<PCクエストノベル(1人)>
++ ほの暗き道程 ++
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【冒険者一覧】
【1244 /ユイス・クリューゲル/古代魔道士】
【助力探求者】
なし
【その他登場人物】
【宝石喰い】+コモノ達。
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炎の灯りにほんのりと色付いた肌――ごつごつとした質感ながらも、どこか滑らかさのある「それ」。
???「うん、なかなかいいね。可愛いよ、お前!」
薄暗い明かりの中で、「それ」は加減奥まった瞳の中に移り込む人物をじっと見詰めている。
???「ココ、そうだよココに魔法石を埋め込んで…」
紅の深い髪の毛に、青い瞳を輝かせ―――その青年は自らの作に没頭していた。
???「…って、魔法石切らしてんじゃん」
趣味のゴーレム作りの楽しさに心を躍らせていたそれまでの様子とは打って変り、彼はがくりと肩を落とす。
可愛い可愛いゴーレムちゃんの動力――魔法石。
愛しのゴーレムちゃんが動き出すためにはどうしても必要なそれを、どうやら切らしていたらしい。
???「………ふぅ」
ほんの少し勢いをそがれたその男―――ユイス・クリューゲルは、軽く米神を押さえて感慨に耽った。
そんな、まだ夜も明けきらぬある夏の日の事であった―――
:: 貴石の谷大観光 ::
ユイス「魔法石といえばやっぱり貴石の谷だよね」
気分転換もとい、暇潰しを兼ねて自らの足で谷の探索を始めたユイスは、どこか冷ややかな印象を受ける、既に明かりの消えた蒼い石を指先で辿る。
かつて、その特殊な力により煌々とした光を放っていたであろう坑道の至る所に埋め込まれた貴石は、ユイスの触れる指先に反応をしてはふわりと柔らかな光を放った。
ユイス「もう力を失ってしまってから随分と経ってしまっているようだね…少し暗いか。もう少し灯りが必要だな」
彼はそう言うと、きんと甲高い音を指元から発する。
孤を描くようにくるりと一回転して解を生み出したそれは、ぼっと唐突に炎を噴出させた。
ようやく一定の明るさを手にしたユイスは、そのまま鼻歌雑じりに散策を始めた。
ユイス「おっと、分かれ道だ」
ユイスは辿っていた運搬用のレールの脇で足を止めると、徐に手をすっと衣類の内側へと忍ばせた。
目の前に広がる、二つに分かれた道――そのどちらを選ぶかによって、愛しのゴーレムちゃんの出来が決定付けられてしまうと言っても過言ではないのだ。ユイスはふっと不敵な微笑を浮かべると、しんと静まり返った坑道に、自信たっぷりに言葉を呟き出す。
ユイス「こういう時はちゃーんと魔力反応を調べとかないとねぇ」
そう言いながら取り出したそれを、地面に片膝を付きつつ屈み込んでそっと立てる。
からんからーん……
坑道一杯にその音が響いた。
ユイスは先ほど地面に立てたそれを拾い上げると、何事も無かったかのようにすらりと立ち上がった。
ユイス「さぁて、こっちから強い魔力を感じるぞ。いざ出陣」
かくしてユイスはマントのように裾を格好良く靡かせながら、小枝を手にしつつとっても楽しそうに歩いてゆくのであった。
しかし勘違いをしてはならない。
決して彼のこの行為は「取り合えず適当に決めた」などという訳ではないのだ。
趣味とはいえ全力を傾けて没頭している事――どうか暇人とは呼ばずにおいてほしいものだが、兎に角、真剣に取り組んでいる事なのだ。
より上等な貴石を使用してのゴーレムの完成を図るべく、出来るだけ魔力反応の高い方へと向かう――そのための一手段であるのだ。
勿論小枝を使う必要性は無い。魔力反応を調べる媒介となれば、ただそれだけで良いのだが――そこは遊び心である。
パラ…
パラパラ……
微かに壁を伝い落ちる砂利の音が耳に入る。
