<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>
夏の豆まきバトル!
「豆まきしましょう!」
始まりはルディアのこの一言だった。
「なんかね、豆まきって言って豆を使った祭みたいなのがどこかにあるんだって。……詳しい事は私も判らないんだけど、『鬼』と『人』に分かれて豆を投げ合うみたい。勝った方が良いことあるんだって!」
時期も違うし言い伝えも微妙に違うが、そこはソレ。楽しめれば良いのである。
そんな訳で緊急豆まき大会が開かれる事になった。
「やっぱり、景品とかあった方がいいよね?」
ニコニコと楽しそうな笑みを浮かべて、ルディアは言った。
……普通の豆まきと違うので、鬼組と人組に分かれないといけないだろう。っつか、豆まきで怪我人なんか出ないといいね。ルディアの笑顔を見て、そう思う昼下がりの白山羊亭なのである。
●組み分け
「まずは組み分けやんな!」
元気にやる気満々に集まった面子を見渡し、一之瀬 麦が言うとファン・ゾーモンセンが可愛らしく精一杯大きく手を伸ばす。
「はいはい!ボク、人組がいいな〜」
「俺は鬼組。外観からして、合ってるだろ?」
にやりと笑みを浮かべたオーマ・シュヴァルツ。その格好は何をどう解釈し間違えたのか、頭にはとてもキュートで可愛らしい猫耳ヘアバンド。そして虎模様のふりふりエプロン&その長身を更に越える、どピンクのハート模様満載な金棒を装備していたりする。
そんなオーマを好奇の目で見る、ニアル・T・ホープティー。
「あたしも鬼組がいいんですけど〜人が少ない方でいいです」
鬼組に興味を示しつつもそう言ったニアル。
「うちは人組でいこか」
「残りは俺とケイシスか。当然、俺が人組でケイシスが鬼組だな」
「ちょっと待て。勝手に決めんな!」
さも当然といった風に自分とケイシスの組を決めたシグルマに待ったをかけるケイシス・パール。
「何言ってやがる。お前ほど鬼組の似合う奴がどこにいるよ」
笑いながら言ったシグルマに集まった面子も心の中で確かに、と頷く。まぁ、ただ単純に角が生えている容姿のせいなのだが、一人ケイシスはブツブツ人組が良かった、とか呟いている。
「いい感じで組分け出来たみたいですね。じゃ、豆持ってきますね!」
豆を取りに裏へ引っ込んだルディア。人組と鬼組は向かい合い、対決の火花を散らした……!
●バトル
戦場は天使の広場。人々の往来や楽しく語らう街人たちの憩いの場。
ファン・麦・シグルマの人組、ニアル・オーマ・ケイシスの鬼組に分かれ対峙し、それぞれ手には持てるだけ豆を持ち、これから行われるはた迷惑な事この上ないであろう六人+実況一人に周りの視線が集まる。
「さぁ、今決戦の火蓋が切って落とされようとしております!実況は私、ルディア・カナーズがお送りします」
ウェイトレスの仕事はどうした、ルディア?
「今は休憩時間ですから大丈夫です!」
「誰に言ってるんだ?」
苦笑を浮かべてツッコんでみるケイシス。
こほん、と咳払い一つしてルディアはどこに対してやってるのか分からない実況を続ける。
「さて、人組と鬼組。どちらが勝利するのでしょうか!?」
「ちょっと質問いいですかー?」
軽く手を挙げ、ニアルは小さく首を傾けた。
「豆まきってどういうルールなんですか?」
「………………」
ニアルの質問に黙るルディア。
「おいおいおいおい。今回のバトルは人も鬼も全て親父愛に染め、秘密の煩悩親父愛スピリッツを豆にこめこめマッスルフォーユーバトルだろ?」
「なんでやねん!んな訳ないやろ。そもそも豆まきゆーのはな、鬼を払う行事やねん。勝ち負けは関係ないんやで」
と、本家本元出身者の麦が言った。
「でも、まぁアレや!人と鬼は永遠のライバル。仁義無き戦いっっちゅーし、燃えるやん」
本家本元、勝負にかなりやる気である。
「ルールは簡単に先に降参した方が負けでいいんじゃねーか?」
シグルマの提案にルディアは得たり、と顔を輝かせる。
「それです!最後の一人になるまで戦い抜くのです!!」
当初の話と微妙に違ってきているが、まぁそこは置いといて。ルディア高々と右腕を振り上げた。
「れでぃ〜ファイト!」
ルディアの右腕が振り下ろされた。
「先手ひっしょーですっ!」
真っ先に動いたのは意外にもニアルだった。少し様子見ながら、と思っていた者達は面食らいつつもすぐに動く。
ニアルが右手に握っていた豆全部を人組に投げる。
「きゃ〜〜♪」
きゃーきゃー楽しそうな声を上げながら逃げるファン。麦とシグルマは腕で顔をガードし、豆を防ぐと鬼組を見た。
「やったな〜これでも喰らえや!」
と、麦が狙うは野郎。何故か豆を投げずオーマとケイシスに向かって走り出す。
