<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


レディ・イン・ラビリンス

<オープニング>

 ここ最近、「強王の迷宮」に妙なうわさが立っていた。

「きいたか、あの洞窟みたいな遺跡に……出るんだってよ」
「あぁ、聞いたぜ。美人らしいな」
「おい、何の話だ」
「なんだ、しらねぇのか。あの遺跡に、白いドレスを纏った女が出るらしい」
「金髪美女だって話だが……たしかあそこは」
「そう。ヴァンパイアがいるんだろ?」
「じゃあ、その女がヴァンパイアなのか?」
「気になるのか? ただの美人かも知れねえしよぉ」
「ヴァンパイアなら、お前さんもしもべにされちまうまでさ。よかったな、一生その女と一緒にいられるぜ」

 黒羊亭も、この話で持ちきりである。とある酔狂な男が、このヴァンパイアを捕まえてきた者に賞金をやる」と張り紙を出すまでに、ことは発展していった。


<依頼主>

 張り紙の主は、この辺りではそこそこ名の知れた富豪、ドーシャス卿であった。彼の屋敷を尋ねると、延々と宝石やツボや絵画の自慢をされ、庭へと連れ出された。
「貴公の働きは耳にしておる。期待しているぞ、オーマ殿」
「その女性についての情報は、張り紙にあるだけなのかい? ちっと少なすぎやしないか」
「残念ながら、偵察に行かせたものはほとんどが帰ってこなかったのだ。あちらの怪物に殺されたのならよし、もしも白いレディの虜になっているならば、断じて許せる事態ではない」
 オーマの眉毛がぴくりと動いた。が、ドーシャス卿は気付く様子もなく、
「貴公の他に4人、この迷宮に赴いてくれるものがおる。総勢5人で1人の女を捕らえるのだ。出来ぬわけがあるまい」
 卿の言葉を待たず、オーマは踵を返した。
「この話から降りるのか?」
 慌てたような声に、オーマはにやりと笑い、
「時間がもったいないんでね。それに、少し調べたいこともある」


<合流>

 強王の迷宮へと向かう道のと中で、オーマは何気なく後ろを振り返った。なぜか、後をつけられているような気がしていたのだ。案の定、そこにはだれかがいた。いや、彼の名前も知っている。
「あれ、イレイルくんじゃない。奇遇だなぁ、おい」
 警戒していた表情をすぐに緩ませ、となりへと寄ってきたイレイル・レストの背中をバンバンと叩いて喜びを全身にあらわす。
「もしかして、迷宮探索かい?」
「オーマさんもですか。あなたがいるなんて、頼もしい限りですね」
 肩を揺らすと、マントの間からネックレスが覗いた。オーマが目ざとく見つけ、
「十字架か。ってことは、吸血鬼対策だな」
「えぇ。オーソドックスですけれど。聖水もありますよ。オーマさんは何か持ってきたんです?」
「俺か? まぁ、この筋肉が一番の武器といえばそうなんだが、医療道具一式、それに、やつは光に弱いと見こんでギラリマッスル桃色大胸筋アルティメット弾もあるぜ」
「ギラリマ、桃色……とにかく頼もしいですよ」
 オーマの口からさらりと吐き出された呪文めいた言葉に、なぜか相づちとは正反対の気持ちを覚えつつ、イレイルは次の言葉を探した。
「それで、その白いドレスの女性に関する情報は何か……」
 掴んでいるんですか、と続くはずの言葉は、口元でいったん止まった。
「あんたたちも迷宮に行くのか? そんなら一緒に行こうぜ」
 木の影から現れたのはユーアであった。
「ではあなたも……」
「あ、それ俺とおんなじこと考えてたみたいだな」
 ユーアは再びイレイルの言葉を遮ると、彼の胸元に輝くものをゆびさした。十字架である。
 対するユーアの首にも、十字架のペンダントが下がっていたのであった。
「うらやましいぜ、おそろいなんて。1人だけ仲間外れに去れたような気分だ……」
 オーマが、本気とも冗談と持つかないことをぼやく。
 と、迷宮の入り口にすでに二人の影が見えた。
 赤い髪のエージェント、パメラと、優しき策士、アイラス・サーリアスである。


