<PCクエストノベル(3人)>



エルフ族の集落〜美味しいお茶を飲みに行こう!
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【冒険者一覧】 整理番号 / 名前 / クラス

 2221 / ユシア・ルースティン / 旅人
 1985 / エルバード・ウイッシュテン / 元軍人、現在は旅人?
 2220 / シャナ・ルースティン / 旅人
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 とある街の一角で、ばったりと。二人と一人は再会した。
 二人は、ユシア・ルースティンとシャナ・ルースティン。これといった目的もなく各地を旅して回っている夫婦である。
 一人は、一応、もとの世界に帰る方法を探しながら――そのわりに寄り道が多い――旅を続ける青年、エルバート・ウィッシュテンだ。
 シャナとエルバードの間にどこか緊張感漂う空気が生まれた。その原因は主にシャナだ。
 初対面の印象が悪かったおかげで――エルバードはシャナの妻・ユシアをナンパしていたのだ――シャナからエルバードへの印象は良いとは言えない。
 友人というよりは敵……それも宿敵と言ったふうか。とはいえエルバードの根が悪いやつではないことは知っているから、決して、嫌っているわけではないのだが。

ユシア「お久しぶりです、エルさん」

 艶やかな黒髪を揺らして頭を下げておっとりと告げたユシアの声に、場の空気が瞬時にふんわりと和らいだ。
 宝石を思わせる澄んだ赤紫の瞳が穏やかな笑みを形作り、その視線はエルバートへと向けられた。

エルバード「どうも、お久しぶり。ユシアさん」

 エルバードはシャナに睨まれていたことなどすっかり忘れたように、爽やかな笑顔をユシアに向ける。
 それがシャナの不機嫌に拍車をかけているのだが、ユシアはそんなことお構いなしに、久しぶりに再会した友人エルバードと会話を進めはじめた。

ユシア「せっかくお会いしたのに立ち話というのもなんですから、どこかお店に入りませんか?」
エルバード「そうだねぇ。この時間だし、一緒に夕食でもどう?」

 エルバードの言葉にユシアは微笑を浮かべて頷いて、シャナが口を挟む間もなく話はトントントンと進んでいく。


 向かった先は歩いて最初に目に入ったレストラン。味は良くもなく悪くもなくといった感だった。
 お互い旅暮らしで、この街に詳しいわけでもないから、こんなもんだろう。
 だが。

エルバード「そういえば、最近美味しいお茶を飲んでないなあ」

 エルバードが、ふとそんなことを言い出した。

ユシア「私もですわ」

 ユシアの答えは社交辞令ではなくおそらく真面目に。何故なら確かに、ここ最近心から美味しいと思えるようなお茶は飲んでいなかった。

エルバード「そうだ。再会したばかりですぐに別れるのも味気ないし、探索がてら行ったことない場所にでもいってみないか?」

 ぴっと人差し指を立て、名案とばかりに人好きのする笑みで告げたエルバードのお誘いに、シャナは断わるか受けるか一瞬迷ってしまったのだが……。
 その、迷った瞬間に。
 ユシアが先に答えていた。

ユシア「まあ、素敵ですね。美味しいお茶がありそうなところって、どこがあるでしょうか」

 にこにこと上機嫌に言われてしまえば、シャナにはもう、断るなんてことはできなかった。
 あまり表情に変化がないため冷たいだとかそんな評価を受けることもあるが、基本的にシャナは、妻の笑顔には弱かった。
 エルバードとユシアを長時間一緒にしておくのは少々不満があるものの、自分も一緒に行くわけだし。必要以上に近づきそうなら自分が妨害すれば良い。
 そんなふうに考えて、シャナも二人の話し合いに参加する。
 地図を取り出してあちらこちらと案を出した結果、行き先は、エルフの集落にと決定した。


◆ ◆ ◆


 集落へ行くには、自然洞窟を抜けねばならない。
 しかしそんな危険の数々はまったく気にならないかのように、ユシアはごく楽しげに呟いた。
ユシア「どんなお茶があるのでしょうね」

 そんなユシアの様子に、シャナも自然と微笑が浮かぶ。

エルバード「罠がたくさんあるそうだから、気をつけてね、ユシアさん」
ユシア「お気遣いありがとうございます、エルさん」
シャナ「おい……」

 じろりと静かなシャナの睨みに、しかしエルバードは一瞬引いた素振りを見せるものの、本気に焦っている様子はない。
 これ以上は牽制も無意味と判断し、シャナはあっさりとエルバードを睨むことをやめ、代わりにユシアのほうへと微笑を向けた。

シャナ「行こうか」

 スッと伸ばされたシャナの手を、ユシアはふわりと嬉しそうな笑みで受け取る。
 夫婦の絆を見せつけられて、さすがのエルバードもここに割りこむことは出来ず、これといったチャチャを入れることなく三人は洞窟の中へと入って行った。


 噂通り、洞窟にはトラップが息つく間もなくあちこちに仕掛けられていた。
 それでも最初のうちは比較的楽だったのだ。
 例えば、スネア。あちこちに小さな穴が開いていて、歩きにくいことこのうえなかったが、注意すればそうそう転んだりはしない。
 トラップ用として放ったのだろう獣が襲ってくることもあったが、どれもこれもたいして強くはなかったし。
 当初噂に聞いていたものよりもずいぶんと緩いトラップに、無意識下で油断していたのかもしれない。
 すいぶんと奥に進んだためか、いつのまにか左方向から地底を流れる川の音が聞こえていた。三人がいま歩いているのは、はるか下方に川を見ることができる、崖の道。
 三人で歩くのには充分な幅を持ってはいるが、手すりも柵も当然ないから、足を滑らせれば一貫の終わりだ。
 そんな道を歩いている最中、エルバードは前方に不自然な土の色を見つけて瞳を細めた。

