<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


仲直りの方法

<オープニング>

人々の楽しげな声で賑わうここ白山羊亭に、アイスティーの氷をストローでいじりながら、ため息をつく少女が一人。
年の頃は17歳程度。鮮やかな赤く短い髪が目立つその少女は、名をラトリア・フォーリンズという。
彼女は一口アイスティーを飲むと、気落ちした様子でもう一度ため息をついた。
「あら、どうしたんですかラリィさん」
いつもは明るく元気なラトリアが珍しく落ち込んでいるのを見て、ルディアは不思議そうに問い掛けた。
「え?」
自分の世界に入っていたラトリアは声を掛けられ、一瞬びくりとして顔をあげる。
「あ、ルディア。何か言ったかな?聞いてなかった」
ごめん、と謝るラトリアにルディアはいいえ、と返してから再び問う。
「珍しく元気がないみたいだな、と思って。どうかしました?」
「え、う、うーんとねー…喧嘩しちゃったんだ」
「喧嘩?」
「うん、レンと…」
レン、というのはラトリアが同じ家に暮らしている従姉妹である。レンというのは愛称で、本名はレンカッルド・フォーリンズ。
よくラトリアと共に白山羊亭に訪れることがある、いつも眠そうにしている少女である。
「まぁレンさんと?…でも喧嘩はしょっちゅうだけど、すぐ仲直りするって前言ってませんでした?」
「そうなんだけどー今回はなんだか謝る…というか仲直りするタイミング逃しちゃって……」
喧嘩の原因はいつものように、他愛のないこと。
そしていつもなら暫く時間が経てば、さっきはごめんなどと言ってすぐに元のようになるのだが。
なぜ今回は意地を張るみたいに、話しかけてきた彼女につんとしてしまったのか。
「はー…どうしようかなぁ」
むー、と眉根を寄せて考え込むラトリアを見て、ルディアは何か思いついたのか笑顔を浮かべて言った。
「誰かに仲直りの方法を聞いてみたらどうですか?」
「へ?」
「一人で悩むよりも、いい方法が浮かぶと思いますよ」
うんうんと一人で頷き、ルディアは近くを通りかかった客へと声を掛ける。
「あ、すみませーんお時間あるなら、ラトリアさんの相談に乗ってくれませんか?」
「え、ちょっと待ってよルディア!」
慌てて立ち上がるラトリアに構わず、立ち止まった客にルディアは「あのですね…」と話し出した。


…*…

ルディアに声をかけられ、三人の客が立ち止まった。
三人はルディアから話を聞くと、ラトリアが座っているテーブルへと集まった。
「仲直りですか。僕、喧嘩ってしたことありませんのでよくわからないのですが…」
のんびりとした様子でそう話すのはアイラス・サーリアス。穏やかな印象の青年の言葉に、ラトリアは驚いたように問い掛けた。
えーっ喧嘩したことないの?1回も?」
ないですねぇ」
頷くアイラスに「あたしと大違いだ…」とラトリアは呟く。
「仲直りの方法ですか。う〜ん、人間ってきっかけがつかめないとか、妙に意固地になるとかありますよね…」
そうやんわりと苦笑を浮かべて天使であるメイが話す。
「そ、そうなんだよね…」
なんでかなぁ、と顔を曇らせるラトリアに、にっと笑いかけたのはオーマ・シュヴァルツ。
「なぁにそう難しい事じゃねぇぜ?」
「…そう?」
「おうよ。お前さんの内に内在せし全ての腹黒イロモノ親父愛を爆裂覚醒乱舞☆で、レンの嬢ちゃんとの友情筋を全ての乙女筋盾と成りて守護せしが為にむふふんアタックしやがれば腹筋万事OKってな!」
笑顔でそう話すオーマにラトリアは目をぱちぱちと瞬かせて言葉を返す。
「うぅんとよくわかんないけど、心を開いてレンに向かえばいいってことかな?」
「まーそんな感じだ」
「やはり、謝るのが一番なのではないですかね〜。…まあ、簡単に謝れるようなら悩んだりはしないでしょうけどね」
と、最後のほうでは苦笑しながらアイラスは言った。
「ええ、自分が好きなら素直に謝った方がいいと思いますよ。レン様がラトリア様に とって大事な方なら。レン様がいない生活を想像してみて、それでもいいというなら問題ありませんけど…」
「そんな、レンがいないなんて考えられないよっ。ちっちゃい頃から一緒に育った… 大事な家族だもん」
メイは、勢いこんでそう言ったラトリアを穏やかに見つめて微笑んだ。
「だったら、それが現実にならないうちに出来る範囲の事をしておいた方がいいと思います」
些細な喧嘩で、レンカッルドが自分の前から消えるとは思えなかったが、メイが言うようにレンカッルドがいないことを想像してしまったら途端に寂しい気持ちになった。
「うん…早く仲直りしよう…」
ぐっと小さく拳を握り締めるラトリア。だが、それも束の間、再び肩を落として呟い た。
「うーん…でもどんなふうに謝ろう…」
「んー、まぁ何だ。想いってぇのは其の侭でも繋がる事もありゃぁ、言葉や文字や形 に篭めて宿らせてぶつけねぇと繋がらねぇ事もありやがる。だからよ、ラリィもラリィ自身の今の想いをどんな形でも構わねぇ。ガッツリ有るが侭にぶつけてみちゃぁどうかね?想いを想いとして成せば、絶対ぇ届くと思うぜ」
そう話すオーマに続いて、アイラスも頷きつつ言う。
「ええ、やっぱり素直になるのが一番、ですよ」
「…うん、そう、だよね…有るが侭に…あたしの気持ちをレンに伝えたら、いいんだよね」
再び元気を取り戻してきたラトリアに、三人はそっと目を見合わせて、優しく微笑んだ。

