<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


〜VS盗賊【炎】〜


■焔に撫でられた村
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 ひゅう、と風が通り過ぎた。
 灰が空に舞って、曇天より更に暗い村を巡った。
 瓦解した建造物は爛れ、あるいは溶け、元が何であったかも判別し難い姿と化していた。
 大地にこびりついた染みは消し炭となった命の成れの果て。
 所々まだ火が燻っているのか、灰色の煙が空に立ち上り、雲と同化していく。
 ここは死した村。それも、遠くない日に一瞬で。
 その【少年】は突然に現われ、そして村は瞬く間に炎に襲われた。逃げ惑う村人を面白そうに眺めながら、その【少年】は――容赦無く、炎を生み出したのだ。
 ユニコーン地方に甚大な被害を残し、強大な力を持って根こそぎ奪っていった。
 数多の人命と実りと、そしてかけがえのない歴史全て。
 人々はその者達の名を、そして言葉を憎悪と共にけして忘れない。

 生き延びた少数は言った。
 一人は炎を操り、街を一瞬で灰にしたと。
 一人は氷を操り、胸に凍る杭を穿ったと。
 一人は風を操り、家屋の屋根と共に全ては空に消えたと。
 一人は大地を操り、全ては大きく開いた亀裂に落ちていったと。
 それぞれが十人足らずの部下を引き連れ、そして全てが【リリス・フローカァ嬢誘拐事件】を語ったと。
 目的はどうやら報復と、囚われた部下の救出らしかった。


■時計台の街で
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 大きな時計台が有名な、活気のある街があった。けれどその街に今、人々の姿は希薄だ。
 ソーン全土を揺るがした事件の、首謀者達の名があまりにも恐ろしく街を締め付けていた。
 【リコード】という盗賊団ながら、要人の暗殺も成す殺戮集団。今まで知れなかった情報までもが横行し、その真実味の薄い、けれど現実に在った出来事を更に不気味に彩っていく。
 その矛先となると予想された街で、誰が心安らかに過ごせるだろう。
「間違いないだろうな?」
 カルラートリーはそんな街の様子を時計台の三階展望部から見下ろして、傍らの男に問いかけた。爬虫類のような金色の瞳が窓越しに男、水留を見る。
「ええ。次はこの街で間違いないでしょう」
 対する水留は射抜く視線に怯む事無く、口元にだけ微笑みを浮かべた。目元を薄布で覆っているせいでその真意は掴みどころが無いが――。
「目指すモノが囚われの仲間である以上、避けては通れない場所ではある」
 フォローする様に背後からキング=オセロットが補足すると、水留は小さく頷いた。
 中性的な美貌を持った、けれど一目で女と分かる豊かな胸元を広げて軍服めいたコートを羽織るキングの背後から、もう一人。
 レニアラと名乗った長身美貌の持ち主である女が、窓に寄りかかる。
 四人の目が、美しい街並みに注がれる。
 【リリス・フローカァ嬢誘拐事件】――今ソーンに、それを知らない者は幼い子供位であろう。数ヶ月前に起こったこの事件に深く関わっていたのが、件の盗賊団であった。とは言っても盗賊団の中の下っ端共が独断で起こした事だった。故、ソーンの冒険者達の手で捕まって、今はエルザードの房の中。
 今回起こった惨劇は、その延長線上で起こった事だ。
 今までに襲われた街からの情報、そして水留の能力から選出された次なる襲撃地に、対抗するべく力はこの四人のみ。
 同日同時に起こる四つの襲撃に、また、他の候補地に、兵や冒険者達は分散している。
 そうして正義心強い者か、愛国心厚い者か、それとも何か他の思惑あってか定かでは無いが、四人は、此処に居る。
「そろそろ時間か」
 今までの実例から見て、盗賊達は夕闇の中襲ってくる。空は橙に染まり――。
 レニアラの言葉に頷き階段を下り出す耳に、時計台の鐘が鳴り響いた。