<強王の迷宮>

 迷宮ではっきりしているのは地下3階までである。ドワーフのガルフレッドが作った部分で、さすがドワーフだけあって仕事は丁寧だ。装飾がときどきグロテスクな部分もあるが、それでも美しいことに変わりはない。ときどき、レリーフに紛れるようにコウモリがとまっている。
「白い女はどこに出てくるんだ」
 先頭を切って歩くユーアは、炎の剣で目の前の空間を気まぐれに薙いで、吸血コウモリを追い払っている。輝く剣が、同時に明かりの役目も果たしていて一石二鳥である。彼女に続くのはオーマだ。記憶を探るように斜め上のほうに視線をやり、
「俺の腹黒情報網によれば、その女は地下3階の奥付近で出てくるらしい。が、地下1階で見たって奴もいる。ってことはつまり、ランダムってことか?」
「頼りないな」
 氷のように凍てついた溜め息と共に吐き捨てたのは、3番目を歩くパメラである。前後へと油断なく目を光らせている。
「出会ってのお楽しみってことだ」
 肩を揺らしてユーアが笑った。
「それにしても、なぜ白いドレスを着ているんでしょうか。何か深い意味でもあるんでしょうかね……」
 しんがりをつとめるイレイル・レストが尋ねた。この暗い迷宮にあって、白いドレスというのはひどく目立つ。隠れる気がないのか、色なんて気にしていないのか。
「聞いた話では、その女性は出会う人に何かことづけを頼んでいるとか。声事態が魅力的過ぎて内容を忘れてしまったということですが」
「悪い人ではないのかもしれませんね……」
 イレイルは言いよどんだ。依頼は、ドレスの女を捕らえてくることだ。けれど、人攫いめいたことをはたして出来るだろうか。
「躊躇することはない」
 パメラはきっぱりと告げた。
「一度受けた依頼であれば、どんな内容であっても遂行する。迷う必要などない」
 正論である。
「当たり前だろ、そんなこと。ちゃんとやらなきゃ賞金ももらえないんだぜ」
 賛同したのはユーアだ。女性同士、気があうということなのだろうか。
「けれど、白いドレスの女性がもしもヴァンパイアなどではなかったとしたら……」
「本人と会って、彼女の人となりを見極めてから結論を出しても遅くないんじゃないでしょうか」
 心配そうに言うイレイルと、説得するように言うアイラス。にわかに5人の歩調が遅くなった。一同がまとまらないまま進んでいては、本当に烏合の衆になりかねない。そう判断したのだ。
「依頼は依頼だ。自分の意思など無視するべきだ。違うか?」
「人が人でなくなる論理ですね」
 パメラの言葉を、アイラスがさらりとはたきおとす。
「賞金が必要なんだし、こんな所に出入りする女ならきっと手ごわいだろ。そんな女なら、たとえ捕まえてもすぐに逃げ出すさ。それまでに、賞金を持ってさっさと逃げればいい」
「そんなことをして賞金を手に入れても、気分は晴れませんよ」
「俺は晴れると思うけどな」
 懇願する調子のイレイルの心などどこ吹く風で、ユーアはばったばったとコウモリをなぎ払う。口論をする4人の声は、がらんとした迷宮内によく響いている。
 今までずっと沈黙を守っていたオーマが、不意に「あ」と声をあげ、前方を指差した。
「来たかっ」
 ユーアが剣の柄を握りなおした。通路の向こうに、白い影がふわりと浮いている。
「ドレスの女、か?」
 最初にそれを見つけたオーマも、じわりと腰の銃に手をかけた。殺傷能力はないが、その代わりに素敵な効果のある弾丸が入っている。
 白い影は、ゆっくりとした速度で、しかし確実に近づいてきていた。と、
「あれは……」
 しんがりのイレイルもまた、後方を指差した。そこにも、白い影が浮いているのである。
「目的の女じゃないようだな」
 ちょうど5人の真ん中に位置していたパメラは、前と後ろの物体を注意深く見比べ、どちらが先に隙を見せるかを神経を研ぎ澄まして見極めようとした。アイラスはこめかみの辺りを少しかいて、
「……というか、見覚えがあるような気もします、これ。――これはたしか、この迷宮に生息するという」
 その名を、白い恐怖。


