<PCクエストノベル(1人)>


流れ着いた先

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】

【助力探求者】
なし

【その他登場人物】
ダリル・ゴート
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 ――漂流物が波間を漂っている。
 嵐の後はいつもこうだ、そしてそう言う漂流物は上に届けるまでもなく『拾った者』が所有者になる。
男の子:「えいっ、えいっ」
 壊れた樽のタガや、船だったらしきものに付けられていた飾り、もちろん積荷も収穫のひとつ。壊れ物ならガラクタ屋や鍛冶屋に売りつければいいし、すっかり丸のまま残っていれば、それはもう飛び上がるほど嬉しい『収穫』だった。
 今、ひとりの少年が必死になって、木の棒で手繰り寄せようとしているのは、見た事も無いきらきらと光る金属の板だった。歪んでいるところをみればこれも船の一部なのかもしれないが、海に浸かっても全く錆びている様子が無い金属の板は初めてで、砂に半分埋もれたそれを、見つけた時からどきどきとしながら手に入れようとしている。
 ――これなら、月の半分は食べていけるだけのお金になるかもしれない。
 得意げに家族にそれを見せ付ける風景まで思い浮かべながらもう一歩踏み出した、が――そこは少年の足では届かないくらい深かった。
男の子:「うわ、わ…」
 急に足元から砂の感触が消えた事で半ばパニックになった少年を、今度は波がさらおうと海へと抱きしめる。その動きに対処出来ずじたばたと暴れる少年。
 その浮遊感が消えたのは次の瞬間だった。
 だが自分の足は地に付いていない。一体何が起こったのかと思うと、
???:「おう、大丈夫か少年。膝から下だからっつっても油断するなよ?こう言う引き込む波ってえのは、勢いが付くと大人でもひとたまりもねえからな」
 そんな、心に響くような声がして、とん、と熱い砂の上に足が下ろされる。
男の子:「――あ!僕の…」
???:「んー、そうか、アレは少年が見つけたモノだったか。参ったな」
 横から奪うつもりかと少年がきっと睨みつつ振り返り、そして目の前の男の大きさに圧倒されてぽかんと立ち尽くした。
???:「ん?どうした?」
 人懐っこい笑みを浮かべた大きな男――オーマ・シュヴァルツが腰を落として少年に顔を近づける。
オーマ:「少年、あれはまだ触ってねえな?」
 こっくりと頷いたのを見て、オーマがよしよし、とごつい手で少年の頭を撫でると、ざぶざぶと波の中に入ってそれを拾い上げた。――きらきら輝く、金属の断片を。
オーマ:「あー…少年。ここで買い上げてもいいんだが、家族に言い訳すんのも面倒そうなんで、家に誰かいたら連れて行ってくれるか?」
 この体格差で、男が奪い去ろうと思えば楽だろうに、とちょっときょとんとした少年が、素直に頷いてオーマを家に案内する。
 少年の親と交渉している間、少年は外に出て待ち、そして中から出て来たオーマがにこりと笑い、
オーマ:「良かったなぁ少年。来月の小遣いは少し多めらしいぞ」
 じゃあなー、と明るく手を振って去って行くオーマの言葉を反芻した少年の口元が、徐々に笑みの形に広がって行く。
 ――少年は知らない。一体『何』が浜辺に流れ着いたのかを。オーマが、海辺を丹念に探索して、あの金属の欠片を拾いまわっている事を。
 …金属は、過去においてオーマの世界で作り出されたもの。
 ソーンの技術では精製する事も難しいだろうが、こうした科学の粋を極めたような見本を元に、再現してしまう可能性が無い訳ではない事から、暇をみてはオーマがせっせと集めて回っていたのだった。
 …おまけに。その金属の使われ方は対ウォズ用――対ヴァンサー用として作られた戦艦の部品の一部だったわけで、それにはVRS兵器も搭載されており、オーマの知る普通の金属とも違う可能性が高かった。
 尤も、今の所はただ単に高度な技術で作られた金属片と言うだけでしか無かったが…。
オーマ:「まだ、ありやがるな。ったく、こういう後始末をなーんで俺様がしなきゃならねえんだよ」
 ぶつくさ言いながら、オーマが次の浜辺へ移動していた頃、

