<東京怪談ノベル(シングル)>
同盟のタカラモノ
聖都公認・腹黒同盟本拠地。
そこには聖筋界でも屈指のナマモノが多く存在する。
例えば、人面草とか霊魂とか。
「いやぁ、元気だねェ」
昼下がりの街は活気付いていた。
あちらこちらで、老若男女を問わない悲鳴が響き渡っている。
「いやでも、ちょーっとばかし元気すぎるかもしんねぇな。流石、我等が腹黒同盟の誇りしコレクションだ」
「何を、惚れ惚れと語っているんですか」
窓辺でのんびりとした午後を過ごすオーマに、抑揚のない声が投げかけられた。
振り返ると、そこにはいかにも役人といった、堅物なイメージの女が冷徹な瞳でオーマを見据えている。
「オーマ・シュヴァルツ。これは国からの命令です。即刻、この同盟の気味の悪いコレクションを回収に向かいなさい」
「はァ。気味の悪いとは、また随分な言い方じゃねー?」
「ついでに言うと、貴方の無駄にあるムキムキとした筋肉も気持ち悪いです」
「うっわ、んなこと言われたら俺泣いちゃうぜ!?」
「それもまた気持ち悪いのでやめて下さい」
女はピシャリと、オーマに一切の反論を許さない口調だ。
冗談は通じないし……本人も、冗談ではなく全ては本気の言葉なのだろう。
そう理解した瞬間、オーマは本当に泣きたい衝動に駆られた。
これはもう、気味が悪いの一言を、それだけ自分の筋肉が立派だとプラスに置き換えなければやってられない。
「ふぅ。わかった、俺の負けだ……。俺等のビューティフルでサイコーにイカしたコレクションを回収に行ってやる」
「はい、行って下さい。でも、回収するのは気味の悪いコレクションだけで結構ですよ。人面草とか、霊魂とか」
「……ワカリマシター」
オーマにはささやかな反抗すら許されず、ただとぼとぼと同盟を後にするしかないようだ。
女も認めた気持ち悪いくらいに立派な筋肉も、どことなくえーんえーんと泣いているように見える。
明日からまた、この筋肉を一から鍛えなおさねばと、オーマは密かに心に誓った。
人面草やら霊魂やらを集めるのは、そう大変な作業ではなかった。
どこからか、オーマがそれらの回収に周っているということが、噂となって流れたらしい。
「オーマさん、こっち! こっちのも早く回収しておくれ!」
「へぃへぃ」
発見者は、逐一オーマにコレクションの現在地を報告してくれる。
オーマはただ言われた場所に行き、捕まえていけば良いだけだ。
「でもさー」
街の人々の声が聞こえる。
ヒュッ!
鼻歌交じりに右手だけを動かし、オーマはまた一つコレクションの回収を終える。
「何で、腹黒同盟からこんな変なもんがわらわら出てきちゃったわけ?」
ヒュッ!
小さくジャンプし、今度は左手で楽々回収を完了した。
「何でかって……言われてもなァ」
最初は、単なる不慮の事故だった。
先程までオーマがのんびりと過ごしていた窓の一角から、霊魂がふわっと外に舞い出たのだ。
オーマも最初は思ったのだ。ヤベェ、と。
しかし、久々に広々と寛ぐの姿を見ていたら、ムラムラと一つの感情が湧きあがってくるではないか。
――か、かっわいいぃー……!!
「いや、マジかわいかったんだよなァ」
どこかに行ったままの目つきで、オーマはその姿を思い起こす。
嬉しいよぅ、嬉しいよぅ。
広くてのんびり、とっても最高!
ありがとうありがとう。
外に出してくれてありがとう!
これからも僕らを外に出してね?
そんな幻聴すら、そのときのオーマには届いていたのだ。
そして、同時に気づいたことがある。
一番最初に、外に出た霊魂を見つけた少女の叫び声。
まるで少女から感染していくように、恐怖は街中に広まっていった。
オーマが思っていた以上に、腹黒同盟のコレクションは異質のものだったのである。
「馴れてくれるんじゃねぇかと思ったんだが、やっぱ無理か」
苦笑し、オーマは最後の人面草を地面から拾い上げた。
コレクションは、これで全部だ。
くるりと方向転換し、オーマは再び同盟本拠地を目指す。
オーマは、決して人目を気にする性分ではない。
しかし、自分の好きなものがここまで嫌われていると……良い気はしない。
自分の好きなものは好きだと言うし、嫌いなものは嫌いだと主張する。
そして自分の中の好きを、今回は少し、開放してみたくなったのだ。
「おっと。着いたな」
いつものように、同盟のドアをギィと開く。
朝の女は、相変わらずの瞳で待ち構えていた。
「お帰りなさい。全部回収して来ましたか?」
「あぁ、もちろんだ」
「もしまだ街に残りがいたことが発覚した場合、腹黒同盟は聖都非公認に格下げされます。よろしいですね?」
「ハイハイ、大丈夫ですよー」
女は、そのまま無言で腹黒同盟から出て行った。
「ああいう役人が来なくちゃならないほど、こいつらは問題ってか?」
でも。
「世間サマにはどうだか知らないが、俺にとっちゃサイコーだよ、おまえらは!」
今はとりあえず、その事実だけで良い。
オーマにとって、彼らはみんな宝物だ。
「とりあえず」
今は、もう二度と気持ち悪い筋肉などと言われないよう、綺麗な筋肉作りを心掛けるようにしておきますか!
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