<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
ソーンの夏。マッチョな夏。
□イントロダクション
夏。ほとばしる汗が桃色大胸筋をキラキラと輝かせる、そんな親父愛に満ちあふれた聖筋界ソーンの夏。冥府では夏を満喫すべく大人も子供も霊魂もウキウキるんたった間違いなし、なイベントが企画されていた。しかし、突如そこにテロ予告が舞い込んだ。テロリストなんかに桃色サマーを明け渡すわけにはいかない。冥府と王室は協力し、イベントの一環としてある大会を開催。この大会を隠れ蓑に捜査員を大量動員、テロリストの捕縛に乗り出した。
その大会の名こそ、ソーンラブラブ胸キュンシリーズ番外編・タッグアニキ第12弾★肉体朽ち果てても腹筋乱れ愛筋肉完熟はマッスルマニアの誇り☆伝説の聖筋界アニキサマーフェスバトル筋冥府大会★である。
□控え室にて
大会当日。早々に選手登録を済ませたオーマとルイの元に一人の女性が訪れた。目深にかぶった麦わら帽子を取ると、現れたのは王女エルファリア、その人である。
「オーマさん、ルイさん、前回に引き続きお二人の御協力、心から感謝致しますわ」
そういってエルファリアはにっこりと微笑んだ。先日、冥府で『株式会社・ワル筋おピンク・マッチョメン・キャッスル・キングダム★』をビルごとぶっ潰した功績により二人を今回の大会に推薦したのは彼女である。
「王女様直々のお言葉、身に余る光栄です。……が、お一人でこのようなところにいらっしゃるのは、いささか危険ではありませんか?」
「そうだぜ、どこにワル筋が隠れているかわからねぇからな」
辺りを窺い、二人は人気のない控え室の隅の方に王女を促した。
「お気遣いありがとう。でも、大丈夫ですわ、一人じゃありませんもの」
微笑んだ王女の背後から、ひょこんと小さな人魂が現れた。
「はじめまちて、オーマたま。ルイたま。今回、大会の司会役を仰せつかりまちた司会幽霊でち。それとなーく、お二人のサポートをさせて頂くでち。よろちくでち」
人魂はくるんと回り、ウインクした。
「おう、ヨロシクな」
「それと、早速ですが作戦に変更がありましたの。大会参加者たちを見て、何かお気づきになりませんか?」
「気付いた事? みんなイカしたメラマッチョだ。敵に不足無しだぜ☆」
オーマはぐっとガッツポーズしてみせる。ため息を一つ吐き、ルイは王女に見えないような一でオーマを蹴り付けた。うぐっと小さな声が漏れたが聞こえないふりだ。
「世にも珍しいはずの筋肉バカに似た生き物がごろごろしていますね。脳細胞筋肉化ウイルスがついに浸食を開始したのでなければ、あるいは……」
「ええ、他の大会参加者は全てワル筋親父漢塾とワル筋オカマ紳士組織のメンバーですわ」
「な……! あっちの僧帽筋もそっちの胸鎖乳突筋も全部ワル筋なのか?」
オーマは慌ててあたりを見渡した。ちっとも気が付かなかった。むしろ、マッチョがたくさんでワクワクるんたっただった。
「大会は中止ですか?」
「いえ、冥府の皆さんの楽しみを奪うわけにはいきませんわ。大会は開催致します」
ルイの問いに王女は首を横に振る。
「ですが、テロリスト達に競技参加させるのは危険と判断致しました。
幸い、お二人はエントリー1組目、真っ先に競技を行います。そこで、精一杯のパフォーマンスで観客を楽しませ、かつ、競技が続行不可能になるように大会セットを壊して欲しいのです」
二人は顔を見合わせた。作戦変更は構わないが、大会競技が行われないのでは、肝心の……
「もちろん、お礼という事で、賞金は差し上げますわ」
にっこりと、王女はそこの見えない微笑みを作る。が、しかし、貰える物は貰っておけ。
「おう、俺様の桃色大胸筋とルイの暗黒頭脳にお任せってな!」
オーマはどんと胸を叩いた。
□第一回戦 HIGE悶絶ライブ
会場には、どこぞの山の麓の野外ライブのようなステージセットが組まれていた。
「一体何処から用意したんでしょう?」
舞台袖のルイは眉をひそめる。ステージ上にはマイクにスピーカー、アンプはもちろん、大型のスポットライトにスモーク装置まで完備されている。そしてステージ前には大勢の観客が押すな押すなと詰めかけていた。見たところ、不審なものはない。怪しい動きをしているものも居ない。視線を転じて、舞台袖に控える選手にも、やはり不審な動きはない。