■炎纏う少年
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 街の住人のほとんどが避難し終わった後、それでも数少ない人民が街には残った。動けない者、そして動かないと誓う者、それらを堅固な家に詰め込んで、門戸をしっかりと閉じさせて。
 刻一刻と闇が迫る中、待ち人達の耳に、目に、それは届いた。
 ――轟音。
 そして、家屋に突然火の手が上がった。
 四人の目に映るそれは街の入り口で起こった。夕日を背後に見る間に燃え盛った炎がその力を広げていく。
「っな――!!」
息を着く間も無く、街の外側の家々を一瞬にして炎が嬲り、ゴォオと凄まじい音と共に空気すら燃やしつくそうとする。
 けれど躊躇したのは一瞬だけで四人の行動は早かった。
 前方に、それと分かる人影が悠々とした足取りで迫ってくるのが見えた。
 屈強な体を持った七人の男を従えて、坂を上ってくるのは異様としか言えない【少年】だった。事前に聞いてさえ居なければ、目で見ていても信じられない。
 少年は青白い炎を体に纏っていた。美しい程に揺らめくそれがどれだけ高温で燃え盛っているかは、彼が歩くたびに干乾びていく大地と、その後を立ち上る湯気から想像が出来る。彼の歩く通りの脇に咲いていた小さな花は最初からそこに存在しなかったかの様に瞬滅した。
 けれど【少年】はそんな事を意にも介さず、薄く笑って四人を見据えていた。
 それに向けてキング、レニアラ、カルラートリーの三人が走り出す。
 水留は小さく何事かを紡いだだけで、ひたと視線を少年に固定しただけ。
 少年の体を覆う炎が不自然に分裂するのを四人は見た。
「皆、避けろ!!」
 片眼鏡の奥で後方の仲間を見ながらキングが叫ぶと、言葉が早いか遅いかの一瞬の内に体は跳ねた。
 炎の玉が高速で、緩急をつけて飛んでくる。左へ避ければ、左へ。飛べば上へ。行動を予測するかの如く、否、まるで動きに合わせて方向を変えるかの様な――。
 すんでの所で交わすが、高熱に肌が僅かに赤くなる。
 まるでそれ以上近寄る事を拒むかの様に、少年から百メートル程離れた所で足を固定されてしまう。少年らも足を止め、動かない。
 その間にも火の手は街をじわじわと侵している。
 そして避けた火の玉は次々と建物に衝突して火の手を広めている。
「くそっ」
「キリが無い」
 鞭をしならせるカルラートリーが憎々しげに舌打をした。鞭など物体ですらない火の玉には無意味に近い。火力を弱める程度のソレに、何を思ったか彼女は背中を見せた。
 それに続いてレニアラがカルラートリーとは反対側を駆け出す。
 にやにやと笑う少年が片眉を上げた。何か指示を飛ばすと、背後の男達が駆け出して二人の消えた方向へと遠くなる。
「へぇ」
「……やるな…」
 単調になった火の玉を放つ少年、そして避けるキングが同時に声を上げた。
「ふふん。流石……思った通りだ」
 街の入り口付近で燃え広がっていた業火に対抗するように、水柱が上がっているのが見えた。火の勢いが大きく削がれている。
「隊長から聞いてたんだ。きっと面白い奴らが来るってさ!!」
「何?」
 少年の昂ぶる声に合わせて、彼を包む炎が一層大きくなった。訝しげなキングと水留の視線に、少年は挑戦的に笑う。
 水留の唇は絶えず言葉の形を作る。彼の声に宿した力によって、大地から喚んだ水が一所に吹き上げていた。
「僕は正直、捕まった阿呆共なんてどうでも良いのさ。ただこうして――僕を楽しませてくれる存在が嬉しい。隊長は言ったんだ。壊せば壊す程、殺せば殺す程、ソイツラは僕の前に立ちはだかるって!!!」
 獰猛に瞳をギラつかせて、少年は高笑いを響かせた後。
「あんた達を呼び出す為に、僕は人を殺して殺して殺し尽くしたのさぁ!!!」
――吼えた。


