<PCクエストノベル(2人)>


「傷と蜥蜴とルーン文字 〜 ルクエンドの地下水脈にて 〜」

【冒険者一覧】

【1800 / シルヴァ / 傭兵】
【2315 / クレシュ・ラダ / 医者】


■ プロローグ
シルヴァ:「危ねぇっ!!」
 そう言って依頼人の前に飛び出たシルヴァ。
 周りは突然沸いて出た蜥蜴人間達に囲まれていた。あと少しで護衛の仕事が終わるというのに……なんて間の悪い。そんな事を思っていると依頼人の方にいつの間にか剣を構えた蜥蜴人間が一人近づいていたのだ。
 慌てて飛び出て……なんとか依頼人は守ったものの。
シルヴァ:「ちっ……少しかすっちまったか」
 自分までは完全に逃げ切れず腕に一撃喰らってしまった。すぐにカウンターで敵にやり返したが傷をつけたヤツは既に逃げてしまっていた。
シルヴァ:「ったく、弱いヤツ等がわらわら来てんじゃねーよ!」
 逃げ帰る蜥蜴人間軍団に悪態をつく。でも依頼人はちゃんと守ったし、目的の場所もすぐそこだ。シルヴァは受けた傷に軽く止血をすると先へ進んだのだった ―――


■ 本編
クレシュ:「で?一体このワタシに何の用かな?」
 不適に笑う緑の瞳、さらりと揺れる綺麗な銀髪。彼の名前はクレシュ・ラダと言った。
 職業は一応医者で ――― なんと自分でも藪医者と言っている ――― シルヴァの友人である。
 さて何故シルヴァがこんな所を訪ねたのかと言うと……。
クレシュ:「ふむ……かなりの勢いでドバドバ流れてるね、血」
シルヴァ:「関心してんじゃねーよ!……っ、ヤベ血流しすぎて貧血なりそ……」
クレシュ:「おぉ、それはいけないね。仕方ない治療してあげるから、どうしてこうなったのか話してくれるだろうね?」
 取られた腕は真っ赤に染まっていた。実は護衛の最中に受けた傷のせいなのだ。実際にはかすり傷程度なのに何故か血が止まらない。いくら止血を施しても効かないし、自分一人じゃ治療出来そうになかったので仕方なくこの“藪”医者の所へ来た、という訳である。
シルヴァ:「……ってなワケなんだよ。毒とかでも無さそうだしさ、アンタなら無駄に危ねぇ薬とか知ってっし、どうにかなるかなーなんて」
 周りについていた血を除くと確かに傷自体はただのかすり傷だった。クレシュは次から次へと溢れ出る血を拭い取りながら言った。
クレシュ:「確かに毒とかそういう類では無さそうだけどね。それに体には特に害無さそうだよ?――― もうこれはシルヴァ君の日頃の行いが悪いとしか……い、イエ、ナンデモナイデス」
シルヴァ:「冗談は真面目にやめろ。あー、そういやこの傷つけたヤツの剣、なんか剣身にルーン文字が刻まれてたような気がする」
 そう、思い出してみると確かにそうだ。そして同時に悪態をつく。
シルヴァ:(あンのクソ蜥蜴野郎がァ!!)
クレシュ:「ルーン文字?そういやさっき蜥蜴人間だとか言ってたね。うーんなんだか古代的な香りだねぇ。……そういうのだったらワタシの薬でもいいかな?あ、ちなみにね即効性のは十年物なんだけど ――― あ、ヤだなぁ、冗談だって!」
 すごい眼力で睨み付けてくるシルヴァを宥めながらクレシュは続けた。
クレシュ:「まぁ、とりあえずワタシの“普通”の薬で治療はしておくよ。でも……それじゃキミの腹の虫は治まらないでしょ?」
 シルヴァは深く頷いた。
クレシュ:「ヨシ、それじゃさ。この傷と蜥蜴とルーン文字の謎を追ってに冒険でも出ようか?ホラ、ワタシもその
蜥蜴人間とか少し興味があるからね」
シルヴァ:「あんたと冒険?……ま、いっか暇だし。それに早いトコこの傷どーにかしてぇしな」
クレシュ:「そうと決まったら早速準備をしなくちゃいけないね!」
 クレシュは不適な笑みを浮かべながら、荷物の整理を始めたようだ。シルヴァは深いため息をついて言った。
シルヴァ:「……んじゃ俺は情報屋に行ってちょっと聞いてくるな」
 荷物整理に精を出すクレシュを他所に、シルヴァはその場を後にした。