<白い恐怖>

「害はないはずだぜ、こいつら。可愛いもんさ」
 オーマは笑って白い恐怖に近づく。触り心地が良いはずなのだ。しかし、彼の知っている恐怖とは残念ながら性格が違った。
 オーマが触るか触らないかと言ううちに、パフッと白い煙を吐き出し始めたのである。
「うっ……ちょっと、これはなんだ……」
 パメラが、言葉を紡げずに咳き込む。
「毒性は特にないはずです。ただ、息がしにくく……」
 調べてきたものを伝えようとするアイラスもまた咳こんでしまう。狭く通気の出来ない場所にあって、空気は恐ろしく貴重なものだ。
「おかしいな…ゴホゴホッ、うちにいたやつはもっ……ゴホッ、もっと可愛げがあったぜ?」
「こんな形でも性格が…ゴホッ、あるってことなんじゃないでしょうか」
 もしもイレイルのいうことが本当ならば、ちょうど彼らと対峙している「恐怖」たちはだいぶ好戦的なキャラクターの持ち主という事になる。
「魔法攻撃を、当ててください……ッ」
 ようやく呼吸の整ってきたアイラスの言葉にいち早く反応したのは、先ほどからずっと剣を振るっていたユーアだった。
「魔法攻撃だろ。――はッ!」
 彼女の持っていた剣のまとう炎がひときわ大きくなり、白い恐怖に振り下ろされる。
――パンッ
 白い恐怖は、花火のような、火薬がはじけるような音を立てて跡形もなく消えてしまった。はた迷惑な煙さえ残さない。
「あーぁ……」
 オーマは少し寂しそうに溜め息をつくが、ユーアはまるで新しいおもちゃでも見つけたように喜んでいる。
「切れ味が、他のモンスターとは全然違ってなんかはまりそう……」
 危険なことを言うと、ふわふわと音もなく近寄ってくる「白い恐怖」に嬉々として突っ込んでいった。
「あたしも、負けていられないな」
 呟いて、パメラも銃を抜いた。普通の銃ではない。魔導銃は、魔法攻撃と同じである。距離を保ったまま、白い敵の中心を狙って引き金を引いた。白い物体は、先ほどと同じく音を立ててはじけた。
「パメラさん、安心するのはまだ早いです!」
 イレイルが、叫ぶと同時に両手を前へと付きだし、風魔法を起こした。目の前の一体に気を取られているうちにそばへと近づいていたもう一体の「白い恐怖」に直撃する。この奇妙な敵は、近づいてきたものを倒しても次から次へとわいてくる。薄暗い迷宮に浮かぶ白い球体は、まるで深海でクラゲに囲まれているような幻想的な気分にさえさせる。
「彼らはなぜ突然現れたんでしょうか……もしかして」
 アイラスが目を凝らすと、白い恐怖の向こう側に、かすかにそれら球体とは違った動きをする白い影が見えた。


