<PCクエストノベル(1人)>
ソーンの迷い子
〜 アロマ・ネイヨット 〜
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【冒険者一覧】
【整理番号/ 名前 / クラス 】
【1054/ 山本建一 / アトランティス帰り 】
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●道端で出会ったものは
聖都エルザードより街道沿いに少し行った所、小高い丘に小さな孤児院がある。
赤い屋根のこの小さな家は、聖獣界ソーンでも有名な場所だ。
孤児院自体はそう珍しいものではないが、孤児院を運営する少女アロマ・ネイヨットの名は多くの人々に知られていた。
旅の途中、時折アロマの姿をみかけてはいたが、きちんと挨拶を交わしたことがないのに気付き、山本健一(やまもとけんいち)は孤児院へと向かうことにした。
手には焼きたてのクッキーと新茶を持ち、のんびりと街道にそって歩いていく。
途中、ふと子供の泣き声が聞こえ、健一はその足を止めた。
健一 「何の声でしょう……」
声のする方へ進んでいくと、薮の中に子供の姿を見つけた。
歳は3〜4歳ごろだろうか。布を巻き付けただけの格好に、何日も洗われていないみすぼらしい身なり。
少女か少年すらも分からぬその姿は、人というより獣に近い。
健一 「どうか……しましたか?」
そっと手を差し伸べるも、子はおびえた声をあげて健一の手を振り払った。
仕方なく、健一は手に持っていた琴をかき鳴らし始める。
健一 「大丈夫、私はあなたに危害は与えません。おびえる必要はありませんよ」
じっと健一を見つめていた子の瞳から、徐々におびえの色が消えていく。
ほっと安堵の息をもらし、健一はそっと彼を抱きかかえた。
●迷い子を連れて
庭で草むしりをしていたアロマは、子を抱きかかえる健一の姿に気付き、その手を休めた。
アロマ「あら……どうかなされたんですか?」
健一 「途中の薮の中でおびえていました。きっと……獣か何かに襲われたのを逃げてきたのでしょう」
汚れはひどいものの、怪我をしている様子はない。
まずは身体を清めるため、アロマは湯の用意を整えさせる。
アロマ「余ってるお洋服のサイズが合えば良いのですが……」
子供は成長が早く、衣服は殆ど長くは着られない。
子供の数が多ければ多いほど、その用意も数多く必要となる。
そのため孤児院にはたくさんの衣類が置いてはあるが、その殆どが何かしらの形で再利用されてしまっている。
健一 「僕がお風呂にいれておきますので、その間に服を探してきてあげてください」
アロマ「ありがとう、宜しくお願いしますね」
出来れば服探しの手伝いをしてあげたかったが、健一は孤児院の内部を知らない。
どこに何があるのか分かる者に任せるのが最適だろう。
湯になれていないのか、子は湯に浸けたとたん暴れ始めた。
健一 「あ、暴れないで……! 大丈夫、おぼれたりしませんよ」
何とかなだめようとするも、一向に大人しくなる様子はみられない。
少々手荒とは思ったが、身体を押さえつけるように手足の自由を奪いながらも身体の隅々を洗っていく。
泥をすっかり洗い落とした頃には、健一も子供もすっかりへとへとになっていた。
アロマ「このお洋服なら大丈夫かしら……って、2人ともどうしたの?」
健一 「いえ、何でもありません」
疲れ切った2人を見て驚くアロマに、健一はにこりと笑顔で返す。
アロマの見立ては見事なもので、衣装はその子の身体にぴったりのものだった。
不思議そうに自分の姿を見回す子の姿に、2人は思わず笑顔を浮かべる。
アロマ「お似合いよ。その服、気に入ってくれた?」
アロマの言葉に、きょとんと首を傾げる。
言葉が通じないのか、それとも理解できていないのか。
どちらにしても反応が少し薄いことに彼女は少しがっかりした様子だ。
健一 「まだ少しびっくりしてるだけですよ。そのうちお話もしてくれると思いますよ」
アロマ「それなら良いのですが……」
部屋の奥からアロマを呼ぶ声が聞こえる。
昼寝の時間が過ぎ、もう夕食の準備に取り掛からなくてはならないようだ。
健一 「僕も手伝いますよ」
そのために来たのだ、と彼は言う。
アロマ「そうですね。それじゃお言葉に甘えて、お願いします」
本日のメニューはうさぎのシチューと野菜のサラダ。
下準備は殆ど整っているので、後はいくつかの仕上げと盛り合わせるだけ。
味が変わっては大変、と健一はサラダの盛り合わせを中心に手伝うことにした。
健一 「子供の頃の味覚って、大人が思っている以上に敏感なんですよね。甘いとか、苦いとか」
アロマ「そうかもしれませんね。皆、好みがたくさんあるんですよ。ちょっと味が違うと『違う!』って怒られちゃう時もありますからね。でも、何でも好き嫌いなく食べるようしつけてはいますけど」
健一 「はは。厳しいんですね」
アロマ「あら、健全な身体は幼児期の正しい食生活にあるんですよ。良く食べて良く寝て、良く遊んで。元気に育ってくれることが何より嬉しいことですね」
目を少し細めながら、アロマは楽しそうに告げる。
本当に子供を愛してくれているのだな、と、健一は心の中で静かに呟いた。
アロマ「さて、料理を食卓に急いで運びましょ。子供達がお腹を空かせて待ちわびているわ」
健一 「はい」
●紅茶のダンス
食事も終え、外に遊びに出掛ける子供達を見送った後。
一仕事終えたアロマは健一のお茶を頂くことにした。
健一 「今日は少し珍しい茶器を持ってきました」
そう言って、健一は籠から透明のポットを取り出した。
耐熱性の特殊なガラスで作られたものだ。
ソーンでも作れる者は殆どおらず、その存在を知る者すらわずかであろう。
アロマも初めて目にする透明のポットに、目を丸くして驚きの声をあげた。
健一 「このポットですと、お茶葉のダンスがよく見えるんです」
茶葉を少量ポットの中に入れ、勢い良く湯を注ぐ。
注がれた湯の中で、茶葉はゆっくりと広がりながら優雅にポットの中を舞い始めた。
アロマ「……わぁ……キレイですね」
健一 「こうやって茶葉が綺麗に舞うと、美味しい紅茶に仕上がるんですよ」
くるくると舞いながら、本来の姿へと戻っていく。
次第に湯が紅に染まっていくのを確認し、健一は頃合いを見計らってポットの湯をカップに注ぐ。
健一 「さあ、冷めないうちにどうぞ」
ほのかに、優しい花の香りを漂わせる紅茶を、アロマはゆっくりと味わいながら口に含んでいく。
アロマ「……美味しいです。これなら何杯でも頂けそう」
にっこりと微笑むアロマ。
ポットの中の茶葉は静かにその舞いを終わらせようとしていた。
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アロマ「それじゃあ、この子は孤児院でしばらくお預かりします。何かありましたら、いつでもいらして下さいね」
健一 「宜しくお願いします。それじゃ……また」
ぽん、と子の頭に健一は手を乗せる。
相変わらず無反応な子供に、健一は苦笑いを禁じえなかった。
おわり
文章執筆:谷口舞
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