ダリル・ゴート:「ほお――これはなかなか」
冒険者:「気に入ってくれたか?これ、珍しいだろ?」
 金属に関する事なら誰にも負けないと自負し、珍しい金属は高値で買い取ると喧伝している男の元へ、一片の金属片が届られたのだった。

*****

 ダリル・ゴート――――哀愁の中年男性。金属をこよなく愛し、金属と共に寝食を共にする自他共に認める金属フェチ――
ダリル・ゴート:「うるさいわい」
 その噂の真偽はともかくとして、珍しい金属でも彼に扱わせればそのあたりにある青銅と同じくらいあっさりと加工してしまうその腕を当てにして、いつも誰かしら冒険者が訪れている。
 ある者は剣の修理に。ある者は珍しい金属を売りつけに。
 ある者は――珍しい金属を、探しに。
オーマ:「よう、久しぶり」
ダリル・ゴート:「何しに来た?」
オーマ:「そうつれない事を言うなよー。せっかく俺様遊びに来たって言うのに。――いやな、そんな事があったらやだなぁと思いながらもし万一ここまで流れ着いてるなら仕方ねえなと来たんだが。ずばり聞こう、最近妙な金属を買い取ってねえか」
 とんてんかんてん、と金属を鍛えるいつもの音を響かせながら、丁寧に工程を繰り返していたダリル・ゴートが、今までは顔も上げずにオーマの相手をしていたのだが、金属を打ち鍛え終えた所で訝しげな顔を上げて、まっすぐ見詰めていたオーマと視線を合わせる。
ダリル・ゴート:「何故それを」
オーマ:「……やっぱりかよ…でだ、その金属、どうにか俺様に譲ってくれねえか?大事なモンなんだ」
ダリル・ゴート:「大事なモノなら、海に捨てるでないわ。――さあ、出口はそっちだ、いちゃもんを付けに来たのなら帰ってくれ」
オーマ:「危険なものかもしれねえんだよ。俺様、今それを集めて回ってるんだ」
 ハンマーで出口を指し示したダリル・ゴートに対し、オーマがいつもに似合わず真剣な口調で言ったのに気付いたらしく、ハンマーを持つ腕を下ろして再び作業中のものに向き直った。

 とんてんかん、とんてんかん。

 打ち鍛えてから、炉の中に入れて熱する。再び熱いうちに打ち、鍛えてから水の中へとそれを突っ込む。
 そんな事を幾度も繰り返しているダリル・ゴートが、ぽつりと口を開く。
ダリル・ゴート:「あれは、そんな危険なものではないわ。魔法の作用に近いものはあるが、本来は力を抑えるためのものだ」
オーマ:「――へっ?」
ダリル・ゴート:「なんだ、そんな事も分からないで探し回っていたのか。少し分からない部分があるが、あれは、そうだな、絶縁体と言っていい。ある作用に対しそれを外に漏らさないよう、または内に篭らないよう作用するものであって、それ自体が危険なものではないが」
オーマ:「いや俺様そういうの専門外だし……って、馬鹿にするわけじゃねえが、良くまあこの時代の人間がそんな事まで分かるもんだな」
ダリル・ゴート:「充分馬鹿にしとるわ。…様々な金属に触れ、眺め、叩いてきたから分かるだけだ。どこぞの研究員のように実用にならない事まで知る必要も無いしな」

 叩かれ、撫でられる程に輝きを増して行く金属。
 最後に磨かれる事を期待して、硬度を増し、その先に待つものにこころを打ち震わせ――。
オーマ:「まー、その辺は分からねえでもねえが。…つーかさ、異世界のモノを合わせると大抵碌な事にならねえんだ。ほんとに、返してくれねえか?」
ダリル・ゴート:「断わる。あれだけのもの、代わりになりそうなものはそうそう見つからない。―――――それに、もう遅い」
オーマ:「…今、なんつった」
 くるり、とダリル・ゴートが振り返り、手にした金属の塊――剣になる直前のそれを握り締める。
 ――それだけで、オーマには分かってしまった。
ダリル・ゴート:「一足も二足も遅かったな。あれはもう、いくつもの欠片に分かれてこの中で混じってしまっているわ」
 微量ながら、何かの波動を感じさせる金属の塊を、呆然と見詰めるオーマ。
 その波動は――オーマの頭の中に警告音を引っ切り無しに打ち始める。
 ダリル・ゴートは気付いていないのだろう。いや、気付いているからなのか。
 再び握り締めた金属の塊を、完成に少しでも近づけるべくハンマーで叩いて行く。こころを込めて、祈るように。