かつて貴重な宝石を大量に採取するために縦横無尽に掘り進められた「宝石採取の為の坑道」―――かなりの深部まで掘り進めたらしいが、深部でのモンスター出現によって廃棄された道。
坑道が閉鎖されたのは一体いつの事だっただろうか。
ユイス「古くなると何処も危ないな。崩落で生き埋めなんて洒落になんねぇし……」
ユイスは全く仕様がないね、と呟きながらも魔術文字を描いてゆく。
それは指先から迸る幾筋もの光の波で綴り織られ、ぼんやりとした輝きを放ちながらもぴたりと壁に張り付いた。
同時に崩落の予兆とも取れる、あちこちで鳴り響いていた瓦礫の微かな物音が消え、しんと静まり返った坑道内にユイスの靴音だけが響いてゆく。
目指すは最奥――噂に名高い永遠の炎や虹の雫を手に入れる、そのために――ユイスは幾度と無く分岐した道を俗称・棒占いで果敢にも切り抜けていった。
:: 最奥で ::
ユイス「うーん、そろそろじゃないの? コレ」
ユイスはびりびりと魔力の波動を感じつつも、それを「あの」ゴーレムに埋め込んだ後の事を考えてくすりと笑った。
ユイス「楽しみだね」
やがてユイスは坑道の奥にある、少々開けた場所へと辿り付いた。
入り口は少し狭くなっており、彼は前屈みの体勢で中をちらりと覗き込む。
???「キィッ!!」
途端に飛びついてきた小さな蝙蝠の攻撃を身を引いて避け、蝙蝠が壁に激突して目を回しているのを後目に先の小枝を広場の中央目掛けて放り投げた。
棒占いの棒が地面に付くか付かないか――そのすれすれの瞬間に、その棒切れを中心とした場所から強大な円陣が描かれ、その力が発露した!!
ユイス「蝙蝠にはこれが一番だろうね」
カカッ!!!
眩い閃光と共に、ユイスは壁の際まで寄ると、山のように蝙蝠が次々と奇声を発して飛び出してくる様を少々顔を顰めながら見守った。
魔力の時差発露―――そんな芸当である。「構成の段階でちょっと寄り道するポイントがあるんだよ」と、かの男性は言う。
ユイス「全く……どんだけ中に居たんだか」
ユイスは一頻り蝙蝠が出来るのを見届けると、再度身を屈めて中へと入っていった。
ばさり……まだ数匹の蝙蝠が残っており、それらはユイスの姿を見るなりすぐさま岩の陰へと隠れてしまった。
彼はにっと笑うと、つかつかと壁に歩み寄った。
ユイス「あ〜……ココ、いいかも…!!」
???『ガアアアアアアアッッ!!!!!』
ガッ
どっしーん………
ぱらぱらぱら……
今の今までユイスが立っていた場所に鋭い牙が突き立てられる。
ユイス「あ、ちょっとお前、その辺余り傷つけるなよ」
ユイスは目もくれずにそう呟くようにいうと、熱心に辺りをきょろきょろと眺め見ている。
尋常ではない唸り声を物ともせずに、あ、こっちも良いかもしれない――けど、あっちの奥からも何かいい感じの反応が……! といった感じであっちきょろきょろ、こっちきょろきょろしている―――しかし、その背後では大きな口に鋭い牙を何本もびっしりと並べた、両生類のような外見をした生物が唾液を滴らせながら彼をじっと狙っていた。
歩くたびに地響きがして、坑道全体が揺れている。天上からは砂利がぱらぱらと落ち、その声に、大気がびりびりと震えている。
気が付かない訳が無い――これほどの巨大な存在に。
寧ろ中に入った時既に視界に入っていたはずである。豪華な屋敷の一つほどの大きさをも有している魔物なのだから。
巷で呼ばれているその巨大な魔物の名は『宝石喰い』―――彼もその名に恥じず、多くの人間を食してきたはずである。
しかし、本日のお客様はというと―――
ユイス「あ、そっちの道まだ行ってないんだからな。ちょい、ソコどいてどいて」
ただの一市民の如くに邪魔者扱いである。
此れにはとうの宝石喰いもきっと不服だったのだろう。
宝石喰い「グガルルルゥ……!!」
一際低く唸り声を上げると、壁にガリガリと身を擦りつけるようにズンズンとユイス目掛けて体当たりを仕掛けてくる!!
……ゴッ!!
どっしーーん!!!
