睨んでいた。