<PCクエストノベル(1人)>


『プロミスリング ― アクアーネの村で出会ったカエルの王子様 ―』

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】


【1948 / カルン・タラーニ / 旅人】


【NPC / レイニー / カエルの王子】


【NPC / ニーナ・ロマノ / 村娘】


【NPC / お婆さん / 村娘(?)】



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『プロミスリング ― アクアーネ村で出会ったカエルの王子様 ―』


 ゲコゲコ、カエルの大合唱。
 アクアーネ村の真ん中にある大きな噴水。
 それが青い空に届くまでの勢いで高く、高く、高く吹き上がって、空に虹をかけて、そうしてその虹がアーチ型の扉となって、そこから現れたのはカエルの王子様だった。



【第一幕】


お供の男の子:「カル。じゃあ、行ってくるから。もうちゃんと起きなよ」
カルン:「ふぅわ〜ぃ」
 私はタオルケットの中から手を出して手だけで彼に行ってらっしゃいをする。
 溜息は聞こえないフリ。
 彼の「行ってきます」を耳にだけ届かせて、私はタオルケットの中で体を丸める。彼は今日は食べ物屋さんの厨房でバイト。私はもう少しだけ寝て、それから家の事をするの。気分はかわいい、かわいいお嫁さん。
 ふふふ、と笑う。
 洗い立ての真っ白なシャツは石鹸の優しい香り。
 乾したお布団はぽかぽかでお日様の香り。
 夕方の橙色が溢れる部屋を満たすのは私が作った料理の香り。
 驚く彼の顔。どうだ、参ったか。私にだってできるんだから♪ そう、得意顔で言ってやるんだ。
カルン:「むむむ。なんだか。胸がドキドキしてじっとしていられなくなってきた」
 だから私は丸めていた手足を伸ばして、だぁーっとベッドから飛び起きた。
 腰に両拳を置いて、部屋を見回してうん、と頷く。
カルン:「よぉーし、まずは………朝ごはん食べようっと♪」
 朝ごはんは大事。
 一日を生きるための大切なエネルギー源。
 私は顔を洗って、服を着替えて、自慢のプラチナのような銀色の髪に櫛を入れる。彼がホワイトデーにくれた木製の櫛。私の大切な宝物。
 鏡に映る私の髪はサラサラ。
 姿見の鏡に全身を映して、私は頭の先から足の先までチェック。身だしなみは完璧。
カルン:「よし♪」
 姿見の前で満足気に私は微笑んで、台所へ。
 朝食はフレンチトーストに、野菜サラダ。ミルク。とても美味しい。
 やっぱり彼の手料理は絶品だ。
 そんな彼に料理を作ってあげるのはちょっとプレッシャー。ううう。でも負けないぞ、っと。
カルン:「だってやっぱり見たいし、それに褒められたいじゃない。ね、カルン」
 グラスに映る私の顔はにこりととても嬉しそうに微笑んだ。
カルン:「さてと、朝ごはんも食べたし、エネルギー満タン♪ やるぞ、っと」
 服の袖を捲くって、私は頷く。
 まずは台所。
 洗いモノは私の使った食器のみ。
カルン:「ふむ。まあ、こちらは後から夕飯を作る時に洗っちゃえばいいよね。じゃあ、先にお布団♪」
 スキップのリズムは只今のMyお気にの曲のリズム。
 髪は結い上げて、ハンカチを頭に巻いて、私は二人のお布団を真っ青な空の下に乾す。今日のお布団はきっと太陽の匂いいっぱいのふかふかもこもこで、温かい。
カルン:「寝るのが楽しみ♪」
 そのためにもやる事やっておかないと。うん。
 今度はお洗濯。
 二人の洗濯物を籠に入れて、庭で大きな桶に井戸の水を汲んで、石鹸で泡立てた石鹸水に………
カルン:「って、あれ? お洗濯って、何か洗い方に順番があるって言ってなかったっけ?」
 言ってた気がする。
 んー、
 んー、
 んー、
 …………。
カルン:「ま、いいか〜♪」
 私は石鹸水に洗い物を突っこんで、お洗濯をする。
 じゃぶじゃぶじゃぶ♪
 汚れが落ちて、服は綺麗。彼の白いシャツがなんだか薄っすらと色がついているような気がするのは、まあ、そのまま気のせいとしておいて♪
カルン:「うん、綺麗♪ 綺麗♪」
 私は額に浮かんだ汗を拭いて、青い空を見上げる。
 なんだかその空の青さを見ているとうずうずしてくる。
 石鹸水のついた手を空に向けて親指と人差し指で環を作る。そっと息を一息。
 空に浮かぶ、シャボン玉。
カルン:「やった♪」
 風に飛ばされて、だけどそれは割れずにふわふわと空に向かって、飛んでいく。高く。高く。高く。どこまでも高く、青い空に向かって、飛んでいけ。青い空に抱かれるように。
 私はシャボン玉の唄を歌いながらお洗濯そっちのけでシャボン玉を飛ばした。
 大きなシャボン玉、小さなシャボン玉、いっぱい空まで飛んだ。
 私はそれを見上げて唄を歌う。大きく両手を振って、シャボン玉に。
カルン:「良いなー、良いなー。私も青い空を飛びたいなー」
 私は庭の上に大の字になって転がって、初夏のそよ風にそっと頬を撫でられながら青い空を見上げる。
カルン:「がんばれ。がんばれ、シャボン玉さん」
 ひとつ、またひとつ、シャボン玉は割れていく。
 その光景がひどく切なくって寂しくって、だから私はその最後の一個を応援する。
 最後のシャボン玉は飛んでいく。空高く。
 そうしてそれは見えなくなって、瞼を閉じた私はその先を想像する。
 空よりも高い場所まで飛んだシャボン玉はお月様まで飛んでいって、そしてウサギさんは大変それに驚くと同時に喜んで、おむすびころりのお爺さんがネズミさんにたくさんのお宝をもらえるように私もウサギさんにシャボン玉のお礼につきたてのお餅をもらえたり。
カルン:「それでウサギさんと一緒にお餅を食べながら歌ったり?」
 私はくすくすと笑う。