■風切る鞭は宙に踊る
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 それは大凡、人の喉から出される声とは思えなかった。獣の唸り声に近かったし、犬の遠吠えにも似ていた。とにかく獣じみていて、思わず耳を押さえてカルラートリーは足を止めてしまった。
 背後から追ってくるのは三人の屈強な盗賊。瞳をぎらつかせて、大分目的を逸脱した厭らしい奇声を上げて、一気にカルラートリーとの距離を縮めた。
「へへへ、も〜う逃げられねーぜ?」
「くっくっくっく……」
 汗を拭う仕草すら汚らわしい。カルラートリーは近づく盗賊をねめつけて
「汚い手で……」
一閃。
「私に触れるな!!」
 それはあまりにも鋭く、伸びてきた褐色の肌を裂いた。
「ぐぅっ」
くぐもった声を上げて男の膝が大地につく。押さえた左手からとめどない血液が流れ出すと、慌てて後退して信じられぬ面持ちがカルラートリーを見据えた。
 ひゅと風を切る音に合わせて、かろうじて宙にくゆる黒い曲線が見える。
「お前等ごとき蛮族が私に触れようとはおこがましい」
「……言ってくれるじゃねぇか」
 男達の顔から驕りが消えた。狩りを楽しむ物の目から、殺戮者のそれへと変わる。幾つもの修羅場を潜り抜けてきたと自負する盗賊達を見ながら、しかしカルラートリーは笑うのみ。
 それを馬鹿にされたと取ったのであろう盗賊が、歯噛みしながら手の中に炎の玉を練り出した。
 少年に負けずとも劣らない高熱の球体が、男の手の平で質量を増していく。
「何時までそんな事が言ってられる?」
一人は手に握った短剣に炎を纏わせ、怪我を負った男も残った右手に炎を練りだした。
 それでもカルラートリーは笑っただけだった。可笑しすぎて仕方が無いとでも言いたげに、喉の奥からくつくつと声が漏れる。
「お前等の様な塵を人間扱いしたのが間違いだった」
 そう言った瞬間、カルラートリーは鞭をしまってしまった。挑発的な態度に男は一斉に躍り出た。
 飛んできた球体を最小限のステップで交わし、振り上げられた短刀を、男の手首を捕まえていなす。背後にぶち当たった炎の塊が膨れ上がり、外壁を巻き込んで爆発する。
 爆風にカルラートリーの長い黒髪が舞った。
 大男の炎の拳は高く跳躍し、飛んできた幾つもの球体を今一度取り出された鞭が弾いた。そうして更に同時に繰り出された拳と短剣を身を沈めてかわすと、何故か男達の体は纏めて鞭に戒められており――。
「なっ!?」
 鞭を焼ききろうと球体を放った男の炎が、一瞬の内に鞭を走った。
「愚か者」
 男達の体を凄まじい熱が襲い、男達は声にならない悲鳴を上げながら解放された大地の上をのた打ち回った。
 喉元を掻き毟り、未だ衰えぬ炎の中で気を失うと、カルラートリーの鞭が男達の体を撫でた。次の瞬間には炎は消えている。
「あの少年に比べれば、お前等のそれは子供騙しだ」
 ふんと鼻を鳴らし鞭で男達を縛り上げると、カルラートリーは火傷を負う男達に対して何の容赦もせず、男達を引きずり出した。


■銀の鷹は爪を隠す
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 空を炎の鳥が飛んでいた。輝く星が闇を深める天空に浮かび、それを透き通して大きな鳥が頭上を掠める度、熱風に汗が噴出す。
 炎の翼が建物を撫でると一瞬だけ激しい炎が移り、一瞬にして炭のように崩れた。
 太陽は沈んだというのに、まるで夕方のように空は明るかった。
 奇妙な熱気の中レニアラは盗賊に追われながら走る。ちらちらと後ろを振り返ると四人の屈強な盗賊が、好色な瞳でレニアラの体を値踏みしているのがわかる。
 レニアラはただ逃げた。
 時々腰のレイピアを引き抜いて何度か短刀と合わせ、隙をついて駆け出す。背後から火の玉が飛んでくるも、少年の放つそれに比べればチャチなもので簡単に避ける事が出来た。
 追われる身にありながらも、レニアラの表情に色は無い。
 額を流れ落ちる汗を煩わしそうに手の甲で拭う。
 喉が異様に渇く。体中の水分が沸騰するかのように思える程、街を覆う熱風は凄まじかった。
 時折天に吹き上げる水柱が救いだった。
 それだけが火の勢いを削いでいる。そんな芸当、己の飛竜が居れば自身にも行えたかと考えて、レニアラは口元に小さく笑みを刷いた。
 仲間と呼ぶにも、四人に面識は無い。己等の能力も知らないし、特に作戦があったわけでも無かった。
 けれど少年を見た時、咄嗟に自身が請け負ったのは小物の退治であった。それはカルラートリーにも言える事。
 少年から盗賊達を離す事が先決であると、今までの経験から理解した。
 まさかその手下共まで炎を操るとは、全く在り難い。
「いい加減、あきらめらぁ〜!!」
 あまりの暑さに気が立っているのか、追ってくる盗賊達の瞳が異様にギラついている。暑さのあまり思考が働いてないのだろうと思える。無論、根っからの考え足らずなのかもしれないが。
 大体何の策も無く、ただ逃げ回っているわけが無いだろう、とレニアラは細く嘆息した。
 そして徐に足を止めた。
「では、そろそろか」
「そうだ、諦めろ!!」
 レニアラの動きを制限させる為の炎が放たれるが、その時にはもう、男達はレニアラの術中にはまっていた。
 二度、三度炎を放った後、やっと一人が気付いて制止の声を掛けるが――もう襲い。
 ぼうっと大きな爆発が起こり、炎が消えた後、そこには火傷を負って気絶する盗賊の姿があった。
 届かないと知りながら、レニアラは囁く。
「狭い空間で大量の炎を使えばどうなるか……」
 男達は知る由も無いが、男を誘い入れた路地は一度レニアラが通過したそれだった。その時にレニアラは圧縮空気の壁の魔法で小さな空間を作り出していたのだ。
 酸素を燃やし尽くした炎は、燃やすものをなくし消えるしか無い。
 レニアラはどこからか真っ赤に燃える薔薇を取り出すと、倒した敵に投げかけて、ゆっくりとした足取りで踵を返した。
 

