<PCクエストノベル(1人)>


『まるちゃん洞窟探検記』

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【2929 /まるちゃん /冒険者】


【助力探求者】
【なし】

【その他登場人物】
【フクロウ/鳥】
【ツタ/未確認生物】
【歌う花/未確認生物】
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<1:ハルフ村の夕暮れ>

日はゆっくりと落ちようとしていた。藍色と茜が混じった空に、あちらこちらで温泉 の湯煙が揺れている。
ハルフの村に一台の馬車が入ってきた。馬車はゆっくりと村の入り口で止まり、人々 が待ちかねたように足早に降りていく。多種多様な温泉を持つハルフ村は、近年立派 な観光地になっていた。湯治をしにくる老人や、美容のために訪れる女性、団欒に来 る家族。どの温泉に入ろう、などと楽しそうに話している彼らの足元を、黒い何かが 通り抜けた。一瞬遠目では黒い豚のように見える何かは、つむじ風のごとく人の群れ を通り抜け、村の外の夕闇へと姿を紛れ込ませていった。


<2:まるちゃん、ちょっとピンチ!>

まるちゃん:「〜♪」

月明かりと日の残り火に照らされた街道に歌がながれる。荒涼な街道とセンチメンタ ルな風景の中、流れる歌は真昼の草原のような明るいマーチだった。

まるちゃん:「るーく、るーく、るくえんど〜♪まーるちゃーんたんけーん♪いっく ぞっ♪いっくぞっ♪モンスターなんていっちげっきだー!」

ぽってりとした黒いおなか、手足、まんまるい顔。そして垂れ下がる長いうさぎの耳 。われらがまるちゃんである。
愛用のニコちゃん顔のポシェットをぶんぶん振り回し、その小さなコンパスからは想 像もできない速さで街道を驀進していった。
完全に日が暮れ、月が煌々と輝くころにはまるちゃんはルクエンドの地下洞窟の前に いた。到底ぬいぐるみの足ではたどり着けそうにもない距離だったが、偶然まるちゃ んを獲物と間違えた梟が、お詫びとしてここまで運んできてくれたのだった。

月の光は木々にさえぎられ、洞窟はねばつくような濃い闇があった。普通の人間なら ば臆してしまいそうな、不気味な夜の洞窟。しかし勇敢なまるちゃんは、あっさりと 洞窟へと足を踏み入れたのだった。
洞窟の中は光源がまったくなかった。手探りで行くには足元の隆起が激しく、壁をた どろうにも気を抜けば手を怪我しかねない。
まるちゃんはちょっと考えたあと、肩からかけたポシェットに丸い手を突っ込んだ。 ゴソゴソとカバンをあさる音がいやに大きく洞窟に響く。

まるちゃん:「じゃーん。洞窟内では安全第一!」

取り出したのは黄色いヘルメットだった。安全第一と描かれたヘルメットには、大き なライトがついている。長い耳を横から外へと出し、ヒモをしっかりあごの下で締め る。ヘルメットは頭部に固定されているからこそのものである。しっかり確認したあ と、ライトのスイッチをつける。カッと光ったライトが一瞬白くはじけ、昼間のまぶ しさを思わせてまるちゃんは目を閉じた。
しばらく目を慣らしてあたりを見回してみると、陰鬱な印象の洞窟とは思えないほど 美しい光景が広がっていた。青白い鍾乳洞がレースのように垂れ下がり、ライトの光 を浴びてぼんやりと光っていた。壁のほうに目をむけると、鍾乳洞とは違って強くキ ラっと光るものがちらほら見つかった。よーく顔を近づけてみると、壁には小さな水 晶が美しい剣形に伸びていた。
まるちゃんは足元に気をつけながらも、洞窟をすすんでいく。光を吸うようにぼんや り光る鍾乳洞、星の瞬きのように光を反射する水晶。それはとても幻想的で、洞窟の 閉塞感をまるで感じさせないものだった。だがまるちゃんは満足できなかった。何か がたりないのだ。洞窟といえば、自然が彫りだした美しい石の造形などもあるだろう 。しかし、何か決定的に足りない気がするのだ。そう、血沸き肉踊るスリルである。 しかしそういうものは招けば来てくれるという類のものでもない。まるちゃんは落盤 や地崩れに注意しながらも奥へ奥へと進んでいく。

細い細い崖の淵を歩ききると、大きな岩のカーテンがあった。ごっそりと地盤が沈ん だらしく、さえぎるものがなくなったためか天井からは垂れ下がった鍾乳洞は、さざ なみのような隆起をつくりながら滝のように流れ落ちていた。地盤の沈んだ場所は、 特に足元がゆるくなっている。慎重に歩き、そっと下を覗き込むとそこには水がたま っていた。湖と言うにはまだ小さいが、やがて立派な地底湖になるであろう。闇を吸 い込み、黒々としている水面は艶やかに輝いている。まるちゃんはそっと足元の小石 を投げ込んでみた。崖をつたって何度か跳ねた小石が勢いよく水面に呑みこまれる・・・ とその瞬間水面からなにかが飛び出した。それは空を裂き、するどい音をたてて小石 を真っ二つに叩き割った。