エルバード「なんだ。また落とし穴か」

 たいまつの灯かりの中でも明らかにわかる、土を掘り返したあと。
 実はこの前にも何度か同じような落とし穴を見つけては、難なく回避してここまでやってきていたのだ。
 落とし穴の先の道はほぼ直角にまがっており、行きすぎれば当然、崖下へと落ちてしまう。
 だが落とし穴はそう大きいものではない。わざわざ飛ばずとも、足を伸ばせば充分に届く距離だ。
 エルバードは二人に先駆け落とし穴を避けて先に進もうとしたのだが……。
 間近まで来て、シャナがあることに気がついた。
 巧妙に隠されていたが、エルバードが足を下ろそうとしたそのすぐ横の壁に、自然のものとするには不審な小さい穴が開いていたのだ。

シャナ「危ないっ!」
エルバード「え?」

 ドンっと乱暴に押し出されて、エルバードは勢い余って、予定より数歩も先――何もない空中へと進む。
 その、瞬間。
 エルバードが数秒前までいた場所に、いくつもの矢が通りすぎていった。
 が。

ユシア「エルさんっ!?」

 矢に貫かれるのは避けたものの、エルバードの体は見事なまでに空中へと放り出されていた。

エルバード「シャナさんっ!!!」

 しかし幸いなことに、シャナは飛行の魔法を使うことができた。
 落ちたと思われた次の瞬間、浮かんできたエルバードに、シャナは淡々と謝罪の意を告げた。

シャナ「落としてすまないな」

 ……とてもとても、すまないと思っているような口調ではなかったが。

ユシア「エルさん、ご無事でなによりでした」

 ほっと胸を撫で下ろしたユシアに、シャナは明るく笑って地面へと足をつける。それも、ユシアのすぐ真横に。

エルバード「心配かけたみたいで、すみません」
シャナ「……エルバード……」

 シャナの周囲に氷点下にも負けない冷気が漂う。

エルバード「いやだなあ、シャナさん。そんな顔しないでよ。心配をかけてしまったお嬢さんに謝罪するのは当然だと思わない?」

 ユシアを気遣うような答えを返されてしまえば――エルバードの無事を心から喜んでいるユシアを見てしまえば――シャナにそれ以上の反論はできず、結局。

シャナ「進むぞ」

 さりげなくユシアの肩に手を回し、シャナは先へと歩き出すのだった。


◆ ◆ ◆


エルバード「ふーっ。やっとついたあ」

 数時間ぶりに陽の光の下に戻ってきて、エルバードはうん、と気持ち良さそうに伸びをした。
 洞窟は先に進めば進むほど、罠の難易度も根性悪さもレベルを増し、二人はけっこうな苦労を強いられたのだ。
 ちなみに、抜けている一人は女性に優しくをモットーとするエルバードと、妻大事のシャナに死守されていたユシアである。
 もちろんユシアがなにもしていないと言うわけではなく、なんというか……そういう部分よりもむしろ、ユシアを挟んでの精神疲労の方が大きかったのだ。
 特にシャナは。

ユシア「穏やかな村ですね」
シャナ「……武器は持たない方が良さそうだな」
ユシア「ええ」

 シャナとユシアはそれぞれの武器を鈴と耳飾りへと変化させて持ち変える。

エルバード「すみません。この村に美味しいお茶はありませんか?」

 二人がそんなことをしている間に、エルバードは早々に近場のエルフ――もちろん女性――に目をつけて、ゆったりと他者の警戒を解かせる口調で問い掛けた。

村人「それでしたら、村の東の方に、茶葉を扱うお店がありますよ」

 にこりと笑顔で答えたエルフにエルバードもまたこれ以上ないような極上の微笑みで返して、二人の元へと戻ってくる。

エルバード「お茶屋さんの場所がわかったよ」
シャナ「ああ。聞いていた」
ユシア「どんなお茶があるのか楽しみですね」

 噛み合うような噛み合わないような微妙な会話を交わしつつ、三人は教えられた茶屋へと向かう。
 そこには、人の街では滅多に見られないような珍しい茶葉から、よくある種類だけれどよく見掛けるものよりも数倍は丹精に育てられただろう茶葉など。
 様々なお茶が置かれていた。

ユシア「まあ、いろいろあって悩んでしまいますね」
エルバード「どれもこれも美味しそうだしね」

 和気藹々―― 一部微妙に険悪な空気が漂うこともあったが――とお茶を見て回り、選んだお茶は、苦労に見合うとても美味しいものだった。
 お茶をひとくちふたくち運んで、ユシアがふわりと嬉しそうに微笑んだ。

ユシア「美味しいですね……」

 ほうっと零れた呟きに、シュナとエルバードはこくりと頷く。
 三人で来て、こうしてお茶を飲んで、話をして。
 楽しい一時を過ごした一行は、せっかくだからと茶葉を少しお土産にし、エルフの集落をあとにした。