■水の竜は天を突く
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 信じられない、と思った。見えぬ瞳の奥で、千里を見通す眼でも、視止められなかったソレ。
 成程一瞬で街を滅ぼす事すら出来そうな、大きな翼を広げる炎の鳥。
 時間は確かに無かった。襲撃地区の予想が当たったのは良かったものの、水留の集めた情報の中にもソレについては一切無かった。
 生き残った者達の話でも、この火の鳥については何一つ出ていない。
 それともこの鳥以外にも、一瞬で灰に出来るほどの力を備えているというのだろうか。
 信じられない、と思った。
 【リコード】という今まで謎の多かった犯罪組織の中に、この様な能力者が存在し得る事も不思議の一つではあるにはあったが。
 三度目に信じられないと首を振って、水留はまた言葉を紡いだ。
「消せるのか?」
 少年に近づこうと銃を唸らせているキングに問われて、水留は小さく頷いた。出来ない等と言える筈も無い。
 問題があるとすれば、水留の操る水は無尽蔵ではないという点だろうか。
「街の事は僕に任せて、キングさんは彼を――」
 最も彼の心にも表情にも、大きな波風は立っていない様ではあった。
 空を飛ぶ火の鳥目掛けて、大地を走る水脈を吹き上げると水柱が立ち、火の鳥の行く手を遮る。
 炎の翼が屋根を撫でれば、水の筋がその上から鎮火させる。街に焦げ跡を残しながらも、水留の冷静な思考の前に炎は次第に勢力を失っているようにも見えた。
 最初程燃え広がる勢いも無いようだ。
 何より少年自身、疲労の色を濃く映している。これだけの能力者、勝負は常に長引きはしないだろう。体に見合った体力しか備えていないのだろうと額に浮かんだ汗の玉を拭いながら思った。
 少年の行動を見る限り、かなりいらついているのが分かる。粘るキングに、そして自分に、また戻らない手下達に対して。
 マトモな思考を少年から奪っていくのは、そういう焦り。
 少年の心には恐れが刻み込み始めているに違い無い。
 水留の喚んだ水柱は炎の鳥を追う様にくゆり、その姿はまるで身をくねらせる竜の様に、炎を諌めて回っていた。