まるちゃん:「!」

あわてて身を起こすまるちゃんの元へ、自ら出てきたそれが向かう。すばやく後ろへ と跳んでかわすまるちゃんだったが、襲撃者は更に追撃を加えようとしていた。ヘル メットにつけたライトが襲撃者を照らす。

まるちゃん:「ツタ!?」

あまりのスピードにはっきりとは見えなかったが、それはまるで植物のツタのようだ った。ツタは複雑な動きでまるちゃんを追い詰めていく。まるちゃんもうさぎ(のぬ いぐるみ)の俊敏さで攻撃をかわしてはいるが、如何せん場所が場所である。地盤の ゆるい洞窟は狭く、動ける空間が限られている。宙を跳びながらかわしているうちに 、ツタの数が増えてきているのに気づいた。どうやらあのツタに見合う大きさの植物 が湖にいるらしい。本来ならば応戦したいところだが、場所が場所である。相手はツ タを生かして細いところまで自由自在に動くことができるが、まるちゃんはそうはい かない。派手に動き回るには少々場が悪いのだ。

まるちゃん:「くやしいけど、今は逃げなきゃ!」

転進転進、退却にあらず。まるちゃんは脱兎となり洞窟を走った。一度逃げると決め てしまえば、精神的に余裕ができる。それに相手は植物。根を持って生きる者だ。ど んなにツタが長くともかならず距離的な限界は訪れる。まるちゃんは細いわき道へと 入る。天井が極端に低い道だが、まるちゃんには問題ない。だがツタはそれでもしつ こく追ってきた。かなり逃げたはずなのに、まだ追ってくるとあってはらちがあかな い。
まるちゃんは走りながらポシェットに手を突っ込んだ。そしてすばやく取り出し、く るりと反転してツタに霧を浴びせた。とたんにツタは茶色く変色し、しおしおと倒れ 伏した。取り出したのは

まるちゃん:「強力!どんな雑草もイチコロ除草剤!」

だった。

<3:歌う光のなか>

除草剤でなんとか追っ手の勢いをそぐことができたまるちゃんは、さらに道の先へと 向かう。
追われているときは気づかなかったが、この道の先から甘い香りがしていた。花に呼 ばれる蝶のように、香りをたどって先へと向かう。香りはどんどん強くなり、やがて その場所へとたどり着いた。
そこは先ほど見つけた湖よりはずっとずっと小さな、水溜りのようなくぼみがある場 所だった。天井から壁まであたり一面に光る物質が埋まっているのだろうか、洞窟の 周囲は満ちた光が静かに漂っていた。
そこに1輪、ひっそりと白い花が佇んでいた。いまにも折れそうな細い茎、透き通っ た翠の葉。そして真っ白な5枚の花弁をやや下へと向け、そっと花びらの先を外へ向 けて咲いている花。触れれば崩れ落ちてしまいそうな儚い花を前に、まるちゃんは時 を忘れて見入ってしまった。そうしていると、水面に微笑むような波がひろがった。 どこからともなく、歌が聞こえた。オルゴールのように懐かしくて、でも金属には出 せないやわらかな音。水面をゆらし静かにながれる歌の歌い手は・・・

まるちゃん:「この花が・・・歌ってるんだ」

花が歌っていた。しかもまるちゃんの歌っていた「ルクエンド冒険のうた」をだ。
ひっそりとだが、まるちゃんを歓迎するように歌う花。まるちゃんも小さな声でそれ にあわせた。静かなデュオが洞窟を充たす。
歌がおわり、花はその花びらの先を内側へと向け、すっと閉じた。花の歌の心地よい 余韻に包まれながら、まるちゃんはポシェットから小瓶を取り出した。
花びらの先に、大きな花の蜜のしずくがこぼれていたのだ。おみやげだよ、とでも言 うように光る雫を丁寧に小瓶へと収めて蓋をしめた。

<4:朝のこえ>

花に見送られ先へ進むとそこはすぐ地上だった。
先ほどの恐ろしい植物が待つ道へと戻らずにすんだ。外へ出ると、ちょうど日が地平 線から昇り始めていた。
まっさらな朝日はまぶしく、小瓶のなかの蜜がキラキラゆれる。朝日を吸い込んだ蜜 を耳元で揺らすと、まるちゃんと花が歌った歌が、聞こえたような気がした。

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【ライター通信】
こんにちは、初めまして尾高空夜と申します。ご注文ありがとうございました。
ぬいぐるみとあって、五感をどこまで出していいのか悩んだので、あまり五感の表現 を出さないようにしました。
今回は洞窟ということでアクション控えめに、まるちゃんの散歩の延長という感じで 進めました。
ありがとうございました。