 静かな青い空に浮かぶシャボン玉♪
 どこまでも風に飛ばされて旅をしていく♪
 いつか見た人たちは元気?
 駆けた森、寝転がった草原、泳いだ川、空から見たそこはどう見えているの?
 私は愛しきそれらを、あなたに見てもらいたくって♪
 教えてくれたら嬉しいよ、その私の大切な風景を♪
 あなたは旅していく、今日までの私の旅して来た道を♪
 私は祈る、あなたがどこまでも旅していけるのを♪
 そうして伝えてね、お父様とお母様に私の見てきた大好きな風景を♪



 歌いながらいつの間にか眠っていた私は夢を見た。
 大きな大きなシャボン玉の中に入って、ふわふわと空を飛んで、これまで旅してきた道を見て、そうしてお父様とお母様のいる王宮、王の間でその旅は終わって、私はお母様の胸に飛び込んで、皆で笑いあって、そこで夢は終わる。
 とても優しくって、温かくって、嬉しくって、懐かしくって、ちょっと寂しい夢。
 見た夢はしばらくの間私の目頭を熱くさせた。



【第二幕】


カルン:「よし、ミッション終了♪」
 最後の洗濯物を乾して、私は満足気に頷いた。
 風に泳ぐ洗濯物。
 ぽとぽとと何やらまだ雫を落としているけど、だけどきっとお日様がちゃんと乾かしてくれるはず。
 だから私は今度は家の扉を目指す。
 部屋のお掃除をして、お昼ご飯を食べて、夕飯の準備♪
カルン:「お掃除♪ お掃除♪」
 ほうきと叩き、塵取りを手にお部屋のお掃除。
 叩きで埃を落として、ほうきで床を刷いて、ちりとりでごみを回収。
カルン:「って、うわぁー」
 部屋の箪笥の横をほうきで刷こうとしたら、陰から飛び出して来たあの黒い奴。
 私はびっくりして、怖くって、後ろに飛びのいて、だけど足が上手く動かなくってからまって尻餅をついた。
 うぅ、痛い………。
 けど、こうしてはいられない。
 私は手と足、お尻を使って後ずさり。
カルン:「来るな。来るんじゃない。来ないで。来ないでください。お願いだから〜〜〜」
 涙目の視界にあいつを映しながら私は後ずさって、それから四つん這いになって、よーいドンで、クラウチングスタートで部屋を飛び出した。
 こうなったら夕飯の買い物を先にすませてしまおう。
 そうしよう。
カルン:「うぅ。だからどうかお願いだから、私が買い物に行ってる間にどっかに行っていてね」
 心から切に願って、私は街に出た。



 +++


 夕飯は何にしよう?
 レパートリーは実は着実に増えているの。
 旅に出て良かった事。たくさんの人たちに出逢えた事。そんなたくさんの人たちに私は助けられて、料理もできるようになったの♪
カルン:「驚いた顔が楽しみ♪」
 いっそうの事作れる料理全部作ってしまおうか?
カルン:「いやいや、十八番は最後に取っておく方がいいかも」
 考えるのが楽しい。
 お魚屋さん。
 たくさんの魚が並べられていて、カニさんやエビさんなんかはまだ生きている。
 八百屋さんも新鮮なお野菜がいっぱい♪
 さてさて、本当に何にしましょう、ご飯。
カルン:「うーん、悩むなー」
 街の真ん中の公園のベンチに座って、私はお昼ご飯に買ったフランクフルートを食べていた。
 風に揺れる髪が私の首筋に触れてすごくくすぐったい。
 包み紙を丸めて、ベンチから少し離れた場所にあるゴミ箱へ、えぃ、って投げてやる。だけどうぅ、残念。包み紙は外れてしまった。
カルン:「ちぇっー」
 私はベンチから立ち上がって、ゴミ箱の裏へと回った。そして外れたゴミを拾って、あれ?
 さらりと前髪が額の上で揺れる。小首を傾げた私。
カルン:「どうかしたんですかー?」
 私はそちらに向かって走った。
 だってお婆さんが道端に座り込んで途方に暮れているようなんだもん。
カルン:「お婆さん?」
 小首を傾げる私にお婆さんはにこりと疲れたような笑みを浮かべた。
お婆さん:「こんにちは、お嬢さん。いえねー、どうにも足が痛くって、痛くって」
カルン:「足?」
お婆さん:「そう。足が痛くってどうにも歩けなくってねー」
カルン:「そっかー。それは大変ですよね。えっと、お家は何処なんですか?」
 近くだったらなんとか私がおんぶしてあげられるかもしれないし、それが無理でもどこかで台車なんかを借りてきて………
 そうやって私が考えていると、お婆さんはまた困ったような表情を深くした。
お婆さん:「いえねー、この街じゃなくって、ずいぶんと遠い場所なのよ。アクアーネの村なの」
カルン:「アクアーネ村?」
 私は目を丸くする。
 だってアクアーネ村と言えばここからは馬車で2時間ぐらいの道のりのはずだ。随分と遠い。歩いて帰るのは………しかも不自由な足で帰るのは絶対に無理だ。
カルン:「えっと、じゃあ、お婆さん、ちょっと待てて」
 私はお婆さんにそう言うと、通りに出て片手をあげて、馬車を止めた。幸運にも私のポケットにはアクアーネ村への片道代ぐらいは入っていたはずだから。