「お。一人突撃してくるぜ。これは俺の親父愛スピリッツ豆が欲しいんだな」
「いや、ただ単に攻撃しに来るだけだと思うぜ……っいて!」
自分たちに向かって走ってくる麦を見ていたケイシスだが、頭にパチンと何かが当たり、何かが当たった方を向く。そこにはニヤリと悪戯小僧のような笑みを浮かべるシグルマが全部で4本ある腕のうち2本の手の中にそれぞれ一粒ずつ豆を持ち、また一粒ケイシスの額へ当てる。
「いてっ…………」
パチッ……パチッ……
乾いた音を立て、腕に頬にと遠慮なしに、しかも地味に攻撃されふるふると怒りに体を震わせたケイシスはぐわっと顔を上げるなりシグルマへ駆け出した。
「てめぇ〜シグルマ!いてぇーんだよ!!」
「はははは!」
ケイシスをからかう様に走り出したシグルマと力一杯シグルマに豆を投げつけるケイシスの追いかけっこが始まる。
「どりゃー!」
雄叫び一つ。オーマに飛び掛るように腕を振りかぶる麦とそれを迎え撃つ姿勢をとったオーマ。二つの影が交差する。
互いを背に動きを止める麦とオーマ。緊迫した空気が流れ、そして……
「な、な、なんじゃこりゃー!!」
絶叫する麦の姿はオーマと同じ猫耳ヘアバンドに虎模様ふりふりエプロン。更にオマケでどピンクハート模様のメイド服付きに、オーマの投げた豆に込められた説明不能な力で変えられてしまった。
「いやー可憐な乙女のなまなまラブリーな姿に俺もドキムネきゅんきゅんだぜ☆」
「キモイ事ゆーてんなやー!!」
麦の怒りのローキックが見事オーマの左ふくらはぎに決まるが、ぐらりとも動かない長身にうっ……と麦は固まる。そんな彼女をにやにやと見下ろすオーマ。見下ろされ段々麦の負けん気の強さが出てき始めた。
「えぇ度胸やないか。やったるでー!!」
こちらは、本当のバトルと化しつつある。
「わ〜い。えーい!」
「あ、やったな〜えい、えい!」
きゃっきゃっとファンとニアルは子供らしく元気で可愛らしい豆の投げ合いに、見ている者達の心を和ませる。
しかし、豆の残数など全く考えない投げ合いはすぐに終わりを迎えてしまった。
「あら。豆がもうないです」
「ボクも……あ、あそこで売ってるよ」
と、ファンが指差した先にはひとつの屋台。確かに豆らしきものが売ってはいるが……とりあえず、屋台の前へと移動するファンとニアル。
「わっ……ねぇ、これはちょっと、違うんじゃないかな?」
「でも、豆だよ。なんか……ちょっと臭くてネバネバしてるけど……」
屋台の前でこそこそ話し合う二人。
「……あ、でもこれなら皆を降参できると思いませんか?」
「あ!そっか〜そしたらボクたちの勝ちだね♪」
「うんっ♪」
にんまり微笑みあう二人はくるーりと今だ戦う二組を振り返った。
「えーっと……」
目の前で起こっている豆まきとは関係なくなって来た二つのバトルに実況のルディアはどうしたものかと遠くを見つめる。
そこへ……
『せ〜のっ!』
掛け声揃えて投げたニアルとファン。何故か放物線を描き糸を引きながら、バトルしている4人と実況へ降りかかる豆。
べちょ。ぬちょねちょ。
ねばねばと糸を引き、独特のにおいを放つ豆。その名は納豆。
『な、な、なんじゃこりゃー!!』
叫ぶ5人にどんどん容赦なくかつ楽しそうに納豆を投げ続けるオチビさん二人。
「なんで私まで〜?!」
頭からねちょねちょ納豆に泣くルディア。
「ま……ちょ、マテ!?」
「あ。もしかして降参?」
「降参しないともっとも〜っとネバネバですよ♪」
両手に箱入り納豆を持ち、じりじり詰め寄るニアルとファンに4人+実況は冷や汗を流し……
『……降参です』
季節外れでルール無用な豆まきバトルは一人の少年と一人の少女の勝利となった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 / 種族名】
【0673/ファン・ゾーモンセン/男/9歳/ガキんちょ/ヒューマン】
【0812/シグルマ/男/29歳/戦士/多腕族】
【1217/ケイシス・パール/男/18歳/退魔師見習い/半鬼】
【1869/一之瀬 麦/女/17歳/無鉄砲喧嘩師(本業:学生)/霊長類ヒト科、日本種】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/男/39歳/
医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り/詳細不明(腹黒イロモノ内臓中)】
【2887/ニアル・T・ホープティー/女/10歳/異世界技術者/人間】
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