 そして情報屋に聞いた結果、ルクエンドの地下水脈に入っていった蜥蜴人間達を見たという目撃証言を手に入れた。
 ルクエンドの地下水脈は周囲を河に囲まれた森ばかりの島に有り、入り口は無数にあるが出口は不明なものが多い……という少し ――― いや、かなり? ――― 危険な場所である。
 さて、そんなルクエンドの地下水脈に蜥蜴人間が入っていったと聞いた二人は ―――
クレシュ:「じめじめジトジト……こういう雰囲気は何とも嫌な感じだね……」
シルヴァ:「ぐだぐだ言ってないでちゃきちゃき進め!ちんたらやってると蜥蜴人間野郎が逃げちまうかもしんねぇぞ!!!」
 既に中に入っていたようだ。
 辺りに警戒しながら慎重に進む。確かにクレシュの言ったように“じめジト”だし、嫌ぁな雰囲気の所である。しかし今は蜥蜴人間達を追いかけている最中なのだ。ぐちぐち言っていられないのである。
シルヴァ:「ホントにこの道であってんのか少し不安だな。――― 情報屋で聞いた蜥蜴人間達の人数もなんかちょっと違うみてぇだし」
 小さな声で呟くシルヴァにクレシュは声をかける。
クレシュ:「当たりか外れかは確かめようがないでしょ。そこはソレ、シルヴァ君のドラゴン的感を信じるしかないのさ!……それはそうと、ワタシの薬効いてるみたいだね?」
シルヴァ:「あ、あぁ。その……散々言って悪かった。あ、でも調子に乗んじゃねぇぞ?」
クレシュ:「はいはい、わかってますとも。――― っと、シルヴァ君アレ!!」
 クレシュの指差した方を見ると角の向こうに微かだが人工的な光が見えた。
シルヴァ:「ヤツ等か?!」
クレシュ:「ちょっ、シルヴァ君!?」
 光を確認すると同時に飛び出したシルヴァ。背中の大剣を抜き、完全に戦闘態勢で突っ込んでいった。追うクレシュも「仕方ないなぁ」等と言いながらも自分も走り出した。

シルヴァ:「お前等っ、待ちやがれ!!」
 角を曲がった先は少し開けた場所で、そこには十数人の蜥蜴人間がいた。シルヴァは大剣をビシッと突きつけて叫ぶ。
シルヴァ:「この中にルーン文字が刻まれた剣を持ったヤツがいるだろ!ソイツを出せ!そしたらお前等の命は助けてやる……!」
クレシュ:「シルヴァ君、それじゃワタシ達が“悪”みたいだよ……」
 クレシュが小声でツッコミを入れる。確かにこれではかなりの“悪”だ。相変わらず血が止まらない所を見ると、血が足りなさ過ぎて頭の回転が悪くなっているのかもしれない。
 そしてそんなシルヴァに大剣を突きつけられた蜥蜴人間達は。
 チャキッ
 ワケもわからず剣を振り回すシルヴァを敵と見なしたようだ。リーダー格らしい蜥蜴人間が合図を送ると一斉に剣を構えて二人の方へと向かってきた。
シルヴァ:「けっ、話して通じるような相手じゃないか!よし、来やがれ!!」
クレシュ:「いや、それはシルヴァ君が悪いと思うんだけど……まぁ、いいか」
 シルヴァは大剣を構えて蜥蜴人間を迎え撃つ。
 一度に相手を出来るのはせいぜい二人。前後左右から繰り出される刃を掻い潜りながら大剣を振り回す。それは相手に止められる事もあれば蜥蜴人間の体に喰い込む事もあった。
 そしてクレシュもまた自前のメスを使って戦っていた。……白衣の人間がメスを使ってモンスターと戦う。なんとも患者さんにはショックな映像かもしれないが、まぁ、人間慣れている物が一番なのかもしれない。
クレシュ:「あぁっ、なんだかコイツらやたらと硬くて嫌だね!ワタシの愛用のメスが刃こぼれしてしまいそうだ!」
シルヴァ:「なら使ってんじゃねーよ!あんたなら他の事だって出来っだろうが!」
 蜥蜴人間と戦いながらもツッコむシルヴァ。そう言われてクレシュは「それもそうだ」と踵を返して隅へと逃げる。
 そして白衣の内ポケットをごそごそと探った。
クレシュ:「ふっふっふ、こんな事もあろうかと作っておいた小型爆弾10個詰め!役に立つ時が来るとは感激だね!」
 そう、取り出したのは小型爆弾だった。形はピンを抜くと爆発する手榴弾型。
シルヴァ:「って、なんであんたそんなモン作ってんだ!!?」
 未だに二人の蜥蜴人間を相手に戦っているシルヴァが疑問の声を上げる。――― 何故二人しかいないのかと言うと、下手にそれ以上の人数でかかると相打ちになる可能性があるからだろう。
 そして今、残っていた十数人の中からクレシュの方へ五人の蜥蜴人間達が走ってきていた。 
クレシュ:「うわっ、来た!!」
 向かってくる蜥蜴人間達から逃げるクレシュ。しかし最初から隅の方にいたのだ。すぐに退路が絶たれてしまった。
クレシュ:「……もうメスをキミ達に使いたくないんだってば!刃こぼれするから!わかる?!」
シルヴァ:「わかるか!ていうかあんた早く逃げろよ!!」
 退路を絶たれて尚、得物を使おうとしないクレシュ。だがシルヴァはそちらへ向かおうとはしなかった。何故なら知っていたからである。彼には魔法がある事を。
クレシュ:「はいはい、わかってるよシルヴァ君。――― 飛翔っ!!」
 ふわりっ
 クレシュの体が浮き上がった。そう、飛行魔法である。
クレシュ:「ふっふっふ、どうだ届かないだろう!」
 蜥蜴人間達が剣を伸ばしてやっと届く範囲の“少し上”を漂うクレシュ。彼は下で剣を振り回す友人の方に向かって飛びながら、内ポケットから小型爆弾を取り出した。
クレシュ:「シルヴァ君!爆弾投げるから少し衝撃あるかもしれないけど、なんとかしてね!?」
シルヴァ:「なっ?!? ……っ、了解!」
 相手をしていた二人の蜥蜴人間の攻撃をかわして、クレシュから少しでも遠ざかる。
 そして ―――

