<PCクエストノベル(1人)>


生まれいでしモノ 〜森の番人 ラグラーチェ〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】

【助力探求者】
なし

【その他登場人物】
ラグラーチェ

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 森の番人、ラグラーチェ。
 何にも染まらない真っ白な羽を持つ、赤い瞳の守護者――森の奥へ侵入しようとする者を防ぐ神秘の梟の存在は、ソーン生まれなら誰でも一度は子どもの頃に夢物語として聞いた事がある筈。
 それは、泉の守護者として。
 或いは、伝説の鉱物が生まれる、その成り立ちに寄り添う影のような存在として。
 何も語らない森には、もう長い間誰も立ち入った者はいない。
 そこは危険だから。
 そこは、ひとが入って良い場所ではないから。
 そして『彼』は今日も、その赤い瞳をぎょろぎょろと動かしながら森を見渡している。

*****

オーマ:「つー訳で行って来るぞ後ヨロシク☆」
 誰もいないがらんとした病院の入り口で、オーマは満面の笑みを浮かべて――小声で室内に挨拶し、そして足早に街を抜け出した。
 今頃、オーマが作り上げた具現の偽オーマが、にっこりと笑みを湛えつつ家事に勤しんでいるだろう。そのように作り上げたのだから、とオーマがアレを作り上げるまでの苦心を思い出し、途中自分の思い出にもらい泣きしそうになりながら家のある方向を省みる。
オーマ:「…よし。付いて来てるやつぁいねえな」
 そうして、にんまりと笑ったオーマが、方向を確認すると今度は街を背に目的の森まで歩き出した。
 目指すのは、神秘の梟が居ると言う森。
 ――伝説の鉱物があるという、泉。

 そもそも、それは身内の1人が読んで欲しいと持ち込んできた童話がきっかけだった。寝物語に、身振り手振りを交えて語るオーマに、相手はすっかり満足していたのだが、今度は逆にオーマが嵌ってしまったのだった。――その、夢物語に。
オーマ:「待ってろよ、俺様好みの人面鉱物ちゃ〜ん♪」
 ――どこをどう読めば伝説の鉱物が人面付きのイロモノ鉱物に脳内変換するのか、そのあたりは謎だが、オーマはとにかくその鉱物と、更にはラグラーチェの腹黒同盟勧誘という目的を持って『彼』が存在すると言う森へとずんずん進んでいったのだった。
 その先に何が待つのか、るんるん気分のオーマにはきっと思いもよらなかっただろう。

*****

オーマ:「ふぅーい」
 むしむしと暑い森の中を彷徨う事数刻。
 入り口から妨害はあった。それは、いつの間にか進行方向に必ず繁っている蔦のカーテン。しっかりと編みこんだその形は、自然のものとはとても思えず、またちょっとやそっと押しただけでは中へ入れないようになっている。
 それを、無理やり…具現も使って幅を押し広げ、めりめりとどうにか空いた空間に身体を滑り込ませると、再び目の前にそれは広がっている。
 後ろを向けば、先ほどまでの蔦は影も形も無く、先に進む者にだけ立ち塞がる壁と分かる。
 そこから更に奥へ行くと、自然に草と草が縒って輪になった単純なトラップがあり、だが、それに引っかかると転んだ先にはぎざぎざの歯のようなものを持つ岩がずっしりと待ち構えていた。
 その他にも、道を開こうと蔦に手を伸ばすと、それは擬態化していた毒蛇が鎌首をゆらゆらと擡げたり、ふわふわの苔の間をよーく見なければ分からない洞窟が遥か下までぽっかりと口を空けていたりと、自然を利用した罠らしきものが続く。
 これらはひとつひとつだけなら、そう珍しいものではない。が、ほとんど一歩おきにこうしたものが続くのだから、これはもう作為を感じずにいられる訳が無かった。
オーマ:「おっ、泉か」
 そうした中、さらさらと小川が流れる先を辿って、綺麗に澄んだ水が現れたのを見たオーマが顔を綻ばせる。こんな入り口から浅い場所に例の泉があるとはとても思えないが、もしかしたら、という気持ちもあったかもしれない。
 そして何より、目の前に静かに水を湛える泉を見て、喉を潤したい、顔を洗いたいと思うのは自然の成行だっただろう。
 だが。
 喜び勇んで泉へ手を伸ばしたオーマは、水に触れる直前にあるものに気付いて手を止めた。
 ――それは、麻痺毒を多量に含む毒草の群生。普段は無害な草そっくりの姿かたちをしているため、ぱっと見には区別が付かないのだが、今、オーマの目の前にあるそれは血のように赤い花を咲かせていた。…毒草かどうかをはっきり区別するのに最適な花が。
 そして、その花が泉にぽとりぽとりと落ちている様を見、もう1つ――泉に魚はおろか、周辺にも虫の一匹すらいない状態にようやく気付いて、慌てて立ち上がる。
オーマ:「危ねえ危ねえ。…むぅ、残念だがここは先に進むしかねえか…」
 そんな溜息は、さわさわと会話するように葉を鳴らす森の木々にあっという間にかき消されていった。