■最後の銃声は夜に啼く
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 少年が荒い息を付くに合わせて、キングの握る銃身が跳ねた。
 少年の唇からは荒い息と共に、細い異音が途切れ途切れに紡がれている。炎の鳥はその異音に合わせて翼をはためかせ、少年は時々牽制する様にキングに向かって火の玉と火の矢を向けてきた。
 その速度たるは一向に衰えない。憔悴は如何ともし難いのに何という精神力か。
 何とか近接に持ち込もうと銃を唸らせ少年の唇の動きを止めようとするのだが、そちらに集中していると火の玉が飛んできて、それを交わしている間に火の鳥が動き始める。
「それで、どうするの?」
終いには挑発的にそんな事まで言ってのける少年に、キングは軽く舌打した。
「それで、お終い?」
 にじりにじりと前進してはいるものの、しかしその動きは遅々としていて、強引に間合いに入れば炎の玉の攻撃に後退するしか無い現状だ。
「そんなら、もう黙って殺されてくんないかなぁ?」
苛立ち混じりに唾を吐き捨てた少年に、いよいよ勝負所が近づいて来たのがわかる。
「冗談だろ」
「阿呆の救出には興味ないんだけど、隊長の願いなら聞き遂げてやりたいんで、ねっ!!」
言葉尻に力を入れると同時に、少年の足が地を蹴る。
 望んだ通りの接近戦を挑まれて、キングは。そこにタイミング良く駆け込んだレニアラとカルラートリーは。そして水留は。
 【リコード】盗賊団の真髄を見た気がした。ただの盗賊では無いという、片鱗を。
「――はっ」
 呼気を吐いて、上段を狙い済ました少年の足を銃身で受け止めると、キングは炎を纏う少年の背に躊躇い無く蹴りを繰り出す。
 少年が体を捻ってそれを避けると共に、反動で裏拳――燃える拳を打ち出してくる。それを一歩引いて避け、追撃する正拳を更に踏鞴を踏んで堪える。
 頭上で炎の鳥が水留の水流に飲まれるのが眼の端に映った。
 瞬間少年の左腕から炎が消えた。気付いた少年が左手を庇うように燃える右肩を前に出したが、キングの方が何コンマか早かった。
 右腕をすり抜けたキングの手が少年の左手を掴み、銃の筒先がその肩へと宛がわれた。
 服の表面が微かに火を纏ったが、キングは頓着しなかった。
 そのまま、相手は少年であったけれど――
「ここまでだ」
 キングの銃弾が少年の肩を貫くと、少年の体から炎が消え去り、少年の体が背後へと傾いでいった。
 と同時に、街の炎も鎮火への道を辿っていった――。


■炎過ぎ去りし……
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「ご苦労様です」
 エルザードの街に盗賊を引きずって帰ると、城の衛兵が敬礼をして盗賊達を引き取った。厳重に縄を結びなおして、大勢で門内へと消えていくそれを尻目に見ながらの四人に、残った門番がもう一度敬礼した。
「彼らはどうなる」
 何とはなしに紡がれた言葉は問いかけというよりは、事実確認の意を含んでいた。
「はあ……。何日か後に法廷に出されるかと思います。……上は【リコード】を壊滅させると息巻いてますが」
「無理、だろうな」
「……言わずもがな事だ」
ぽそりと呟くレニアラにカルラートリーが頷き返し、水留と門番は顔を合わせて苦笑した。否定しないのだから事実と認めているようなものだが。
「ともかくは王の判断に寄るかと思います。皆様もぜひ法廷の席にいらっしゃって下さい」
 そう締めくくった門番に曖昧な顔を返す四人。判決などほぼ決まっている。
「あ、それから……」
潜んだ声に自然と体が寄った。言い憎そうな男に冷たい視線を持って先を促す。
「件の三人……街々を襲ったとされる他の三人、えぇっと――氷と風と土を操る人達は捕まったのですが」
『――が?』
「肝心の……彼らが隊長と呼ぶ一人は、まだ……」
 不安そうに顔を歪める門番。尻すぼみに消えた声に四人は表情を改めた。

 どうやら、まだ終わりではないらしい。




【炎】〜完〜


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■登場人物■
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢(実年齢)/職業/種族】

【2872/キング=オセロット/女性/23(23)/コマンドー/サイボーグ】
【0636/水留(みなと)/男性/28(207)/雨使占/海遣】
【2403/レニアラ/女性/20(20)/竜騎士/人間】
【2900/カルラートリー/女性/22(999)/歌姫・吟遊詩人/異界人】


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■ライター通信■
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初めまして!!この度は発注有難うございました。そして大変お待たせしてしまいまして申し訳ありません。有り得ない遅さで本当にスミマセン。

四元の一つ【火】属性の敵相手に、皆様の戦いぶりのなんとかっこよい事か(想像上では)……。戦闘描写は大好きなライターですがしかし技巧はまだまだ……皆様に少しでも楽しんで頂ければ幸いなのですが。

何か御座いましたらぜひ一筆お願いします。
またどこかでお会いできますように。


なち