<白い影>

「あれは……」
 アイラスの声に、一同は顔を上げて通路の奥を見た。しかし、白い影はすでにどこかへと掻き消えている。
「なんにもいねえじゃねえか」
「でも、確かに今白いものが……」
「白い恐怖ではないのですか?」
「形が違いました。ふわふわした球体じゃなくて、スカートの裾みたいなものがはためいて……」
「あたしも見た。白い恐怖は、多分目くらましだ」
 パメラが、銃に新しく弾を充填しながら口を挟んだ。
「彼女が白たちをこっちに差し向けたって言うのか?」
 ランダムにしか現れない彼女が、とうとう現れたのか。
「とにかく、追いかけるぞ! えぇと、右か、左か?」
「ヤツなら左に曲がっていった。早く追わねば」
 魔導銃のリロードが終わったようだ。立ちあがったパメラは、すぐに走り出す。
「見つけたら捕まえるんだろ? 暴れるようなら容赦しなくてもいいよな?」
 好戦的なユーアに、
「まずは相手の話を聞かなくては。何か事情があるのかもしれませんし」
「吸血鬼なのか違うのか、その辺りもはっきりさせておきたいところです」
 白い女性に同情的なイレイル、好奇心を満たしたいアイラスと続く。
 その間も、ふわふわと音もなく近づいてくる白い恐怖たちに魔法攻撃をお見舞いしている。
「少し落ちつこうぜ……うぉッ」
 オーマがしんがりとなり走り出そうとした時だった。突然、右の壁からなにかが飛んで来て左の壁へと吸い込まれていった。ちょうど、オーマの目の前、鼻の先を横切るように、である。
「これはもしかすると……」
「迷宮にトラップ、か。ますます面白い」
 ユーアのテンションがさらにあがっていく。
「どうして、みんなが通っても大丈夫だったのに俺だけに作動したんだ、このトラップ……」
 納得がいかないと言う顔のオーマに、申し訳なさそうな顔でイレイルは言った。
「この手のしかけは、そこを通った人がある場所を踏んだ時に作動するものです。他の人は作動しなかったと言うのは、多分、体重が感知できなかったからではないかな、と……」
 暗に、オーマは重かったからと言っていた。
「俺のは贅肉じゃなくて筋肉よ? この桃色親父聖筋がわるいってのかい?」
「僕に聞かれましても……」


<トラップ×トラップ>

「あッ……わりぃ、みんな、避けてくれよな」
 ユーアが突然みんなに謝りだした。次の瞬間、四方八方から矢が飛び出してきた。ご丁寧に、矢尻には毒が塗られている。
「ちょっと、ユーアさん、一体何をしたんですかッ」
「壁に手をついただけだろ。そんなに怒るなって」
 激しく前衛的なダンスを踊るようにして矢をかわしながら、アイラスが必死に装置を止めるための仕掛けを探す。と、偶然視界にオーマの姿が入ってきた。目を疑った。
 今、毒の塗られた矢がオーマの胸筋に当たって砕けなかっただろうか。そんなまさか。
 首を振って必死に否定しようとしたが、同じものを見てしまったらしいパメラが呆然としている所を見ると、どうやら幻ではないようだ。
 矢のトラップをなんとか抜けるが、それはまだまだ序の口だった。
「天井が下がってきてますよ!」
「出口はどこだ? 入って来た道はふさがってるし……」
「ここに白い恐怖がいたら、つっかえ棒にならないでしょうか?」
「マシュマロみたいに潰れるだけのような気がしますが。最悪の場合、煙を出しますよ、きっと」
 最初に二手に分かれていたもの以外、道はひとつなのは嬉しいのだが、
「ここ、落とし穴がありますよ。気をつけてくださいね」
「中には毒蛇、か……」
「竹やりとどっちがマシなんでしょうね」
「微妙な所だな」
 いちいちこんなに手荒い歓迎が待っているのでは体がいくつあっても足りない。擦り傷やかすり傷で満身創痍である。
「女はどこだっ? 早いところ捕まえて帰ろうぜ」
 機嫌の悪いユーアの前に運悪く出て来てしまったコウモリは、一閃のもとに切り伏されてぽとりと地面に落ちた。
「うーん、あいつなら分かるかも知れねぇな」
「あいつ?」
「あぁ。レイドって言うんだけどよ」
 オーマがまるで飲み友達のことのように言うので、それがだれなのか理解できなかった。一拍ほどおいて、恐る恐るアイラスが尋ねる。
「レイドと言うのはもしや、ヴァンパイア・キングの不死王、レイドのことですか?」
「おうよ。他にだれがいるってんだ」
「最初から、彼に協力してもらえば早かったのでは……」
「……」
 そうかも知れない。いや、でもわざわざこんなことでお手を煩わせるのもなんだか……と考えていると、