【第三幕】


 がたごとと揺れる場所の振動をお尻に感じながら私はお婆さんと向かい合って馬車に乗っていた。
お婆さん:「悪かったねー、お嬢さん。私のために」
カルン:「ううん、気にしないで、お婆さん。私もアクアーネ村には一度は行きたいって想っていたから」
 それは嘘じゃない。
 ちょっぴり彼と一緒じゃないのが悔やまれるけど、でも先に私が観光スポットを直に見て、次に来た時に彼を案内してあげるのも楽しいんじゃないかなとも想うし。
 だからやっぱり全然OK♪
 でもあまり時間は無いけど。着いたらトンボ帰りの予感。なんとかひとつでも良い観光スポットを見る事ができればいいんだけど。
カルン:「ねえ、お婆さん」
お婆さん:「ん?」
カルン:「お婆さんはどこか良い場所を知っている? アクアーネ村の観光スポット」
 私は両拳を握って、身を前に乗り出させて、お婆さんに言う。
 お婆さんは驚いたように目を丸くして、その後ににこりと笑った。
お婆さん:「私はゴンドラが好きねー。ゆっくりとゴンドラに乗って村を一周するのが好き。ベテランのゴンドラの乗り手さんと仲良くなれば、村を一周する時に色々と説明もしてもらえるし、ひょっとしたらまだ村の観光協会も把握していない遺跡に連れて行ってもらえるかもしれないの。これはほんとはダメなんだけど、カルンちゃんには内緒でね、教えてあげるわ。パスタ・ダガマっていうゴンドラの乗り手さんはたくさんのまだ未知の遺跡を知ってるから、その人を訪ねたらすごく楽しい冒険をできるんじゃないかしら」
 悪戯っぽい表情でお婆さんは微笑んで、私は唇の前で人差し指を一本立てた。
カルン:「内緒ですね」
お婆さん:「ええ、内緒」
 心地良い振動で揺れる馬車の中には私たち二人のくすくすと笑う声が満ちた。



【第四幕】


 私は馬車の御者台と荷台とを繋ぐ場所に座ってアクアーネ村を視界に映す。
 村の中を水路が走り、その水路を色取り取りのゴンドラが行く。
 空気には心地良い清らかな水の香りが満ちていて、人々の顔もすごく活気に満ちていた。
 本当に綺麗な村だ。
カルン:「わぁー、すごく素適♪」
 そう想うと同時に私は彼の顔を思い浮かべた。
 彼にも見せてあげたい、心からそう想う。
カルン:「喜ぶだろうなー」
 私は荷台に戻ってお婆さんに家の場所を聞いて、それをまた御者台と荷台を繋ぐ場所まで出て、御者さんに伝えた。
 馬車はアクアーネの村の端っこに止まる。
カルン:「お婆さん、大丈夫? 私の肩につかまって」
お婆さん:「ありがとうねー、カルンちゃん」
 私の肩によりかかって馬車から降りたお婆さんはにこりと笑って、
 そうしていたら家の中から若い娘さんが出てきた。
若い娘:「まあ、お婆ちゃん、どうしたの?」
 彼女はお婆さん、私、そして馬車の御者さんを見て目を丸くした。
 若い娘さんはとにかく慣れた様にお婆さんに肩を貸して家の中に入って行って、私は馬車の御者さんにここまでの代金を払った。