「そんな事より、見ろよ。俺のセクシー愛ボイスを聞きにこんなに観客が来てるぜ」
そして、隣のオーマは『さあ、何を歌おうか』とるんるん発声練習していた。
「騒々しいですよ。そこの可動式騒音公害。せめて緊張感を奪うだけになさい」
台詞とともに、ルイは鋭い一撃を入れた。
「レディース、エーンド、ジェントルメーン! お待たせ致ちまちた、HIGE悶絶ライブここに開幕でち! まずは選手の皆様の登場でち!」
拍手の中、選手がステージ上に姿を現した。先頭はゼッケン1のオーマとルイだ。その後ろには、いずれ劣らぬ筋肉達が続いている。
「そして、皆さまお待ちかね、本日のスペシャルゲストの登場でち! 世紀の歌姫、……」
オーマ達が出てきたのとは反対側の舞台袖に小柄な女性が姿を現した。それは、二人がよく知っている人物だった。ステージが揺れるほどの大歓声がおこり、司会幽霊の声はかき消された。女性は軽やかにマイクの前まで駆けてくる。桜色の髪がひらひらと風に舞う。彼女は観衆に手を振って応え、合間にちらっと目配せをした。
二人とも、私のためにしっかり働きなさいよ?
いつも通りの、女王様めいた微笑みであった。
「一体、どーなってんだよ……」
なぜ、彼女がここに来ているのか。そして、歌うのが彼女なら、選手である自分たちは何をするのか。
答えは次の司会幽霊の台詞で明らかになった。
「今回のライブは王室が発掘ちた、このステージっぽい遺跡を使って行われまちゅ。でちゅが、この遺跡には動力源がありません。そこで……」
ステージの隅にぽっかり穴が開き、二人乗り自転車のようなものがせり上がってきた。
「第一回戦! 選手の皆様にはこの足漕ぎ動力発生装置でステージを動かして頂きますでち! 発電量が多いペアの勝利でち! では一曲目! ソーンより参加のイケメンマッチョ二人組、オーマたまルイたま、お願いしますでち!」
「チクショウ、歌いたかったのに……」
二人乗り自転車型発電機っぽい発掘品の前席につくと、オーマはしょんぼり肩を落とした。顔を上げると、マイクの前にスタンバイした歌姫が『早くしなさいよ』と眉を跳ね上げている。その向こうには、大勢の観衆がワクワクと開演を待ちかまえている。
「仕方ねぇ!やるぞ、ルイ!」
後席のルイに声をかけると、オーマはペダルをこぎ始めた。悔しさをぶつけるように思いっきり踏み込む。ステージの照明がゆっくりと光量を増し、前奏が始まる。やがて、美しい歌声が響きだした。
彼女の歌声はやはり素晴らしかった。ステージの上からは、観衆がうっとりと聞き惚れているのがよく見える。いや、それは、ステージ上のルイも同じだった。
「ル、ルイ……後だから、見えねぇんだけど……ちゃんと、漕いでる……よな?」
消費電力少なめの間奏中、息切れしながらオーマが尋ねる。対照的にルイの声は涼しげだった。足は、ほとんど動いていない。ハンドルの上に頬杖をついて観客に徹していた。
「ええ、もちろん」
ルイは『漕いでいませんよ』の7文字を省略した。しかしオーマはそのことに気が付いていない様子だ。
まあ、発電はこのまま単純バカ筋肉に任せておくとして……問題は王女に頼まれたセットの破壊ですか……
ルイはしばし考えを巡らせた。ステージ上であからさまな破壊活動は避けたい。出来るだけスマートに、かつ労力も小さく押さえたい。
すぐにルイはいい案を思いついた。だが、この案を実行するのは、この歌が終わってからだ。いつの間にか間奏が終わり、再び歌声が響き始めていた。肉体労働はオーマに任せ、ルイは再び歌声に身を任せた。
歌が終わった。観客は余韻に聞き惚れているのか、しんと静まりかえっている。しかしオーマにはそんな余裕もなく、荒い息を吐いて、ペダルの回転数を落とそうとした。比例して照明もゆっくりと暗くなる。
「おや、情けないですね。無駄な筋肉しか取り柄がないくせに、もう音を上げるんですか?」
しかし、背後から届くルイの声は、少しも疲れを感じさせなかった。おかしい。一緒に漕いでいたはずなのに。
「なんだとぅ……! 見よ!俺様の黄金メラ脚力の底力ぁぁあ!!」
再びオーマは歯を食いしばり、力の限りペダルを漕いだ。照明が輝きを取り戻す。
「で、やっとわたくしの出番ですね」
ルイが呟いた次の瞬間、急にペダルが軽くなった。オーマは驚いた。まるで、漕ぎ手が一人増えたかのように、勢いよくペダルが回転する。照明はますます輝きを増した。そして、
バァァァァン!