 ――『それ』が壁を破って現れたのは、柄を選び、『彼女』に見合った鞘を選出し、そして最後の研ぎを入れている最中だった。

*****

オーマ:「やっぱり来やがったか!つーかオッサン、おまえさんが心を込めすぎたお陰で変な道が開いちまってるぞ、ここに!」
ダリル・ゴート:「仕方ないだろう!妖刀にしろ名刀にしろ、力ある者は『呼ぶ』んだ。それだけこの子が立派な出来だと言う事だ、その事に文句を付けるつもりか!」
 文句をつけて目の前のコレが消えるのなら、いくらでもつけてやる、そんな事を思いながらオーマが『それ』の攻撃を避けて右へ飛ぶ。
 途端、オーマが居た部分の空間が、空間ごとへしゃげた。…オーマの足元に積まれていた、これから生まれ変わるのを待っていた金属たちが紙屑のように歪んで行くのを、砥石を足で踏みながら動かしていたダリル・ゴートが顔色を変えて睨み付ける。
 金属に呼ばれたから、と言う訳ではないだろうが、オーマたちの目の前に現れたのは、全身がごつごつとした岩っぽい印象を受けるものだった。…その材料はほとんどが金属で出来ていて、接続部は互いに溶けた金属で覆われている。そうした姿にも関わらず、動きは機敏だった。…オーマがようやく目で追って確認したところでは、どうやら自走式ではなく、瞬間的な爆発を中で起こす事により各部分を動かしているようだと分かる。
 と言っても、それはオーマの知る機械のどれよりもスムーズで、無駄のない動きだったのだが。
ダリル・ゴート:「貴様っ、なんと言う事をしてくれた!」
 とうとう完成したらしい。『彼女』を手にしたダリル・ゴートが、柄をくりくりとくくりつけて『それ』の前に立つ。
オーマ:「おいおいオッサン、無茶するなって――」
 そう言いかけたオーマの目の前で、

 ――きぃん、と涼やかな音が鳴った。

 思わず目を見張る。
 そこに見えたモノは――ダリル・ゴートが切りつけた刃が、敵の…VRSかHRSかは分からないが、幾本も取り付けられた棘のような金属の刃が切り取られた姿だったのだから。
ダリル・ゴート:「くうぅ、こういう時に冒険者であれば!身体の鍛え方が足らんっ、くそう」
 子どものようにわめいたダリル・ゴートは、敵と対峙し、切りつける事だけでも体力、精神力共にかなり消耗してしまったらしく、悔しそうに手の中のゆるやかな曲線を描く剣を見詰め、
ダリル・ゴート:「お主が使え」
 ほいっ、と無造作に放り投げた。
オーマ:「っておい!!」
 無意識に受け取ったその瞬間、ヴん、と目の前の風景がぶれて、オーマの鼻先に対異端用兵器として生み出されたそれが飛び込んで来る。
オーマ:「早ぇっ!」
 何本もの腕が持つ攻撃――至近距離だからか、飛び道具ではなく全て短剣状の姿に変わった武器が、一斉にオーマに襲い掛かる。
 ――初撃は、何とか避けた。元々来る事が分かっていたからでもあり、だが次は、
オーマ:「っちっっ、おいオッサン、この部屋動き難いぞっっ!」
ダリル・ゴート:「仕事部屋だ!運動場じゃないわい!!」
 浅く、頬に幾つもの血の筋が走った。
オーマ:「うー…し、仕方ねえか」
 呟いて、手の中にある柄をぎゅ、っと握り締める。
オーマ:「具現以外の武器なんざ――使いこなせるかどうか――」
 もとよりオーマの手に合わせて作った武器でもない。もう少し小柄な人間が使うことを想定していたのか、やや小ぶりなそれは、
 強く握り込んだ途端、オーマの全身の産毛が逆立った。
 それは、艶やかな美女の微笑みに似た、血の通わない冷たい爪先に似た――。