御者:「ありがとうございました。またのご利用を」
 御者さんはにこりと温和な笑みを浮かべて馬車をゆっくりと走らせて、帰っていった。
 その後ろ姿を見送りながら私はちょっとこれからの歩く距離を考えてげんなりと溜息を吐く。
 だけどまあ、後悔はしない。自分のやった事に。
カルン:「だけど夕飯、どうしよう?」
 これから急いで帰って家に着くのは夕方だ。
 それからお布団と洗濯物をしまって、また買い物に出て。
 だけど考えていた料理の大半は時間をかけて作る料理だから、メニューから外れてしまう。
カルン:「うぅぅ」
 しょんぼり。
 そうしていたら家の扉が開いた。さっきの若い娘さんだ。
若い娘:「ありがとう。えっとあたし、ニーナ。ニーナ・ロマノ」
カルン:「私はカルン・タラーニ」
ニーナ:「本当にありがとう、カルン。助かったわ、おばあちゃんの事」
カルン:「ううん、いいの。当たり前の事をしただけだから」
 私はにこりと笑う。
 本音だ。
 だけどニーナはぶんぶんと顔を横に振った。
ニーナ:「だけどそれではあたしたちの気がおさまらないわ。とにかくカルン、家の中に入って」
 私はニーナの笑顔に負けて家の中に入る。そうしたらすごく良い香り。
カルン:「うわぁー、すごく良い香りね」
 ニーナは自慢げに微笑んだ。
ニーナ:「ええ。このニーナさんのイワシのグラタンは最高の一品なの。これに先ほどカルンの街で買ってきたビワのね、ジャムを塗ったパンを食べ合わせれば本当に天国に行けるわ♪」
カルン:「イワシのグラタン、ビワのジャム!」
 じゅるり。
 そしたらお腹の虫も盛大に自己主張する。
 私は顔を赤くしてしまう。
 ニーナは驚いたように目を丸くして、それからくすくすと笑う。
 彼女はぱちんと両手を胸の前で叩いた。
ニーナ:「ねえ、よければカルン、うちに泊まっていかない? そしたらあたしのイワシのグラタンもビワのジャムを食べれるわ」
カルン:「うーん。すごく心惹かれる申し出だけど、私、帰らないと」
ニーナ:「そっかー」
お婆さん:「だったらカルンちゃん。あと二時間。二時間くれないかい? そうしたらイワシのグラタンもビワのジャムも出来上がるから。ねぇ、ニーナ。お礼にイワシのグラタンもジャムもあげてもいいよね」
 お婆さんの申し出に私は慌ててしまう。
 それはすごく嬉しいけど、でも………
ニーナ:「ええ、それがいいわ。実はね、今日はあたしのフィアンセが夕飯を食べに来る予定だったんだけど、仕事の都合で来れなくなったの。だから良かったら持っていって食べて。大食いの彼に合わせてすごく量が多いけど」
カルン:「えっと、じゃあ、お言葉に甘えて。あの、私とあと幼馴染みの子が居るから、だから大丈夫。ありがとう」
 私はぺこりと頭を下げる。
ニーナ:「じゃあ、二時間あるから、村でも観光してきて」
カルン:「あ、はい」
 私はにこりと微笑んだ。



