<PCクエストノベル(1人)>
天に響く音色 〜クレモナーラ村〜
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / 職業】
【2606/ナーディル・K/吟遊詩人】
【助力探求者】
なし
【その他登場人物】
店主
娘
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ナーディル・Kは馬車に揺れながらゆっくりと移り変わる景色を眺めていた。膝上には丁寧に布でくるんだハープを抱えている。
馬車の行き先はエルザート城から南西に位置するクレモナーラ村。今日の目的はクレモナーラの観光と母が遺した形見のハープを直すための小旅行であった。
(クレモナーラは音楽に溢れた村。久しぶりに吟遊詩人らしく勉強もしようかしら。きっと弾き手が多いから良い勉強になるはずだわ)
クレモナーラは自然と伝統ある楽器の名産地として有名な村であり、美しい川や森といった自然条件や熟練された職人達によって作り育まれた楽器達は、一つ一つ全てが異なった表情を持つと言われている。ソーン中から発注の絶えない音楽の村は、吟遊詩人達にとっても良い修練の場となるだろう。これから過ごす一日の事を思うと、自然と心が躍った。
一時間ほど馬車に揺れたあとナーディルはクレモナーラ村へ到着した。黒くて長い美しい髪が風になびく。
音楽の村と言われるだけあって様々な楽器の音が聞こえ村全体が活気に満ちていた。村の中央広場で何かの催しが開かれているのだろうか、人だかりができているのが見える。
(ハープを修理に出した後、行ってみましょう)
ナーディルは早速、クレモナーラ村には一つしかない撥弦(はつげん)楽器店の扉をくぐった。
金や銀の煌びやかな装飾は無く、白一面に統一されたシンプルな内観をしており、撥弦楽器であるハープ、ギター、東洋の楽器三味線などがずらりと陳列されていた。毎日店の者が丁寧に手入れをしているのだろう、ほこり一つついていない見事な楽器ばかりである。ナーディルが陳列されている楽器に見惚れていると奥から店主らしき白髪の恰幅の良い中年男性が出てきた。
店主:「いらっしゃい。楽器を買いに来られたのかな?」
ナーディル:「ああ、いいえ。このハープを直して頂きたいのです」
首から提げていた眼鏡を掛け、ナーディルから受け取った布の塊を台の上で広げた店主はハープの有様を見て眉をしかめた。
店主:「おいおい、何でもっと早く修理に出してやらないんだい。弦は切れているわ、そこら中ぼろぼろだわ、ハープが可哀想じゃないか」
職人達にとって我が子同然のように、丹精込めて作り上げた楽器を丁寧に扱わない者ほど腹が立つ事は無い。ナーディルはすみませんと肩を竦めるしか無かった。
店主:「しかし、それにしても良いハープだ。胴側面に施された象嵌細工が大変美しい。これは一体どこで?」
ナーディル:「このハープは母が遺した物なのです。御神木から作ったと言われるそうなのですが」
店主:「御神木ねえ。通りで良い樹を使っていると思った。――今日一日掛ければ直るな。夕方には出来上がるぞ。それはそうと、ハープを持ち込むということはあんた職業は演奏者か何かかい?」
ナーディル:「いえ、吟遊詩人を生業としています」
店主:「なら、広場へ行ってみるといい。今日は月に一度のコンテストが開かれている。飛び入り参加もきくから出てみてはどうだね」
ナーディル:「飛び入り参加OKですか。でも私、今日はあと笛しか持っていないんです。笛はハープほど得意ではありませんし・・・」
店主:「ならどうだ、一つうちで作ったハープを弾いてみないか?まだ売り物として出してないものなんだが、あんたに弾いて貰って感想が欲しい」
ナーディル:「それは構いませんが・・・私で宜しいですか?」
店主:「ああ、もちろん」
そう答えると、店主は一度店の奥へ入りつやのある薄茶色のハープを持ってきた。店に並べられているハープよりも少し曲線が深く細かい唐草模様が描かれていた。全体的に緩急が上手くつけられており、どこかしら女性美を思わせるものがあった。
ナーディル:「綺麗ですね」
店主:「まだまだ甘い所がある。――夕方にまた来てくれ」
ナーディル:「はい、分かりました」
店主からハープを受け取り中央広場を目指して店を後にした。
村に着いたときから聞こえていた様々な音色が確かな旋律を持って耳に入ってくる。さすが音楽の村クレモナーラだけとあって演奏している楽器も様々だ。木管楽器、金管楽器、管楽器、打楽器、弦楽器、擦弦楽器といった、世界の・・・いや、宇宙規模の音楽会が開けそうである。ナーディルはコンテストの規模や熱気に高揚感が高まるのを感じた。
飛び入り参加という事で演奏する順番は最後になり、それまで客席で演奏を聞くことにした。自分と同じ小型ハープで謳う人が何人も出て来る。その度に謳いかた、リズムの作りかた、注意深く目を凝らすことで上手い指の使い方・・・そういったものを多くの吟遊詩人や演奏者から学んだ。
(素敵な弾き手がたくさんいるわ・・・)