一斉に小さな爆発を起こすと、あたりは真っ暗になった。
演出だと思ったのだろう。夢から覚めたように、観客から割れんばかりの歓声が巻き起こった。
「……どう、なってんだ?」
「電力が大きすぎて、ライトが爆発したんですよ。これで観客も盛り上がりましたし、セットも壊せましたし、ひとまずは任務完了ですね」
ルイは汗一つかいていない。オーマはどうも納得がいかない。しかし仲間を疑うのはよくない。オーマは一人首をかしげる。疑惑を吹き飛ばすように、司会幽霊が声を張り上げていた。
「セットが壊れてしまったので、第一回戦は中止でち! ミラクルマッチョなオーマたまと、ナイス暗黒頭脳なルイたま、そしてプリチー歌姫たまに、皆さま、盛大な拍手を!でち!」
□第二回戦 筋肉完熟祭り
第二回戦は、盆踊り大太鼓たたき対決である。やぐらの上の大太鼓を叩き、いかに踊り手達をノリノリに踊らせるコトが出来るかを競う……はずだった。
「た、大変でち、オーマたまっ!ルイたまっ!」
目立たないように半透明になった司会幽霊が全速力で控え室に飛んできた。二人は丁度、第二回戦用衣装であるキラキラ・ラメラメ・スパンコールな祭半纏に、一人はウキウキと一人は渋々と着替えていたところだった。
「何事です?」
手を止めて、ルイが尋ねる。
「特製ゴールデン大太鼓が、破壊されてしまったんでち! 皮に穴が開けられてちまいまちた。第二回戦は中止でち……」
「そんな……ワル筋に先を越されたってコトか?」
オーマは驚き、腰に差そうとしていた仕上げの団扇を取り落とした。
「そうでち。第一回戦のスキをついたようでち。見張りは気絶させられて、黒マジックで紳士的八の字ヒゲを描き込まれていたでち。これはワル筋オカマ紳士の犯行声明でち……」
くすん、と司会幽霊が鼻を鳴らす。
ルイはここまでの状況を振り返ってみた。選手の様子には気を払っていた。抜け出すものはいなかった。選手として参加しているテロリストには破壊活動を行う時間はなかったはずだ。
「別行動部隊がいますね。一体何が目的か……大会を潰すことに、どんな意義が……」
「単純だろ。祭りが中止になると清く正しく夏を満喫出来ない。すると有り余るエネルギーがダーク筋肉サイドに走り、ワル筋大増殖。聖筋界のだーいピーンチ★というわけだ」
「な、なんて恐ろちい……」
司会幽霊はがたがたと震え上がった。
「心配すんな! 清く正しい夏マッチョの俺様が、次の三回戦こそサマー親父愛☆で燃えたぎる夏をむふふん満喫させてやる!」
自信満々な笑顔を作り、オーマきらりと白い歯を光らせる。
「よろしくおねがいしますでち!」
「おう! 打倒ワル筋ってな☆」
キラキラと光り輝くオーマの笑顔に、ぐさりとルイが釘を刺した。
「つまり、ワル筋汚染がバカ筋汚染にすり替わるだけ、ですがね」
□第三回戦 腹筋乱れ花火大会