*****

オーマ:「―――む…?」
 『それ』に気付いたのは、随分と奥へ進んだ頃の事。
 罠は相変わらず存在していた。だからこそ、気配が濃くなるまで気付かなかったものらしい。
 『罠』はいまや、気付かなければ命取りになる可能性があるものから、明らかな殺気を伴って、ただ1人の侵入者――オーマに向けられていた。
 その執拗な『視線』に気付かされた時には既に遅く。
オーマ:「…ここも、か」
 森の奥は、奇妙な具現波動と融合された森の生き物とで、別世界を作り上げていた。
 ドシュドシュドシュッッ!!
 金属片の如き強度を保ったまま、木の枝がオーマ目がけて幹から撃ち出されたと思えば、枯葉を纏った人型が、その変幻自在な身体を利用してオーマの目の前に立ち塞がり、葉を刃のように鋭く薄くして全身を使って切り刻もうとする。
オーマ:「うはー、凶悪だなおい。この森の主並みに性格悪ぃぞ」
 それを数撃、繰り返し避けてパターンを掴みかかったところで、足元が留守になっていたか何か柔らかい物に当たって転びそうになった。
オーマ:「おっ、…と」
 体勢を立て直してすぐに、つい一瞬前までオーマがいた場所に木の葉の剣が舞い踊り、空気を切り裂く音と共に四散していく。間に合ったかと息を付いて足元を見たオーマが、そこに横たわる白い鳥の姿に目を見開いた。
オーマ:「おまえら…」
 再び狙いを定めているらしい『それ』に鋭い声を向けると、オーマが姿勢を低くして――その薄汚れた白い羽をわしっと掴む。
オーマ:「――ちぃっ!」
 しゅぅっ!
 すかさずそこを狙って葉が飛んでくるのをくるりと身体を回転させて避け、そのままだっと後ろも見ずに走り出した。具現の波動が強い、ある方向へ向かって。
オーマ:「おまえさん、1人であんなのとやりあってたのか…ご苦労さんだな」
 途中、羽を掴んだままだったものをしっかりと腕の中に抱え込みながら、呟きつつ。
 その言葉を聞いて、ひくりと腕の中のものが動いた気がしたが、そちらに意識を向けている余裕は無かった。
オーマ:「しつこいっ」
 背中へ向かって一斉に撃ち出された木々を、具現によって生み出したしなやかな鞭で振り向きもせずに振り払って行く。…不思議な事だが、これだけ周り中『敵』に囲まれていながら、その先に行けば大丈夫だと言う予感があった。
 ――尤も、それが外れないと言う保障はどこにも無かったのだが。

 かさかさと踏み込んでいく枯葉までがふわりと浮き上がり、駆け抜けるオーマの足へ地味ながら効果的な障害となって続く中、

 ――奥から、新たな波動が感じ取れて、オーマは走りながら眉を寄せていた。

オーマ:「なんだ――どう言うことだ」
 何故ならば、それは『命の具現』の波動で、誰かの意思無しにはあり得ない事だったから。
 そして、奥にちらと泉が見えた、その瞬間。
オーマ:「――――――――!!!!!」
 泉から溢れ出した光が、森の中を染めた。