特に銀髪の綺麗な男性――初めは女性かと思っていたが、声を聞いたら男性だった吟遊詩人である。美女と言っても間違いではないほど、中性的な美しい容姿をもった人だった――の演奏は心の底から魂が揺さぶられ、大変素晴らしいものだった。
(私もあの人のように人の心を惹き付ける演奏がしたいわ)
出番が近づいてきた為、ステージの裏でハープの調整を行っていたナーディルは銀髪美青年の演奏を何度も思い出していた。
娘:「あの・・・そのハープ貴女のですか?」
ポロリポロリと試し弾きをしていたナーディルは目の前に現れた女性を見上げた。自分よりも少し若く、長い髪をポニーテールに束ねた活動的に見える娘さん。お店で借りたものですよと話すと驚いたように眼を開き、お礼を述べて素早く去っていってしまった。ナーディルは首を傾げるしかない。そうそうしている内についにナーディルの順番が回ってきた。
司会者に名前を呼ばれステージの中央に立ち、一礼すると客席から拍手が起こる。
ポロン、と一度全ての音を奏でた後、ゆっくりと息を吸い込み夏夜の恋の歌を謳い始めた。
さらりさらりとかすめゆく
風の祈りを聞きながら
調べ唄は 太陽のおひざもと
主(ぬし)が恋した 凛の白百合は
今日も明日を見ながら 想いにふける
君恋しや
青闇に映えた 月に焦がれて
君恋しや
青白い光の渦に想いを寄せて
いずる人よ
満月の夜はもう明ける
奏で唄は 今日も空に舞う
しっとりと謳いこんだナーディルの声とハープの音色が静かに響き渡った。余韻が引いた頃にナーディルが一礼すると盛大な拍手喝采が沸き起る。ナーディルはもう一度丁寧に一礼した。
結果は見事、三位の入賞を果たした。一位はもちろん、銀髪美青年の吟遊詩人であり、二位には軽快な音楽とパフォーマンスで客を沸かせたトランペット演奏者の少年だった。ナーディル・Kさん、と後ろから声を掛けられる。
店主:「いやー実に良い演奏だったよ」
ナーディル:「ありがとうございます。聞いて頂けたのですね、嬉しいわ」
店主:「ぎりぎり、あんたの演奏には間に合ってね。ついでに直ったハープも持ってきたよ。それで・・・、そのハープはどうだっかい?」
ナーディル:「とても弾きやすかったです。一見繊細に見えても強い音はしっかり出せますし、弾き手にすぐ馴染む良いハープですね」
店主:「そうかい。あんた程の腕前に認められれば、安心して店に出せるな。ありがとうよ」
??:「――父さん」
強張った声音で店主を呼んだのは先ほどナーディルにハープの事を尋ねた若い娘だった。その姿を見た店主は照れ隠しのようにそ知らぬ方向を見、頬を掻く。
娘:「私の力、認めてくれたってこと?」
店主:「――ああ。明日から店に出すよ。・・・ナーディルさんあんたに弾いて貰ったハープ、これは娘が作ったものだったんだよ」
ナーディル:「まあ!どおりでしなやかさのあるハープだと思ったわ。でも何故私に?」
店主:「わしが評価するとつい、厳しくしすぎてしまうからな。第三者の人に評価して貰う方がいいと思ったんだ」
娘:「父さん・・・。ありがとう、私もっと頑張るから!」
涙を流す娘にナーディルはハンカチを差し出した。店主は娘の頭をぽんぽん叩き、甘い部分は多くまだまだ努力しなければいかんぞ、と戒めた。職人という男社会の中に女が入っていくのは中々難しいものがある。父はそんな世界に娘を入れる事は気が進まなかった。が、娘一人、跡取りがいないままでは店主の代で店は潰れてしまう。跡取りを養子として迎えようと考えていた店主に、代々家系で守ってきたこの店を他の人に任せるのは嫌だと娘が猛反対し、数年前からハープ作りを始めたそうであった。そのうちに娘の熱気におされ、今年中に店主が認めるハープを作ることが跡取りとしての条件だった。そしてついに、娘の力が認められたのである。
ナーディルは父娘を優しく見つめ、父娘の為に形見のハープで一曲奏でる事にした。少し試し弾きをする。母の遺した物だからということでもないが、でも、今まで弾いてきたどのハープよりも一番ナーディルにしっくりくるものがあった。
二人の為にありったけの想いを込めてナーディルは謳い始めた。
言葉で伝えられない想いが
ここにある
それは風に乗って 空へ届き
雨に乗って 大地へ響く
聞いておくれ
心の声を
感じておくれ
心の声を
想いはいつも弧を描き
遠回りしてばかり
貴方が笑うその日まで
私は弦をもって
奏でよう
言葉では伝えられない想いが
ここにある
それは風に乗って 心へ届き
喜びによって 笑顔に変わる
夕焼け色に染まるクレモナーラ村にナーディルの美しい歌声が響き渡った――。
終
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□ライター通信
ナーディル・K様
大変おそくなり、申し訳ございませんでした。
精一杯書かせて頂きましたが、如何だったでしょうか。
納期が遅れてしまったこと、深くお詫び申し上げます。
ご発注頂き、ありがとうございました。
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