「――不死王さまと知り合いなの?」

 この場の5人とは違う声が響いた。
 白いシンプルなドレスを身にまとい、ふわふわとまるで雲の上を歩いているような軽やかな足取りで、彼女は現れた。優美な曲線を描く金の髪を惜しげもなくたらし、無造作に手でかきやる。
 彼女はその白すぎる繊細な指で、一点を指差した。
「あなた、不死王さまと知り合いなのね?」


<白きレディ>

「お……おぅ」
 オーマはドキッとしながら答えた。相手の美貌にドキッとしたのか、ひっかかれたら痛そうだと直感的に思えるほど鋭く伸びた爪がこちらを向いたのにドキッとしたのかは定かではない。
「不死王さまはどこにいらっしゃるの? 早く答えなさい」
「そう言われても……」
 オーマが言いよどむと、
「それよりも、あたしたちはあなたを連れていくという任務がある。おとなしく従ってもらおう」
「そうそう、賞金掛かってるんだ」
 パメラとユーアがさっと武器を構えた。
「待ってください! 話を聞く間も与えないのですか?」
 立ちあがったのはイレイルだった。
「僕は最初から、彼女に会って決めようと思ってたんです」
 続いてアイラスも彼に並ぶ。
 綺麗に2対2で対立してしまったのを見て、オーマは少し頭をかくと、皆を代表するように白いドレスの女性に尋ねた。
「あんたは何モンなんだ? それから、どうしてレイドに会いたがる?」
 白いドレスの女性は、5人をゆっくり値踏みするように見眇めて、やがて口を開いた。
「私の名前はファイナ。知っているかしら、ネクロヴァンパイアなのだけれど。――不死王さまの愛人よ。会いたくて当然でしょう」
「あ……」
 質問したオーマの口が「あ」の形で固まった。
「それは、また……」
 不死王の愛人を捕まえてこいというとんでもない依頼だったのか。一同は一瞬遠い目になった。
「あれ、でもどうして愛人なのに不死王の居場所をオーマさんに聞いていたんです?」
「まだ会ったことがないからに決まっているじゃない」
「え? 会ったことがないんですか?」
「そうよ。でも、きっと不死王さまは私を気に入ってくださるはずよ。この白いドレスも、不死王さまの好みの色だと聞いたの。そうよね?」
「さぁ……色の好みまで話してはいないからそこらへんはよく……」
 たじたじになるオーマの背後では、パメラとアイラスがこそこそと、
「つまりは、押しかけ愛人になろうとしていたってことですね」
「一途な愛ということなのか? 本当に不死王の好みに合致してるのか?」
「こんなに強気な女性だとは思いもしませんでしたが」
「白いドレスなど、目立つだけだろう。それにこの迷宮ではすぐに汚れてしまう……」
 若干かみ合わない会話を繰り広げている。
「――決ーめた」
 ユーアが突然宣言すると、白いドレスの女性――ファイナに背を向けて立った。
「俺は彼女の味方になるぜ。捕まえてあのおっさんのところに連れていくよりも、こっちのほうがずっと面白そうだ」
「ユーアさん……奇遇ですね。ちょうど僕もそう思ったところです」
 アイラスが微笑んだ。
「さぁ、不死王さまに会わせなさい」
 味方を得てますますやる気を出したのか、高飛車にファイナがオーマに命令する。
「まぁ、待て待て。レイドなら多分前と同じ場所にいる。あとで場所を教えてやるから。今は、あのドーシャス卿の依頼をどうするか、だ」
 ファイナに「静まってくれ」とジェスチャーし、オーマはその場の4人の表情を読み取った。
「最後は満場一致したようだな」
 にやりと笑い、「帰るぞ」と出口を指し示した。