 そして、『にこり』と、『彼女』が微笑んだ。


オーマ:「おおおおおおッッッ―――!!」
 気付けば、
 ――それは乱撃となり、
 雨のような攻撃になり、
 愛撫のように、口付けのように、目の前の…自分の意思とは関係なく兵器に変えられた者へと降り注いで行く。
ダリル・ゴート:「オーマ。オーマ、どうした?済んだぞ、何もかもな」
 次に気がついた時には、今の容赦ない攻撃を見ていただろうに、何事も無かったかのような顔をしたダリル・ゴートが、ゆさゆさとオーマの肩を揺すっていた。
オーマ:「お、おう?…ああ、済まねえ」
 強く握り過ぎて真っ白になっていた指を、1本1本はがしていくのには少しばかり力がいった。それも珍しいな、と思いながら今しがた出来上がったばかりの剣を見ると、
 衝撃に耐えられなかったのか、『彼女』は目の前の残骸と同じくぼろぼろにひしゃげて歪んでいた。
 そっと、刃の上に指を置くと、金属疲労を起こしたようにぽろりと刃が折れる。
ダリル・ゴート:「ふーむ。あれだけでは足りなかったので他の金属を足したのだが、合わなかったようだな。出来上がったばかりの時には丈夫に出来たと思ったのだが」
オーマ:「なーに。同僚で同郷だ、きっと後を追ったのさ」
 じわりと床に広がる嫌な色の液体を男に見せないよう、具現で包み込みながらオーマが呟いた。

*****

ダリル・ゴート:「頼む、この通りだ」
オーマ:「だーから、言ってるだろ?駄目なモンは駄目なんだよ」
 来た時とは立場がまるで違っている2人。
ダリル・ゴート:「そっ、その金属、それとさっきの残りでどうしても作ってみたいんだ!」
オーマ:「駄々こねるなオッサン!あれがどんだけの連中の罪を背負って出来てんのか分かってるのか!!」
ダリル・ゴート:「う…それを言われると…だがだが!あの未知なる金属をこの手でどうにか形にしてやりたいのだ!あのような無理のある姿ではなく、金属たちの思い通りの姿へと!!」
オーマ:「………」
 もしかしたら、だが、金属の本質を見抜く力のあるダリル・ゴートだからこそ、あのVRS兵器が無理を重ねて作り上げたモノだと言う事が分かったのかもしれない。
 とは言え、無理なものは無理で。それを力いっぱい言おうと口を開いたオーマの目の前で、
ダリル・ゴート:「仲間にしろ!」
 突如、そんな事をダリル・ゴートが叫んだ。口を開きかけたままのオーマが、目をぱちくりさせる。
ダリル・ゴート:「外部の者では駄目と言うなら、内部の者として扱わせてくれ!あ、あの金属を見た時から、どうにもこうにも形にしないでは収まらないのだ!」
オーマ:「オッサンヒートアップし過ぎだ…つか、待て。仲間?」
 ちょっと考え込む。
 天井を見上げシミュレーションしてみる。
 ちら、とダリル・ゴートを見、そしてくずおれた金属のいくつもの破片を見。
オーマ:「……オッサン、腹黒同盟って知ってるか?」
 利害が一致した瞬間が、そこにあった。

*****

オーマ:「それじゃ頼んだぜダリルのオッサン。出来上がっても他の連中にゃ決して渡さねえで、俺様のところに届けてくれよ」
ダリル・ゴート:「ああ勿論だとも!――さあ、聞こえるか?お前たちは今から生まれ変わる。何になりたい?武器か?包丁か?それとも、1本の釘か――」
 心底楽しげに語りかけるダリル・ゴートの声を背に、オーマは新たな会員をゲットしてほくそえみながら街へと戻って行く。
 暑い日差しが、その広い背中をじりじりと照らしつけていた。


-END-