<PCクエストノベル(1人)>


龍人の村〜真実の記者〜

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【冒険者一覧】
*2623/廣禾・友巳 /編集者*

【助力探求者】
なし

【その他登場人物】
:男:
:テス:
:龍人:
:長老:

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 〜序〜
男:伝説の村だぞ。
友巳:大丈夫。大体分かったから、後は歩いて探します。お話し、有難う御座いました。
友巳は取材協力者の男にぺこりとお辞儀した。
男:大した執念だ。
呆れ顔の男に微笑んで返す。翻した背に、気を付けろよと声が届いた。

 〜@〜
 友巳:暑いなぁ
友巳は、拭っても落ちてくる汗に顔を顰めた。
 山間の森の中はとにかく酷く荒れた獣道で、山を越えた時の三倍は体力を削られていた。あの男が言う通り、この森に入ってすぐ方位磁石が使い物にならなくなった。せめて太陽の位置を確認しようと空を仰いだが、鬱蒼と茂った枝葉で光も殆ど遮られている。だけど…これまで幾つもの場所を取材した編集者の勘が、先程から騒いでいる。
友巳:近いね。
棒になりかけている足を励まして、友巳は更に森の奥へ歩き出した。

 〜A〜
 目の前に広がった風景に目が覚めるようだった。
遥か上から轟々と音を立てて流れ落ちる水。思わず飛沫に向かって手を伸ばし、歩み寄った。霧のような飛沫が体に纏わり付いて、火照った肌に心地良い。
?:何してるんだ?
友巳:へ?あっ、きゃあ!
突然聞こえた声に振り返ろうとして足が滑った。
ドシン!友巳は尻餅を付いてしまった。視界の隅で少年が首を竦めたのが見えた。
友巳:イタタタ
怪我を免れたのは日頃の鍛錬の賜物と胸を張るべきか。しかし、あちこち泥だらけだ。
?:だ、大丈夫かよ。
友巳:大丈夫に見える?
少し意地悪く言ってみる。少年は早口で返した。
?:転ぶとは思わなかったんだ。
友巳:私も思わなかったわ。
立ち上がりながら掌の泥を擦り落とす。顔を上げると、少年が生意気そうな口調とは正反対の不安そうな顔で友巳を窺っていた。見た目は七・八歳か。
友巳:ぷっ
?:なんだよ
友巳:なんでもないよ。ほら、泥も落ちたし。
まさか可愛いと思ったとは言えなくて、誤魔化しながら手招きする。少年は友巳の内心を見透かしたようにムッとした顔で近付いて来た。日に焼けた褐色の肌。ニョッキリと伸びた細い手足。色素の薄い髪がさらさら風に揺れた。なかなか綺麗な顔立ちだ。ふと、目が合った。少年の瞳孔は細く、縦に長い。
友巳:キミ…龍人?
?:人間!?
少年が後ろに跳び退いて友巳を睨み付けた。
?:帰れ!
友巳:え、ちょっと…あっ、待ってよ!
走り出した少年を友巳は慌てて追い掛ける。
 森がどんどん開けて、やがて川が現れた。木立がまばらになって地面は土肌の茶色が多くなる。友巳は息を切らせながら立ち止まった。少年は見失ったが、いつの間にか龍人の村に辿り着いていた。

 〜B〜
 友巳:ですから、私は取材に来たんです。
友巳は緊張で身体中強張っていたが、努めて冷静に言った。
 遡る事三十分。友巳は村の入り口らしき場所に足を踏み入れた途端、数人の男に囲まれてやたら広い部屋に連行された。ただ引っ立てるようにして連れて来た男達の態度には腹が立っていたが、今は分かって貰えるように話すのが先だった。友巳はしっかりと正面の老人を見続けていた。
友巳:武器も何も持っていません。さっき後ろの方に調べられましたけれど、もし不安ならばここで再度調べて頂いて構いません。
重そうなほど長い眉の下から見える老人の細い瞳孔が突き刺さる度、言葉にならない恐怖感が背筋を這い上がって、友巳は何度も逃げたくなった。けれど、体格の良い男達に囲まれていてはそれも無理な話だ。
男:どうしますか、長老。確かに武器は持っていないようですが…
友巳:ですから、私は取材に来たんです!
右に居る男が、頭ひとつ高い所から冷ややかな視線を送る。
男:お前が権力や金目当てのスパイじゃないって、どうして言い切れる。
カッと頭に血が上った。
友巳:力なんか欲しくないわ。私が求めているのは真実だけよ!
男達が呆気に取られた目で友巳を見ている。思わず立ち上がって怒鳴ってしまった事に気付いた。と、突然部屋の中に朗々とした笑い声が轟いた。振り向けば、老人が大きな口を開けて笑っていた。
長老:はっはっは。小さき娘よ、その意気や好し。
友巳は顔から火が出るかと思った。老人は再び眉を上げて友巳を見ていたが、その視線にはもう突き刺さるような鋭さはなかった。
長老:気に入った。
男:長老!
老人は男の抗議を流して、友巳に座るよう手で合図した。
長老:して、娘よ。そなたはわし等の生活を知る代わりに何を差し出すつもりかな?
友巳:いいえ、何も。
座り直した友巳は真っ直ぐ背筋を伸ばす。
友巳:外から持ち込まれる物が村を変えてしまうかもしれないですから、何も持っておりません。これが私の誠実の証です。
長老:成る程のぅ…益々気に入った。
男:長老!!
長老:騒ぐでない。
男はまだ何か言いたそうに口をもごもごさせたが、老人が許さなかった。
長老:済まぬな。今日はわし等にとって重要な日で、こやつ等もいつも以上にぴりぴりしておる。許せな。
友巳は首を横に振った。
友巳:気にしていません。それより、その重要な日とは…
長老:夕刻、広場に来れば良い。
友巳の好奇心が疼く。しかし、老人はそれ以上言うつもりはないようだった。
長老:さて、案内役は歳の近い者が良いか…娘よ幾つだ?
友巳:二十八です。
老人の目が今までにないくらい大きく開かれた。
長老:そうか…そうじゃったか。すっかり忘れとったわ。誰か、テスを呼んで来い。
友巳は立ち上がった男をきょとんと見送る。程なく後ろの扉が開いた。
テス:何だよ、じいちゃん…!?!
友巳:あ―っ!!
そこに立っていたのは、滝の前で会った少年だった。
長老:紹介しよう。曾々々孫のテス。そなたと同じ二十八歳じゃ。
友巳:えぇっ!?
信じられずにテスをまじまじと見た友巳の反応がすっかり予想通りとばかりに、老人はにやりと笑った。
長老:わし等の寿命は二千歳を超す。成長速度は人間より遥かに遅いのじゃよ。