あ、そうです、とポンと手を叩いてにっこりとしたアイラスは言った。
「面と向かって謝るのが難しいのなら、手紙を書くという方法もありますよ?文章で書くというのは自分の気持を整理するときにも有効な手段ですしね。ラトリアさんは手紙を書いたことなどありませんか?」
「手紙ならよく書くよ!故郷にいる伯母さんとかに…。そうだなぁ、手紙なら口で言うよりも変な意地張らないかもしれない…」
「ええ、自分の素直な想いをそのまま書き連ねれば良いのですし」
「手紙を書くなら、レン様のお好きな色や柄の便箋などを使うと、いいかもしれませんね」
メイの提案にラトリアは頷き、手持ちの便箋や封筒を思い浮かべてレンカッルドが好きそうなものを考えた。
「うん…あれがいいかな」
独り言のように呟いたあと、ラトリアはにこりと笑みを顔にのせて三人を見渡した。
「皆ありがと!色々話してくれたおかげで、仲直りする決心もついたし、方法も決まったよ」
今日出逢ってから、初めて見るラトリアの笑顔に三人も笑って言葉を返した。
「きっかけがほしいのなら、作ればいいかと。ケンカ記念日とか…」
如何です?と小首を傾げて問い掛けるメイに、ラトリアは「記念日かぁ…楽しいかも!」と頷いた。
「あ、手紙を書くときは誤字脱字には注意ましょうね。それと、丁寧な字で書いた方が良いとも思いますよ」
穏やかに言うアイラスを学校の先生のようだと思いながら、ラトリアは「はい」と返事を返す。
「おっ、そうだ。今いいもの持ってるんだよ…手紙書くんならよ、一緒にこれも渡すといいぜ」
オーマはそう言いつつ、ごそごそと手荷物を探り始めた。
「…と、あったあった」
丁寧な動作でオーマが取り出したものは、偏光色に輝く不思議な花だった。
「わぁ…綺麗」
「なんという花なんですか?」
「俺の故郷のゼノビアに咲く花だ。想いを映し見贈りし者と永久の想い絆で結ばれると言われてるルベリアっつー花でな」
想いを篭めて手紙に添えて、贈ればと。昔オーマも妻から贈られたのだと話す。
「へぇ…素敵な花だね、ありがとうオーマ!」
オーマから花を受け取ると、ラトリアは明るい顔をして立ち上がった。
「これから手紙書いて、レンと仲直りしてくるよ!」
「行ってらっしゃい」
「きっとレン様も仲直りしたいと思ってらっしゃいますわ。素直に想いを伝えれば、大丈夫ですよ」
「うん、そうする。…あ、ルディア、これお勘定!三人とも、ほんとにありがとう。ルディアも!」
丁度近くを通ったルディアにも声をかけて、三人に見送られながらラトリアは元気良 く白山羊亭から自宅へと駆けて行った。
「ラリィさん、元気になったみたいですね」
「ええ…さっきまで落ち込んでたのが嘘みたいに元気になりましたねぇ」
アイラスの言葉に、メイとオーマも笑って頷いた。


…*…

レンへ。

今朝はごめん。お昼のときもごめんなさい。
階段の近くにバケツ置きっぱなしにしてて…しまおうと思って忘れてました。
えと、でもね、本を読みながら階段を下りてくるレンも不注意だよ?
…じゃ、なくて。
仲直り、しようと思って。
レンと気まずいままじゃ嫌だし。
何かと迷惑かけてしまうあたしだけど、これからもよろしく。

…*…


「…こんな感じでいいかな」
自室の机に向かっていたラトリアは、書き上げた手紙を見て呟いた。
「レンに手紙書くなんてそうないから照れくさいけど…ちゃんと渡さなきゃね」
素直に、気持ちを伝えて。
仲直りできるように、またいつものようになることを祈って。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1649/アイラス・サーリアス/男性/19歳/フィズィクル・アディプト&腹黒同盟の2番】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【1063/メイ/女性/13歳/戦天使見習い】

*発注順

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■        ライター通信           ■
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初めまして。新人ライターの佳崎翠です。
今回はご参加くださりありがとうございました!!
皆様の仲直りの方法になるほどと思いながら書いておりました。
やはり、素直になるのが一番ですよね。

それでは。再び皆様とお会いできることを祈って…。