 +++


 先ほど馬車で通りがかった村の真ん中の大きな噴水。
 村を流れる水路の中心で、大きな湖の中心にその噴水はある。
 アーチ型の橋を渡って、私はその湖の中心にある円形の広場(半径5メートルぐらい)に立って、噴水を見た。
 その噴水にはたくさんのコインが入っている。後ろ向きでコインを投げ入れて、その瞬間に水が吹き上がると、願いが成就するそうなのだ。
 願い。
 願いならいくらでもある。
 お父様、お母様の旅の無事。
 一刻も早くお母様の声が戻るように。
 旅で出逢ってきた人たちとの再会、幸せ。
 そして私の、私の想いが彼に届くように。
 私はほんのりと顔に熱さを感じながら懐から取り出した櫛をそっと握った。もちろん、思い浮かべる彼の顔。
 そんな私が居る場所はたくさんのゴンドラの乗り手や観光客、村の人の楽しそうな声に、それからカエルの大合唱が響き渡っている。
 初夏。
 おたまじゃくしからカエルになったばかりのカエルたちはまるでそれが楽しいように大きな声で唄を歌っている。
カエル:「うーん、なんだか私も歌いたくなっちゃった」
 広場の隅に居るカエルの隣に立って、私はカエルににこりと微笑む。
カルン:「私にも歌わせて」
 すぅーっと胸に息を吸い込んで、それから私は唄を紡ぐ。