 〜C〜
 田畑を巡り、家畜小屋へ行き、釣り人に会い、機を織らせて貰って、友巳は龍人達が自分達人間と殆ど違わない生活を送っている事を知った。違うのはここが山間の森の中だというだけ。
友巳は、龍人達の話を聞いていくうちにふと思った。
友巳:ここの人達は、便利さよりも長閑な暮らしを求めているんだね。
しぶしぶ案内役を務めているテスは、仏頂面ですたすた歩いていく。これでちゃんと案内はしてくれるんだから、可愛いものだ。
友巳:命の持ち時間が長いからかな。
言ってみて、なかなか巧い言い回しに思えた。しっかりと頭のノートにメモする。ふいに質問が浮かんだ。
友巳:ねぇ、テスは人間のどこが怖い?
テス:怖いもんか!
友巳:本当?
テスは肩をいからせて振り返った。
テス:人間の方が怖がってる!龍はでかくて強いから。だから色んな武器でおれ達をやっつけに来て、言いなりにさせようとする。ただの汚い悪党じゃないか!そんなの怖いもんか!
眉間にぎゅっと皺を寄せて、テスが捲くし立てる。友巳はゆっくり目を閉じた。
友巳:成る程ね。悪人ばかりでもないけど、善人ばかりとも言えない…見分けるのは難しいよね。
テス:…反論しないのかよ。
漸く最初の歓迎され方に納得がいった。種族、民族間の摩擦はソーンに来る前の世界でもよく問題視されていた話だ。だから、テス…龍人の気持ちも何となく理解できる。
友巳:だけどさ、やっぱりイイトコロってどこかにあると思うんだよね。テス、お互いの違いを埋めるのは大変な事だけど、善い部分を見つけたら、否定せずに認めて欲しいって思うよ。
色素の薄い髪が、さらさら風に揺れた。真っ直ぐぶつかっていた視線が急に逸らされる。
テス:説教すんな。
回れ右して歩き出した背中を追い掛ける。ちらりと見えたテスの耳は真っ赤だった。

 〜D〜
 獣の咆哮が聞こえてきた。友巳は足を止めて耳を澄ます。
テス:時間だぞ、早く!
いきなり手首を摑まれて、友巳は危うく転びそうになった。文句を言おうとして顔を上げた瞬間、別の言葉が零れた。
友巳:テス、大きくなった?
返答のないまま、ぐいぐい引っ張られる。家と家の間を抜けて、角を折れて、ふいにぱっと視界が開けた。広場だった。いつの間にか辺りは仄暗く翳り始めている。集まった大勢の龍人達は空を見上げていた。続々とやって来る龍人も皆空を見上げている。
長老:仲良くなったようじゃな。
ふいに掛けられた声に振り返ると長老は口元を愉しそうに緩めている。テスが慌てて友巳の手を離した。テスを少し見上げて、やっぱりと友巳は確信した。テスは大きくなっている。
長老:今日は月に感謝を捧げる日でな、みな龍の姿に戻るのじゃよ。本来なら部外者には退出願うところじゃが、娘ならば許そう。しかと観て行けよ。
村人:月が昇る!
その声と同時に、一斉に腕を空に伸ばした。龍人達が静かに深く呼吸する。金色の輝きが広場に降り注ぐと共に、村人達の体が膨張していく。そして信じられないような速度で巨大化し、鼻が前に突き出し、肌が鱗で覆われ、盛り上がった背に翼が生え……龍になった。友巳は思わずガッツポーズをしていた。空想でしか存在しなかった龍が、今、目の前に居る。
友巳:ソーンに来て良かった!!
テスが居た方を見る。白い…いや、銀の鱗に覆われた龍が友巳を見ていた。ブルーオニキスのような瞳の中に、友巳が居る。美しさのあまり、思わず息を呑む。ゆっくりと手を伸ばした。
友巳:テス、カッコイイよ。
テスは少し照れくさそうに鼻面を振ると、友巳の方に頭を寄せた。

 〜E〜
友巳は鉛筆を指の間で玩びながら、半分ほど埋まった紙から顔を上げた。『森の中で出会った少年を追い掛けて行くと、そこは龍人の村だった―』記事の書き出しはこんな風である。
ふと目を閉じる。瞼の裏には、まだテスが居る。月の光を思い浮かべれば、彼は素敵な龍になる。銀の鱗を思い出す度、友巳の心は高鳴った。

                             了

※ライター通信※
 初めまして。友巳さんの物語、楽しんで書かせて頂きました。
気に入って頂ければ幸いです。有難う御座いました。
               :鈴拝