*****

オーマ:「……お?」
 再び目を覚ましたオーマが、きょろきょろと周囲を見渡す。
 そこは、森の奥。綺麗な水を湛えた泉の側だった。――空からは温かな日差しが降り注ぎ、きらきらと水面を輝かせている。
 周辺の森は沈黙していた。ここまで辿り付いたオーマに、危害を加える気は無いと言う風に。
 そして…具現の波動は、ある一箇所を除いて全て消え去っていた。
 それは、泉の中。
 きらきらと輝く光を浴びている、鉱物の中からのみ、感じ取っていた。
オーマ:「何だったんだ、一体――と、それよりも鉱石ちゃんっと」
 そう言いつつ、泉へ手を伸ばそうとしたオーマの首筋を、
 ――ずん、と何か堅くて冷たくて尖ったものが突いた。
オーマ:「あうちっ!」
 慌てて首筋を押さえるオーマ。血は出ていないようだったが、何か大きなクチバシで摘まれたかのように、その部分だけがぷっくりと膨らんでいる。
オーマ:「誰だ、こんな無粋な事しやがるのは――って」
 横を向いたオーマの唇が、ずいと突き出されたままのクチバシと危くドッキングしそうになり、うぉっ、と声を上げて後ろへ仰け反った。
 そこにいたのは、薄汚れてあちこち傷だらけになりながらも、威風堂々とその場に立つ一羽の大きな白梟。その赤い目をぎょろぎょろさせながら、オーマをじろりとねめつけている。
オーマ:「おおっ、ラグラーチェじゃねえか。会いたかったぜ…で、早速だが腹黒同盟のお誘いをだな――いやいや、それも大事だが俺様愛しの人面鉱石に会いに来たんだが、つーか連れて帰りたいんだが、いやそれは是非に、って同盟も是非入って欲しい」
 いささか混乱しつつも、2つの要望はしっかりと目の前の梟に対し告げ、がさごそと持ち歩いている同盟勧誘ポスターをべろんと広げて見せる。
ラグラーチェ:「………………」
 それに対して、梟は無言のまま。ちらとポスターの内容を読んだか、
 ばりっ、と音を立ててクチバシで破ると、オーマの手からそれを奪っておいてぺいっとオーマへ投げ返した。
オーマ:「おおぅっ!?俺様必死で夜なべして描き上げたポスターだってのに!?」
ラグラーチェ:「………ッ」
 ふん、と鼻を鳴らし。ラグラーチェはオーマをもうひと睨みしてから、ざぶざぶと泉の中へ入って行く。頭の中まで。
 そうして、もう一度、今度は柔らかな命の波動が生み出され…。
ラグラーチェ:「………ム」
 水に洗って流しただけとはとても思えない、美しい白色に輝いた羽の梟が、泉の水からざばりと上がって来た。見た感じでは、先ほど負っていた怪我も見当たらない。
 そのままつくつくとクチバシで羽繕いを開始したラグラーチェに、オーマが不思議そうな目を向けた。
 目の前の泉を守護していると言うラグラーチェの、今しがたの行動から導き出されたものと言えば、
オーマ:「…命の、波動――泉が、それを、発してるってのか…」
 そう、呟くより他に無い。
ラグラーチェ:「………。―――――ム?」
 その時、何かに気付いた梟が再びざぶんと泉に潜り、暫く経ってからひとつのきらきらと輝く鉱石を拾い上げて来た。
 蹴爪の間にしっかと挟まれ――わきわきと不気味にうねる石。
 良く見れば、それは全てが石で出来ているわけではなく、核となる部分の周辺に、タイルのようにびっしりと細かい石粒を貼り付けて出来上がったもののようだった。
ラグラーチェ:「………」
 暫く、わきわきと動くそれを蹴爪に掴んでいる梟。何か興味はあったらしいが、泉の中にあった事は許せないらしく、ぺっ、と泉の外まで放り投げる。
 ころんぽてん、と地面の上に落ちたそれは、うねうねと蠢きながらそのあたりを這いまわり、オーマの前まで来ると、くいっと身体をもたげた。
オーマ:「………」
ラグラーチェ:「………」
 思わず静止して『それ』を見詰めてしまう2人――いや、1人と1羽。
 するとそれは、タイル状の身体をにゅうっと動かして、多少粒が粗いながらも、目の前にいるオーマそっくりの顔になった。
オーマ:「おおっ」
 オーマが驚けば、それも驚いたオーマの顔になる。
ラグラーチェ:「………」
 それを見て気になったか、ラグラーチェもとことこと歩いてきて、オーマの隣に立った。途端、それは梟の顔そっくりに自らを変形させ、そしてころりんと転がった。
オーマ:「むむむ…どう見てもこいつは生きてるってぇのに、誰かの意思が介在している風じゃねえな。――おまえさん、こんなのを作ろうと思ったか?」
 隣にいる梟に聞けば、ゆるく首を横に振る。
オーマ:「つう事は…何か?たまたまこの辺に出来た具現波動の一滴が泉に落ちちまったために、こんなのが生まれたってぇのか」
 泉へ目を向け、じわじわとにじり寄って行くオーマ。質問を受けて考えて込んでいたラグラーチェは、手を泉へ入れようとしていたオーマに気付いて、たたたたっと足早に近づくと、
 どしゅっ!
オーマ:「うがあぁぁぁっっっ!!!」
 額にクチバシをめり込ませた。
 オーマが額を押さえてのたうち回るのを見ながら、ふんっ、と鼻を鳴らす。
オーマ:「わ、分かった。泉にちょっかいかける事はしねえから、その容赦ねえ攻撃は止めてくれ」
 オーマが降参の意を示すと、満足そうな顔になったラグラーチェが、今度はクチバシで元の石の形に戻った『それ』を咥えると、オーマの前にとことこと歩いてきて手の中へ落とした。持って帰れ、と言うように。

*****

 人面石は見つからなかったが、その代わり伝説の鉱物と呼ばれたものらしき『服』を纏った妙な生き物が手に入った。
 得意技は人まね。…というか、それしか出来ない。
 意思があるのかどうかは今の所不明だが、命の具現で生まれてきたものを無下に扱うわけにもいかず、そしてそのきらきら加減が気に入られたのか、それは名も無いままうごうごと今日も元気に動き回っている。
 伝説の鉱物が手に入ったと言う噂を聞きつけて学者が何人かオーマの元へやって来たが、それは全て断わっていた。
 何故なら、それは全て融合してしまっていたからで、『力』で無理やり剥そうとすれば命そのものを消してしまい兼ねず。
 ――おまけに、元の鉱石とは違うモノへと変容してしまっているだろう事が予想できたからでもあった。


-END-