 ボンッ

 派手な音を立てて手榴弾が爆発した。威力は絶大なようだ。
 爆発の周囲にいたヤツ等はピクピクと痙攣をしながら床に突っ伏していた。
クレシュ:「それじゃもいっちょ!」
 ボンッ
 リーダー格の蜥蜴人間達がいた方にもすかさず投げつける。――― ちなみにシルヴァが相手をしていた二人もこの爆発に巻き込まれたようだ。
 そして……
シルヴァ:「ク、クレシュあんたなぁ!!いくらなんでも俺のいる近くに投げすぎなんだよ!!」
 どうやら先ほどの爆発、シルヴァもしっかり巻き込まれていたらしい。
クレシュ:「え゛?い、いやぁ……」
 冷や汗をかくクレシュ。しかしその声はすぐに緊迫した物に変わった。
クレシュ:「シルヴァ君、後ろ!!」
 流石はリーダーとでも言うのだろうか。先ほどの爆発で他の蜥蜴人間は皆床に倒れているのに、リーダー格の蜥蜴人間だけは剣を構えていて、シルヴァの方へ向かって来ていたのだ。
シルヴァ:「させるかぁっ!!」
 大剣を目の前に構えて敵を迎え撃つ。そしてそれだけではなく、
シルヴァ:「炎の剣っ!!」
 その刃を炎の剣に変える魔法をかけ ――― 向かってくる敵に斬りつける。

 ザシュッッ
      バタッ

 炎の剣とシルヴァの剣技を前に、蜥蜴人間は声も上げずに倒れたのだった。

■ エピローグ

シルヴァ:「さて、と。コイツ等には話は通じないだろうし。片っ端から剣を調べていくか」
 数十人の蜥蜴人間を全て床に倒した後、シルヴァは大剣を背中に戻してそう言った。クレシュも既に降りてきていて、隣で頷いていた。
クレシュ:「あぁ、そうするのが良いだろうね。となればさっさとやってしまおうか!」
シルヴァ:「おう!」

 そして数分後。

シルヴァ:「――― 無い」
クレシュ:「うん、無いね」
 そう……シルヴァの腕に傷をつけたルーン文字が入った剣を持っているヤツは、いなかったのだ。つまりは“間違えた”。
シルヴァ:「マジかよ」
クレシュ:「……“マジ”のようだね」
 傷自体は痛くないが剣を振り回したりしたせいか、出血も酷くなったようだし。悪いこと尽くめだ、とシルヴァは深いため息をついた。
クレシュ:「仕方ないさ。とりあえずはワタシの薬でなんとかしよう。出血の度合いを遅くする事くらいは出来るハズだよ」
シルヴァ:「あぁ……悪ぃ、頼む」
 何とも疲れた声で、シルヴァはそう返した。

 ルーン文字の刻まれた剣は、それを持った蜥蜴人間はどこに行ってしまったのだろうか。
 シルヴァの腕の傷が完全に治癒するには ――― まだまだ遠い。


< END >