 遥かな時の果てに叶う私の夢♪
 憧れ続けた世界の香りを私は今この胸にいっぱい吸い込んで、世界と共に呼吸をする♪
 小さな私、広い世界♪
 奇跡があるのだとしたら、私がこうして世界に立っている事♪
 描き続けた夢を叶える♪
 叶う瞬間に嬉しくって、叶った瞬間に嬉しくって、叶った夢が想い出に変わった瞬間が嬉しくって、幸せで、ちょっぴりと悲しくって♪
 そんな私に笑うあなた♪
 頬を膨らませる私♪
 だけど上手く膨らませられなくって笑う私♪
 夢見る私♪
 その夢を見る私の隣にいつも居てくれるあなた♪
 私の夢の中にいつも居るあなたは、そしていつの間にか私の心の中にも居た♪
 それが嬉しくって幸せで、私は願うの、永遠にあなたとの旅が終わらないように、あなたとずっと一緒に居られるように♪
 近くって遠いあなた♪
 その心の距離を一歩ずつ狭めていく私。いつかあなたの手を握れる日を夢見て♪
 あなたが私のその手をぎゅっと握り締めて、優しくキスしてくれる日を夢見て♪
 世界に出た瞬間に、世界に出る事が夢だった私のその夢は想い出に変わったの。新たな夢をそして私は抱いたのです。ならば私のあなたへのこの想いの夢は、終わった瞬間に今度はどのような夢を暮れるのでしょう♪
 それを想う度に私のこの胸は心地良いリズムを刻むのです♪
 夢は終わらぬ希望♪
 夢は叶った瞬間にまた私は新たな夢を抱いて、そうして私は私の物語を紡ぐ♪
 願わくば私の物語があなたの物語と重なるように、ひとつとなるように♪
 それが永久に続く願い。希望の夢♪



カルン:「大好きだよ」
 私は歌い終わったばかりの細い声で彼の名前を言葉に紡ぐ。彼の太陽のような優しく温かい笑みを脳裏に思い浮かべながら。
 そして私は周りの拍手喝采に上品にスカートをわずかにあげて、お辞儀をした。
カルン:「カエルさん、皆、喜んでくれたね」
カエル:「ゲコ、ゲコ、ゲコ」
 私はカエルさんとくすくすと笑いあう。
 ゲコゲコ、カエルの大合唱。
 だけど私は小首を傾げる。だって、それがだんだんと大きくなっていっているのだ。
 何かが起きるような予感。
 それを胸に感じた瞬間に、アクアーネ村の真ん中にある大きな噴水、それが青い空に届くまでの勢いで高く、高く、高く吹き上がって、空に虹をかけて、そうしてその虹がアーチ型の扉となって、そこから男の子が現れた。



【第五幕】


カルン:「驚いたぁ〜」
 私は目をパチパチとさせる。
 その男の子はそんな私ににこりと微笑んだ。
カルン:「私はカルン・タラーニ。あなたは誰?」
男の子:「私はレイニー。カエルの王子様です」
カルン:「カエルの王子様? って、あの童話によく出てくる悪い魔法使いにカエルに変えられたって、あれ、でも人間?」
 カエルの王子様は小首を傾げる私に小さく顔を横に振って、それから足元のかわいいカエルを手の平に乗せて、にこりと微笑みながらもう片方の手の指でそのカエルを指差しながら言った。
レイニー:「正真正銘のカエルの王子様なんです」
カルン:「あー、わぁー、そうなんだ。すごい。カエルの王子様なんだね」
 私はぱちんと胸の前で手を叩く。トノサマガエルが居るのは知っていたけど、カエルの王子様が居るなんて初耳だ。なんだか嬉しくなっちゃう。
カルン:「私もお姫様なんだよ」
 にこりと私が微笑みながら言うと、彼もにこりと微笑みながら頷いた。
カルン:「あ、でも、そのカエルの王子様がどうしてここに?」
レイニー:「はい。私の民と共に歌うあなたの歌声がとても楽しそうで、綺麗だったので、やって来ました。実は私は今日でこの村を旅立たねばなりません。だからもしもよろしかったら、私と一緒に唄を歌ってくれませんか? この村での私の思い出作りのために」
 私に頭を下げるレイニーに私はもちろん、即答した。
カルン:「もちろん」
 レイニーはにこりと微笑む。
 それから彼は首から下げたブルースハーブというハーモニカを手に取って口にくわえた。
 紡がれる音色。カエルたちも一斉にそのハーモニカの音色に合わせて歌いだす。
 とても心地の良いリズム。
 雨の日に聴くカエルの大合唱のように、それは心地良くって、軽快で、心を楽しくさせてくれた。
 レイニーがブルースハーブを吹きながら私に微笑む。
 だから私も胸の前で手を合わせながら歌声を奏でた。
 カエルの王子様とカエル、そして私の音楽祭。
 アクアーネ村に響き流れ、広がる私たちの音楽にたくさんの人たちが来て、耳を傾けてくれて、私とレイニーは見合わせあった顔ににこりと微笑みを浮かべあう。
 そうして私たちの音楽祭はアクアーネ村という舞台に夕日の光というカーテンが降りるまで続いた。