夕暮れの川の土手……っぽいセットが組まれていた。土手の片方には見物客が集まっていた。特等席とおぼしき桟敷には司会幽霊と王女、そして先ほどの歌姫の姿が見える。二人はフルーツ山盛りでなんだかとってもゴージャスなかき氷を食べつつ談笑していた。
そして、その対岸にはいずれ劣らぬマッチョ達が誇らしげに胸を張り、横一列の並んでいた。水面に映るその姿は、勇壮というか、なんというか……インパクトに満ちあふれた光景である。
各ペアの前には黒光りする大きな球形の物体が置かれていた。丁度足元から膝までが隠れるほどの大きさだろうか。球体からは一本の長いロープが伸びていて、ロープのもう一端は地面に杭で止められていた。簡単に言うと、巨大な爆弾が置かれていて、その導火線の端が地面につながれている、といった様子だ。
「では、三回戦、腹筋乱れ花火大会を始めるでち! ルールを説明するでち! 選手の皆様の前に置かれているのは、大会特製めらめら巨大打ち上げ花火でち! 選手の皆様には、自慢の筋力でその花火を投げ上げてもらうでち! 花火が爆発ちても大丈夫な高度まで昇って、地面と花火の間のロープがピーンと張ると、花火が爆発する仕組みでち! ロープの長さは10m、花火の重さは、量ろうとしたら秤が壊れてちまったので分からないけれど、とにかく重いでち! では皆様、頑張ってくださいでち! 始め!!」
選手達は互いに一瞬顔を見合わせると、口元を引き締め花火に手をかけた。重い。二人がかりで持ち上げて、息を合わせて投げ上げるが、せいぜい4mも上がったところで落下に転じてしまう。ペアによっては、身長にすら届かないペアもある。
「10mって、建物3階ぐらいはあるだろ? こんなデカイもん投げ上げられるのか?」
他の選手の失敗っぷりを見て、オーマは首をかしげる。本当は開始の合図と同時に挑戦したかったのだが、ルイに止められたのだ。どうやら彼の計画は当たっていたようだ。がむしゃらに放り投げても上手くいきそうにない。作戦が必要だ。
「勢いよく投げれば地上10mに達する事も可能でしょうが、この重さと大きさでは……」
彼にはもう一つ考慮すべきコトがあった。テロリスト達だ。選手として参加しているものも、別部隊として暗躍しているものも、この最終ラウンドに必ず行動を起こすはず。さて、どう来るか。
花火を地上10mまで投げ上げ、見事爆発させられるものはまだ現れない。ゴトンと花火が地面に落ちる鈍い音、そして観客の残念そうなため息があたりを満たしていた。
ええい、なってない、なってない、全然ちっとも筋肉の使い方がなってない! 折角の光輝くメラマッチョがもったいねぇ! もっと腰を入れろ、足を踏ん張れ、気合いを入れろー!! お前の筋肉が泣いているぞー!!
惨々たる有様に、オーマは地団駄を踏んでいた。競争相手、しかもワル筋テロリストとあっては、まさかココで説教を始めるわけにも行かない。何よりルイが黙っていないだろう。しかし、この選手達のダメ筋っぷりはどうしたものか。完全に祭が暗黒しょんぼりモードではないか。
……まてよ?