またしても空振り――ユイスは変わらず道途中の壁の審査に夢中であったが、流石に宝石喰いのこの行為は癇に障ったらしく、ちらりと視線を其方に向けた。よく図書館にいる、煩くしてあげるとかなーり怖いタイプのお兄さんである。
ユイス「おい、コラ……その辺触るなっつってんだろ……!!?」
宝石喰い「ガルルキシャァアアアア!!!!」
ガガッッ!!
どっしーーーーん!!!!
………がらがらがら…
ユイス「ぁあっ!!? お前それ、ヤッバイって……!!」
宝石喰いは、諸にユイスがこれからその奥へと行こうとしていた道目掛けて突進すると、がらがらと崩落を起こした。
ユイス「しまった!! 崩落を止める魔法をかけておくの忘れてたな……でも、この位の崩落ならまだ何とかなるだろ…」
ユイスは舌打ちをすると、宝石喰い目掛けてすぅっと手を翳す。
それぞれの指先からゆらりと揺らめく力の起動が垣間見え―――その「力」は、解読不能な複雑な紋様を描き出して行く。
迸る力の揺らめきと、圧倒的なまでの「彼」という存在感、そして威圧感―――宝石喰いは少なからず息を飲み、彼の描き出す円陣を目の前にじりりと後ずさった――その時
ユイス「これで終わりだ!! 俺の邪魔をした報いを受けるがいい!!!」
ユイスは構成した魔法を宝石喰いの巨体目掛けて一気に解き放つ!!
ずががががっっ!!!!
発露時の風圧と、溢れ出た魔力とが混ざり合い、凄まじい轟音と共に魔法が炸裂した!!
宝石喰いはぐぐっと首を持ち上げるように大きく口を開くと、音も無くその場に崩れ落ちたのであった―――
ぐぐるがぁあああ………
ごるるがぁぁあああ……………
途端に宝石喰いの口…というよりかは腹の底から、安らかな寝息が漏れ出す。
ユイス「図体もデカければ……それ相応にいびきも煩いコだね。さて、と……」
彼は眠りこけた宝石喰いの脇を通り過ぎると、崩れかけた道の先を見遣り、微かに首を傾げた。
あれだけ仰々しく魔法の構成を行っておきながら、発動したのは「スリープ」である。……まぁ、平和的で良しとしておく。
「うん、なかなか……いいものがありそうだ。その前に其処の石を持ってこうかな?」
ユイスが判断を誤り、くるりとお目当ての石の埋め込まれた壁を振り向いた瞬間―――
びゅごっっ!!!
ユイスの頬を掠め、宝石喰いの尻尾が盛大な音を立てて彼の背後を叩き付ける。
ユイス「また……お前ってコは……」
此の寝相の悪さには流石のユイスもぶち切れたのか、眼鏡をすっと取るや否や―――
ユイス「邪魔すんなつってんだろうが!!!」
と、はき捨てるようにいいながら語尾と同時に、宝石喰い目掛けて頭突きをかました!!(←大魔道師の癖に魔力関係皆無)
宝石喰い「ガッ……グルルォウゥ…ゥ…………」
ユイス「そこで大人しくしてなさい!」
宝石喰い「…………………」
ずっず〜ん!!
かくして宝石喰いは、この世界の早世、理にすら直接の関与しているのではないかと謳われる程の大魔道師の手によって寝かしつけられたのであった―――
ユイス「くそ……向こうにも行きたかったのに……まぁ、いいか今回はこの石があるしな」
彼は中りをつけた壁に両手を当てると、じわじわと魔力を注ぎ込み始めた。
ゆらりと微かな煙が立ち昇り、ゆっくりと壁が盛り上がってくるのが判る―――
ユイス「ほら、イイコだね……こっちへおいで」
ユイスの言葉に導かれるかのように―――ぽこりと盛り上がったその壁の奥から、橙色の瞳粒ほどの大きさの物が浮き出してくる。それは、ぱらりと砂利を零しながら、彼の手の平に丁度よくころりと転がり落ちた。
ユイスは奥から押し出すかのように抉り出したその貴石を手にすると、にっと笑う。
ユイス「これだけ邪魔されたにしちゃあ、上出来だね」
彼の手の中に握り込まれたその貴石は、ほの暗い道程を微かに照らし出していた。
――――FIN.
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