 +++


 心地良い疲労感と達成感のような物を感じながら私はレイニーとにこりと笑いあう。
レイニー:「ありがとう、カルン。とても楽しかった」
カルン:「私もすごく楽しかったよ。ありがとう♪」
 私がそう言うと、レイニーの顔が真っ赤になった。
レイニー:「カルン」
カルン:「ん? 何?」
レイニー:「来年。また来年の今頃、社会勉強が終わるから、その時に私は貴女に会いに来ます」
カルン:「うん。その時にはまた一緒に歌おうね♪」
レイニー:「はい。だからその時にわかるように、目印に、そして約束の証に貴女にこの指輪を」
カルン:「え?」
 レイニーは自分のはめていた指輪を私の手に握らせて、それからにこりと本当に嬉しそうに、そしてほんの少し夕暮れ時にお母さんに手を引かれて公園から帰っていく子どものような顔をして、湖の中へと消えていった。
 後に残された私はカエルの大合唱を聴きながら湖に浮かんだ波紋が消えるまでレイニーが飛び込んだ場所を見つめ、それから手の平の上の指輪に視線を向けた。それは銀細工のようにも見えるとても不思議なモノでできた綺麗な指輪だった。
 だけど問題がひとつ………
カルン:「うーん、薬指しかしっくりとはまらない」
 自然に苦笑が零れる。
 しばらく考えて、私は右手の薬指に指輪をはめた。
カルン:「左手じゃなければ大丈夫だよね。うん」
 右手の薬指の指輪は、夕日の光りを受けて、とても綺麗に輝いていた。



【最終幕】


 ニーナのイワシのグラタンとビワのジャムをバスケットに入れて私は家路を急いだ。
 幸運にも途中の道で知り合いの乗る馬車に拾ってもらえて、楽ちんをする事ができた。
 そのおかげもあって私は彼が帰ってくる前に家に帰る事ができて、お布団もしまえて、洗濯物も取り込んで、そうしてイワシのグラタンをテーブルに置いて、パンの用意をして、お庭で咲いていた花を花瓶に生けて、白のテーブルクロスが敷かれたテーブルの真ん中に置いた。
 そこでナイスなタイミングで家のチャイムが鳴って、私はさながらかわいい新婚の奥さんの気分で満面の笑みで彼を出迎えるの。
カルン:「お帰り♪」
 驚く彼の顔を楽しみにしながら♪ 




 ― fin ―



 ++ ライターより ++


 こんにちは、カルン・タラーニさま。
 いつもありがとうございます。
 このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。


 今回はご依頼ありがとうございました。^^
 いただいたプレイングがとてもメルヘンチックで楽しく、カルンさんらしいお話で、とても読んだ瞬間に楽しい気分となりました。^^
 少しでも本当にプレイングに書かれていたお話の雰囲気を上手く表す事ができるようにと心がけたのですがどうでしたか?^^
 少しでもお気に召していただけましたら幸いです。^^
 でも本当に温かな太陽の香りがするお布団、お洗濯物、美味しいお料理に、そして何よりもカルンさんの右手の薬指に輝く指輪に彼氏君はびっくりするでしょうね。^^
 その顔というか、光景を見てみたいと想いました。^^
 カエルたちと一緒に唄を歌っているかわいいカルンさんもそれと同じぐらいに見てみたいですし。本当にすごくかわいい光景なんでしょうね。^^


 それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
 ご依頼、本当にありがとうございました。
 失礼します。