はたとオーマは気が付いた。花火大会失敗→残念がっくりモード→夏暗黒化→ワル筋増える→テロリストの思う壺……
「ルイ! もしかして、このダメ筋達はわざと失敗して……」
オーマの台詞は、しかし途中で遮られた。対岸の観客席から、野太い大声が上がったのだ。
「なによ、もーッ! ゼンッゼン、ダメじゃないのォーッ! アタシ、見損なったわァーッ!」
野太い黄色の声の主は、立派な八の字ヒゲを生やしたマッチョな紳士であった。おそらくは……いや、間違いなくワル筋オカマ紳士組織のメンバーだ。それも、一人ではない。呼応するように次々とエグイ黄色の声が上がる。
「そーよそーよッ! カッコワルゥーイ!」
「情けない筋肉ねェ! あんた達のせいで夏が台無しじゃないッ!」
観客を包むがっかりモードが一段と濃くなった。追い打ちをかけるように、選手の側からも大声が上がる。
「そうぜよ! どうせワシらなんて、頑張っても無駄ぜよ!」
「真面目にやるなんて、アホらしいぜよ! やるだけ損ぜよ!」
「素敵マッチョなんてもう、うんざりぜよ! ワシは今日から、ワル筋親父になるぜよ!」
「そうぜよ! ワシらはワル筋親父漢塾に入塾するぜよ! ワル筋万歳ぜよ!」
選手に紛れていたのはワル筋親父漢塾メンバーだったのだ。観客のワル筋オカマ紳士組織のメンバーがそれに応じる。
「じゃぁアタシはワル筋オカマ紳士組織に入るわッ!」
「そうね! イイ筋なんてツマンナイわ! ワル筋バンザイよッ!」
「そうぜよ、ワル筋万歳ぜよ!」
「ワル筋バンザイよッ!」
「ワル筋万歳!」
「ワル筋バンザイ!」
「ワル筋!」
「ワル筋!」
「うるせぇぇぇ! なぁにが『ワル筋バンザイ』だ、目を覚ませ!!」
一声吠えるとオーマは巨大花火を持ち上げた。一人で抱えるには重すぎる。しかし、そんな事では怒りに燃えるオーマを止められなかった。
「受け取れ、俺の親父愛ぃぃぃぃっ!!!!」
気迫とともにオーマは花火を放り投げた。黒い球体はぐんぐんと空に昇っていく。するするとロープが伸びていく。すでに球体は遠く小さくなっていた。このまま、ロープがピンと張ったら花火は弾ける。
想いは届くか、花火は咲くか……
皆が固唾を呑んだそのとき、急にロープの速度が遅くなった。頂点に達したのだ。足元にはまだロープが一巻き残っている。
やはり、ダメだったか……
球体はやがて落下に転じ、またごとりと悲しい音を立てるだろう。いくつものため息が漏れた。
しかし、たった一人、この策士だけが不適な笑みを浮かべていた。
「まあ、バカ筋にしては上出来ですかね?」
ルイはさっと天から垂れたロープに手を伸ばした。そして、勢いよくそれを引っ張った。
ぶら下がったロープの一端を引けばどうなるか。当然、ロープはピンと張り……
どおん、という音が大気を震わせた。大輪の火の花が夜に咲く。それは空を見上げる人々の顔を明るく照らし出した。イイ筋もワル筋もどちらでもない人も、皆その瞳に希望の輝きを映していた。
「な、やるだけ無駄なんてコトはねぇんだよ」
「場合によっては、策略も必要ですがね」
あとはただ、パラパラと火の粉の降る音だけがあたりを満たしていた。
□後日談。
「で?」
美貌の夫人はほんのちょっと顔を引きつらせて、夫の話の続きを促した。ルイは、お茶を入れてきましょうと言ったきり、帰ってこない。
「で……、ワル筋達もすっかり改心して、そのあと『マッチョ・親父・腹黒・アニキ・策士・愛・筋肉』コールになって……」
「なって?」
「なって……」
言葉を区切り、オーマはがばっと頭を下げた。おでこがテーブルにくっついている。
「すまん! 気分がよくなってすっかり賞金受け取るの忘れて帰ってきちまった!」
「……そうだねえ。どうしてくれようかねえ……」
「すまん! 勘弁! 許して! 例え徒労に帰すともこの世に無駄な事など無く……」
「おだまりっ! そうだね、まずは……」
改心したワル筋達が、賞金の金貨3袋(ただし冥府専用通貨)と、副賞のソーン夏セット(張り直した特製ゴールデン大太鼓、キラキラ・ラメラメ・スパンコール祭半纏、特製花火の3点)を、リヤカーに積んでお届けに現れるのは、これから1時間程後の事でしたとさ。
【了・皆さんよい夏を。】
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