<報告×報酬>

 後日、ドーシャス邸は報告を聞いた卿の悲鳴に似た声で揺れた。
「見つけられなかった、だと?」
「大変申し訳ありません。白い恐怖にてこずりまして」
「そこそこ可愛いのだが、何しろ手強くてな」
「迷宮の名の通り入り組んでいて、その上トラップが絶え間なく僕らを襲うんですよ」
 口裏を合わせ、そういうことにしたのだ。しかし、
「あれだけ自信まんまんに言っておいて、その無様な結果なのか」
 この一言に、一人がキレた。
「……テメェに一つだけ言っておきたかったんだけどよ」
 ユーアであった。
「成金趣味の禿あがったブタが着飾っても、全然絵にならねぇんだよ!」
 言い終わると同時に、彼女のすぐ隣にあったつぼが音もなく2つに割れた。ユーアの手には抜き身の剣がある。
「そのツボは……っ! 一体いくらしたと思っている! 貴公らごときが10年働いてようやく買えるほどの値打ち品だぞ!」
「うるせぇ。来る度にツボがどうの絵画がどうの料理がどうの、うるさくて集中できねぇ! その口、しばらく閉じてろよ」
「良いことを言ったな、お前。ちょうど良い魔法を知っている」
 にやりと笑い、パメラがドーシャス卿にすっと手を伸ばした。途端、卿の体が硬直する。金縛りのようなそれはすぐに解けたものの、彼の様子がおかしい。
「……、……――? ……、…………!」
 口をパクパクさせているが、声が出ていないのだ。『サイレンス』の魔法である。

「まさか、依頼主にあの魔法を使うとは思わなかったな」
 ドーシャス卿の屋敷から帰る道々、パメラは呟いた。
「けど、ナイスタイミングだったぜ。やっぱおしゃべりな男はダメだろ」
「僕らを見下す態度も気に食いませんしね」
「同じ高飛車な態度でも、あのファイナさんはまだマシでした。多少強引ではありましたけれど……」
 イレイルが、すでに懐かしいことを思い出すように目を細めた。
「結局ただ働きになっちまったけどな」
 オーマが肩をすくめた。
「確かにそうだな」
「これからみんなで黒羊亭で飲もうぜ?」
「パーっと、やりますか」
「ただ働きでも仕方ないですよ。ファイナさんのためですから」
 参加したことに意義がある、と言う雰囲気になっていたときだった。パメラが呟いた。
「でもまぁ、前金はもらっているからよしとするか」
「ま、前金っ?」

 その後、黒羊亭の支払いの件でもう一悶着あったという。


Fin.


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1956 / イレイル・レスト / 男 / 23歳(実年齢25歳) / 風使い(風魔法使い)】
【1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男 / 39歳(実年齢999歳) / 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2873 / パメラ / 女 / 22歳(実年齢22歳) / 異界職】
【2542 / ユーア / 女 / 18歳(実年齢21歳) / 旅人】
【1649 / アイラス・サーリアス / 男 / 19歳(実年齢19歳) / フィズィクル・アディプト&腹黒同盟の2番】
※発注順

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、月村ツバサです。
このたびは「レディ・イン・ラビリンス」にご参加いただき、ありがとうございました。
最初に謝らなくてはなりません。
シリアスに出来ませんでした。
シリアスを期待されていたら、本当に申し訳ありません。
ですが、少しでもお気に召す部分があれば幸いです。

月村ツバサ
2005/08/18